この条約の署名国は、
成人に対する扶養義務の準拠法に関する共通の規則を定めることを希望し、
その規則と1956年10月24日の子に対する扶養義務の準拠法に関する条約の規定とを調整することを希望し、
このため条約を締結することに決定して、次のとおり協定した。
第1章 条約の適用範囲
第1条
この条約は、親族関係、親子関係、婚姻関係又は姻族関係から生ずる扶養義務(嫡出でない子に対する扶養義務を含む。)について適用する。
第2条
この条約は、扶養義務に関する法律の抵触についてのみ規律する。
この条約を適用して行われた決定は、前条に掲げるいずれの関係の存在にも影響を及ぼすものではない。
第3条
この条約によつて指定される法律は、いかなる相互主義の条件にも服することなく、また、締約国の法律であるかないかを問わず、適用する。
第2章 準拠法
第4条
第1条の扶養義務は、扶養権利者の常居所地の国内法によつて規律する。
扶養権利者の常居所に変更がある場合には、その変更の時から新たな常居所地の国内法を適用する。
第5条
扶養権利者が前条の国内法により扶養義務者から扶養を受けることができない場合には、これらの者の共通本国法を適用する。
第6条
扶養権利者が第4条の国内法及び前条の共通本国法により扶養義務者から扶養を受けることができない場合には、事件の係属する当局の国内法を適用する。
第7条
傍系親族間又は姻族間の扶養義務については、扶養義務者は、扶養義務者及び扶養権利者の共通本国法により又は、共通の国籍がない場合には、扶養義務者の常居所地の国内法により当該扶養義務がないことを理由として、扶養権利者の請求に異議を述べることができる。
第8条
第4条から第6条までの規定にかかわらず、離婚をした配偶者の間の扶養義務及びその扶養義務に関する決定の変更は、その離婚が宣告され又は認められた締約国においては、その離婚について適用された法律によつて規律する。
前項の規定は、法律上の別居の場合及び婚姻の無効又は取消しの場合について準用する。
第9条
公的機関が扶養権利者に対する給付の償還を受ける権利は、その公的機関が従う法律によつて規律する。
第10条
扶養義務の準拠法は、特に次の事項を決定する。
1 扶養権利者が扶養を請求することができるかできないか、どの程度まで請求することができるか及び誰(だれ)に対して請求することができるか。
2 扶養の請求を申し立てることができる者及びその申立てをすることができる期間
3 公的機関が扶養権利者に対する給付の償還を求める場合における扶養義務者の義務の限度
第11条
この条約によつて指定された法律の適用は、明らかに公の秩序に反する場合にのみ、排除することができる。
もつとも、扶養の額の決定に当たつては、準拠法に別段の定めがある場合においても、扶養権利者の需要及び扶養義務者の資力を考慮しなければならない。
第3章 雑則
第12条
この条約は、締約国において請求された扶養が、当該締約国についてこの条約が効力を生ずる前の期間に係るものである場合には、その扶養について適用しない。
第13条
いずれの締約国も、第24条の規定に従い、次のいずれか又は双方の扶養義務についてのみこの条約を適用する権利を留保することができる。
1 配偶者の間及び配偶者であつた者の間の扶養義務
2 婚姻をしたことのない21歳未満の者に対する扶養義務
第14条
いずれの締約国も、第24条の規定に従い、次の扶養義務についてこの条約を適用しない権利を留保することができる。
1 傍系親族間の扶養義務
2 姻族間の扶養義務
3 離婚をし、法律上の別居をし又は婚姻が無効とされ若しくは取り消された配偶者の間の扶養義務(離婚、法律上の別居又は婚姻の無効若しくは取消しの裁判が、欠席裁判により、その欠席した当事者が常居所を有しなかつた国において行われた場合に限る。)
第15条
いずれの締約国も、第24条の規定に従い、扶養権利者及び扶養義務者が当該締約国の国籍を有し、かつ、扶養義務者が当該締約国に常居所を有する場合には、当該締約国の当局がその国内法を適用する旨の留保を付することができる。
第16条
扶養権利者若しくは扶養義務者の常居所地の法律又は共通本国法を適用するに当たつて、扶養義務について適用される法制を地域的に又は人的に異にする国の法律を考慮しなければならない場合には、当該国において行われている規則によつて指定される法制を適用するものとし、このような規則がないときは、当事者が最も密接な関係を有する法制を適用する。
第17条
扶養義務に関する法律を地域的に異にする締約国は、その各地域の法律の間の抵触についてこの条約を適用する義務を負わない。
第18条
この条約は、締約国の間の関係において、1956年10月24日にヘーグで作成された子に対する扶養義務の準拠法に関する条約に代わるものとする。
もつとも、第13条に定める留保により、婚姻をしたことのない21歳未満の者に対する扶養義務につきこの条約の適用を排除した国については、前項の規定は、適用しない。
第19条
この条約は、締約国が当事国であり又は当事国となる他の国際文書であつてこの条約により規律される事項に関する規定を含むものに影響を及ぼすものではない。
第4章 最終規定
第20条
この条約は、ヘーグ国際私法会議の第12回会期の時に同会議の構成国であつた国による署名のために開放しておく。
この条約は、批准され、受諾され又は承認されなければならない。批准書、受諾書又は承認書は、オランダ外務省に寄託する。
第21条
ヘーグ国際私法会議の第12回会期の後に同会議の構成国となつた国、国際連合又は専門機関の加盟国及び国際司法裁判所規程の当事国は、この条約が第25条第1項の規定により効力を生じた後、これに加入することができる。
加入書は、オランダ外務省に寄託する。
第22条
いずれの国も、署名、批准、受諾、承認又は加入の際に、自国が国際関係について責任を有する領域の全部又は一部についてこの条約を適用することを宣言することができる。宣言は、この条約がその国について効力を生ずる時に効力を生ずる。
そのような適用は、その後いつでもオランダ外務省に通告する。
第23条
扶養義務について適用される法制を異にする二以上の地域を有する締約国は、署名、批准、受諾、承認又は加入の際に、その地域の全部について又は一部のみについてこの条約を適用することを宣言することができるものとし、また、その後いつでも、その宣言を、別の宣言を行うことによつて変更することができる。
これらの宣言は、オランダ外務省に通告するものとし、当該宣言には、この条約を適用する地域を明示する。
第24条
いずれの国も、批准、受諾、承認又は加入の時までに、第13条から第15条までに定める留保のうち一又は二以上の留保を付することができる。その他のいかなる留保も、認められない。
いずれの国も、第22条の規定に従つてこの条約の適用を通告する時に、その適用に係る領域の全部又は一部について前項の留保のうち一又は二以上の留保を付することができる。
いずれの締約国も、いつでも、自国が付した留保を撤回することができる。撤回は、オランダ外務省に通告する。
留保は、前項の通告の後3番目の月の初日に効力を失う。
第25条
この条約は、第20条の批准書、受諾書又は承認書のうち3番目に寄託されるものの寄託の後3番目の月の初日に効力を生ずる。
この条約は、その後にこれを批准し、受諾し又は承認する国及びこれに加入する国については、その批准書、受諾書、承認書又は加入書の寄託の後3番目の月の初日に効力を生ずるものとし、また、第22条に規定する通告によりこの条約を適用する領域については、その通告の後3番目の月の初日に効力を生ずる。
第26条
この条約は、前条第1項の規定により効力を生じた日から5年間効力を有する。その日以後にこの条約を批准し、受諾し若しくは承認し又はこれに加入する国についても、同様とする。
この条約は、廃棄されない限り、5年ごとに黙示的に更新される。
廃棄は、5年の期間が満了する少なくとも6箇月前にオランダ外務省に通告する。廃棄は、この条約が適用される領域のうち特定の部分に限定して行うことができる。
廃棄は、これを通告した国についてのみ効力を生ずるものとし、その他の締約国については、この条約は、引き続き効力を有する。
第27条
オランダ外務省は、ヘーグ国際私法会議の構成国及び第21条の規定に従つて加入した国に対し、次の事項を通告する。
1 第20条の署名、批准、受諾及び承認
2 第25条の規定によりこの条約が効力を生ずる日
3 第21条の加入及びこれが効力を生ずる日
4 第22条の適用及びこれが効力を生ずる日
5 第23条の宣言及びその変更並びにこれらが効力を生ずる日
6 前条の廃棄
7 第13条から第15条まで及び第24条に規定する留保並びに同条に規定する留保の撤回
以上の証拠として、下名は、正当に委任を受けてこの条約に署名した。
1973年10月2日にヘーグで、ひとしく正文である英語及びフランス語により本書一通を作成した。本書は、オランダ政府に寄託するものとし、その認証謄本は、外交上の経路を通じて、ヘーグ国際私法会議の第12回会期の時の各構成国に送付する。
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