(i)              これは未確定のドラフトです。いかなる形であれ、引用等はしないで下さい。ただし、(ii)記載の学会への持参のための複製は、むしろ、報告をご理解いただくため、お願いいたします。

(ii)            2006514日開催の国際私法学会(岡山大学)において、このリステイトメントについて報告を行います。当日は原則としてこれを印刷したものは配布いたしませんので、ご了解下さい。

(iii)           国際私法学会のHP(http://wwwsoc.nii.ac.jp/pilaj/index.html)にもしばらくの間、このドラフトを掲載していただくことになっておりますが、本研究会のHP(http://www.f.waseda.jp/dogauchi/shougaikoseki/)の方に最新のversionが掲載されることになりますので、ご了解下さい。

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渉外戸籍法リステイトメント       

Consolidated Version #8

(2006/4/7現在)

 

 この研究プロジェクトはエッソ及び文部科学省の研究補助金によるものである。

 

渉外戸籍法研究会

青木清(南山大学)

岡野祐子(関西学院大学)

織田有基子(北海学園大学)

北澤安紀(慶應義塾大学)

佐藤やよひ(関西大学)

佐野寛(岡山大学)

出口耕自(上智大学)

道垣内正人(早稲田大学)

西谷祐子(東北大学)

【大目次及び原案担当者名】

1.     総則 (道垣内)

2.     出生

2.01 総則 (西谷)

2.02 嫡出子 (西谷)

2.03 非嫡出子 (出口)

3.     認知・準正 (出口)

4.     養子縁組 (佐藤)

5.     婚姻 (岡野)

6.     離婚 (織田)

7.     親権・後見 (佐藤)

8.     死亡・失踪 (青木)

9.     氏名 (北澤)

10.            国籍 (佐野)


【詳細目次】

 

1.総則.. 10

1.01 適用範囲.. 10

1.01.01[地域的適用範囲]. 10

1.01.02[人的適用範囲]. 11

1.01.03[例外]. 12

1.02 届出.. 13

1.02.01[創設的届出]. 13

1.02.02[日本人に関する身分的法律行為に関する外国からの又は外国での創設的届出]  14

1.02.03[報告的届出]. 16

1.02.04[外国にある日本人が、その国の方式に従って身分的法律行為をした場合の報告的届出]  17

1.02.05[外国において裁判による認知、離縁、離婚又は親権者の指定があった場合の報告的届出]  17

1.02.06[外国人に関する届出の届出地]. 19

1.02.07[報告的届出提出における書類の審査]. 19

1.03 添付書類.. 20

1.03.01[添付書類]. 20

1.03.02[外国語で作成された書類の訳文]. 20

1.04 戸籍簿.. 21

1.04.01[本籍地]. 21

1.04.02[戸籍簿の編製]. 21

1.05 戸籍の記載.. 21

1.05.01[配偶欄]. 21

1.05.02[身分事項欄の記載]. 22

1.06 準拠法の決定.. 23

1.06.01 本国法.. 23

1.06.02[常居所地法の決定]. 26

1.06.03[居所地法の決定]. 29

1.06.04[最密接関係地法]. 29

1.06.05[反致]. 30

1.06.06[公序]. 31

1.07 外国裁判の効力.. 32

1.07.01[外国裁判の効力]. 32

2.01 通則.. 34

2.01.01[出生の届出義務] 34

2.01.02[出生の届出地] 35

2.01.03[届出期間] 36

2.01.04[出生届の記載事項] 36

2.02 嫡出子.. 37

2.02.01[嫡出親子関係成立の準拠法] 37

2.02.02[届出義務者] 37

2.02.03[嫡出子出生届の添付書類] 38

2.02.04[嫡出子としての戸籍への記載] 39

2.02.05[嫡出親子関係の確定前の届出義務及び戸籍への記載] 41

2.03 非嫡出子.. 47

2.03.01[非嫡出親子関係成立の準拠法]. 47

2.03.02[届出義務者]. 49

2.03.03[非嫡出子の出生届の記載事項]. 50

2.03.04[添付書類]. 51

2.03.05[戸籍への記載]. 52

3.認知・準正.. 53

3.01 認知.. 53

3.01.01[認知の準拠法]. 53

3.01.02[認知の方式]. 56

3.01.03[届出義務者]. 59

3.01.04[添付書類]. 60

3.01.05[戸籍への記載]. 62

3.02 準正.. 63

3.02.01[準正の準拠法]. 63

3.02.02[届出に必要な書類]. 64

3.02.03[戸籍への記載]. 67

4 養子縁組・離縁.. 69

4.01 養子縁組の準拠法.. 69

4.01.01[養子縁組の準拠法]. 69

4.02 養子縁組の創設的届出.. 78

4.02.01[創設的縁組届]. 78

4.02.01a[分解理論に基づく創設的届出] 80

4.02.02[実質的成立要件の審査]. 82

4.02.03[添付書類]. 83

4.03 養子縁組の報告的届出.. 84

4.03.01[報告的届出]. 84

4.03.02[届出義務者]. 86

4.03.03[添付書類]. 87

4.04 戸籍への記載.. 88

4.04.01[戸籍への記載]. 88

4.05 離縁.. 89

4.05.01[離縁の準拠法] 89

406 離縁の創設的届出.. 92

4.06.01[離縁の創設的届出] 92

4.06.02[実質的成立要件の審査] 93

4.06.03[添付書類] 94

4.07 離縁の報告的届出.. 95

4.07.01[報告的届出] 95

4.07.02[届出義務者] 95

4.07.03[実質的成立要件の審査] 95

4.07.04[添付書類]. 96

4.08 離縁の戸籍への記載.. 97

4.08.01[戸籍への記載]. 97

5 婚姻.. 99

5.01 婚姻成立の準拠法.. 99

5.01.01[婚姻の実質的成立要件の準拠法]. 99

5.01.02[婚姻の形式的成立要件(方式)の準拠法]. 102

5.01.03[当事者の本国法の決定]. 103

5.01.04[反致]. 106

5.02 婚姻の創設的届出.. 108

5.02.01[婚姻の創設的届出] 108

5.02.02[要件の審査]. 109

5.02.03[添付書類]. 111

5.03 婚姻の報告的届出.. 122

5.03.01[婚姻の報告的届出]. 122

5.03.02[要件の審査]. 123

5.03.03[届出義務者]. 125

5.03.04[添付書類] 125

5.04 戸籍への記載.. 126

5.04.01[戸籍への記載] 126

6.離婚.. 128

6.01 離婚の準拠法.. 128

6.01.01[離婚の準拠法]. 128

6.02 離婚の創設的届出.. 128

6.02.01[創設的届出]. 128

6.02.02[離婚の届出の受理に際しての最密接関係地の認定について]. 135

6.02.03[協議離婚の方式]. 136

6.02.04[創設的届出における添付書類]. 137

6.02.05[離婚届不受理申出]. 137

6.03 離婚の報告的届出.. 139

6.03.01[報告的届出(日本において離婚の裁判が行われた場合)]. 139

6.03.02[報告的届出(外国において離婚の裁判が行われた場合)]. 142

6.03.03[報告的届出(外国において外国法に従い当事者の合意に基づく離婚が行われた場合)]  145

6.03.04[届出人]. 147

6.03.05[報告的届出における添付書類]. 148

6.04 戸籍への記載.. 150

6.04.01[戸籍への記載]. 150

7.親権・後見.. 152

7.01 親権.. 152

7.01.01[親権の準拠法]. 152

7.02 親権の創設的届出.. 154

7.02.01[創設的届出]. 154

7.02.02[届出義務者]. 157

7.02.03[添付書類]. 157

7.03 親権の報告的届出.. 157

7.03.01[報告的届出]. 157

7.03.02[届出義務者]. 158

7.03.03[添付書類]. 158

7.04 戸籍への記載.. 159

7.04.01[戸籍への記載]. 159

7.05 後見.. 159

7.05.01[後見の準拠法]. 159

8.01 死亡.. 162

8.01.01[日本で死亡した外国人の死亡届]. 162

8.01.02[在外日本人の死亡届]. 163

8.01.03[外国で死亡した外国人配偶者の死亡]. 165

8.01.04[外国で死亡した、日本人の子たる外国人の死亡]. 165

8.01.05[死亡の届出地]. 166

8.01.06[死亡届の添付書類]. 167

8.01.07[外国で事変に遭遇し死亡した者の死亡報告]. 168

8.02 失踪.. 168

8.02.01[失踪宣告の管轄と準拠法]. 168

8.02.02[外国人の失踪宣告]. 170

8.02.03[外国でなされた日本人の失踪宣告]. 170

9.氏名.. 173

9.01 氏名の変更及び記載.. 173

9.01.01[氏名の変更の届出]. 173

9.01.02[添付書類]. 174

9.01.03[外国人の氏名の記載]. 174

9.02 外国人との婚姻による氏の変更.. 175

9.02.01[外国人との婚姻による日本人の氏の変更]. 175

9.02.02[外国人との婚姻による日本人の氏変更の届出]. 177

9.02.03[添付書類]. 178

9.02.04[届出の受理]. 178

9.02.05[戸籍の編製及び記載]. 179

9.02.06[外国人と婚姻した日本人配偶者の氏名の記載]. 180

9.02.07[日本人と婚姻した外国人配偶者の氏名の記載]. 180

9.03 外国人との離婚又は婚姻の取消しによる氏の変更.. 182

9.03.01[外国人との離婚又は婚姻の取消しによる日本人の氏の変更の届出]. 182

9.03.02[添付書類]. 183

9.03.03[戸籍の処理]. 183

9.04 子の氏の変更.. 184

9.04.01[外国人父母の氏への変更届]. 184

9.04.02[添付書類]. 186

9.04.03[戸籍の処理]. 186

10 国籍の得喪.. 187

10.01 国籍取得したことの届出.. 187

10.01.01[届出義務者]. 187

10.01.02[届出期間]. 188

10.01.03[届出事項]. 188

10.01.04[添付書類]. 189

10.01.05[入籍する戸籍]. 189

10.01.06[戸籍への記載]. 190

10.01.07[国籍取得者の氏] 191

10.01.08[国籍取得者の名]. 192

10.02 帰化の届出.. 193

10.02.01[届出義務者] 193

10.02.02[届出事項]. 194

10.02.03[添付書類] 194

10.02.04[入籍する戸籍]. 195

10.02.05[戸籍への記載]. 195

10.02.06[帰化者の氏]. 196

10.03 国籍喪失の届出.. 197

10.03.01[届出義務者]. 197

10.03.02[届出事項]. 198

10.03.03[添付書類] 199

10.03.04[国籍喪失報告]. 199

10.03.05[戸籍の処理]. 200

10.04 国籍留保の届出.. 200

10.04.01[届出人]. 200

10.04.02[届出期間]. 202

10.04.03[戸籍への記載]. 203

10.05 国籍選択の届出.. 203

10.05.01[届出人]. 203

10.05.02[国籍選択の期限]. 204

10.05.03[届出事項]. 205

10.05.04[戸籍への記載]. 205

10.06 外国国籍喪失の届出.. 206

10.06.01[届出義務者]. 206

10.06.02[届出事項]. 206

10.06.03[添付書類]. 207

10.06.04[戸籍への記載]. 207

 


 

<参考文献>

(太字部分が引用の際に用いる略語である。)

 

        青木義人・大森正輔『『全訂戸籍法』(日本評論社、1982)

        奥田安弘『市民のための国籍法・戸籍法入門』(明石書店,1997

        奥田安弘「渉外戸籍入門(1)-」外国人登録506号以下(奥田・外国人登録○○○○)

        奥田安弘・柳川昭二『外国人の法律相談チェックマニュアル(2)(明石書店、2005)

        加藤文雄・『渉外家事事件整理ノート』(新日本法規、2000)

        加藤令造・岡垣学「全訂戸籍法逐条解説」(日本加除出版,1985)

        黒木忠正・細川清『外事法・国籍法』(ぎょうせい、1988)

        戸籍実務研究会編『渉外戸籍実務の手引き』(日本加除出版、2005)

        司法研修所編『渉外養子縁組に関する研究―審判例の分析を中心に―』(法曹会、1999)

        島野子「渉外戸籍法(1)-」戸籍691(1999)以下(島野・戸籍法○○○○(××))

        渉外戸籍実務研究会設題解説・渉外戸籍実務の処理I総論・通則編』(日本加除出版、2004)

        設例解説・渉外戸籍実務の処理II婚姻編』(日本加除出版、2005)

        田代有嗣監修・高妻新著改訂・体系戸籍用語事典(日本加除出版、2001)

        溜池良夫『国際私法講義(3)(有斐閣、2005)

        東京法務局戸籍課職員編『戸籍小箱』(テイハン、1986)

        『戸籍小箱II(テイハン、1993)

        『戸籍小箱III(テイハン、1998)

        南敏文『改正法例の解説』(法曹会、1992)

        澤木敬郎・南敏文編著『新しい国際私法』(日本加除出版、1990)

        南敏文『Q&A渉外戸籍と国際私法』(日本加除出版、1995)

        南敏文『はじめての渉外戸籍』(日本加除出版、2003)

        西谷祐子「渉外戸籍をめぐる基本的課題」ジュリスト1232(2002)145-151

        西堀英夫・都竹秀雄新版渉外戸籍の理論と実務』(日本加除出版、1994)

        平賀健太「渉外戸籍法」(全国連合戸籍事務協議会『戸籍実務読本』 (帝国判例法規出版社、1954) 571頁以下所収)(平賀○○(××))

        法務省民事局内法務研究会編『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』(テイハン、1989)

        法務省民事局内法務研究会編『改正国籍法・戸籍法の解説』(金融財政事情研究会、1985)

        法務省HP:渉外戸籍(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji15.html)

        ()民事法務協会・民事法務研究所・戸籍法務研究会『新版・実務戸籍法』(民事法務協会、2001)

        山田鐐一『国際私法(3)(有斐閣、2005)

 


1.総則

 

1.01 適用範囲

1.01.01[地域的適用範囲]

現行実務

 戸籍法は、日本の領域において生じた人の生死及び家族関係に関する事項等に適用される。

平賀581(45)、島野・戸籍7046(3)参照。

 

日本の領域

「日本の領域」とは、日本の領土、領海に加え、日本船舶・航空機内をいう(航海中の出生・死亡について戸籍法512項、55条、882項、93条参照)。平賀576(11)、島野・戸籍7042(12)では、日本の航空機内は明記されず、また、戸籍法にも航空機内での生死等に関する規定はないが、あえてこれを除外する趣旨ではないと思われる。

 

地域的適用範囲に入ることを根拠とする戸籍法の適用

日本における外国人の出生について届出義務があることは、戸籍法4923号が出生の届書に父又は母が外国人であるときはその氏名及び国籍を出生の届書の記載事項としていることから、また、日本における外国人の死亡について届出義務があることは、戸籍法8622号を受けて、戸籍法施行規則582号に死亡者が外国人であるときは、その国籍を死亡の届書の記載事項としていることから、それぞれ窺われる。戸籍の先例として、日本の領域において生じた人の生死に関する事項について、外国人についても適用があるとした事例として、昭和24323民甲3961回答がある(これは、明治3285民刑1442回答及び明治321025民刑1838回答を引用してその取扱いは何ら変更されていないことを確認したものである)。なお、出生については、詳しくは2.01.01、死亡については8.01参照。

また、日本の領域において生じた家族関係であれば、当事者が外国人であっても戸籍法が適用されることに関しては、婚姻について、戸籍法742号を受けて、戸籍法施行規則561号が、当事者が外国人であるときには、その国籍を婚姻の届書の記載事項としていることから、また、離婚については、戸籍法762号を受けて、戸籍法施行規則5712号が、当事者が外国人であるときは、その国籍を離婚の届書の記載事項としていることから、それぞれ窺われる。戸籍の先例として、日本の領域内における家族関係に関する事項について、外国人にも適用があることを確認したものとして、昭和41018418回答参照。

外国人であっても、届出義務を負う場合には、届出を懈怠すると、過料に処せられる(戸籍法120)(昭和241110民事甲2616通達)

なお、日本人の生死及び家族関係に関する事項以外の事項であっても、例えば日本国籍の得喪についての届出等は適用対象となる(戸籍法102条以下参照)。日本国内で日本国籍を喪失した者は、もはや日本人ではないが、国籍喪失の事実を知った日に国内に在住する限り、届出事件本人として国籍喪失の届出義務がある(戸籍法1031)(『新版・実務戸籍法』246)。国籍の喪失の届出義務者については10.03.01参照。

このように、戸籍法が出生又は死亡等、身分に関して届出を命じている事項については、その事実が日本において発生したものである限り、外国人であっても、同法の規定に基づいてその届出をする義務を負う。平賀581頁及び島野・戸籍7046頁は、これを戸籍法の属地的効力と呼び、その理由として、平賀583頁及び島野・同頁は、戸籍法は「行政法規」であり、日本における外国人の身分関係の登録公証制度としての機能を果たすことも法目的とされていることを指摘している(なお、属地的効力という捉え方に反対するものとして、奥田・外国人登録51940頁参照)

 

地域的適用範囲外であるとされる例

 例えば、協議離婚を認める外国法を同一本国法とする夫婦の離婚届が、当該外国から日本に郵送されてきた場合について、「郵送による届出がなされる場合の身分行為の行為地は、当該届書を郵送に付した地である」(『新版・実務戸籍法』381)と解することを前提に、外国における外国人に関する事項ということができ、戸籍法の適用範囲には入らないとされ、戸籍法の適用がないので、その離婚届を受理することはできないとされている (『新しい国際私法』82)。この点について、6.02.01参照。

 上記の通り、日本国内で日本国籍を喪失した者は、戸籍法の地域的適用範囲に入っているので、戸籍法1031項の届出義務があるところ、外国に所在の外国人(国籍を喪失した本人も含む)にはその義務はない。すなわち、戸籍法1031項は、届出義務者がその義務を知った日に国外にあるときは、その日から3箇月以内に届出をすべきことを定めているが、これは日本人である届出義務者にだけ戸籍法の人的適用範囲にはいることから届出義務を課したものであり、日本国籍を喪失した本人を含め、届出義務があるとされる者であって、日本国籍を有していない者は、本人の日本国籍喪失時点で外国にいたときには、地域的適用範囲外とされ、義務は負わないことになる(本人について『新版・実務戸籍法』246頁参照)10.03.01参照。

 

1.01.02[人的適用範囲]

現行実務

 戸籍法は、日本人の生死及び家族関係に関する事項等については、それが日本の領域外(以下、外国という。)において生じた場合にも適用される。

平賀587(6)、島野・戸籍7048(4)参照。

 

人的適用範囲に入ることを根拠とする戸籍法の適用

戸籍法491項は、国外で出生があったときは3箇月以内に出生の届け出をすることを規定し、戸籍法861項は、国外で死亡があったときは、届出義務者がその事実を知った日から3箇月以内に届出をすることを義務づけているが、これは日本人の出生・死亡に限ると解するべきであろう。また、戸籍法41条は外国に在る日本人がその国の方式に従って届出事件に関する証書を作らせたとき、例えば、その国の方式で婚姻をし、その旨の証書を作らせたとき、3箇月以内にその国に駐在する日本の大使等への届出を義務づけている。

このほか、戸籍法上、報告的届出の義務があるとされている日本人に関する事項については外国で発生した場合であっても適用があり、例えば、日本人について外国で認知や離婚の裁判が確定したときも、戸籍法63条・77条が適用され、これらの規定に従い、訴えを提起した者は裁判確定の日から10日以内に裁判の謄本を添付してその旨の届出義務があるとされている(平賀588)

なお、日本人の生死及び家族関係に関する事項以外の事項であっても、例えば日本人が日本国籍を喪失した場合には、既述の通り、戸籍法1031項により、日本人である限り、届出義務者がその義務を知った日に国外に所在していても、その日から3箇月以内に届出をすべき義務がある。。

このように、戸籍法が外国において生じた日本人の生死及び家族関係に関する事項についても適用対象としていることを、平賀587頁及び島野・戸籍704頁では、戸籍法の属人的効力と呼んでいる(なお、属人的効力という捉え方に反対するものとして、奥田・外国人登録51940頁参照)

外国における戸籍法上の届出は、その国に駐在する日本の大使、行使又は領事に対してすることができる(戸籍法40)

 

人的適用範囲に入らないとされる例

 既述の通り、外国に在る日本人が日本国籍を喪失した場合、戸籍法1031項によれば配偶者等と並んで本人もその事実を知った日から3箇月以内に届出義務があるように読めるが、その本人は外国人となっているので、もはや戸籍法の人的適用範囲から外れ、届出義務はない(『新版・実務戸籍法』246)

 

1.01.03[例外]

現行実務

 戸籍法は、日本人でない者(以下、外国人という。)が外国において出生又は死亡した場合には適用されない。

 

 1.01.01及び1.01.02から、外国人が外国において出生又は死亡した場合には戸籍法の適用はなく、例外は認められていない。

 しかし、下記のような例外を設けるべきではないかと思われる。

 

改正提案

現行実務に以下の但書を加える。

 ただし、1.01.01及び1.01.02にかかわらず、戸籍法は、次の場合には、日本人でない者(以下、外国人という。)の外国における生死にも適用される。

(1) 日本人を親として外国において出生した子が、出生と同時に外国籍を取得し、日本国籍の留保を行わなかったために日本国籍を喪失した場合。

(2) 外国において死亡した外国人が、日本人の配偶者又は子である場合。

 (1)について2.01.012.01.022.02.04の改正提案、(2)について801.038.01.04の改正提案参照。

 

この改正提案は、日本人との間で一定の身分関係がある外国人については、その外国人が外国で出生又は死亡した場合であっても、1.01.01及び1.01.02の例外として、その生死について戸籍法を適用して、届出義務を課すことを提案するものである。

 

(1)について

日本人親に外国人子が存するか否かを戸籍上明らかにしておくことは、婚姻障碍・扶養・相続等の関係において、当事者のみならず日本の国及び社会にとっても重大な関心事である。また、このような子の出生の事実が戸籍に全く記載されないのは、父母の一方が外国人非嫡出子を認知した事実が戸籍の身分事項欄に記載されることに鑑みれば、均衡を失していると思われる(西谷祐子「渉外戸籍をめぐる基本的課題」ジュリスト1232(2002)145)。ゆえに、このような子の出生の届出を義務付け、身分事項欄にこれを記載するように改めるべきである。2.01.012.01.022.02.04の改正提案参照。

 

(2)について

日本人の配偶者である外国人の死亡については、8.01.03参照。日本人の配偶者である外国人が外国で死亡した場合、現行法の下では、その旨の報告は申出書により任意に行うことができ、職権で記載されることとされている(昭和29311民甲541回答)。しかし、日本人の配偶者の戸籍に婚姻したことが記載されている外国人が、現在生存しているか否かは、その日本人の家族関係を知る上で重要な事項であり(再婚をしようとする場合等)、その外国人配偶者が外国で死亡した事実は、その日本人に死亡の届出義務を課すべきである。8.01.03の改正提案参照。

同様に、日本人の子である外国人の外国における死亡についても、扶養・相続との関係において当事者のみならず日本の国及び社会にとっても重大な関心事であると思われるので、少なくとも日本人親が生存している限りにおいて、その死亡の事実を戸籍に反映させるべきであり、その日本人親に届出義務を課すべきである。 8.01.04の改正提案参照。

 

1.02 届出

1.02.01[創設的届出]

現行実務

 身分的法律行為の市町村長への創設的届出は、その実質的成立要件に関する準拠法上有効なものである限り、 その方式については日本法に基づき有効なものとして受理することができる。

法例132項・22条但書。

平賀599(132)、島野・戸籍7167(50)(創設的認知届)7182(56)(創設的養子縁組届)7214(61)(創設的離縁届)7219(65)(創設的婚姻届)72311(11)(創設的協議離婚届)

 

法例132項及び22条但書により、(身分的)法律行為については行為地法によることができ、日本での市町村長への届出は日本が行為地となるので、この要件は具備されることになる。日本人と外国人又は外国人同士の身分的法律行為であり、その実質的成立要件の準拠法が外国法であっても、その準拠法上有効なものであれば、法例132項又は22条により日本の方式としての市町村長への届出によりその身分的法律行為は成立する(アメリカ人と日本人の夫婦の協議離婚の届出についての昭和26614民甲1230通達参照)。したがって、実質的成立要件の準拠法がその法律行為を認めていない場合には、方式の点だけ日本法上有効とされても身分行為をすることはできないので、市町村長はその創設的届出を受理することができない(ブラジル人同士の協議離婚届を受理することはできないとした例として、平成6225民二1289回答参照)

認知届について、3.01.02参照。

養子縁組届について、4.02.01参照。

離縁届について、4.05.01参照。

婚姻届について、5.02.01参照。 

離婚届について、6.02.01参照。

 

1.02.02[日本人に関する身分的法律行為に関する外国からの又は外国での創設的届出]

現行実務

(1) 日本人に関する身分的法律行為に関して、方式の準拠法が日本法となる場合には、外国からその日本人の本籍地の市町村長に対して届書を郵送することによって、創設的届出をすることができる。

(2) 外国にある日本人は、日本人間の婚姻、養子縁組及び協議離婚については、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事に届出をすることができる。

 民法741条、801条、戸籍法40条。平賀603(15)及び605(16)

 

(1)について

日本人間の婚姻や養子縁組などだけではなく、日本人と外国人との婚姻、日本人による外国人の認知、日本人親が外国人を養子とする養子縁組などについても、実質的成立要件の準拠法上それが有効であれば、方式の準拠法が日本法となる限り、外国からの郵送による届出をすることができる(平賀604)

外国から日本の市町村長への郵送による届出は、平成元年改正前の法例のもとにおいても受理されていた(昭和24928民甲2204通達、昭和2636民甲412回答)。法例82項及び131項但書における行為地を日本と解していたものと思われる(『新版・実務戸籍法』363)。この点、平成元年改正後の法例下においては、外国からの郵送による届出について、行為地(法例132項、22条但書)は日本ではなく(『新しい国際私法』82)、郵送に付した地が行為地と解されている(『新版・実務戸籍法』380)。いずれにせよ、当事者の双方又は一方が日本人である婚姻についての外国からの郵送による婚姻届については、婚姻挙行地が外国であれば、法例133項本文により当事者一方の本国法による方式として有効であり(平成元・102民二3900通達第11(2))、婚姻挙行地が日本であれば132項により挙行地法による方式として有効であり、上記のいずれと解しても結論としては同じく有効であるので、132項の適用の有無に関する議論は実益を失っている。

これに対して、婚姻以外の法律行為(養子縁組、認知、離婚等)についての外国からの郵送による届出は、行為地を郵送に付した地であると解する限り、法例22条本文により方式の準拠法が日本法とされない場合には、その届出によってその法律行為の方式が具備されたものと扱うことはできないことになる(『新版・実務戸籍法』319頁、342頁、380頁、『改正法例の解説』174)

なお、学説上、平成元年改正は婚姻について本国法による方式を有効とすることを追加しただけであり(法例133項本文)、行為地の概念を変更するものではないとする見解がある(澤木敬郎・道垣内正人『国際私法入門(5)101)。この見解は、身分的法律行為についての届出という方式においては、その行為を社会に公にするという点が重要であって、それをどこで郵送に付したかは重要ではなく、外国から届書を郵送に付して日本の市区町村長に到達したという事実経過を全体としてとらえれば、行為地は日本であるとする。この見解によれば、1.02.02 (1)の場合、常に日本が行為地となるので、日本法に基づきその届出は方式上有効であると扱うことになる(なお、この見解をそのまま当てはめると、日本在住の日本人と韓国人が韓国の身分関係の登録公証制度所管者(面長)に郵送で婚姻届をしたような場合には、婚姻挙行地は韓国となり、法例133項の適用はないとの扱いになろう)

郵送によるほか、使者による届出も同様にすることができる(『全訂戸籍法』209)

 

(2)について

民法741条及び801条は、外国にある日本人間の婚姻及び養子縁組について、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事にその届出をすることができる旨定めている。養子縁組について4.02.01(2)、婚姻について5.02.01(3)参照。

また、日本人間の認知、協議離婚及び離縁については明文の規定はないが、在外公館への届出をすることができるとされている(認知について『新版・実務戸籍法』320頁、協議離婚について大12164887回答、昭2735民甲239回答、離縁について正面から論じた文献は見出せない)。認知について3.01.02(4)、離縁について4.06.01(2)、協議離婚について6.02.03(2)参照。

 

日本人と外国人との間の養子縁組、婚姻等について

現行実務では、外国にある日本人と外国人との間の養子縁組及び婚姻については、民法741条及び801条の反対解釈として日本の在外公館に届出をすることができないとされ、また、外国にある日本人と外国人との間の協議離婚及び離縁については、戸籍法40条が「文理上外国人に適用はないと解されている」ことから(『全訂戸籍法』239)、実務上、日本の在外公館に届出をすることができないとされている(協議離婚について昭和26913民甲1793回答)。これに対して、日本人が外国人を認知する場合については、戸籍法40条により日本の在外公館に届出をすることができるとされている(認知は単独行為であることを理由とするものと解される)(このことから、外国人が日本人を認知する場合には日本の在外公館への届出をすることができない)(3.01.04(4)の解説参照)

日本人と外国人との間の婚姻及び養子縁組については日本の在外公館への届出を認めていないのは、「主として外国に在住する日本人の便益の保護のため」には必ずしも必要がない(『渉外戸籍の理論と実務』183)からであると説明されているが、それに加え、日本の在外公館では、実質的成立要件について特に審査をしないことになっているので(184)、そこでの届出を認めると、偽装婚姻や偽装縁組により日本人の配偶者又は子の資格として不法入国等に悪用されるおそれがあり、これを防止する必要があるということ指摘することができるように思われる。

もっとも、日本人が認知する場合には認知対象者の国籍に関わらず日本の在外公館への届出を認めており、不法入国等の悪用を防止するとの趣旨は読み取れない。日本人の便益の保護のためであれば、日本人と外国人との間の養子縁組及び婚姻に関しても日本の在外公館への届出を認めるべきであると考えられる(山田413)。他方、不法入国等の防止を重視するのであれば、認知についても、日本人が日本人を認知する場合に限定することも考えられよう。また、協議離婚及び離縁については、家族関係の解消であり、不法入国等の問題は生じないので、この点だけからは日本人と外国人の間のものであっても在外公館への届出ができるように改正することも考えられる。しかし、在外公館に実質的成立要件の審査という過重な負担を課すことは現実的ではなく、かえって適正な事務の遂行ができないおそれがあるとすれば、現行の実務で行われている以上を求めることは妥当ではないであろう。

 

1.02.03[報告的届出]

現行実務

戸籍法の適用範囲にある事項について、同法の定めに従い、報告的届出をしなければならない。

 

戸籍法の地域的及び人的適用範囲については、1.01.01から1.01.03参照。

報告的届出が求められるそれぞれの場合について詳しくは下記参照。

-         出生(戸籍法49)について、2.01.01参照。

-         裁判による認知(戸籍法63)及び外国法上の方式による任意認知について、3.01.02参照。

-         裁判による養子縁組(戸籍法68条の2)及び外国法上の方式による養子縁組について、4.03.02参照。

-         裁判による離縁(戸籍法73)について、4.06.01参照。

-         外国法上の方式による婚姻について、5.03.01参照。

-         裁判による離婚(戸籍法77)及び外国法上の方式による協議離婚について、6.03.01から6.03.03参照。

-         裁判による親権者の指定(戸籍法79)及び外国法上の方式による親権者の指定について、7.03.01参照。

-         裁判による後見人の指定及び外国法上の方式による後見人の指定について、7.05.01の解説参照。

-         死亡(戸籍法86)について、8.01.028.01.038.01.05参照。

-         失踪宣告について、8.02.02参照。

-         国籍(日本国籍の取得・帰化・喪失、外国国籍の喪失)について、10.0110.02.10.0310.06参照。

          

1.02.04[外国にある日本人が、その国の方式に従って身分的法律行為をした場合の報告的届出]

現行実務

(1) 外国にある日本人が、その国の方式に従って身分的法律行為をした場合には、その国の当局にそれに関する証書を作らせ、次のいずれかの方法によって、3箇月以内に本籍地の市区町村長に届出なければならない。

() その国に駐在する日本の大使、公使又は領事へのその証書の謄本の提出。

() 本人の本籍地の市町村長へのその証書の謄本の郵送。

(2) (1)()により書類を受理した日本の大使、公使又は領事は、遅滞なく、外務大臣を経由してこれを本人の本籍地の市町村長に送付しなければならない。

 (1)について、戸籍法41条、

 (2)について、戸籍法42条。

 

(1)について

 外国において外国の方式で身分的法律行為をした場合の規定である。外国に駐在する日本の大使、公使又は領事は戸籍法により報告的届出事項とされている事項についての届出を受理する職責を有する(戸籍法40)

なお、外国に駐在する日本の大使、公使又は領事に対してした届出に関する処分に対する不服は、戸籍法118条を類推適用して家庭裁判所に対してしなければならない(東京地判平成元・1027家月421163)

日本人の当事者ではなく、外国人の当事者からの届出があった場合には、それを受領し又はその送付を受けた市区町村長が職権で戸籍の記載をする(島野・戸籍70613)

 

(2)について

在外公館から送付されてきた書類が不備により戸籍の記載が不能と認められる場合には、不備の点を指摘して関係戸籍の謄抄本等を添付して管轄局を経由して法務省に回送する、とされ(昭和25523民甲1357通達)、追完可能なものであれば、法務省、外務省を経て、当初に在外公館に戻される(『全訂戸籍法』242)

 

1.02.05[外国において裁判による認知、離縁、離婚又は親権者の指定があった場合の報告的届出]

現行実務

(1) 外国において認知、離縁、離婚又は親権者の指定の裁判が確定した場合には、その訴えを提起した者は、裁判が確定した日から10日以内に、届書に裁判が確定した日を記載し、裁判の謄本を添附して、その旨を届け出なければならない。

(2) (1)のうち、認知、離縁又は離婚の訴えを提起した者がその裁判の確定した旨の届出をしないときには、その相手方は、届書に裁判が確定した日を記載し、裁判の謄本を添付して、その裁判が確定した旨を届け出ることができる。

 (1)について、戸籍法631項、68条の273条、77条、79条、

 (2)について、戸籍法632項、73条、77条。

 外国における裁判による認知について、3.01.03(3)、外国における裁判による離縁について、4.07.01(2)、外国における裁判による離婚について、6.03.02、外国における裁判による親権者の指定について、7.03.01(3)参照。

 

 この報告的届出義務が生ずるのは、外国の裁判の効力が日本で承認される場合に限られると解するべきであろう。外国裁判の承認については、107.01参照。 

なお、外国における裁判による養子縁組については、4.03.01の解説に記載の通り、戸籍実務は一貫して、それを証する書面は戸籍法41条の証書として扱い、法例を適用して準拠法による審査をしている(昭和2915民甲2347回答、民事月報44巻「号外法例改正特集」299頁以下、『新版・実務戸籍法』348頁、戸籍63779)。また、平成元・102民二3900通達第52(2)は外国において成立した養子縁組に関する報告的届出について、法律行為のよる場合と裁判による場合とを区別することなく、準拠法の審査をする旨を規定している(このとは第42の認知や第62の離縁などの報告的届出については裁判による場合を区別して規定している)。その理由は、養子縁組については、国によって社会秩序、歴史的沿革から固有の法制がとられており、各国、様々であり、その要件・効果等は法制により大きく異なっているので、法例が指定する準拠法以外の法律によった場合は、わが国の法秩序に反する養子縁組が成立する恐れがあるからであるとされている。また、養子決定の裁判は、わが国では家事審判法による審判によってなされるが、これは非訟事件として争訟性がなく、裁判所の関与は養子の福祉、保護から後見的なものということができ、離婚・離縁とは異なることも理由として挙げられている(『Q&A渉外戸籍と国際私法』239頁以下)

しかし、外国裁判所による養子縁組の裁判についてだけ異なる扱いをすることについては学説上異論のあるところであり(山田532)、争訟性の有無により民事訴訟法118条の適用・不適用を区別することの当否についてはなお検討を要する。この点については、4.03.01参照。

 

改正提案

(1)の一部を以下の通り改める。

 「裁判が確定した日から10日以内に」とあるのを「裁判が確定した日から3箇月以内に」とする。

 

戸籍法631(以下、これを準用する場合を含む。)は、日本で裁判が確定した場合と外国で裁判が確定した場合とを区別することなく、裁判を提起した者は裁判が確定した日から10日以内に届出をすることを定めている。しかし、戸籍法41条によれば、外国にある日本人が、その国の方式に従って身分的法律行為をした場合には、3箇月以内に本籍地の市区町村長に届出なければならないとされており、それとの対比において、10日以内の届出を求めることは均衡を失していると思われる。なお、戸籍法49条は、日本での出生の場合には14日以内の届出を義務付けているが、外国での出生についてはこれを3箇月に延長しており、また、同法86条は同じく死亡について7日以内を3箇月に延長している。

もっとも、戸籍法632項は、裁判を提起した者の相手方が届出をできるのは、裁判を提起した者が法定期間内に届出をしなかった場合に限定しており(ただし、訴えを提起した者が死亡したような場合には相手方が例外的に早めに届出をすることができるとされている(『全訂戸籍法』306))、上記のとおり、裁判を提起した者の届出期間を3箇月以内に改正すると、相手方が届出をできるようになる時点が遅くなってしまう点が問題となる。とはいえ、この点は、戸籍法632項が相手方の届出資格を補充的なものに留めている点に問題があり、国内事件をも視野に入れてその当否を別途問題にすべきであろう。

 

1.02.06[外国人に関する届出の届出地]

現行実務

外国人に関する届出は、届出人の所在地でこれをしなければならない。

戸籍法252項。平賀599(131)、島野・戸籍70614(20)

 

戸籍法が出生又は死亡等身分に関して届出を命じている事項については、その事実が日本で発生したものである限り、外国人に関する事項であっても届出義務がある(昭和24323民甲3961回答)。このような届出義務のある事項に限らず、外国人に関する事項については、本人である外国人には日本に本籍地がないので、届出人の所在地で届出をすることになる。

届出人所在地には一時の滞在地も含まれる(明治321115民刑1986回答)

 

改正提案

現行実務に、以下の但書を加える。

 ただし、以下の場合には、届出人である日本人が外国にあるときは、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事に届出をすることができる。

 (a) 日本人を親として外国において出生した子が、出生と同時に外国籍を取得し、日本国籍の留保を行わなかったために日本国籍を喪失した場合。

 (b) 外国において死亡した外国人が、日本人の配偶者又は子である場合。

 

 これは、2.01.01及び8.01.05の改正提案に対応するものであり、戸籍法40条の改正は要しない。

 

1.02.07[報告的届出提出における書類の審査]

現行実務

 外国において成立した身分的法律行為、外国裁判等に関する報告的届出において、提出書類に記載された事項は、日本から見てその効力を認めることができるか否かを審査する。

 

外国において成立した身分的法律行為等の報告的届出は、その真偽、法的効力を審査しなければならない。戸籍事務は形式的審査にとどまるので、提出可能な添付書類等に基づいて審査されることになる。

外国裁判所の裁判の日本における効力については、1.06.01参照。

 

1.03 添付書類

1.03.01[添付書類]

現行実務

 市町村長は、届出又は申請の受理に際し、戸籍の記載又は調査の必要があるときは、書類の提出を求めることができる。

 戸籍法施行規則63条。

 

各種の届出についての添付書類

嫡出子出生届の添付書類について、2.02.03参照。

非嫡出子出生届の添付書類について、2.03.04参照。

認知届の添付書類について、3.01.04参照。

養子縁組届の添付書類について、4.02.03及び4.03.03参照。

離縁届の添付書類について、4.05.03及び4.06.03参照。

婚姻届の添付書類について、5.02.055.03.03及び5.03.04参照。

離婚届の添付書類について、6.02.04及び6.03.05参照。

親権者指定の届出の添付書類について、7.01.04参照。

死亡届の添付書類について、8.01.06参照。

氏名に関する届出の添付書類について、9.01.029.03.029.04.02参照

国籍に関する届出の添付種類について、10.01.0410.02.0310.03.0310.06.03参照。

 

外国法の内容に関する書類

届出において外国法の内容を証明する書類の提出を義務付けるのは適当ではない。なぜならば、外国法の適用は強行法規である法例の規定に従って外国法が準拠法となった結果としてなされることであり、当事者の証明がないからといって、その適用をしないで済むものではないからである。

例えば、平成元・102民二3900通達第31(2))は、父母の一方が日本人で、子が日本法上は嫡出子とならない場合に、出生当時における外国人親の国籍証明書に加え、外国人親の本国法上の嫡出子の要件に関する証明書の提出を求める旨規定しているが、これは、提出を求められる側から見ると、提出義務があるかのように受け取られかねない。しかし、この趣旨は、その証明書の添付を義務付けるものではなく、そのような証明書が提出されない場合には、管轄局の長に受理照会をする等の措置をとるのが実務のようであり、そのことを明確にすべきであろう(2.02.03参照)

 

1.03.02[外国語で作成された書類の訳文]

現行実務

届書に添付する書類その他市町村長に提出する書類で外国語によって作成されたものについては、翻訳者を明らかにした訳文を添付しなければならない。

戸籍法施行規則63条の2。島野・戸籍70619(23)

 

訳文を添付すべき書類には、戸籍法41条の証書(外国の当局に作らせた証書)(1.02.04)の謄本や戸籍法施行規則63条によって提出を求められる書類(受理に際して市町村長が戸籍の記載又は調査のために必要ありとした場合に提出が求められる書類)も含まれる(昭和59111民二5500通達第46)

 

1.04 戸籍簿

1.04.01[本籍地]

現行実務

本籍は日本の領土内に定める。

 

本籍は日本国の領土内にしか定めることはできない(平賀32)。外国に夫婦の新本籍を定めることとした婚姻届は受理することができないとした例がある(昭和26430民事甲899回答)。なお、北方地域の3島については(歯舞群島については当初から歯舞村役場が北海道本島内にあったので特に問題はなかった)、「北方領土問題等の解決の促進のための特別措置法」の施行に伴う昭和58314民二1819通達がある。

 

1.04.02[戸籍簿の編製]

現行実務

外国人と婚姻した日本人については、その日本人及びこれと氏を同じくする子ごとに、戸籍を編製する。

戸籍法6条但書。

 

この点が改正されたのは昭和59年法律45号による。その改正前は、外国人と婚姻した日本人は、原則として、もとの戸籍のままとされ(親の戸籍に入っていた者はそのまま)、分籍届をした場合にのみ、単独戸籍とするとの扱いであった。しかし、昭和59年改正により、外国人と婚姻した場合にも、日本人と婚姻した場合と同じく、新戸籍が編製されることとなった(戸籍法163)。本条は、その場合に戸籍の単位を定めるものである。

 

1.05 戸籍の記載

1.05.01[配偶欄]

現行実務

 外国人と婚姻した日本人について新戸籍を編製するときは、日本人につき配偶欄を設ける。

昭和59111民二5500通達第2

 

1.02.02の記載のとおり、昭和59年法律45号による改正の前は、分籍届があった場合にのみ新戸籍が編製されたが、これには日本人夫婦の戸籍と異なり配偶欄がなかった。これに対して、昭和59年改正により、日本人が外国人と婚姻した場合、この日本人を戸籍筆頭者とする新戸籍が編製されることとなったが、この場合、その日本人について配偶欄を設けて、そこに、夫又は妻と記入することとされた。そして、外国人配偶者の氏名は、婚姻の事実とともに日本人配偶者の戸籍の身分事項欄に記載される。

 

1.05.02[身分事項欄の記載]

現行実務

(1) 日本人の配偶者であって外国国籍を有するものについては、氏名、生年月日、国籍及び婚姻の年月日を記載し、死亡した場合には、死亡により婚姻が解消した旨を記載する。

(2) 日本人親の嫡出子であって外国国籍のみを有するものは記載しない。

(3) 日本人親が認知をした子であって外国国籍のみを有するものについては、氏名、生年月日及び認知をしたことのみを記載する。

身分事項欄の記載一般については、戸籍法施行規則35条参照。

 

(1)について

外国人配偶者の国籍の記載については戸籍法施行規則362項に規定がある。9.02.06参照。

外国人配偶者の死亡の場合の記載については、昭和29311民甲541回答参照。

外国国籍の変更・追加について当事者から申し出があった場合には、その旨記載することになる(変更について、昭和31518民甲1045回答・昭和33126民二572回答、追加について戸籍72164)

 

(2)について

 出生したことにより外国国籍を取得した者であって、日本人の嫡出子であるものは、国籍留保届を所定の期間内にしなければ、出生の時に遡って日本国籍を失うことになる。これについては、2.02.04参照。

 

(3)について

 平231民二600通達及び平61116民二7000通達の参考記載例によれば、認知の効力を有する出生届、養子縁組についてそれぞれ身分事項欄に外国人子の国籍を記載している。

2.03.05及び3.01.05参照。

 

改正提案

(1)は現行実務の通りとし、(2)及び(3)は以下の通り改める。

(2) 日本人親の嫡出子であって外国国籍のみを有するものについては、身分事項欄に氏名、生年月日、国籍、日本人親の生存中にその子が死亡した場合はその年月日を記載する。

(3) 日本人親が認知をした子であって外国国籍のみを有するものについては、身分事項欄に氏名、生年月日及び認知をしたことに加え、日本人親の生存中にその子が死亡した場合はその年月日を記載する。

 

(2)について、2.02.04の改正提案参照。

(3)について2.03.05及び3.01.05の改正提案参照。

 

1.06 準拠法の決定

1.06.01 本国法

1.06.01.01[本国法の決定]

現行実務

(1) 国籍の有無は各国の国籍法により決定される。未承認国であるか否かは問わない。

(2) 単一の国籍を有する者の本国法はその国の法律である。地域的不統一法国の国籍を有する場合には、その国の規則により本国法が指定されている場合には、その法律を本国法とし、そのような規則がなければ、その者に最も密接に関係する地方の法律を本国法とする(法例283)。人的不統一法国の国籍を有する場合には、その国の規則により本国法が指定されている場合には、その法律を本国法とし、そのような規則がなければ、その者に最も密接に関係する法律を本国法とする。

(3) 複数の国籍を有する者の本国法は、次の順位で定める。

(a) 国籍を有する国のうちに日本が含まれていれば、日本法を本国法とする。

(b) (a)に該当しない場合であって、国籍を有する国のうちに常居所を有する国があれば、その国の法律を本国法とする。

(c) (a)及び(b)に該当しない場合には、国籍を有する国のうち、その者に最も密接に関係する国の法律を本国法とする。

(4) 国籍を有しない者の本国法は、その常居所地の法律を本国法とする。人的不統一法国に常居所を有する場合には、法例31条により本国法を定める。難民の場合には、難民の地位に関する条約12条により、その者の住所地法が本国法とみなされる。

 法例281項・2項、311項、難民の地位に関する条約12条。

 平賀620(20)、島野・戸籍70815(31)以下、奥田・外国人登録52325頁以下参照。戸籍実務上の国籍認定の方法については、5.01.05参照。

 

(1)について

 分裂国家について、かつては未承認国の法律を本国法とすることはなく、承認している側の国の法律を本国法としていたが、近時、この取り扱いは変更され、未承認国法であっても本国法として認めている(『新版・実務戸籍法』283頁参照)。台湾法を本国法として認めた例として、昭和5198民二4984回答参照。

 

(2)及び(3)について

 地域的不統一法国の国籍を有する者の本国法の決定については法例283項。人的不統一法国の国籍を有する者の本国法の決定については法例311項、重国籍者の本国法の決定については法例281項にそれぞれ定めるとおりある。

 

(4)について

 無国籍者の本国法の決定については法例282項に定めるとおりである。難民については、1.05.02の解説の末尾参照。

 

1.06.01.02[本国法の認定方法]

現行実務

(1) 日本国籍を有している者の認定は戸籍による。

(2) 事件本人である外国人が届書の本籍欄に1箇国の国籍のみを記載した場合は、その国の法が当該外国人の本国法として取り扱われる。ただし、当該記載された国の権限ある者が発行した国籍を証する書面(国籍証明書)等の添付書類から単一国籍であることについて疑義が生じる場合はこの限りではない。

(3) 重国籍者であって日本人ない者の本国法の認定は以下の通りとする。

(a) 国籍国のうち、居住証明書を発行した国があり、これを当事者が提出した場合は、その国に常居所を有するものと認定され、当該国の法が本国法とされる。

(b) いずれの国籍国からも居住証明書の発行が得られない場合は、当該外国人当事者がその旨の申述書を提出した上で、例えば婚姻の成立の場合、婚姻要件具備証明書発行国が当該外国人に最も密接な関係を有する国と認定され、その国の法が本国法とされる。

(c) (a)(b)のいずれによっても本国法が決定されない場合は、管轄局の長の指示による。

 (2)について、平成元・102民二3900通達第11(1)イ@、

 (3)(a)について、法例281項本文、平成元・102民二3900通達第11(1)イAi、

 (3)(b)について、法例281項本文、平成元・102民二3900通達第11(1)イAii

 (3)(c)について、平成元・102民二3900通達第11(1)イAiii

 

(1)について

 戸籍は日本人の名簿であるので、原則として、戸籍上の記載により日本人であることは認定することができる。重国籍者であっても、国籍国の中に日本が含まれていれば、その者の本国法は日本法とされる(法例281項但書)

 

(2)について

 戸籍窓口では形式的審査を前提として処理するため、外国人当事者が重国籍であるか否かは、当該当事者が積極的に届書に明示したり、その旨を証する書類を提出したりしない限り、窓口ではそれを知り得ないことから、実務では上記の扱いをする。当該外国人が実は重国籍者であって、その本国法が届書に記載された国以外の法である場合の責は、虚偽の事実を記載した届出人が負うべきであるとされる(『新しい国際私法』47)

  単一国籍であることについて疑義が生じる場合とは、届書等提出書類の中で国籍について矛盾がある場合、届書自体に重国籍である旨の記載がある場合等とされている(『新しい国際私法』47)

  国籍証明書等の添付書類とは、本国の官憲が発行した国籍証明書のほか、旅券等をいう(平成元・102民二3900通達、『新しい国際私法』40)。また婚姻要件具備証明書中に被証明者の国籍について証明されていれば、これを国籍証明書として取り扱ってさしつかえないとされる(『新しい国際私法』47)

 

(3)(a)について

 重国籍である外国人とは、2以上の異なる国の国籍証明書が提出された場合又は届書その他の書類等から重国籍であることが明らかな場合をいう(平成元・102民二3900通達第11(1)()A)。法例281項本文は、重国籍である外国人については、当事者が常居所を有する国の法律を、その国がないときは当事者にもっとも密接な関係がある国の法律を当事者の本国法とすると定める。現行実務は、外国人の国籍国における常居所の認定については、日本人のわが国における常居所の認定(平成元・102民二3900通達第81(1)、すなわち、事件本人の、発行後1年以内の住民票の写しの提出があれば、わが国に常居所があるものとして取り扱うというもの)に準じて取り扱うとしていることから(平成元・102民二3900通達第82(2))、重国籍である外国人の本国法決定においても、上記(i)のように、国籍国のうち、居住証明書を発行した国に常居所があるものと認定され、当該外国人の本国法が決定される(平成元・102民二3900通達第11(1)()Ai)

  居住証明書は、本国官憲の発行する居住事実・住所の存在に関するもので、その主旨・内容は日本における「住民票」と同様のものであればよく名称が多少異なっていても良い。居住期間は問題とされないので(平成元・102民二3900通達第82(2))、その記載がなくてもよい(『新しい国際私法』50)

 

(3)(b)について

 (3)(a)により本国法が決定されない場合には、(b)により、最密接関係国が決定され、その国の法が本国法とされる。婚姻の場合、重国籍者である外国人について婚姻要件具備証明書が一つの国から発行されていれば、その国をその者の本国法とするとの扱いをするのは、(i)婚姻要件具備証明書の発行が得られる国は、国籍国のうちで当事者にとっての最密接関係国である蓋然性が非常に高く、また、(ii)「本人側の意思とそれに対応する国家の行為という要素があること」を理由としている(『新しい国際私法』51)。この点については、下記の改正提案参照。

 

(3)(c)について

 (3)(b)により本国法が決定されない場合とは、婚姻要件具備証明書が国籍国のいずれの国からも発行されない場合や、逆に複数の国籍国から発行された場合をいう(奥田52329)。管轄局の長としては、最密接関係国に関し受理伺いがあった場合は、当分の間、(i)国籍取得の経緯、(ii)国籍国での居住状況、(iii)国籍国での親族居住の有無、(iv)国籍国への往来の状況、(v)現在における国籍国とのかかわり合いの程度、以上について調査の上本省に照会すべきこととされている(平成元・1214民二5476通知、『新しい国際私法』52)。ただし、協議離婚届けがあった場合における夫婦の最密接関係国法については、平成545民二2986通知により留意事項が示され、疑義がある場合を除き、法務省への照会を要しないこととされた点につき、6.02.01及び6.02.02参照。

  

改正提案

(1)(2)(3)(a)(c)については現行実務通り。

(3)(b) いずれの国籍国からも居住証明書の発行が得られない場合は、当該外国人当事者がその旨及び何れの国が最密接関係国であるかを述べた申述書を提出したときには、これに従って本国法を決定する。

 

 (3)(b)の扱いの理由とされている第1の点(上記(i))、すなわち、婚姻要件具備証明書の発行が得られる国は国籍国のうちで当事者にとっての最密接関係国である蓋然性が非常に高いという推定は、国民に対して婚姻要件具備証明書を発行する国の実務として、自国民が他の国籍を有しているか否かを問題とし、かつ、自国よりも他の国籍国がその者とより密接な関係がある場合には婚姻要件具備証明書の発行を拒否するのでない限り、成り立たない推定であると思われる。

 また、第2の点(上記(ii))である本人側の意思とそれに対応する国家の行為という要素を重視することは、当事者が婚姻具備証明書の発行を受けやすい国をそのままその者の本国法とすることを意味し、最密接関係国を本国法とすることを定めている法例281項本文の趣旨に沿わないのではないかと思われる。また、複数の国から婚姻要件具備証明書が発行される可能性もある。事件本人である外国人が届書の本籍欄に1箇国の国籍のみを記載した場合は、その国の法が当該外国人の本国法とする(2)の取り扱いと平仄を合わせ、正面から、本人からの申述書によって最密接関係国が何れの国であるかを自己申告させる方法により、本国法を決定する方がよいと思われる。

 

1.06.02[常居所地法の決定]

現行実務

(1) 常居所が日本にあるとの認定をすることができるのは次の場合である。

 () 事件本人が日本人の場合

 () 事件本人の住民票の写し(発行後1年内のもの)の提出があるとき。ただし、旅券その他の資料で外国に引き続き5年以上滞在していること、又は、重国籍の場合の国籍国である外国、永住資格を有する外国、外国人配偶者の国籍国である外国(配偶者の資格での滞在に限る。)若しくは外国人養親の国籍国である外国(養子の資格での滞在に限る。)、以上いずれかの外国(以下、この項において、これらの外国を「特定関係外国」という。)1年以上滞在していることが判明したときを除く。

 (ii) 事件本人が国外に転出し、住民票が消除されたが、出国後1年以内であるとき。

 (iii) 事件本人が国外に転出し、住民票が消除されたが、滞在国が特定関係外国ではなければ、出国後5年以内であるとき。

 () 事件本人が外国人である場合

 () 出入国管理及び難民認定法(以下、この項において「法」という。)別表第1の各表の在留資格者であって、引き続き5年以上在留しているとき。ただし、法別表第1のうち、「外交」、「公用」及び「短期滞在」の在留資格者、並びに、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定第9条第1項に該当する者は、いかなる場合にも日本には常居所がないものとする。

 (ii) 法別表第2の「永住者」、「日本人の配偶者等」(日本人の配偶者に限る。)、「永住者の配偶者等」(永住者の子として本邦で出生しその後引き続き本邦に在留している者を除く。)又は「定住者」の在留資格者であって、引き続き1年以上在留しているとき。

 (iii) 日本で出生した外国人であって出国していないもの(()()及び(ii)に該当する者を含む。)

 (iv) 法別表第2の「日本人の配偶者等」(日本人の配偶者を除く。)又は「永住者の配偶者等」(永住者の子として本邦で出生しその後引き続き本邦に在留している者に限る。)の在留資格者。

 () 日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法に定める「特別永住者」の在留資格者。

(2) 常居所が外国にあると認定することができるのは次の場合である。

 () 事件本人が日本人である場合であって、旅券その他の資料で一の外国に引き続き5年以上滞在していること、又は特定関係外国に1年以上滞在していることが判明したとき。

 () 事件本人が外国人である場合であって、(1)()に準じて、国籍国に居住していることを示す住民票に類する書類の提出等があるとき。

 () 事件本人が外国人である場合であって、(1)()に準じて、国籍国以外の外国に一定期間以上在留しているとき。

 法例14条・15条・16条、法例21条、282項、312項。

 (1)(a)について、平成元・102民二3900通達第81(1)

 (1)(b)について、平成元・102民二3900通達第81(2)

 (2)(a)について、平成元・102民二3900通達第82(1)

 (2)(b)について、平成元・102民二3900通達第82(2)

 (2)(c)について、平成元・102民二3900通達第82(2)

 島野・戸籍7119(39)、奥田・外国人登録52728頁。

 

 これは、平成元・102民二3900通達第8記載を若干整理したものである。戸籍事務との関係で常居所地法の決定が必要となるのは、(i)離婚の準拠法の決定にあたって、夫婦の同一本国法がない場合において、夫婦の同一常居所地法の有無の判断をするとき、(ii)当事者の本国法によるべき場合に、その当事者が無国籍者であるとき、(iii)当事者の常居所地法によるべき場合において(法例21条等)、常居所地がある国が人的統一法国にあるとき(312)、以上のときである。

 

(1)()について

 日本人については住民票があれば原則として日本に常居所があるものとされる。そして、出国後5年以内であれば、住民票が消除されていても、同様である。

 例外的な扱いがされるのは、@住民票が消除されていないものの、旅券等から、外国に引き続き5年以上滞在している場合、A住民票が消除されていないものの、旅券等から、重国籍者の国籍国である外国や配偶者の本国である外国等の特定関係外国に引き続き1年以上滞在している場合、B国外に転出し、住民票が消除され、出国から1年を超えて特定関係外国に滞在している場合であり、これらの場合には、日本には常居所はないものとして扱われる。戸籍の窓口においては、何らかの事情によりこれらの例外的な事情があることが窺われない限り、形式的に住民票を審査して処理することになる(奥田・外国人登録52730)

 

(1)()について

 (1)()の場合の在留資格及び在留期間の認定は、これらを記載した外国人登録証明書及び旅券(日本で出生した者等で本国から旅券の発行を受けていないものについては、その旨の申述書)によるとされている(平成元・102民二3900通達第81(2)柱書)

 (1)()()の但書記載の通り、「外交」、「公用」及び「短期滞在」という在留資格での在留者並びに日米地位協定91項該当者は、いかなる場合にも常居所は日本にはないものとして扱われる。しかし、裁判上、事案によってはこれと異なる扱いがされた例がある。すなわち、横浜地判平成31031(家月4412105)は、「平元・102民二3900通達「によれば、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定第九条第一項に該当する者(米国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族である者)については、日本に常居所がないものとして取り扱うと定めている(81(2))ところ、原告と被告は、右に該当するが、いずれも米国に帰化する前は生来の日本国民であったこと、その定住の意思、実態等以上の認定事実に照らすと、原告並びにその家族である被告及びジョンについては、右通達の取扱いをそのまま当てはめるのは相当でなく、日本を常居所とするものと認めるのが相当である」と判示している。

 外国人のうち、滞在期間に関わらず日本に常居所があるものとして扱われるのは、@日本で出生して出国していないもの、A法別表第2の「日本人の配偶者等」(日本人の配偶者を除く。)又は「永住者の配偶者等」(永住者の子として本邦で出生しその後引き続き本邦に在留している者に限る。)の在留資格者、B「特別永住者」である(上記(1)()(iii)(iv)())

 その他の外国人のうち、法別表第2の「永住者」、「日本人の配偶者等」(日本人の配偶者に限る。)、「永住者の配偶者等」(永住者の子として本邦で出生しその後引き続き本邦に在留している者を除く。)又は「定住者」の在留資格者という日本との関係が深い者については、引き続き1年以上在留により、日本に常居所があるものと認定する。そして、それ以外の一般の外国人については、引き続き5年以上日本に滞在することを条件に日本に常居所があるものと扱うこととされている。

 

(2)について

 常居所が外国にあるとの認定は、日本に常居所がある場合の基準に準じて処理される。

 

難民について 

 難民の地位に関する条約12条は、「難民については、その属人法は住所を有する国の法律」とするものとすると規定している。「属人法」という用語を用いているのは、比較国際私法上、能力や家族関係の問題の準拠法として本国法主義をとる国と住所(ドミサイル)法主義をとる国とがあるからであり、日本の場合、本国法を意味すると解して差し支えないであろう。難民の認定は、日本では出入国管理及び難民認定法に従ってなされる。戸籍との関係では、戸籍届出事件の事件本人又は届出人が同法61条の23項に定める在留資格証明書の写し(原本との照合が必要)又はこれに準ずるものを添付したときに限り、その者を難民として取り扱うこととされている(昭和57330民二2497通達)(「これに準ずるもの」について、奥田・外国人登録52517頁参照)。難民の住所の認定については、事実上、常居所の認定とほぼ同様の事情を考慮してされることになろう(山田126頁参照)

 

1.06.03[居所地法の決定]

現行実務

(1) 法例の適用上、当事者の常居所地法によるべき場合において、その常居所が知れないときは居所地法による。ただし、法例14(151項及び16条において準拠法する場合を含む。)の規定を適用する場合はこの限りではない。

(2) 難民について住所地法によるべき場合において、その者が住所地を有しないときは居所地法による。

 法例14条・15条・16条、法例30条、難民の地位に関する条約121項。

 

(1)について

 居所地の認定については議論されることがほとんどないが、実際上、世界中どこにも常居所がないことを前提に、当事者の所在地をもって居所地であると認定するほかないであろう。この認定に疑義がある場合には、管轄局の長の指示を求めることになる(平成元・102民二3900通達第8柱書)

 

(2)について

 難民の場合、住所があると認定できるほどの期間は居住していないことがあるため、難民の地位に関する条約121項は、難民が住所を有しないときには、その属人法は居所地法とするものとすると規定している。

 

1.06.04[最密接関係地法]

現行実務

 法例14(15条及び16条において準用される場合を含む。)の定める「夫婦に最も密接なる関係ある地の法律」は、関係する事情を総合考慮して決定する。

 法例14条・15条・16条、283項、312項。島野・戸籍71119(45)

 

 離婚届受理に際しての最密接関係地法を認定するためには、関係する事情の総合考慮が必要であるので、通達に基づく機械的な処理ができない場合には、管轄局の長の指示を求める必要がある。平成545民二2986通知は、場合分けをして、一定の場合には明確に最密接関係地法が日本法であると認定ができるようにしているが(6.02.02参照)、それらに該当しない場合には、法務省民事局長への照会が必要となる。

 なお、最密接関係地法の決定にあたって、将来の予定を考慮してよいか、どのように考慮するかについては議論がある。将来の予定を勘案して最密接関係地法を決定することに反対する見解は、将来の予定は主観的なものに過ぎず、その通りになる保証はなく、また、仮に確固たる予定として認定できるとしても、過去の清算である離婚の準拠法の決定に当たっては、当事者一方の将来の予定を勘案して最密接関係地法を決定するのは不当であるということを理由としている(道垣内正人・ポイント国際私法総論164)。これに対して、将来の予定をも勘案して最密接関係地法を決定した裁判例として、水戸家裁平成334(家月451257)がある。水戸家裁は、長年ヨットで世界一週旅行をし、1990422日にグアムで婚姻した英国人夫とフランス人妻とが、その翌月に日本に到着し、程なく妻から夫に離婚を求めた事案において、夫については、常居所を日本に有することのほか、1963年以来、3年、7年、3年半日本で生活をしたことがあり、ここ20年間は日本以外には落ち着いて生活した国はないこと、妻については、日本に常居所はないものの、「今後日本に引き続き居住し、日本人と早期に婚姻する予定であること等」を勘案して、夫婦に最も密接な関係にある地の法律は日本法であると判示している。

 

1.06.05[反致]

現行実務

(1) 当事者の本国法として外国法が準拠法となる場合において、その外国の国際私法によれば、日本法が準拠法とされているときには、日本法が準拠法となる(法例32)

(2) 前項の規定にかかわらず、法例14(151項及び16条において準用される場合を含む。)又は21条の規定によって当事者の本国法による場合は、この限りではない。

(3) セーフガード条項(法例1812項及び20)の適用においては、32条本文の適用はない。

法例14条・15条・16条、18条、20条、21条、32条。平賀622(21)、島野・戸籍7116(37)、奥田・外国人登録52820頁。

 

(1)及び(2)について

 親族・相続関係の戸籍実務において反致が問題となる場面は、法例32条によれば、婚姻の実質的成立要件(131)、婚姻の方式(132項・3)、嫡出親子関係の成立(17)、非嫡出親子関係の成立(18)、準正(19)、養子縁組の成立(20)、後見(24)の場合である。

 131項の適用における反致については、5.02.06参照。法例132項と3項本文の選択的連結と反致との関係については、5.02.04参照。24条の適用における反致については、7.02.01参照。

 

(3)について

 認知による非嫡出親子関係の成立(1812)及び養子縁組の成立(20)については、本来の準拠法である親の本国法の適用に加えて、子・養子の本国法が「其子又ハ第三者ノ承諾又ハ同意アルコトヲ認知ノ要件トスルトキハ其要件ヲモ備フルコトヲ要ス」(1812)、「養子若クハ第三者ノ承諾若クハ同意又ハ公ノ機関ノ許可其他ノ処分アルコトヲ要件トスルトキハ其要件ヲモ備フルコトヲ要ス」(20)と規定されている。これらの規定はセーフガード条項と呼ばれる。

 セーフガード条項については反致に関する法例32条の適用はないという考えが有力である。その根拠は条文の規定の仕方に加え、養子のために保護要件を設けた趣旨が没却される場合もあること、政策的にも養子の本国法が特に重要であること(反致して養子の本国以外の国の法律を適用することは適切ではないこと)などが指摘されている(『改正法例の解説』208頁、『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』276頁以下、『新版・実務戸籍法』340頁、あき場「法例の新規定における反致政策についての小論」川井健ほか編『講座現代家族法1巻』105(1991)、木棚ほか55)。もっとも、学説上は、山田486頁、櫻田嘉章・国際私法(4)112頁、出口耕自・基本論点国際私法204頁などでは解釈論としては反致を認めることになるとされている。

 法例1812項のセーフガード条項と反致の関係については、2.03.01の解説、また、法例20条のセーフガード条項と反致の関係については、4.01.01の解説参照。

 

1.06.06[公序]

現行実務

外国法の適用結果がわが国の公序良俗に反する場合には、その適用結果は排除される。

 法例33条。平賀626(22)、島野・戸籍71120(46)、奥田・外国人登録52825頁。

 

 公序違反か否かの基準は、外国法の適用結果が日本法の適用結果と異なる程度(その乖離度が大きければ公序違反となる方向に傾く)と事案の日本社会との関係の程度(関係が深ければ公序違反となる方向に傾く)との相関関係で定まる。したがって、その判断を定型化することはできないので、微妙な判断が必要となる場合には、市町村長は管轄局の長の指示を求めるべきである。例えば、平成元・102民二3900通達第41(1)では、日本人の子を認知するケースにおいて、日本民法上の認知の要件が当事者双方に備わっていない場合において、認知する者の本国法により認知することができる旨の証明書を添付した認知の届出があったときは、法例33条の規定の適用が問題となるので、管轄局の長の指示を求めるものとするとされている。

 家族法の分野で外国法の適用結果を公序違反とした裁判例としては以下のものがあるが、上記の基準に照らせば、これらの事案の日本との関係性の深さ次第では、同じ法律が準拠法となる場合であっても公序違反となるとは限らないことに注意が必要である。

        東京地判平成3329家月45367)---異教徒間婚姻を禁止するエジプト法の適用結果を排除。

        東京地判昭和56227判時101085)---離婚を認めないフィリピン法の適用結果を排除。

        最判昭和52331民集312365)---離婚に伴う親権者を自動的に父とし、母が親権者となることを許さない当時の韓国法の適用結果を排除。

        名古屋家審昭和4932家月26894)---認知を認めないコロラド州法の適用結果を排除。

        神戸家審平成7510家月471258)---未成年者の兄弟2名の一方のみとの養子縁組しか認めず、双方との養子縁組を許さない中国法の適用結果を排除。

        那覇家審昭和56731家月341154)---養子縁組を認めないテキサス州法の適用結果を排除。

        水戸家土浦支部審平成11215家月51793---養親の嫡出子の同意がなければ養子縁組の成立を認めないフィリピン法の適用結果を排除。

 

1.07 外国裁判の効力

1.07.01[外国裁判の効力]

現行実務

 民事訴訟法118条の柱書及び各号所定の要件を満たす外国裁判所の裁判は、特別の手続を経ることなく、日本においてその既判力及び形成力を認められる。 

 民事訴訟法118条、民事執行法24条。島野・戸籍71118(44)

 外国裁判所の裁判が確定した場合の日本での報告的届出については、1.02.05参照。

 

民事訴訟法118条一般 

外国判決の承認とは、その既判力及び形成力を日本において認めることであり、そのための要件は民事訴訟法118条に定めるとおり、(i)「外国」「裁判所」の「確定」「判決」であること(柱書)(ii)その判決を下した外国にわが国から見て国際裁判管轄があること(1)(iii)公示送達の方法によらない送達がされたこと、又は、送達はされていないが応訴したこと(2)(iv)判決の内容及び手続が日本の公序に反しないこと(3)(v)判決国との間で判決の承認について相互の保証があること(4)、以上の通りである。

 以上のうち、若干の点を最高裁判決に従って敷衍すると次の通りである。

 (ii)について、最判平成10428(民集523853)は、「『法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること』とは、わが国の国際民訴法の原則から見て、当該外国裁判所の属する国(以下「判決国」という。)がその事件につき国際裁判管轄(間接的一般管轄)を有すると積極的に認められることをいうものと解される。そして、どのような場合に判決国が国際裁判管轄を有するかについては、これを直接に規定した法令がなく、よるべき条約や明確な国際法上の原則もいまだ確立されていないことからすれば、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により、条理に従って決定するのが相当である。具体的には、基本的にわが国の民訴法の定める土地管轄に関する規定に準拠しつつ、個々の事案における具体的事情に即して、当該外国判決をわが国が承認するのが適当か否かという観点から、条理に照らして判決国に国際裁判管轄が存在するか否かを判断すべきものである。」と判示している。

 (iii)について、同じく最判平成10428は、「『訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達』は、わが国の民事訴訟手続に関する法令の規定に従ったものであることを要しないが、被告が現実に訴訟手続の開始を了知することができ、かつ、その防御権の行使に支障のないものでなければならない。のみならず、訴訟手続の明確と安定を図る見地からすれば、裁判上の文書の送達につき、判決国とわが国との間に司法共助に関する条約が締結されていて、訴訟手続の開始に必要な文書の送達がその条約の定める方法によるべきものとされている場合には、条約に定められた方法を遵守しない送達は、同号所定の要件を満たす送達に当たるものではないと解するのが相当である。」とし、また、「被告が『応訴したこと』とは、いわゆる応訴管轄が成立するための応訴とは異なり、被告が、防御の機会を与えられ、かつ、裁判所で防御のための方法をとったことを意味し、管轄違いの抗弁を提出したような場合もこれに含まれると解される。」と判示している。

 (v)について、最判昭和5867(民集375611)は、「『相互ノ保証アルコト』とは、当該判決をした外国裁判所の属する国(以下「判決国」という。)において、わが国の裁判所がしたこれと同種類の判決が同条各号所定の条件と重要な点で異ならない条件のもとに効力を有するものとされていることをいうものと解するのが相当である。」と判示し、上記の最判平成10428もこれを踏襲している。

 

民事訴訟法118条と人事訴訟法等

人事訴訟法、家事審判法、非訟事件手続法など民事訴訟法以外の手続法の適用対象となる事件における外国裁判について民事訴訟法118条及び民事執行法24条がそのまま適用されるのか否かについては議論の余地がある。かつては、外国離婚判決の承認を含め相当に広く法例の定める準拠法を適用していることを要求するという考え方もあり、これに従った裁判例もあったが(東京地判昭和36315下民集123486)、現在では、これを支持する立場は少なくなっており(学説や裁判例の整理として、徳岡卓樹「身分関係事件に関する外国裁判の承認」澤木敬郎・青山善充編『国際民事訴訟法の理論』403(1987))、今日なお決着のついていない点は争訟性のない裁判についてである。これに該当する外国裁判所による養子縁組の裁判の扱いについては、1.02.05及び4.03.01参照。

 


2.出生

 

2.01 通則

2.01.01[出生の届出義務]

現行実務

(1) 日本において外国人子が出生した場合には、出生の届出を行わなければならない。

(2) 外国において日本人子が出生した場合には、出生の届出を行わなければならない。

 (1)について、明治3285民刑1442回答、明治321025民刑1838回答(昭和5320275回答、昭和24323民甲3961回答においても踏襲)

 (2)について、戸籍法491項。

 

(1)について

 日本国内にある父母双方が外国人であって子も日本国籍を有していないため、戸籍への記載がなされえない場合であっても、父母は出生届を行わなければならない。これは、出生及び死亡という、人の生死に関する重要な身分については、たとえ戸籍に記載されない外国人であったとしても日本国としては把握しておかなければならないという考慮に基づいている(1.01.01参照)。届出の義務者・資格者については、2.02.02及び2.03.02参照。

 

(2)について

 戸籍法491項の通りである。

 

改正提案

(1)(2)は現行実務どおりとし、(3)を加える。

(3) 外国において出生した子が、出生と同時に日本国籍と外国国籍を取得しており、日本国籍の留保を行わなかったために日本国籍を喪失した場合、その子について出生の届出を行わなければならない。

 1.01.03の改正提案、2.01.02の改正提案、2.02.04の改正提案参照。

 

 国籍留保届をしなければ日本国籍を喪失することとなる子の出生届は、国籍留保とともにしなければ受理されない(大正13111411606回答)。これは、国籍留保届とともにしない出生届は、事件本人が国籍留保届出期間の経過により出生時にさかのぼって日本国籍を喪失することになるため、外国における外国人の出生届と同視され不要となるためである(『新版・実務戸籍法』302)。したがって、現在の実務では、外国において日本人親から出生した子が、出生と同時に日本国籍と外国国籍を取得しており、日本国籍の留保を行わなかったために日本国籍を喪失した場合には、出生の届出をする義務はなく、届出をしても受理されず、戸籍の身分事項欄にも記載されない。

 しかし、このような子の出生の事実が戸籍に全く記載されないのは、父母の一方が外国人非嫡出子を認知した事実が戸籍の身分事項欄に記載されることに鑑みれば、均衡を失していると思われる(西谷祐子「渉外戸籍をめぐる基本的課題」ジュリ1232(2002)145)。また、日本人親に外国人子が存するか否かを戸籍上明らかにしておくことは、婚姻障碍・扶養・相続等の関係において、当事者のみならず日本の国及び社会にとっても重大な関心事である。ゆえに、このような子の出生の届出を義務付けるべきである(1.01.03参照)

なお、現行の戸籍法138号・戸籍規則35条に定める身分事項欄の記載事項を前提とすれば、出生の事実は子の身分事項欄に記載すべき事項となっているため、外国人子の出生の事実は記載できず、出生届は戸籍に記載されない書類として処理せざるを得ない。しかし、同条の予定する記載事項に外国人子の出生の事実を加えるよう改正すべきである(2.02.04参照)

 この場合において、外国に在る日本人が届出人のときには、戸籍法40条により、その国に駐在する日本の大使等に届出をすることができる。

 

2.01.02[出生の届出地]

現行実務

(1) 外国人子に関する出生の日本における届出は、出生地又は届出人の所在地で行う。

(2) 日本人子に関する出生の外国における届出は、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事にすることができる。父母の少なくとも一方が日本人である場合には、届出人は事件本人の本籍地に郵送等により出生の届出をすることができる。

 (1)について、戸籍法252項、511項、

 (2)について、戸籍法40条、(2)の郵送について、昭和24928民甲2204通達。

 

(1)について

 戸籍法252項は、外国人に関する届出全般について、届出人所在地で行うことと定めている(1.04.01参照)。もっとも、戸籍法511項によれば、出生の届出は出生地でもすることができる。ゆえに、外国人子に関する出生の届出をする場合は、届出人所在地あるいは出生地のいずれかで行うことができる。

なお、昭和22717民甲618回答は、外国人と婚姻した日本人女からの外国人子の出生の届出について、届出人所在地ではできず、出生地でしなければならないとしていた(当時の戸籍法511項によれば、出生の届出は、国内で出生した場合には出生地でしなければならないと定めていた)。しかし、これは同項の昭和45年法律12号による改正前の先例であり、現行法下では妥当しない。

 

(2)について

 父母の少なくとも一方が日本人で、子が外国で出生した場合には、在外公館に出生の届出をすることができる(戸籍法40)。出生届を受理した大使等は、届書を遅滞なく外務大臣を経由して本人の本籍地の市町村長に送付する(42)。届書が外務大臣を経由して本籍地に送付されておらず、また届出人において届書が受理されたことの証明書等を所持しない場合には、新たに出生届をさせる(昭和26829民甲1745回答)

なお、郵送以外の使者等による届出については、1.04.02参照。

 

改正提案

(1)の届出地に加え、その子の日本人親の本籍地においても届出ができる。

 

 これは、2.01.01の改正提案に対応するものである。

 

2.01.03[届出期間]

現行実務

(1) 日本において外国人子の出生があった場合には、14日以内に出生の届出をしなければならない。

(2) 外国において日本人子の出生があった場合には、3箇月以内に出生の届出をしなければならない。

 戸籍法491項、1073項、昭和59111民二5500通達第24(2)ア。

 

 戸籍法491項によれば、出生の届出は14日以内(国外で出生があった場合には3箇月以内)にしなければならない。

 なお、外国において日本人子が出生し、出生と同時に外国籍をも取得した場合には、出生届とともに日本国籍留保の届出をしなければ、その子は出生のときに遡って日本国籍を喪失する(国籍法12条、戸籍法104)

 

2.01.04[出生届の記載事項]

現行実務

(1) 父又は母が外国人である場合には、その外国人については本籍の代わりに国籍を記載し、生年は西暦で表示する。

(2) 外国人親が提出する出生届には捺印は必要ない。

 (1)について、戸籍法4923号、昭和5469民二3313通達第2

 (2)について、戸籍規則62条、「外国人ノ署名捺印及無資力証明ニ関スル法律」、昭和59111民二5500通達第4-3

 

 出生届の記載事項は、戸籍法492項及び戸籍規則55条に規定するとおりである。戸籍法4923号によれば、外国人父母については本籍が存在しないため、代わりに国籍を記載する。また、戸籍実務上、父母の生年は日本人父母については元号で、外国人父母については西暦で記載することとされている(昭和5469民二3313通達第2)

 また、戸籍規則62条及び「外国人ノ署名捺印及無資力証明ニ関スル法律」によれば、外国人親が提出する出生届には、戸籍法29条柱書に定める押印は必要ないとされている(昭和59111民二5500通達第4-3)


2.02 嫡出子

2.02.01[嫡出親子関係成立の準拠法]

現行実務

 父母の一方の本国法上、子が嫡出子とされる場合には、その子を嫡出子として出生の届出をしなければならない。父母の一方が日本人である場合には、まず日本法上、子が嫡出性を有するか否か判断し、それが否定されれば外国人配偶者の本国法によって判断する。

 法例17条、平成元・102民ニ3900通達第31(2)イ。

 

 改正前法例17条は、常に子の出生当時の母の夫の本国法によって子の嫡出性の有無を判断するとしていた(「子ノ嫡出ナルヤ否ヤハ其出生ノ当時ノ母ノ夫ノ属シタル国ノ法律ニ拠リテ之ヲ定ム」)。それに対して、現行法例171項は、「夫婦ノ一方ノ本国法ニシテ子ノ出生ノ当時ニ於ケルモノニ依リ子ガ嫡出ナルトキハ其子ハ嫡出子トス」と定め、できる限り子の嫡出性を認めるという実質法的利益を実現するために、選択的連結(選択的連結の意義については、横山潤『国際家族法の研究』(有斐閣、1997)147頁以下等参照)によっている。それゆえ、夫婦の少なくとも一方の本国法上、子が嫡出子とされる場合には、その子を嫡出子として出生の届出を行う。法例171項の指定する準拠法によって、具体的には、(i)嫡出性判断のための要件(妻が婚姻中に懐胎した子が夫の子と推定されるか否か、婚姻成立の日から何日以降に、また婚姻解消の日から何日以内に出生した子が婚姻中に懐胎したものと推定されるか等)(ii)嫡出性を否定するための要件(嫡出否認の許容性、否認権者、嫡出否認の方法・手続、否認権行使期間等)(iii)誤想婚・無効婚から出生した子が嫡出子たる身分を取得するかどうか、などが決定される(『新しい国際私法』102頁以下参照)

 戸籍実務においては、父母の一方が日本人である場合、まず日本民法上、子が嫡出子として扱われるか否かを確認し、それが否定されれば外国人配偶者の本国法によって子が嫡出子として扱われるか否かを確認することとされている(平成元・102民ニ3900通達第31(2))

 法例172項は、「夫ガ子ノ出生前ニ死亡シタルトキハ其死亡ノ当時ノ夫ノ本国法ヲ前項ノ夫ノ本国法ト看做ス」としているため、夫が子の出生前に死亡した場合にも、夫の死亡当時の本国法又は妻の本国法いずれかによって嫡出子とされるのであれば、嫡出子としての届出を受理しなければならない。

 なお、父母の婚姻前に出生した子について、婚姻後に嫡出子としての出生の届出を行った場合、それが認知の準拠法上(法例181項・22)、認知の要件を満たす場合には認知の効果が生じ、それによって準正が成立する(法例19)場合には、嫡出子として出生の届出をすることができる(戸籍法62条参照)。この点については、3.02参照。

 

2.02.02[届出義務者]

現行実務

外国で出生した日本人嫡出子の出生届について、戸籍法521項及び3項に定める者が外国にいる外国人である場合にも、届出義務を負う。

 

 嫡出子の出生に関する届出義務者の範囲は、戸籍法52条に定めるとおりである。外国で出生した日本人嫡出子の出生届について、戸籍法521項に定める者が外国にいる外国人である場合にも届出義務を負う(『新版・実務戸籍法』271)。なお、学説上は、外国にある外国人父母は、日本人子が外国で出生した場合に届出資格を有するものの、届出義務はないとする見解もある(島野70413)

 法例17条によって嫡出親子関係が成立する限り、その父又は母はわが国の法律の適用上当然に父又は母として扱われる。したがって、例えば外国人母の本国法によってのみ父とされる日本人父も、当然に戸籍法521項に定める届出義務者となる(『新しい国際私法』109頁以下)

 

2.02.03[嫡出子出生届の添付書類]

現行実務

(1) 嫡出子出生届には、出生証明書を添付しなければならない。

(2) 父母の一方が日本人で、子が日本法上は嫡出子とならない場合には、出生当時における外国人親の国籍証明書を添付しなければならない。この場合、原則として、外国人親の本国法上の嫡出子の要件に関する証明書も添付することが求められる。

 (1)について、戸籍法493項、

 (2)について、平成元・102民二3900通達第31(2)イ。

 

(1)について

 子が日本民法上嫡出子となるとき、添付書類は出生証明書のみである(戸籍法493)

 

(2)について

 平成元・102民二3900通達第31(2)イによれば、父母の一方が日本人で、子が日本法上は嫡出子とならないとき、添付書類として、出生証明書に加えて、(a)子の出生当時における外国人親の国籍証明書及び(b)外国人親の本国法上の嫡出子の要件に関する証明書の提出を求めることとされている。

n        子の出生当時における外国人親の国籍証明書

 外国人親の国籍証明書は、子が外国人親の本国法上嫡出子となるかどうか判断するため、まず親の本国法を決定しなければならないことから、添付が必要となる。外国人親の国籍証明書は、――出生時点での国籍証明書を取ることは事実上不可能であるので――子の出生前後6箇月以内程度の期間内に発行されたもので足りる。なお、出生証明書が当該外国人親の本国官憲によって証明されたものである場合は、当該者がその国の国民であることを前提として作成されたと推定されるので、特別の国籍証明書の提出を要求する必要はない(『新しい国際私法』119頁参照)

n        外国人親の本国法上の嫡出子の要件に関する証明書

 外国人親の本国法上の嫡出子の要件に関する証明書は、具体的には、外国人親の本国官憲の発行した証明書や出典を明らかにした法文の写しに訳文を添付したものを指す。

 平成元・102民二3900通達第31(2))は、出生当時における外国人親の国籍証明書に加え、外国人親の本国法上の嫡出子の要件に関する証明書の提出を求める旨規定しているが、これは、提出を求められる側から見ると、提出義務があるかのように受け取られかねない。しかし、この趣旨は、その証明書の添付を義務付けるものではなく、そのような証明書が提出されない場合には、管轄局の長に受理照会をする等の措置をとるのが実務のようであり、そのことを明確にすべきであろう。この点について、1.02.08参照。  

 ところで、父母双方が外国人であるときは、実務上は、届書の記載内容から明らかに父母の嫡出子であることが否定されない限り、出生証明書以外の特段の添付書類は要求されず、父母の婚姻証明書すら必要ないとされているようである。その理由としては、(i)夫婦双方が外国人であって、子も日本国籍を取得しない場合には、戸籍への記載がなされないこと、(ii)出生届については、少なくとも子がどの母から出生したか公証する必要があるが、嫡出性については明らかに疑義が生ずる場合以外は審査する必要がないことが挙げられている(『新しい国際私法』119頁参照)

 添付書類が外国語によって作成されている場合には、翻訳者を明らかにした訳文を添付する必要がある(戸籍規則63条の2)。ただし、翻訳者の資格は問われないため、自分で翻訳しても構わない(奥田安弘『市民のための国籍法・戸籍法入門』(明石書店、1997)141頁参照)

 外国人親が無国籍であるときには、国籍証明書を要求できないため、それに代わるものとして外国人登録証明書を添付させる。なお、国籍法23号によって日本国籍を取得する嫡出子については、その出生届に関する事務処理の正確さを期するため、無国籍者の親について外国人登録だけに依拠して戸籍窓口で処理するのではなく、市区町村長から監督法務局又はその支局の長に受否伺いをするものとされている(昭和5776民ニ4265通達)

 

改正提案

(1)(2)は現行実務どおりとし、(3)を付け加える。

(3) 父母双方が外国人であるときも(2)と同様に処理する。

 

 父母双方が外国人である場合に、実務上、原則として出生証明書以外の特段の添付書類が要求されないのは、出生の事実が戸籍に記載されないため、子の嫡出性について正確に審査する必要がないことを理由としているようである。しかし、わが国において外国人について身分を公証する機能を有するのは、戸籍窓口に提出された出生届に関する受理証明書及び戸籍受附帳への記載以外にはない。そして、相続関係の確定や税の支払においては、その外国人子が夫婦の嫡出子であるか否かが重要性をもつ場合もありうる。ゆえに、父母双方が外国人である場合の出生届についても、(2)の場合と同様に子の嫡出性の審査を行うべきである。したがって、添付書類としては出生証明書と両親の国籍証明書を要求すべきである。

 

2.02.04[嫡出子としての戸籍への記載]

現行実務

(1) 父又は母の少なくとも一方が日本人である場合、日本国籍を有する子は戸籍筆頭者である日本人たる父又は母の戸籍に入籍する。

(2) 子が日本で出生しており、父母双方が無国籍者であるため子が日本国籍を取得する場合には、日本人たる子について新戸籍を編製する。

(3) 父母の一方が日本人であるが、子が外国において出生した際に出生と同時に外国籍を取得しており、日本国籍の留保を行わなかったために日本国籍を喪失している場合には、子の出生の届出は受理されず、戸籍にも記載されない。

(4) 父母双方が外国籍を有しており、しかも子が外国籍しかもたない場合は、戸籍への記載は行われない。

 (2)について、国籍法23号、

 (3)について、国籍法12条。

 

(1)について

外国人と婚姻した日本人については日本人を筆頭者とする戸籍が編製される(戸籍法6条但書、163)。その嫡出子たる日本人の子は日本人たる父又は母の氏を称し、その戸籍に入籍する(民法7901項本文、戸籍法182)。父母欄については、外国人親の氏と日本人親のそれとが異なる場合には、父母欄のいずれにも氏と名を記載する。外国人親が日本人親の氏を称している場合(昭和55827民ニ5218通達参照)、あるいは日本人親が外国人親の氏を称している場合(戸籍法1072項参照)には、子の父欄には氏及び名を、母欄には名だけを記載する(『改正国籍法・戸籍法の解説』(金融財政事情研究会、1985)149頁以下)。ただし、コンピュータ化した場合には、父母欄双方に氏が記載される。なお、日本人親が従前の氏を称しているが出生子は外国人親の氏を名乗りたいときは、家庭裁判所の許可によって氏を変更し、子について新戸籍を編製する(戸籍法20条の22項、1074)。詳細は、8(氏の項)参照。

 

(2)について

が日本で出生しており、父母双方が無国籍であるため子が日本国籍を取得する場合には(国籍法23)、日本人たる子について単独の戸籍を編製する。なお、父母双方が知れない場合については、2.03(非嫡出子の項)参照。

 

(3)について

現行実務では、父母の一方が日本人であるが、子が外国において出生した際に出生と同時に外国籍を取得しており、日本国籍の留保を行わなかったために日本国籍を喪失している場合(国籍法12条参照)には、嫡出子の出生の届出は受理されず、戸籍にも記載されない。

 

(4)について

父母双方が外国人(一方が無国籍の場合も含む)である場合、その嫡出子は日本国籍を取得しないため戸籍には記載されない。ただし、出生の届書及び受附帳は、一定年限保存される。1.01.02参照。

 

改正提案

(1)(2)及び(4)については、現行実務どおりとし、(3)については、以下のように改めるものとする。

(3) 父母の一方が日本人であるが、子が外国において出生した際に出生と同時に外国籍を取得しており、日本国籍の留保を行わなかったために日本国籍を喪失している場合にも、戸籍の身分事項欄に記載する。

 1.01.03の改正提案、2.01.01の改正提案、8.01.04の改正提案参照。

 

 2.01.01で指摘したように、現在の実務では、父母の一方が日本人であるにもかかわらず、外国で出生した嫡出子が日本国籍留保を行わなかった場合には、出生の届出がなされず、その事実も戸籍に記載されない。父母の一方が外国人非嫡出子を認知した事実は戸籍の身分事項欄に記載されることに鑑みれば、外国人嫡出子の出生の事実が戸籍に全く記載されないのは整合性に欠ける。また、日本人親に外国人子が存するか否かを戸籍上明らかにしておくことは、婚姻障碍・扶養・相続等の関係において、当事者のみならず日本の国及び社会にとっても重大な関心事である。ゆえに、このようなケースでの嫡出子出生の届出を行わせることとし、それを受理したうえで戸籍に記載するように実務を変更すべきである。

 現行の戸籍法138号・戸籍規則35条に定める身分事項欄の記載事項を前提とすれば、外国人嫡出子出生の事実は記載できず、出生届は戸籍に記載されない書類として処理せざるを得ないが、将来的には同条の予定する記載事項に外国人嫡出子出生の事実を加えるよう改正すべきである(2.01.01参照)

 

2.02.05[嫡出親子関係の確定前の届出義務及び戸籍への記載]

現行実務

(1) 法律により子が嫡出子とされている場合は、嫡出否認の訴え・親子関係存否確認の訴えが提起されているときであっても、嫡出子出生届を行わなければならない。裁判所の審判又は判決によって親子関係の存否が確認されれば、それに基づいて戸籍訂正を行う。

(2) 母が再婚した後に子を出生しており、前婚と後婚の夫婦一方の本国法上の定めによって嫡出推定が重複するときは、母が出生の届出を行う。この場合には、届書に父が未定である事由を記載する。

 (1)について、戸籍法53条、116条。

 

(1)について

 ここでは嫡出親子関係確定前の届出義務及び戸籍への記載という特殊な状況を対象としている。

 (1)の第1文は、戸籍法53条の定めるとおり、嫡出否認の訴え・親子関係存否確認の訴えが提起されている場合でも、戸籍法52条に定める届出義務者は嫡出子出生の届出を行わなければならないとしている。したがって、両親の少なくとも一方の本国法上、嫡出推定が働いている限りは、嫡出子として届出なければならない。子について嫡出推定が働いている限りは、外国の裁判所において嫡出否認の訴え・親子関係存否確認の訴えが提起されている場合であっても同様に、嫡出子出生届を行うべきである(子の嫡出性の決定については、2.02.01参照)

 (1)の第2文のとおり、戸籍実務上、裁判所の審判又は判決によって親子関係の存否が確認されれば、それに基づいて戸籍法116条による戸籍訂正が行われる。外国裁判所の判決が、わが国において民事訴訟法118条に従って承認される場合にも同様である。

 

(2)について

 (2)は、添付書類等から母が再婚であることが判明した場合、まず母又は前夫のいずれかの本国法によって前夫の子と推定されるかどうか確認し、さらに母又は後夫のいずれかの本国法によって後夫の子と推定されるかどうか確認することとしている。嫡出推定が働くのが前夫と後夫の一方だけであれば、その嫡出子として届け出る。前夫もしくは後夫いずれかについて、子の嫡出性を否定する事情が存在し、それが嫡出否認・親子関係存否確認・離婚等の裁判上明らかにされた場合にも、その者については子の嫡出性が否定されたものとして扱うことができる。しかし、前夫と後夫の双方について嫡出推定が働く場合は、当事者の一方が日本人である以上は日本民法773条も適用されることから、裁判所が父を定むべき場合に当たり、父未定の出生届を行う(大正75161030回答、昭和26123民甲51回答参照)。この場合の届出義務者は母である(平成元・102民二3900通達第31(2)ウ及び戸籍法541項。『新しい国際私法』112頁以下参照)

 母が日本人であって前夫と後夫との間で嫡出推定が重複する場合、父未定の子は母からの出生届によって出生当時の母の氏を称し、その当時の母の戸籍に入る。そして、裁判所によって父が確定されれば、戸籍法116条による戸籍訂正が行われる。一方、母が外国人である場合には、母の戸籍がなく、また前夫もしくは後夫いずれかが日本人であっても当該子が日本国籍を取得するかどうかは不明であるため、戸籍の記載はなされない。この場合、当該出生届書は戸籍の記載を要しない届書類として、市区町村長によって保存される(戸籍規則50条。『新しい国際私法』114頁参照)。もとより、嫡出推定が重複する前夫・後夫、そして妻のいずれもが外国人である場合にも、嫡出子出生の届出は受理されるが、戸籍の記載はなされない。

 

改正提案

(1)については、現行実務どおりとし、(2)を次のとおり改める。

(2) 母が再婚した後に子を出生しており、前婚と後婚の夫婦一方の本国法上の定めによって嫡出推定が重複するときは、母が出生の届出を行う。この場合には、届書に父が未定である事由を記載する。母が外国人、嫡出推定が及んでいる現在の夫が日本人であれば、その戸籍に嫡出子出生の事実を記載する(戸籍法541項準用)

 

 嫡出推定が重複する際に、母が外国人、嫡出推定が及んでいる現在の夫が日本人であれば、その戸籍に嫡出子出生の事実を記載すべきである(戸籍法541項準用)。これは、(1)について、嫡出親子関係が確定する以前にも、子を嫡出子として戸籍に記載することとの整合性をとるためである。

嫡出推定が重複する場合には、妻・前夫・後夫いずれかの本国法(法例17)に一本化するのではなく、直接国際私法上の条理によって解決するべきであろう。そして、具体的には、民法773条と同様に、裁判所の判断に委ね、より蓋然性の大きい方を真の父親とすることが考えられる(溜池491頁以下)。前夫と後夫とで蓋然性が同程度である場合には、現在の法律関係をより忠実に反映しているであろう後婚を優先させ、後夫の子と認定すべきであろう。

 

 * わが国における渉外的な嫡出否認の訴え・親子関係存否確認の訴えについては、次の点が問題となる。

 第一に、両訴訟類型の区別である。そもそも日本民法774条以下では、形成訴訟たる嫡出否認の訴えは夫からのみ提起しうるとしているが、いわゆる「推定されない嫡出子」について子の嫡出性を争う場合のために――夫以外の者からも提起できる――親子関係存否確認という訴訟類型を用意している(日本法上の問題点については、水野紀子「嫡出推定・否認制度の将来」ジュリ1059(1995)115頁参照)。しかし、渉外事件において、例えば夫以外の者も嫡出否認権者とする外国法が準拠法となる場合には、夫以外の者から――日本法であれば親子関係不存在確認訴訟によるべき場合であっても――嫡出否認の訴えを提起できる。このように、嫡出否認の訴え及び親子関係存否確認の訴えの妥当範囲は、準拠法ごとに異なるため、日本法を前提としてこの訴訟類型を決めてはならない(海老沢美広「渉外親子関係事件をめぐる一考察――消極的確認判例を中心として――」国際法外交681(1969)39頁以下及び69頁以下参照)。もっとも、これまでの裁判実務においては、日本法を前提として、夫以外の者が子の嫡出性を争う事件がすべて、親子関係不存在確認訴訟によっているのが現状である。

 第二に、これまでの実務では、親子関係存否確認の訴えが戸籍を訂正する前提として提起されたケースが圧倒的に多い。これは、わが国法が、身分公証制度である戸籍は真実の親子関係を反映していなければならないと考え、厳格な血縁主義をとっていることによるのであろう(例外的に、神戸地判昭和63426判時1301130頁では戸籍訂正が問題となっていないが、本件は、中国残留孤児が既に死亡していた日本人の父母を相手として、積極的な親子関係存在確認を求めたケースであったためである)

 以下、具体的に、(a)嫡出否認の訴え・親子関係存否確認の国際的裁判管轄権、(b)嫡出否認の準拠法、(c)親子関係存否確認の準拠法の決定について検討する。

 

(a) 嫡出否認の訴え・親子関係存否確認の国際的裁判管轄権について、これまでの裁判例はおおむね次のように分かれている。

 (i) 離婚事件に関する最判昭和39325民集183486頁及び最判昭和3949家月16878頁の二つの最高裁判決が示した法理にしたがって、原則として被告の住所地に、例外的に原告の住所地に管轄を認めるもの(大阪地判昭和39109下民15102419頁、東京地判昭和41113家月19143頁、那覇家審昭和50117家月282115頁。なお、東京地判昭和28()219[年月日不詳]判タ4248]は、原告の住所で足りるとしている)

 (ii) 被告の住所地を原則としながら、子の保護の見地から、それと並列ないし補充的に子の住所地の管轄をも認めるもの(名古屋地判昭和501224判タ338301頁、浦和地判昭和57514家月362112頁。鳥居淳子・ジュリ30991頁、桑田三郎・ジュリ628243頁も同旨)

 (iii) 子の保護のため、子の住所地国に加えて、子の本国の管轄を認めるもの(海老沢・前掲論文48頁及び同「親子関係存否確認の訴え」『国際私法の争点[新版](1996)180頁参照。なお、秋田地判昭和381031判タ155221頁は当事者の一人の住所あるいは国籍が日本にあればよいとしている)

 嫡出否認の訴え及び親子関係存否確認の訴えにおいては、嫡出性を認められるか否かは子にとって重大な関心事であり、子の保護をはかる必要がある。それゆえ、第一義的には、子の住所地国に管轄を認めるべきであると解される。人事訴訟法27条が、国内親子関係事件の管轄を子の普通裁判籍のある地の専属管轄としていることも根拠の一つとなろう。さらに、これらの訴訟類型が戸籍訂正の手段として用いられることに鑑みれば、子が日本人であって戸籍に記載されている場合には、日本に住所がなくても日本の国際的裁判管轄を認める根拠が十分にあるといえよう(海老沢・前掲論文48頁以下参照)。もっとも、子が父又は母(もしくは双方)を相手として嫡出否認あるいは親子関係不存在確認の訴えを提起する際に、被告たる父又は母の住所地の管轄を否定すべき理由もなかろう。結局、(iii)の考え方を原則としながら、父又は母が被告となる場合には被告の住所地の管轄も認めるのが妥当であると考えられる。

 

(b) 嫡出否認の許容性・要件・方法(手続)を定める準拠法は、法例17条によって決定される。父母一方の本国法だけが子を嫡出子として認めている場合には、その法に従って嫡出否認を行う。父母双方の本国法が子を嫡出子としている場合には、改正後法例171項が選択的連結によって、できる限り子の嫡出性に有利となる法を準拠法としている趣旨からすると、子の嫡出性を否認するためには双方の本国法上の嫡出否認の要件を満たす必要があると考えられる(名古屋家審平成7127家月471183頁。ただし、形式的には親子関係不存在確認事件]、名古屋家審平成7519家月482153頁、水戸家審平成10112家月507100頁。『改正法例の解説』108110頁以下も同旨)。嫡出否認の訴えによって子の嫡出性が否定された場合には、戸籍法116条による戸籍訂正が行われる。

 

(c) 親子関係存否確認の準拠法決定については、次の5つの場合を分けて検討する必要がある。

 

 (1) 夫婦ABの婚姻中に、妻Bが夫以外の男性Cと関係し、Cとの間にもうけた子Dと夫Aとの間の親子関係(父子関係)不存在が主張されたケース。

 裁判例は法例の平成元年改正前も改正後も、ほぼ一貫して法例17条を適用している(改正前法例について、横浜地(横須賀支)判昭和31817下民782231頁、大阪地判昭和40330下民163549頁。子がABの婚姻解消後まもなく出生していたケース。法例17条の類推適用によって、母の当時の夫の本国法ではなく、内縁の夫(子の実父)の本国法を適用]、東京家審昭和40419家月182111]、東京地判昭和41113 家月19143頁、東京家審昭和41329家月181195頁、神戸家審昭和43214家月209115[法例17条の類推適用]、東京家審昭和4357家月201096頁、横浜家審昭和48102家月26652頁、名古屋地判昭和501224判タ338301頁、長崎家審昭和53222家月31776頁、浦和地判昭和57514家月362112頁、大阪家審昭和59625家月37566頁。なお、津家審昭和32813家月9845頁は準拠法について判示せず。改正後法例について、名古屋家審平成7127家月471183頁も同じ立場をとる。ただし、大阪家審昭和53317家月31780頁だけは、法例17条と18条双方を適用)

 (2) Aが、妻B以外の女C´と関係して生んだ子Dが、AB夫婦の子として届け出られている場合において、BDの親子関係(母子関係)不存在が主張されたケース。

 裁判例は、改正前法例について、法例17条を類推適用したケース(大阪地判昭和39109下民15102419)法例18条を類推適用したケース(大阪家審昭和401110家月18590頁、山口家審昭和44314家月218128)、さらには法例17条及び18条双方を類推適用し、当事者の本国法を配分的に適用したケース(東京家審昭和4149家月181266頁、東京家審昭和43822家月212190)等、区々に分かれている(なお、京都家審昭和34129家月124102頁及び前橋家審昭和36123[昭和34(家イ)187188]は、準拠法について判示していない)

 (3) 他人の子D(EF夫婦の子、あるいは妻Fの非嫡出子)が、AB夫婦の嫡出子として届け出られている場合につき、ABDの間の親子関係(父子関係及び母子関係)不存在が主張されたケース。

 裁判例は、改正前法例について、原則として法例17条によるとするもの(千葉地判昭和491225判時78196頁。ただし、本件では原告の母が不明であるため法例17条によることができず、表見上の父の本国法たる韓国法もしくは申立人である子の本国法たる日本法いずれかによるとする。具体的には、韓国法によれば親子関係不存在確認の訴えが認められない可能性があったため、結論的に条理によって子の本国法たる日本法によった<公序則の援用はせず>])法例18条を類推適用(又は準用)し、当事者双方の本国法を(配分的に)適用するもの(東京家裁昭和38(家イ)38713872[判決年月日不詳]、大阪家審昭和4638 家月239116頁。父母と子との間にそれぞれ親子関係がないことを明らかにするが理由])法例17条及び18条を類推適用(又は準用)し、当事者双方の本国法を(配分的に)適用するもの(東京家審昭和381022判タ155222頁、大阪家審昭和39912 家月17265頁、札幌家裁滝川支審昭和471220家月25883頁、那覇家審昭和50117家月282115頁。父母と子との間にそれぞれ親子関係がないことを明らかにするのが親子関係不存在確認の目的であることを理由とする]、大阪地判昭和60927判時117994)に分かれる(なお、東京地判昭和28()219号判決[判決年月日不詳、判タ4248]は法例の適用問題が生じないとしており、東京家審昭和3669家月1311113頁は準拠法について判示していない)

 (4) Bが婚姻前に生んだ子(連れ子)Dが、ABの婚姻後、AB夫婦の嫡出子として届け出られている場合つき、夫Aと子Dの親子関係(父子関係)不存在が主張されたケース。

 裁判例には、改正前法例18条を準用したものがある(熊本地判昭和45130判時63188頁。親子関係不存在確認が、嫡出親子関係の不存在のみならず、広く法律上の父子関係もしくは母子関係の不存在の確認を目的としていることを理由とする。なお、大阪家審昭和34513家月11781頁は準拠法について判示していない)

 (5) G女の生んだ非嫡出子Dが、H女の非嫡出子として届出られている場合につき、HDの親子関係(母子関係)不存在もしくはGDとの親子関係(母子関係)存在が主張されたケース。

 裁判例としては、改正前法例17条を類推適用して、子の出生当時の母(実母)の本国法を適用したものがある(実母との積極的な親子関係存在確認を求めたケースとして、東京家審昭和43511家月2012109頁、大阪家審昭和48210家月259134頁。なお、秋田地判昭和381031判タ155221(表見母との親子関係不存在確認を求めたケース)は、法例の適用問題が生じないとしている())

 

 (*1)については、実質的にみて子の嫡出性を否定するか否かをめぐる争いであるため、準拠法の決定につき嫡出親子関係に関する改正前・改正後のいずれも法例17条によるのが妥当であると考えられ、また、(5)については、非嫡出親子関係の成否の問題であるため、現行法例18条によることにも異論はないものと思われる。

 他方、(2)から(4)については、戸籍上は夫婦ABの嫡出子とされている子DAB双方の、あるいはABいずれか一方との間の親子関係が争われるケースであることから、準拠法の決定は同じルールによることができると考えられる。そこで、(2)から(4)について、改正前法例に関する裁判例及び学説を整理すると、次のようになる。

 (i) 表見的にではあっても嫡出子とされている子の親子関係の存否をめぐる争いであるとして、改正前法例17条を類推適用する立場(大阪地判昭和39109下民15102419頁、千葉地判昭和491225判時78196)

 (ii) 親子関係存否確認は、単に嫡出親子関係の存否のみならず、広く法律上の父子関係もしくは母子関係の存否を確定することを目的としていることを理由に、基本的には婚外親子関係の問題であるとして改正前法例181項を類推適用(準用)し、各当事者(親子双方)の本国法を(配分的に)適用する立場(東京家裁昭和38(家イ)38713872号、大阪地判昭和40330下民163549頁、大阪家審昭和401110家月18590頁、山口家審昭和44314家月218128頁、熊本地判昭和45130判時63188頁、大阪家審昭和4638家月239116)。この立場によれば、たとえ表見的ではあっても、嫡出親子関係が一応成立している場合にまで法例18条を類推適用することになってしまい、実態にそぐわない。また、親子関係の成否が相対的になってしまう(例えば、表見的父の本国法上は親子関係が否定されるが、表見的母の本国法上は彼らの嫡出子となる場合など)恐れがある(海老沢・前掲論文61頁以下参照)

 (iii) 親子関係存否確認に関する準拠法決定の準則は法例には存在しないが、改正前法例17条・181(裁判例によってはさらに法例22)を類推適用もしくは準用し、親子関係が争われている各当事者の本国法を(配分的に)適用する立場(東京家審昭和381022判タ155222頁、大阪家審昭和39912家月17265頁、東京家審昭和4149家月181266頁、東京家審昭和43822家月212190頁、札幌家裁滝川支審昭和471220日家月25883頁、那覇家審昭和50117家月282115頁、神戸地判昭和60510判タ566188頁、大阪地判昭和60927判時117994)。実親子関係の発生・確定に関する改正前法例17条及び181項の立法態度に根拠を求める考え方である。もっとも、この立場によれば、現に親子関係が争われていない者(例えば*2の場合の父)の本国法は無視されることになり、問題である(海老沢・前掲論文60頁以下参照)

 (iv) 改正前法例17条と181項両方を適用する立場。すなわち、まず嫡出親子関係の成否について改正前法例17条を適用し、嫡出性が否定されれば、次に非嫡出親子関係の成否について、()法例に規定はないが、18条を準用して、親子双方の本国法によって判断する(東京家審昭和381022判タ155222)、あるいは()法例に規定はないが、子の出生当時の父又は母の本国法によって判断する(東京家審昭和43822家月212190)としていた。()()では、具体的には、子の本国法が適用されるか否かの違いがあった。溜池説は()の立場であるが、非嫡出親子関係の成否につき改正前法例18条ではなく22条によっていた点で異なる(溜池良夫『渉外判例百選[第一版](1967)115頁参照)。海老沢説も、基本的には同じ立場である(ただし、改正前法例22条の適用については留保を付していた。海老沢・前掲論文65頁以下)()の立場の根拠として、この問題の訴訟物の範囲としては、当事者の主張する親子関係の存否(嫡出親子関係あるいは非嫡出親子関係の一方だけ)を確認するだけでは足りず、いかなる意味においても実親子関係がないことを確認しなければならないことが挙げられていた(海老沢・前掲論文61頁以下参照)

 (v) 越川説は、改正前法例について、(条理として)母子関係の成否については母の本国法、父子関係の成否については父の本国法によるとしていた。その根拠としては、法例17条は母子関係が争われる場合には適用がなく、実質的にもこの場合に夫の本国法を適用する理由がないこと、また同18条は認知のみに関する規定で、血縁主義親子には適用されないことが挙げられていた(越川・ジュリ331126頁、同374144頁。しかし、この立場についても、(ii)と同じ批判が成り立つ(海老沢・前掲論文61頁以下参照)       

 

   以上のような立場の相違は、改正前法例においては、表見的嫡出子に関する母子関係の成否、あるいは認知以外による非嫡出親子関係の成立についての準拠法決定の方法が必ずしも明らかでなかったこととも関係する(海老沢・争点179)。それに対して、改正後の法例については、学説上、親子関係存否確認の準拠法決定の方法について、()嫡出親子関係の成否は法例17条によって、非嫡出親子関係の成否は法例18条の定める準拠法によって、それぞれ段階的又は同時的に検討するという見解(溜池5014頁以下及び海老沢・争点179)()法例に直接の規定がない特別の場合として、――法例17条・18条・23条の規定を斟酌して――当事者双方の本国法を累積的あるいは選択的に適用する見解(山田499)等がある。この点については、親子関係の存否確認が問題となる場合には、当事者間にいかなる形であるかにかかわらず、親子関係があること又はないことを確定しなければならないため、まずは嫡出親子関係の存否を法例17条で決定される準拠法によって確認し、嫡出親子関係が不成立の場合には、次に非嫡出親子関係の存否を法例18条で決定される準拠法によって確認するのが妥当であろう。最判平成12127民集5411は、相続の先決問題として、韓国法上の嫡母庶子関係の成否が問題となった事件である。同判決は、先決問題の処理として法廷地国際私法説の立場に立ったうえで、まず第一に法例17条を適用し、それによって嫡出親子関係の成立が認められない場合には、さらに18条を適用し、非嫡出親子関係の成立が認められるか否かを判断するとした。本判決が、法廷地国際私法説を前提としている以上は、この解釈は本問題についても妥当するといえ、最高裁として()の立場に立ったものと評価できるであろう。

 

2.03 非嫡出子

2.03.01[非嫡出親子関係成立の準拠法]

現行実務

(1) 父母いずれの本国法によっても子が嫡出子とされない場合において、以下のいずれかのときには、その子を非嫡出子として出生の届出をしなければならない。

 (a) 子の出生当時の父又は母の本国法が事実主義をとり、この本国法により非嫡出父子関係又は非嫡出母子関係が成立するとき。

 (b) 出生当時もしくは認知当時の認知する者の本国法又は認知当時の子の本国法により、父又は母が胎児認知をしているとき。ただし、認知する者の本国法によるときには、子の本国法上の保護要件を備えなければならない。

(2) 父が出生当時又は認知当時に死亡していた場合には、死亡当時の本国法を前項における出生当時又は認知当時の本国法とみなす。

(3) 胎児認知の場合には、母の本国法を子の本国法とみなす。

 (1)(a)について、法例181項前段、

 (1)(b)について、法例181項・2項、

 (2)について、法例183項、

 (3)について、平成元・102民二3900通達第41(3)

 

嫡出子でない場合

 法例17条により嫡出親子関係が成立する場合には、法例18条の適用はない(最判平12127民集5411)。すなわち、父母いずれの本国法によっても子が嫡出子とされない場合にはじめて、非嫡出子の出生の届出が問題となるのである。

 したがって、非嫡出子の出生届の受理にあたっては、父母の一方が日本人であるときには、日本法により子が嫡出子とならない場合にはじめて、父又は母の外国法を調査することになる。このようにして外国法を調査すべきときであっても、婚姻の解消又は取消しの日から301日以後に出生した子を嫡出子とする法制の国はごく限られているので、実際上は、母の婚姻成立の日から200日以内に出生した子の場合における外国法の調査が中心となる(平成元・102民二3900通達第32(1))。なお、父母の双方が外国人であるときには、日本人が関与していないので戸籍への記載が問題とならず、婚姻届の場合におけるような創設的効果も問題とならないのであるから、明らかに疑義がある場合を除き、出生届書に記載されたとおりに嫡出子又は非嫡出子として出生届を受理して差し支えないであろう(『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』183頁、奥田・外国人登録54915頁、同55014)

 

事実主義と認知主義

 非嫡出親子関係の成立については、諸国の実質法上2つの立場がある(山田・483頁、溜池・494)。第1に、出生の事実により当然に親子関係の成立を認めるものである。これは、事実主義又は血統主義と呼ばれ、ゲルマン主義とも呼ばれる。第2に、親の認知によってはじめて非嫡出親子関係が成立するとするものである。これは、認知主義と呼ばれ、ローマ主義とも呼ばれる。わが国は、後者の立場を採用している(民法779)。もっとも、母とその非嫡出子との間の親子関係は、分娩の事実により当然発生すると解されている(最判昭和37427民集1671247)。したがって、非嫡出母子関係については、事実主義によっているといってよい。

 

法例18

 非嫡出親子関係の成立は、法例18条による。同条は、一見したところわかりにくい(奥田・外国人登録52223)。詳細は、認知のところで説明するが(3.01.01参照)、法例18条の骨子は、父子関係と母子関係を区別したうえで、親の本国法(父子関係にあっては父の本国法、母子関係にあっては母の本国法)によるのが本則であり、認知については補則的(選択的)に子の本国法によってもよいというものである。したがって、親の本国法が事実主義を採用している場合には、出生の事実により当然に非嫡出親子関係が成立するが、その他の場合には、親の本国法又は子の本国法による親の認知によってはじめて非嫡出親子関係が成立することになる。

 戸籍の記載との関係で重要なのは、日本人母の非嫡出子、及び、日本人父が胎児認知した外国人母との間の非嫡出子の出生届である。この子については、出生と同時に日本国籍を取得するから、外国において出生した場合でも出生届によって戸籍に記載しなければならない。日本国籍を取得しない非嫡出子についても、子が日本で出生した場合には、出生の届出をしなければならない(2.01.01参照)。後者の非嫡出子の出生届については、戸籍の記載をしないのであるが、その届書は、「戸籍の記載を要しない事項について受理した書類」として保存され(戸籍法施行規則50)、子の身分関係の公証資料として利用される(戸籍法482)

 

セーフガード条項についての法例32の適用

 181項後段・2項後段セーフガード条項(保護条項)については反致に関する法例32条の適用はないという考えが有力である。その根拠は条文の規定の仕方に加え、養子のために保護要件を設けた趣旨が没却される場合もあること、政策的にも養子の本国法が特に重要であること(反致して養子の本国以外の国の法律を適用することは適切ではないこと)などが指摘されている(『改正法例の解説』208頁、『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』276頁以下、『新版・実務戸籍法』340頁、あき場「法例の新規定における反致政策についての小論」川井健ほか編『講座現代家族法1巻』105(1991)、木棚ほか55)。もっとも、学説上は、山田486頁、櫻田嘉章・国際私法(4)112頁、出口耕自・基本論点国際私法204頁などでは解釈論としては反致を認めることになるとされている。

 なお、反致一般については1.06.05、法例20条のセーフガード条項と反致の関係については4.01.01の解説をそれぞれ参照。

 

2.03.02[届出義務者]

現行実務

外国で出生した日本人非嫡出子の出生届について、戸籍法522項及び3項に定める者が外国にいる外国人である場合にも、届出義務を負う。

 

 非嫡出子の出生に関する届出義務者・資格者の範囲は、戸籍法52条に定めるとおりである。日本人が外国で出生した場合には、戸籍法の定めるところに従って出生届がなされなければならず、そのため、外国にいる外国人もこの届出義務を負う(『新版・実務戸籍法』271)

 

改正提案

現行実務を(1)として、次の(2)を付け加える。

(2) 日本人が胎児認知したため日本国籍を取得した非嫡出子の出生届については、戸籍法522項及び3項に定める者のほかに、認知した者も届出義務を負う。

 

 戸籍法522項の定める届出義務者は、非嫡出子の母である。しかし、以下のような理由から、胎児認知した日本人父には、出生の届出義務を課すべきである。

 すなわち、戸籍の記載との関係で重要なのは、日本人子についてである。そして、外国人母から出生した非嫡出子が出生当時に日本人であるのは、この子が日本人父により胎児認知されていた場合である。この場合、法例21条によれば、親権の準拠法は、子の本国法が父の本国法と同一であるので日本法となる。日本法において、非嫡出母子関係は、分娩の事実によって発生し、母は、当該非嫡出子の出生と同時に単独で親権者になると解されているのに対し、父との親権関係は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り発生する(民法8194)。したがって、多くの場合、胎児認知をした日本人父は、戸籍法524項にいう「法定代理人」とならない。そうすると、このような父は、戸籍法523項の定める「同居者」又は「出産に立ち会った・・・その他の者」である場合を除き、出生届をする資格さえないことになる。

 そこで、胎児認知した日本人父に出生の届出義務を課すべきであるとするのが改正提案である。これは、日本人の出生は戸籍に記載されなければならないところ、外国人母が外国にいるような場合、上記現行実務の解説にあるように、その母には届出義務があるが、その届出を確保することが事実上困難であるので、胎児認知までした日本人父には出生の届出義務を課すのが適当と考えられるからである。

 

2.03.03[非嫡出子の出生届の記載事項]

現行実務

 事実主義による父子関係に基づき出生子の戸籍に父の氏名が記載されるようにするためには、2.01.04の記載事項に加え、出生届の父欄に氏名を記載し、また、「その他」欄に父の本国法が事実主義を採用している旨を記載しなければならない。

平成元・102民二3900通達第32(2)ア。

 

 法例181項によれば、日本人子について、出生当時の父の本国法が事実主義をとる場合には、この事実主義による父子関係が成立する。この父子関係は、戸籍上も出生届に反映される必要がある。この場合、認知の届出がなく父の名が記載されるのは、わが国の制度からは例外的なものとみなされるので、出生届に父の氏名を記載することが正当であることを戸籍上も明確にすべきだと考えられた。そのため、「その他」欄に「父の本国法が事実主義を採用している」旨の記載が必要とされたのである(『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』193194)

 事実主義の本質は、父子関係の成立について父の意思表示を要しないという点にある。しかし、父の意思表示なくして父子関係を認める法制には種々のものがあり、例えば、特定の事項(例えば、扶養請求)について認知を要しないというものもある。ここでいう事実主義とは、「生理上の父子関係がある場合には、認知を要件とすることなく、法律上の父子関係を認める法制」をさし、認知なくして法律上の父子関係を一般的に認めるものである(『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』190)

 このような事実主義の例としては、フィリピン家族法があげられる。同法においては、嫡出親子関係の証明方法に関する規定(172)が、非嫡出子にも適用される(175)。認知は、親子関係を証明するのに適切な証拠ではあるが、必ずしも要求されるわけではない(奥田安弘『フィリピン家族法』[明石書店、2002]20頁、253)

 ニュージーランド法などは、認知制度を有せず、父母が婚姻した非嫡出子が出生の時から嫡出子とみなされるとする。このような場合、父母が婚姻するまでの間に父子関係が成立していることを前提に準正が認められているのであるから、事実主義がとられていると解される。

 非嫡出親子関係成立の準拠法が事実主義をとる場合においては、認知届がなされても受理されない。例えば、日本人女と婚姻したニュージーランド人男から認知届があっても、同国法においては、非嫡出子は父母の婚姻により出生の時から嫡出子の身分を取得するとされているので、認知届は受理せず、先に受理した父母の婚姻届に対し、「事件本人は、父母の婚姻により嫡出子の身分を取得した」旨の追完届をさせて、戸籍の処理をするとされる(昭和52106民二5118回答)。逆に、非嫡出親子関係成立の準拠法が認知主義をとる場合には、父の氏名を記載する旨の追完届がなされても受理されない(平成15822民一2347回答)

 

2.03.04[添付書類]

現行実務

 事実主義による父子関係を認めて出生子の戸籍に父の氏名を記載するためには、父の国籍証明書、父の本国法上事実主義が採用されている旨の証明書、その者が父であることを認めていることの証明書(父の申述書、父の署名ある出生証明書等)が提出されなければならない。

 平成元・102民二3900通達第32(2)ア。

 

 事実主義による父子関係を認めるには、父の本国法が事実主義を採用していることと、血縁上の父子関係があることが確認されなければならない。この確認は、戸籍上、上記の添付書類によりなされる。

 国籍証明書は、父の本国法がどの国の法律であるかを明らかにする。

 父の本国法上事実主義が採用されている旨の証明書は、認知なくして父子関係の成立が認められることを確認するためのものであり、必ずしも本国官憲の発給したものでなくてもよい。出典を明示したうえ、その写しを関係者がこれを訳出し、当該国の法律の写しである旨を証明したものでも足りる。なお、これは外国法についての証明書の添付を義務付けるものではなく、そのような証明書が提出されない場合には、管轄局の長に受理照会をする等の措置をとることについては、1.03.01参照。

 血縁上の父子関係を確認する方法として、戸籍上は、父及び母の承認が求められる。父母双方による承認は、高い証明力があると考えられたのである。出生届の届出義務者である母については、届書の父欄に父の氏名を記載し届出人()の署名捺印があれば、母の承認があったものとされる。そこで、父の承認を証明する書類の添付のみが求められている。

 父の承認を証明する書類としては、まず、「当該出生子○○(子の氏名)の父は、私こと□□(父の氏名)である」旨を記載した父作成の申述書があげられる。その他には、父の署名のある出生証明書、自身の届出もしくは申出による父の氏名記載であることが書面上明らかな出生登録証明書などがあれば、申述書に代えることができる。なお、父の本国官憲の発する父子関係証明書は、血縁上の父子関係を証明する書類ということができるので、これがあれば申述書は不要である。

 以上の添付書類に疑義のある場合には、管轄法務局の長に受理照会をすることになる(『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』194196)

 なお、胎児認知については、3.01.04参照。

 

2.03.05[戸籍への記載]

(1) 日本人母の非嫡出子は、母の戸籍に入籍し、母の氏を称する。

(2) 日本人父が胎児認知した外国人母との間の非嫡出子については、氏と本籍を設定して新戸籍を編製する。

(3) 外国人非嫡出子について日本人男より嫡出子出生届があったときには、認知の届出があったものとして、この男の戸籍にその旨を記載する。

(4) 日本人母からの出生届に基づき母の戸籍に入籍している子について、母から前条に掲げる証明書を添付して父の氏名を記載する旨の出生届の追完届があったときには、その父の氏名を記載する。

 (1)について、民法7902項、戸籍法182項、

 (2)について、戸籍法22条、昭29.3.18民事甲611回答、

 (3)について、昭和28.6.12民事甲958回答、

 (4)について、平成元・102民二3900通達第32(2)イ。

 

 母が日本人である非嫡出子、並びに、母が外国人で日本人父が胎児認知した非嫡出子は、出生と同時に日本国籍を取得するので、出生届によって戸籍に登載されなければならない。

 前者は、日本人母の氏を称し、その戸籍に入籍すべきことになる(民法7902項、戸籍法182)。後者は、当然には父の氏を称して父の戸籍に入籍できないので、子について氏と本籍を設定して新戸籍を編製する(昭和29318民甲611回答)。後者の称すべき氏及び新戸籍編製の場所は、届出人()が自由に定めることができる(昭和2833民甲284回答)。なお、後者については、父にも出生の届出義務を課せば(2.03.02の改正提案参照)、上記の届出人には父も含まれることになる。

 日本国籍を取得しない非嫡出子(外国人非嫡出子)についても、子が日本で出生した場合には、出生の届出をしなければならない(2.01.01参照)。しかし、その子は、戸籍に記載することはできないから、届書は、「戸籍の記載を要しない事項について受理した書類」として保存されることになる(戸籍法施行規則50)。このように、日本国籍を取得しない子の出生届については、戸籍の記載をしないのであるが、次のような場合には注意が必要である。例えば、外国人女と日本人男との間の婚姻前の出生子(非嫡出子)について、その日本人男から戸籍法62条の嫡出子出生届があった場合である。すなわち、この子が、日本国籍を取得しないとしても、この出生届が、認知の準拠法(3.01.01参照)により認知の届出の効力を有するときには、これを認知届とみなし父の戸籍にその旨を記載する必要があるのである(28.6.12民事甲958回答)。なお、この子が、準正により日本国籍取得する場合について、3.02.03参照。

 前2(2.02.032.02.04)において述べたように、外国人父の本国法が事実主義を採用しているときには、日本人母からの非嫡出子出生届にこの旨の記載があり、必要書類が添付されたときには、非嫡出子といえども出生子の戸籍に父の氏名が直ちに記載されることになる。しかし、わが国が事実主義をとっていないことから届出人である日本人母がこのことを知らなかったり、当初は必要書類が揃わなかったなどの理由によって、通常の非嫡出子出生届がなされ、父の氏名が記載されていない場合がありうる。このような場合は、すでに戸籍に記載があり、「戸籍の記載をすることができないとき」(戸籍法45)ではないが、当該届出事項の一部分が届出書の不備によって戸籍記載できなかった場合としてこの部分に限り追完が認められる(大正419回答1009号、『全訂戸籍法』251頁、『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』197)。したがって、前条に掲げる証明書を添付して、非嫡出子出生届に父の氏名を記載する旨の追完の届出が母からあったときには、その父の氏名を戸籍に記載する(平成元・102民二3900通達第32(2))

 なお、本条(1)(2)項によれば、等しく日本国籍を有する非嫡出子であっても、日本人を母とする子は、母の戸籍に入籍するのに対し、日本人を父とする子は、父の戸籍には入籍しないことになる。このような取り扱いは、戸籍法6条の定める編成基準に従うものとはいえ、両性平等の観点から問題があるようにも思われる。本来は個人登録の制度であるべき戸籍において、戸籍法6条のような編成基準がとられたのは戸籍上の便宜にすぎないといわれることもあり(『全訂戸籍法』44)、上記のような取り扱いの変更(例えば、上記いずれの子についても新戸籍を編成する)は検討の余地があるであろう。ただ、国内戸籍の取り扱いとの関係もあるため、このような変更を改正提案とするまでにはいたらなかった。

 

3.認知・準正

3.01 認知

3.01.01[認知の準拠法]

現行実務

(1) 認知の届出は、次の(a)(b)のいずれかの場合にこれをすることができる。

 (a) 出生当時又は認知当時の認知する者の本国法上の認知の要件、及び、認知当時の子の本国法上の保護要件が備わっている場合

 (b) 認知当時の子の本国法上の認知の要件が備わっている場合

(2) 父が、子の出生前に死亡したときには、死亡当時の本国法を出生当時の本国法とみなし、子の出生後認知前に死亡したときには、死亡当時の本国法を認知当時の本国法とみなす。子が、認知前に死亡したときには、死亡当時の本国法を認知当時の本国法とみなす。

(3) 胎児認知については、母の本国法を子の本国法とみなす。

 (1)について、法例181項・2項、

 (2)について、法例183項、

 (3)について、平成元・102民二3900通達第41(3)

 

(1)について

 非嫡出親子関係の成立については、前述のように(2.03.01参照)、認知主義によるものと事実主義によるものとがある。本条は、認知の届出(創設的届出)の場合における法例18条の適用を具体化している。しかし、法例18条は、事実主義も含めて規定するものであるため、以下では、事実主義も含めて条文に即して説明する。そのほうが、一見するとわかりにくい同条の理解に資するであろう。

 法例18条は、父子関係と母子関係を区別したうえで、親の本国法(父子関係にあっては父の本国法、母子関係にあっては母の本国法)によるのが本則であり、認知については補則的(選択的)に子の本国法によってもよいとするものである。すなわち、事実主義による非嫡出親子関係の成立については、子の出生当時の親の本国法により(181項前段)、認知による非嫡出親子関係の成立については、子の出生当時もしくは認知当時の親の本国法又は認知当時の子の本国法によることになる(182項前段)。ただし、親の本国法による認知の場合には、認知当時の子の本国法が定める子の保護要件を備えないと認知は成立しないというセーフガード条項が置かれている(181項後段・2項後段)

 以上のように、認知の準拠法については、選択的連結が採用されているため、当事者の一方が日本人であるときには、比較法的にみて要件が緩やかであり、戸籍実務においてその内容が最もよく知られている日本法により、認知の要件を審査するのが適当とされる。例えば、日本人子が認知される場合、認知当時の子の本国法である日本法上の要件が備わっていれば、認知届出を受理して差し支えない。すなわち、この場合には、日本法上の認知の要件が備わっていないときにはじめて、認知する者の本国法を調査することになる。なお、日本法上の認知の要件が備わっていないときに認知を認めることには、法例33条の定める公序が問題となるので、管轄法務局の長の指示を求めることとされている(平成元・102民二3900通達第41(1)後段)

 前述のように(2.03.01参照)、法例18条によれば、子の本国法が認知主義をとる場合においても、その出生当時の父の本国法が事実主義をとるときには、認知なくして非嫡出父子関係が成立する。すなわち、認知の必要はない。しかし、事実主義というのは、非嫡出親子関係の成立について認知を不要とするにすぎず、認知を積極的に否定しているものとは考えられない。それどころか、事実主義の国においても、親子関係の確定には証拠が必要となるが、父であることの表明は、その有力なものとなる。さらに、子の本国で父子関係が問題となり、その国では認知が前提として要求されるような場合に備えて、子がその本国法に従い認知を求めることも考えられる。したがって、父の本国法が事実主義を採用することは、子の本国法による認知を妨げるものではないと解すべきである(溜池・499頁、『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』232)。現行実務も、同様の立場をとる(平成元・102民二3900通達第41(1)前段本文)

 ただし、日本又は外国の裁判所により父子関係存在確認の裁判が確定した場合には、認知の届出は受理されない(平成元・102民二3900通達第41(1)前段但書)。この場合には、裁判によって確定された父子関係であることから、これがあればわが国のみならず、外国においても父子関係の存在に疑義が生じず、もはや認知を不要としても差し支えないと考えられるからである(『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』235)

 

(2)について

 親が死亡したときには、(1)の解説における「子の出生当時」「認知当時」の親の本国法を死亡当時の親の本国法と読み替え、子が死亡したときには、(1)の解説における「認知当時」の子の本国法を死亡当時の子の本国法と読み替えることになる(183)

 もっとも、子の出生当時の親の本国法を死亡当時の親の本国法と読み替える必要があるのは、「父ガ子ノ出生前ニ死亡シタルトキ」とされている。これは、法例172項の場合と同じく、母の死亡後に子が出生することはありえないと考えられたからである。しかし、脳死の母よりの子の出生はありうるので、脳死を死と認めることになれば、母について法例183項を準用することになろう(溜池・490)

 

(3)について

 認知には、胎児認知と生後認知とがある。3.01では、両者を含めて、認知の届出を取り上げている。なお、胎児認知のある子の出生の届出については2.03、婚姻と認知による準正の届出については3.02参照。

 胎児認知は、生まれてくる非嫡出子に生来的に法律上の父を与えるために、子の出生前の認知を認めるものである。したがって、外国人女の非嫡出子について日本人男が胎児認知すると、その子は、生来的に日本国籍を取得する(国籍法21)

 胎児認知の届出があった場合には、子の本国法を母の本国法と読み替えたうえで受否が決定される(平成元・102民二3900通達第41(3))。したがって、胎児認知は、認知の当時の父の本国法又は認知の当時の母の本国法のいずれの法律によってもできる。ただし、前者の法律による場合には、後者の法律上の子の保護要件を備える必要がある。

 日本人女の胎児が日本人男に認知される場合、外国において認知する場合を除けば、国内戸籍の場合とほとんど変わりがないであろう。

 日本人女の胎児が外国人男に認知される場合、日本法上の要件が備わっていれば、胎児認知の届出を受理して差し支えない。すなわち、この場合には、日本法上の認知の要件が備わっていないときにはじめて、外国人男の本国法を調査することになる。ただし、日本法上の子の保護要件が備わっていないときには、胎児認知届は受理されることがなく、このような調査も必要ない(『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』249)。また、日本法上の胎児認知の要件が備わっていないときに胎児認知を認めることには、法例33条の定める公序が問題となるので、管轄法務局の長の指示を求めることになろう(平成元・102民二3900通達第41(1)後段)

 外国人女の胎児が日本人男に認知される場合、外国人女の本国法上の要件が備わっていても、上記のような公序の問題が考えられる。例えば、この本国法上は母の承諾が不要とされていても、日本法上は必要とされるので(民法783)、管轄法務局の長の指示を求めることになろう。これに対して、日本法上の要件及び外国人女の本国法上の子の保護要件を備えていれば、胎児認知の届出を受理して差し支えない。

 外国人女の胎児が外国人男に認知される場合には、外国人女の本国法上の要件を備えているとき、又は、外国人男の本国法上の要件及び外国人女の本国法上の保護要件を備えているときには、胎児認知の届出は受理される。ただし、やはり公序の問題は残る。なお、このような胎児認知の届出は、「戸籍の記載を要しない事項について受理した書類」として保存され(戸籍法施行規則50)、公証資料として利用される(戸籍法482)

 

3.01.02[認知の方式]

現行実務

(1) 認知の方式は、以下のいずれかの法律により有効なときには有効とする。

(a) 子の出生当時もしくは認知当時の認知する者の本国法

(b) 認知当時の子の本国法

(c) 行為地法

(2) 前項に掲げたる法律の一が、日本法であるときには、認知は、日本の市区町村長に対する届出によってすることができる。

(3) 外国から郵送による認知の届出がなされた場合において、(1)(a)又は(b)の法律が日本法であるときには、認知の届出を受理することができる。

(4) 日本人が日本人を認知するときは、在外公館に対してその届出をすることができる。

(5) 外国人が日本人を認知する届出が在外公館になされ、その届出が子の本籍地に送付された場合には、(3)項に準じる。

 (1)について、法例22条・18条、

 (2)について、民法780条、戸籍法60条、

 (3)について、戸籍法251項、47条、

 (4)について、戸籍法40条、

 

(1)について

 任意認知は、法律行為であるから、任意認知の成立には、その実質的成立要件の準拠法の定める要件のみならず、その方式(形式的成立要件)の準拠法の定める要件をも備えることが必要である。

 法律行為の方式とは、法律行為が有効に成立するために必要とされる外部的形式としての意思表示の表現方法をいう。例えば、ある法律行為をなすにあたって、口頭をもって足りるか書面を要するか、あるいは、届出を必要とするかなどの問題である。

 法律行為の方式は、実質的成立要件と密接な関係をもつから、同一の準拠法によるのが妥当である。しかし、方式は常に実質的成立要件の準拠法によることにすると、不便が多い。とくに、この準拠法の定める方式を認めない国においては、有効に法律行為をなしえないことになる。そこで、法律行為の成立を容易ならしめ、当事者の便宜を図るために、行為地の法律の定める方式によっていれば方式上有効とすることが、諸国の国際私法上広く認められている。これは、「場所は行為を支配する」の原則とよばれている(溜池・320頁、322頁、山田・282)

 わが法例22条も、方式は、実質的成立要件の準拠法によることが本則であるが、補則的(選択的)に行為地によってもよいとする。したがって、認知の方式は、認知の実質的成立要件の準拠法(3.01.01参照)によるのが本則であるが(本条(1)(a)(b))、補則的(選択的)に行為地法によってもよいことになる(本条(1)(c))

 

(2)について

 本条(2)項は、認知の方式の準拠法が日本法となる場合の取り扱いを述べている。当事者の双方が外国人である場合であっても日本において認知をするときには、日本法上の方式によることができ、外国において認知する場合であっても当事者の一方又は双方が日本人であるときには、日本法上の方式によることができる。日本法上、認知の方式は、戸籍法の定めるところの届出であり(民法781条、戸籍法60)、これは創設的届出である。

 日本における認知について、それが日本法上の届出によらないのは、当事者の一方又は双方が外国人であって、その外国法上の方式による場合ということになる。この外国法上の方式により有効に成立した認知は、わが国においても有効である。この場合には、戸籍の届出としては、報告的届出のみが問題となる。例えば、改正前の法例下において、日本人女とギリシャ人男との婚姻前の子につき、任意認知届受理証明書を添付して母からの認知届があった。本件において、認知の方式の準拠法は、認知の効力の準拠法又は行為地法であり(当時は法例22条がないので法例8)、前者はギリシャ法である(法例旧182)。したがって、本件の認知は、ギリシャ法上の方式によることができる。戸籍実務も、本件について、「ギリシャの方式により有効に成立しているものと認められるので、戸籍法41条の規定により処理して差し支えない」とした(昭和53913民二4863回答)。なお、本件の子は、父系優先血統主義の改正前国籍法のもとにおいては外国人であった考えられるが、日本における外国人間の認知についても報告的届出の義務があるとされる(『体系戸籍用語辞典』345)。この報告的届出は、「戸籍の記載を要しない事項について受理した書類」として保存され(戸籍法施行規則50)、公証資料として利用される(戸籍法482)

 外国における認知について、本条(1)(a)(b)(c)のいずれかである外国法上の方式により認知が有効に成立したときには、その認知は、わが国においても有効である。このようにして外国において認知が有効に成立した場合において、当事者の一方又は双方が日本人であるときには、その報告的届出が求められる(3.01.03参照)

 

(3)について

 本条(3)項は、外国における認知についての創設的届出に関するものである。(2)で述べたように、外国において認知する場合であっても当事者の一方又は双方が日本人であるときには、日本法上の創設的届出ができる。この届出は、郵送によることが認められており(戸籍法47条が郵送による届出を前提としている)、外国からの郵送による届書は、記載に錯誤・遺漏などがある場合でも、それが重要なものでないときには、市区村長が便宜訂正・補記して受理される(昭和24928民甲2204通達)

 そうすると、本条(3)項は、当たり前のことを確認しただけとみえるかもしれない。しかし、同項の趣旨は、外国からの郵送による認知届の場合には、行為地法が日本法ではないこと、すなわち、郵送に付した外国が行為地であり、届書の到着した日本は行為地でないことを明らかにするものである。

 戸籍実務においては、従来、外国において外国人男が日本人女の非嫡出子を認知する届出は、郵送によっても差し支えないとされた(昭和24629民甲1497回答)。この届出は、日本法を行為地法としてその方式によったものと解される。なぜなら、改正前の法例下における認知の方式の準拠法は、(2)で述べたとおりであるが、その認知の方式の準拠法のうち、認知の効力の準拠法は外国法(父の本国法)であるからである。

 しかし、現行の国籍法及び法例によれば、外国において外国人男が日本人女の非嫡出子を認知する場合、行為地法を日本法と解しなくても、本条(1)(b)が日本法であるから、郵送による届出が認められる。そこで、戸籍実務において、従来の取り扱いが変更されることになり、上記の場合の行為地は届出を郵送に付した外国と解されることになった(『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』229)

 もし、法例の改正と上記のような変更が、父系優先血統主義を採用していた国籍法の改正前であったならば、外国において外国人男が日本人母の非嫡出子を認知する場合に重大な変更となった。なぜなら、この子は、父系優先血統主義のもとにおいては日本人ではないから、本条(1)(c)の行為地法が日本法でないとなれば、認知の方式の準拠法が日本法となる余地がなくなるからである。しかし、法例の改正は、父母両系主義を採用する現行国籍法への改正後であったため、外国において外国人男が日本人母の非嫡出子を認知する場合、子の本国法が日本法となるので、従来どおり、郵送による認知届が認められる。もっとも、この子が、改正国籍法附則5条による日本国籍の届出をしていなかったなどの理由により外国人であるときには、従来とは異なり、外国からの郵送による届出はできなくなったことに注意が必要である(『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』229)

 

(4)について

 在外日本人は、戸籍法40条により、在外公館に認知届をすることもできる。戸籍法40条は、外国に在る日本人の便宜のために特別な届出方法を認めたものであり、創設的届出にも報告的届出にも同様に適用される。前者については、在外公館の受理によって形成的効力が生じる(『全訂戸籍法』237238)。したがって、在外日本人は、在外公館に対して認知の創設的届出又は報告的届出をすることができ、前者が在外公館によって受理されたときには創設的効力が生じることになる。

日本人が外国人を認知する場合であっても日本の在外公館に届出をすることができるとされている(認知は単独行為であることを理由とするものと解される)。このことから、逆に、外国人が日本人を認知する場合には日本の在外公館への届出をすることができないことになろう。

なお、戸籍法40条は、外国からの郵送による届出を妨げるものではないから(昭和24928民甲2204通達)、在外公館に対する認知届により戸籍に記載された後に郵送による認知届があることも予想される(届出の重複はとくに戦後の混乱期に問題になった)。後者の届出は、戸籍法施行規則50条により処理されることになる。

 

(5)について

外国人は、「外国に在る日本人」(戸籍法40)ではないから、在外公館への届出はできない。戸籍法40条は、あくまで在外日本人のための便法なのである。

したがって、外国人は、およそ在外公館への認知の届出はできない。しかし、このような届出が誤って受理され、届出が子の本籍地に送付された場合において、認知の方式の準拠法が日本法であるときには、本条(3)項に準じて、認知の届出を受理してよい。

 外国において外国人男が日本人女の非嫡出子を認知する場合、国籍法が父母両系主義へ改正された結果、本条(1)(b)の認知当時の子の本国法が日本法であるから、本条(5)項のように取り扱われることになる。従来の戸籍実務は、行為地を日本と解して同様の取り扱いをしていた(昭和281224日民甲2495回答)。しかし、(3)でも述べたように、行為地を日本と解する点は変更されたので、この子が、改正国籍法附則5条による日本国籍の届出をしていなかったなどの理由により外国人であるときには、本条(5)項のようには取り扱われなくなったことに注意が必要である(『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』220)

 

3.01.03[届出義務者]

現行実務

(1) 外国において当該外国法上の方式により認知が成立した場合において、当事者の一方又は双方が日本人であるときには、この日本人は、その旨を届け出なければならない。

(2) 一方の当事者の本国法である外国法により認知が成立した場合において、他方の当事者が日本人であるときには、前項の規定を準用する。

(3) 認知の裁判が確定したときは、訴えを提起した者は、その旨を届け出なければならない。この者が届出をしないときには、その相手方が届け出ることができる。

 (1)について、戸籍法41

 (3)について、戸籍法63条。

 

報告的届出が必要な場合

 届出のうち、創設的届出は、任意認知の成立要件である。いうまでもなく、任意認知とは、認知が任意になされるべき場合であるから、届出義務者はいない。したがって、届出義務者は、報告的届出についてのみ問題となる。

 日本法上の創設的届出により認知が成立した場合に、さらに報告的届出を求める必要がないことは当然である。報告的届出が問題となるのは、認知の方式の準拠法(3.01.02(1)参照)が外国法となり、その外国法上の方式により認知が成立した場合である。

 

(1)について

 外国において当該外国法上の方式により認知が成立した場合において、当事者の一方又は双方が日本人であるときには、「外国に在る日本人が、その国の方式に従つて」認知したときとして、この日本人は報告的届出の義務を負う(戸籍法41)

 外国において一方の当事者の本国法である外国法により認知が成立した場合において、他方の当事者が日本人であるときには、婚姻の場合と同様(5.03.01(2)参照)、戸籍法41条の類推適用により、この日本人は報告的届出の義務を負う。

 

(2)について

日本において一方の当事者の本国法である外国法上の方式により認知が成立した場合にも、やはり戸籍法41条の類推適用により、日本人は報告的届出の義務を負う。なお、婚姻の場合には、日本人条項(法例133項但書)があるので、日本においては一方の当事者の本国法である外国法上の方式にはよれない。また、日本における外国人間において、外国人の本国法上の方式により認知が成立した場合、この外国人に報告的届出の義務があるとされるが(『体系戸籍用語辞典』345)、この報告的届出は、「戸籍の記載を要しない事項について受理した書類」として保存され(戸籍法施行規則50)、公証資料として利用される(戸籍法482)

 

(3)について

裁判認知(強制認知)の場合には、訴えを提起した者に届出義務が課されている(戸籍法631)。認知の効力は、裁判の確定によってすでに生じているから、この届出は、報告的届出である。この者が届出をしないときには、その相手方が届出をすることができる(戸籍法632)。日本法上は胎児については裁判認知ができない(大判明治32112民録17)。しかし、国によっては、胎児についても裁判認知が認められることがあるようである。

なお、戸籍法63条が定める「裁判が確定した日から10日以内に」の文言を改め、「(外国において離婚の裁判が確定した場合には)裁判が確定した日から3箇月以内に」とする改正提案については、1.02.05の改正提案を参照のこと。

 

3.01.04[添付書類]

現行実務

(1) 子の本国法により認知することができる旨の証明書(戸籍法施行規則63)の添付又はその提示があった場合には、認知の届出を受理することができる。認知をすることができる旨の証明書を得られない特別の事由のある旨の申述書が提出されたときには、管轄法務局の長に受否の指示を求めるものとする。

(2) 認知する者の本国法により認知することができる旨の証明書、並びに、子の本国法上の保護要件を満たしている旨の証明書があった場合には、その認知の届出を受理することができる。

(3) 子の本国法が事実主義を採用することが明らかな場合、又は、子の本国法が事実主義を採用する旨の証明書が提出された場合には、前項の定める子の保護要件に関する証明書を提出することを要しない。

 (1)及び(2)について、平成元・102民二3900通達第41(2)

 (3)について、平成元・1228民二5551回答。

 

(1)について

 認知については選択的連結が採用されており、認知する者(父子関係について父、母子関係について母)の本国法又は子の本国法のいずれによっても認知は成立しうる(法例181項前段・2項前段)。認知する者の本国法による場合には、子の本国法上の子の保護要件を備えることを要するが(法例181項後段・2項後段)、子の本国法による場合には、もっぱら子の本国法上の認知の要件のみが問題となる。本条(1)項は、一つの準拠法のみが関係する後者の場合の一般論を述べたものである。

(@)日本人子の認知の場合

日本人子が認知される場合、認知当時の子の本国法である日本法上の要件が備わっていれば、認知届出を受理して差し支えない。この場合には、日本法上の認知の要件が備わっていないときにはじめて、認知する者の本国法を調査することになる。前述のように(3.01.01)、父の本国法が事実主義を採用することは、子の本国法による認知を妨げるものではない。したがって、たとえ出生届又は出生届の追完届により父の氏名が戸籍に記載されていても(2.03.032.03.042.03.05(4)参照)、日本法上の認知の要件が備わっていれば、認知の届出は受理される(平成元・102民二3900通達第41(1))

(A)外国人子の認知の場合

外国人子が認知される場合において、子の本国法により「認知することができる旨の証明書」があったときには、認知の届出は受理される(平成元・102民二3900通達第41(2)前段)。この証明書は、戸籍法施行規則63条を根拠とするものである。それは、本国官憲が発給した認知することができる旨の証明書(従来の要件具備証明書も含まれる)であることが望ましいが、それに限られるものではない。例えば、外国人子の本国法の抜粋(出典の明示又は当該外国官憲等の認容があるもの)とその外国法上の認知の要件を備えていることの証明書でもよく、わが国においてこの外国法の内容が明らかな場合には、後者の証明書のみでよい。外国人子の本国法の内容が不明である場合など、認知できる旨の証明書が得られない特別の事情がある場合には、認知者からその旨の申述書を提出させ、監督法務局の長に受否の指示を求めることになる(『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』242)

 

(2)について

 認知する者の本国法により認知する場合には、子の本国法上の子の保護要件が備えられていなければ、認知は成立しない。本条(2)項は、このように複数の準拠法が関係する場合の一般論を述べたものである。

(@)日本人子の認知の場合

日本人子が認知される場合、(1)(@)で述べたように、認知する者の本国法の調査が必要となるのは、日本法上の認知の要件が備わっていない場合である。このような場合において、認知を認めることは、公序(法例33)の適用が問題となるので、認知する者の本国法により「認知することができる旨の証明書」があったとしても、監督法務局の長に受否の指示を求めることになる(平成元・102民二3900通達第41(1))。ただし、日本法上の子の保護要件が備わっていないときには、認知の成立しないことが明らかであるから(法例181項後段・2項後段)、認知の届出は受理されない。成年認知の場合において成年者の承諾が得られないとき(民法782)や、死亡した子を認知する場合において成年者である直径卑属の承諾が得られないとき(民法7832)である(『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』237238)

(A)外国人この認知の場合

外国人子が認知される場合、認知する者の本国法法上の認知の要件と外国人子の本国法上の子の保護要件とが具備されていて、認知は成立することになる。前者の要件の具備は、認知する者の本国法により「認知することができる旨の証明書」により審査され、後者の要件の具備は、「子の本国法上の保護要件を満たしている証明書」により審査される。前者の証明書は、上記(1)についての解説(A)の場合と同様のものである。

 後者の証明書は、子の本国法上の保護要件を規定した法文とこの要件を満たしている旨の証明書(例えば、母又は本人の承諾書)である。

 

(3)について

 子の本国法が事実主義を採用する場合、認知の要件の一種である保護要件は存在しない。したがって、子の保護要件を満たしていることの証明は必要ないと思われるかもしれない。しかし、子の保護要件が存在しないことを確認するためには、子の本国法が事実主義を採用することの証明書が必要である。ただし、わが国においてこの本国法が事実主義を採用することが明らかである場合には、この証明書も必要ない(平成元・1228民二5551回答『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』243244)

 

3.01.05[戸籍への記載]

現行実務

(1) 日本人父が胎児認知した外国人母との間の非嫡出子については、氏と本籍を設定して新戸籍を編製し、子の身分事項欄に出生事項及び胎児認知の旨を記載する。

(2) 日本人の非嫡出子について認知の届出が受理された場合には、子の身分事項欄にその旨を記載し、子の父欄に父の氏名を記載する。この場合において、父が日本人であるときには、父の身分事項欄にも同様の旨を記載する。

(3) 日本人の非嫡出子について外国人からの認知の届出が受理され、子の父欄にすでにこの父の氏名が記載されているときには、子の身分事項欄に認知の届出が受理された旨を記載する。

 (1)について、昭和29318民甲611回答、

 (2)について、戸籍法134号、戸籍法施行規則352号、

 (3)について、戸籍法施行規則352号。

 

(1)について

 胎児認知が受理されたときには、その旨が受附帳に記載される(『新版・実務戸籍法』329)。なお、外国人女の胎児を日本人男が認知する場合には、届出地が男の本籍地にならないので、胎児認知届出書を2通提出させ、前もってその一通を日本人男の本籍地へ送付しておくことになっている(昭和2936民甲509回答)

 前述のように(2.03参照)、母が日本人である非嫡出子、並びに、母が外国人で日本人父が胎児認知した非嫡出子は、生来的に日本国籍を取得するので、出生届によって戸籍に登載されなければならない。

 前者は、日本人母の氏を称し、その戸籍に入籍すべきことになる(民法7902項、戸籍法182)。この子について胎児認知の届出があったときには、胎児認知届出書と出生届出書は、一括してその旨が記載される(『新版・実務戸籍法』330)

 後者は、当然には父の氏を称して父の戸籍に入籍できないので、子について氏と本籍を設定して新戸籍を編製し(昭和29318民甲611回答)、子の身分事項欄に出生事項及び胎児認知の旨を記載する(『新版・実務戸籍法』328)。この子の称すべき氏及び新戸籍編製の場所は、届出人()が自由に定めることができる(昭和2833民甲284回答)。前述のように(2.03.02の改正提案参照)、父にも出生の届出義務を課せば、上記の届出人には父も含まれることになる。父の戸籍については、その本籍地に出生届書を送付し、前もって送付されていた胎児認知届書と一括してその旨を記載することになる(『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』247)

 以上のような両者における取り扱いの差異には両性平等の観点から疑問も出されている(2.03.05参照)

 

(2)について

 当事者の一方又は双方が日本人である場合において、この当事者間における認知の届出(創設的届出又は報告的届出)が受理されたときには、その日本人が認知者であろうと被認知者であろうと、その者の戸籍の身分事項欄に、認知をした旨又は認知された旨の記載をしなければならない(『新版・実務戸籍法』327)

 

(3)について

 前述のように(2.03.03及び2.03.05(4)参照)、外国人父の本国法が事実主義を採用する場合には、日本人母の戸籍に入籍している非嫡出子について、その父欄に既に父の氏名が記載されている場合がある。このような場合にも、認知の届出は、原則として受理される(3.01.01(1)参照)。しかし、既に記載のある事項については改めて記載する必要はなく、子の身分事項欄に父からの認知の届出が受理された旨が記載されることになる(『新版・実務戸籍法』327頁、『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』236)

 

3.02 準正

3.02.01[準正の準拠法]

現行実務

(1) 婚姻準正の場合は婚姻当時、認知準正の場合は認知当時の父もしくは母又は子の本国法により準正が認められるときには、子は、嫡出子たる身分を取得する。

(2) 前項に掲げた者が、婚姻準正の場合の婚姻前又は認知準正の場合の認知前に死亡したときには、その死亡当時の本国法を前項のその者の本国法とみなす。

 (1)について、法例191項、

 (2)について、法例192項。

 

 準正は、諸国の実質法上、出生後の原因に基づいて非嫡出子に嫡出子たる身分を取得させる制度である。非嫡出親子関係の成立について認知主義が採用されている国においては、父母婚姻後に認知によって成立する認知準正と認知後に父母の婚姻によって成立する婚姻準正とがある。これに対して、非嫡出親子関係の成立について事実主義が採用されている国においては、父母の婚姻によって直ちに婚姻準正となる。

 以上のように、準正が、嫡出決定の問題である以上、法例の17条と19条の関係が問題となる。この点、準正についての規定がなかった改正前の法例の下においては、嫡出決定の準拠法を定めた旧17条を類推して、その原因たる事実の完成当時の父の本国法によるべきものと解釈されていた。しかし、現行法例は、認知について、父又は母の本国法のほかに、子の本国法によることも認めている(法例182)。そのため、子の本国法による準正も認めることが望ましい。そうしないと、例えば、父母が婚姻した後、子の本国法により認知がされたとしても、準正子となることができない場合が生じる可能性があるからである。そこで、現行法例の19条は、準正を独立の単位法律関係としたうえで、17条の定める準拠法に子の本国法を加えたものになっている。なお、法例の19条は、17条と同じく、実質法的な規定の形式となっているが、これは、選択的連結をわかりやすく表現するための立法技術的なものである。

 ところで、準正は、非嫡出親子関係の成立と父母の婚姻を要件とするのが普通である。したがって、認知主義をとる国では、準正には父母の婚姻だけでは足りず認知を必要とするのが通例である(民法789条参照)。そこで、法例19条の解釈上、例えば、母の本国法が、事実主義のもとで準正に認知を不要とし、父の本国法が、認知主義のもとで準正に認知を必要としている場合、父母が婚姻すれば、父の認知がなくとも、準正が認められるかが問題となる。法例19条を単純に読めば、この場合にも、母の本国法により準正が認められそうである。しかし、法例181項により、子と父との間の非嫡出親子関係の成立は父の本国法によるべきところ、この場合には、そもそも法律上の父子関係が未だ成立していない。非嫡出親子関係の成立が、準正の前提と考えられる以上、この場合は、「準正ノ要件タル事実」が未だ完成していなものとして、準正は認められない(準正には父の認知を必要とする)と解すべきである(『改正法例の解説』133134)

 なお、非嫡出親子関係の成立の問題と婚姻の成立の問題は、準正の先決問題として、それぞれ非嫡出親子関係の成立の準拠法と婚姻の成立の準拠法による(2.033.015.01参照)

 

3.02.02[届出に必要な書類]

現行実務

(1) 婚姻と認知による準正の場合には、「その他」欄に準正嫡出子となる旨、準正嫡出子となる子の戸籍の表示、続柄の訂正事項が記載された届書(婚姻準正にあっては婚姻届書、認知準正にあっては認知届書)

(2) 外国人父の本国法が事実主義をとる場合の準正については、以下のとおりとする。

 (a) 婚姻前に出生の届出がなされ、それに基づき父の氏名が記載されている場合には(2.03.03参照)、「その他」欄に準正嫡出子となる旨の記載がある婚姻届書。

 (b) 婚姻前に出生の届出がなされたが、父の氏名が記載されていない場合には、父の国籍証明書、父の本国法上事実主義が採用されている旨の証明書及びその者が事件本人の父であることを認めていることの証明書(父の申述書、父の署名のある出生証明書等)の添付された父の氏名を記載する旨の出生届の追完書、並びに、「その他」欄に準正嫡出子となる旨の記載がある婚姻届書。

 (c) 婚姻の届出後に前項の定める出生届の追完書を提出する場合には、嫡出子たる身分を取得する旨の婚姻追完書。

 (d) 婚姻の届出後に婚姻前の出生した子について出生届がなされる場合には、「その他」欄に父母が婚姻した旨が記載され、かつ、(b)に掲げる証明書の添付された嫡出子出生の届書。

 (2)について、平成元・102民二3900通達第33後段。

 

(1)について

 民法によれば、「父が認知した子は、その父母の婚姻によって嫡出子たる身分を取得」し(7891)、「婚姻中父母が認知した子は、その認知の時から、嫡出子たる身分を取得する」(7892)。前者は婚姻準正とよばれ(認知には胎児認知も含まれる)、後者は認知準正とよばれている(母の認知は必要ないことについて、2.03.01参照)。これに対して、非嫡出親子関係の成立について事実主義を採用する国においては、出生という事実により法律上の親子関係が既に成立しているから、父母の婚姻のみで準正が成立するとされる。

 父の認知及び父母の婚姻の双方がある場合には、戸籍においてとくに困難な問題は生じない。なぜなら、父が日本人であるときには、たとえ母の本国法が事実主義を採用していても、準正の成立には日本法上の認知が必要であると解されるし(3.02.01参照)、母が日本人であるときには、父の認知及び父母の婚姻により準正が成立することは明らかだからである(法例19条、民法789)。なお、父母双方が外国人であるときでも、父の認知及び父母の婚姻の双方がある場合には、当事者の本国法の内容を調べるまでもなく準正の成立を認めてよいとされる(奥田・外国人登録55119)

 したがって、婚姻と認知による準正については、法例18条の改正及び19条の新設の以後においても、戸籍の取り扱いは従前のとおりとなる(平成元・102民二3900通達第33前段)。婚姻準正の場合には婚姻届、認知準正の場合には認知届の「その他」欄において、準正嫡出子となる旨、準正嫡出子となる子の戸籍の表示、続柄の訂正事項が記載されている場合、届出は受理される(奥田・外国人登録55119)。これらの記載がないまま届出が受理されたときには、すでに戸籍に記載があり、「戸籍の記載をすることができないとき」(戸籍法45)にはならないが、当該届出事項の一部分が届出書の不備によって戸籍記載できなかった場合としてこの部分に限り追完が認められる(大正419回答1009号、『全訂戸籍法』251頁、『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』203)

 なお、外国人父と日本人母との間の非嫡出子について、戸籍法62条による「嫡出子出生の届出」(認知の効力が認められる嫡出子出生届)があった場合、この届出は、法例の定める準拠法によって、認知及び準正が認められるときに受理される(昭和261112民甲2162回答)。この点は、認知について各当事者の本国法の配分的適用主義を採用していた改正前法例18条のもとにおいては、外国人父の本国法が問題となるため注意が必要であった。しかし、現行の法例18条及び19条のもとにおいては、子の本国法である日本法による認知及び準正が認められるので、とくに困難な問題は生じないであろう。

 

(2)について

 以上のような婚姻と認知による準正に比べて、婚姻のみによる準正の成立には、当然に外国法(事実主義を採用する国の法)が関係してくるため、戸籍においても従前とは異なった取り扱いが必要となった(平成元・102民二3900通達第33後段)

 (1)において述べたように、父が日本人であるときには、結局のところ日本法による準正(婚姻と認知による準正)しか問題とならない。これに対して、父が外国人であり、その本国法が事実主義を採用している場合には、婚姻のみによって準正が成立する。すなわち、事実主義の場合、出生という事実により法律上の父子関係が成立していることから、父母の婚姻によって子は嫡出子たる身分を取得する。

 戸籍の記載との関係で重要なのは、日本人子についてである。ここで問題となっているのは、父が外国人の場合であるから、結局、日本人母の非嫡出子が前提とされることになる(奥田・外国人登録55120)。そして、婚姻のみによる準正について、戸籍においては、父の氏名が記載されている場合かどうかで手続がかなり異なってくる。なぜなら、この記載があれば、法律上の父子関係が成立していることが戸籍上明らかであるのに対し、この記載がなければ、認知もない場合であるから、法律上の父子関係の成立について、父の本国法が事実主義を採用していることと、血縁上の父子関係があることが確認されなければならないからである。

 したがって、出生届と同時に父の名前が記載されている場合には、認知と婚姻による準正における婚姻準正の場合と異ならず、「その他」欄に準正嫡出子となる旨、準正嫡出子となる子の戸籍の表示、続柄の訂正事項が記載された婚姻届書があればよい。これに対して、出生届はあったが父の名前が記載されていない場合には、そのような婚姻届書に加え、出生届の追完として出生届の場合(2.03.032.03.04参照)と同様の記載及び添付書類が求められる。いうまでもなく、父の本国法が事実主義を採用していることと、血縁上の父子関係があることを確認するためである。

 上記のような出生届の追完の届出が、父母の婚姻後になされた場合、父子関係の記載は、この追完の届出による。しかし、準正は婚姻により成立するのであるから、嫡出子たる身分を取得する旨の追完の届出は、父母の婚姻届についてなされなければならない(『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』206頁、奥田・外国人登録55121)

 それでは、そもそも出生届がなかった場合はどうか。外国人父の本国法が事実主義を採用している場合には、出生のときから法律上の父子関係が成立しているのであって、このことは、子の出生届の有無とは関係がない。そして、父母の婚姻前に出生していた子は、父母が婚姻することによって準正が成立し、嫡出子たる身分を取得する。この準正が戸籍に反映されるには、子の出生届が必要となるが、父母の婚姻の時点で子は嫡出子となっているのであるから、嫡出子出生の届出をすることができることになる。この届出の受理にあたっては、「その他」欄の記載により父母が婚姻していること、並びに、上記の出生届の追完の場合と同様の添付書類により、父の本国法が事実主義を採用していることと、血縁上の父子関係があることが確認される。

 最後の場合の嫡出子出生届は、事実主義を採用する外国人父の本国法を前提とするものであるから、認知主義を前提とする戸籍法62条による「嫡出子出生の届出」とは性質を異にする。したがって、認知の要件の具備も問題とならず、認知の届出の効力も認められない。しかし、前述のように(3.01.01参照)、父の本国法が事実主義を採用している場合であっても、子の本国法が認知主義を採用するときには、子の本国法による認知ができるものと解される。したがって、本条(2)において前提とされている日本人子(日本人母の非嫡出子)については、子の本国法である日本法に基づき戸籍法62条による「嫡出子出生の届出」ができることになる。本条(2)(d)の嫡出子出生届によるか、戸籍法62条による「嫡出子出生の届出」によるかは届出人の選択に委ねられるが、そのいずれの届出も重ねてできるというものではない(『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』208)。後者の届出をするには、日本法上の認知の要件を具備する必要があることは当然である(『全訂戸籍法』302頁、『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』176)

 

3.02.03[戸籍への記載]

現行実務

(1) 3.02.02(1)の場合において、父母の双方もしくは一方並びに子が日本人であるときには、準正嫡出子となる子の戸籍の表示及び続柄の訂正事項を記載する。日本人父と外国人母の間の子が外国人であるときには、戸籍上には特別の記載を要しない。

(2) 3.02.02(2)の場合において、(a)のときには、続柄欄を訂正し、(b)(c)のときには、父の氏名を記載して、続柄欄を変更し、(d)のときには、嫡出子として戸籍に記載する。

 

(1)について

 ここでは、婚姻と認知による準正の場合における戸籍への記載が対象となっている。

戸籍の記載との関係で重要なのは、日本人子についてである。戸籍のない外国人子については、準正が成立したとしても、国籍法3条の要件を具備しない限り当然には日本国籍を取得しないから、戸籍に記載されることはない。このような子については、婚姻準正の場合には婚姻届、認知準正の場合には認知届の「その他」欄に準正嫡出子となる旨を表示するにとどまる。なお、日本人父と外国人母との間の非嫡出子である外国人子が、国籍法3条により日本国籍を取得した場合には、届出によって準正時の父の氏を称し、父の戸籍に入ることになる(昭和59111民二5500通達第31(2))

 婚姻と認知による準正の場合において、父母の双方もしくは一方並びに子が日本人であるときには、親の戸籍又は子の戸籍の身分事項欄における続柄を訂正することになる。以下では、この点を場合にわけて説明する。

 外国人父と日本人母との間の非嫡出子は、出生と同時に日本国籍を取得し(国籍法21)、母の戸籍に入籍している(民法7902項、戸籍法182)。この日本人子についての認知と婚姻による準正の場合、届書(婚姻準正にあっては婚姻届書、認知準正にあっては認知届書)の「その他」欄の記載によって、戸籍の続柄欄の訂正をすることになる(『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』203)

 日本人父と外国人母との間の非嫡出子の場合、戸籍の記載との関係で重要なのは、父が胎児認知した子についてである。この子は、出生と同時に日本国籍を取得し(国籍法21)、氏と本籍を設定して編製された新戸籍に入籍する(昭和29318民甲611回答)。この日本人父が外国人母と婚姻した場合、父が戸籍筆頭者でないときには新戸籍が編製され、戸籍筆頭者であるときには本人の申出により配偶欄が設けられる(5.04.01参照)。このような胎児認知と父母の婚姻による準正の場合、子は直ちに父の氏を称し父の戸籍に入籍することになるかが問題となる。

 国内戸籍においては、母の戸籍に入籍している非嫡出子が、準正により嫡出子としての身分を取得した場合、この子が、直ちに父母の氏を称し父母の戸籍に入籍することになるかが問題とされた(『全訂戸籍法』158159)。戸籍実務は、従来、準正により嫡出子としての身分を取得した子が、その身分を取得すると同時に父母の氏を称するものとして、届出(婚姻準正にあっては婚姻届、認知準正にあっては認知届)によって直ちに父母の戸籍に子を入籍させていた(昭和351216民甲3091通達)。しかし、昭和62年の民法改正により、民法7912項が新設されたことに伴い、このような取り扱いは改められた。すなわち、準正により嫡出子の身分を取得した子は、当然には父母の氏を称しないものとされ、この子が、父母の氏を称するには戸籍法98条による入籍の届出をしなければならないことになった(昭和62101民二5000通達第5)

 以上のような戸籍実務を前提にすると、外国人母の非嫡出子を日本人父が胎児認知していた場合において、この父母の婚姻届がなされたときには、婚姻届書の「その他」欄の記載によって、父及び子の戸籍の身分事項欄における続柄を訂正することになる(『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』204)。この子は、家庭裁判所の許可を得て父の氏への変更を届け出ることによって父の戸籍に入籍できる(民法7911項、戸籍法98)。日本人父母の間の非嫡出子の準正の場合にも、父母の戸籍が同一となることを除けば、親及び子の戸籍の身分事項欄の続柄を訂正する点は変わりない。この子は、家庭裁判所の許可を得ることなく父母の氏への変更を届け出ることによって父母の戸籍に入籍できる(民法7912項、戸籍法98)。なお、後者の場合、父・母・子いずれも日本人であるが、ここでは、例えば、外国からの郵送による婚姻届及び認知届があったときなどの渉外事件が想定されている。

 

(2)について

ここでは、婚姻のみによる準正の場合における戸籍への記載が対象となっている。戸籍の記載との記載での重要な日本人子について、このような準正が問題となるのは、前述のように(3.02.02参照)、日本人母の非嫡出子についてその父の本国法が事実主義をとる場合である。

 このような場合において、婚姻前に出生の届出がなされ、それに基づき父の氏名が記載されているときには、婚姻届により子の入籍している母の戸籍の続柄欄を変更すれば足りる。

 これに対して、婚姻前に出生の届出がなされたが、父の氏名が記載されていないときには、出生届の追完がなければ、父の氏名の記載はもとより、上記のような続柄欄の変更もなされない。出生届の追完には、出生届の場合(2.03.032.03.04参照)と同様の記載及び添付書類が求められる。このような出生届の追完が、婚姻の届出と同時になされれば、父の氏名が記載され、続柄欄の変更がなされる。出生届の追完が、婚姻の届出後になされたときには、父の氏名は記載されるが、続柄欄の変更のためには婚姻届の追完が必要である。

 そもそも出生届がなく、婚姻の届出後に婚姻前の出生した子について嫡出子出生届がなされる場合には、「その他」欄に父母が婚姻した旨が記載され、かつ、父の本国法が事実主義を採用していることと、血縁上の父子関係があることを証明する書類(2.03.04参照)が添付されているときには、直ちに戸籍に嫡出子として記載することになる。


4 養子縁組・離縁

 

4.01 養子縁組の準拠法

4.01.01[養子縁組の準拠法]

現行実務

(1) 養子縁組については縁組当時の養親の本国法による。養子の本国法が養子縁組の成立につき養子若しくは第三者の承諾若しくはその同意又は公の機関の許可その他の処分のあることを要件とするときはその要件をも備えなければならない。養子とその実方の血族との親族関係の終了についても養親の本国法による。

(2) 夫婦共同養子縁組の場合における養親の本国法は、それぞれの養親について、それぞれの本国法であり、一方の本国法を適用するに当たり、他方の本国法を考慮する必要はない。

(3) 養子縁組の方式(形式的成立要件)については、縁組当時の養親の本国法又は行為地法による。

 (1)について、法例20条、

 (2)について、平成元・102民二3900通達第51(3)

 (3)について、法例22条。

 

(1)について

 本国法の決定は平成元・102民二3900通達第11(1)のイの例による。

■ 法例改正の趣旨

平成元年の法例改正以前は、養子縁組の実質的成立要件につき、養親と養子の本国法の配分的適用主義を採用していたものを、縁組成立の容易化を図るために養親の本国法主義に改正したものである。これは、近時の立法の多くが養親の本国法主義を採用していること、養親子の生活が営まれる土地は養親の本国であるのが通常であることを根拠とする(『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』266)。しかし、配分的適用主義を排した結果、養子の保護に欠けることがあってはならないとして、養子の本国法上の保護要件の具備を規定している(セーフガード条項)

■ 準拠法の適用範囲

法例20条T項は「養子縁組ハ」としており、「養子縁組ノ成立ハ」と規定していないので、実質的成立要件についてのみならず、養子縁組の効力についての準拠法をも規定するものである。これは「要件と効力は密接に関連し合っており、これを分断して別々の法律の規定するところに委ねるのは、要件や効力を定めた趣旨・目的に反することになる。両者は同一の法律に依って規律されるのが最も目的合理性を有する。こうした考慮から、縁組の効力も、成立と同一の法律を準拠法とすることと」されていることによる(あき場準一「養子縁組・離縁の準拠法及び国際的管轄」講座・実務家事審判法5249)

また、効力で問題となる実親及び実親親族との関係の断絶の有無について法例202項が1項に定める準拠法に依ることを明文で規定していることからも、その他の縁組の効力についても1項に定める準拠法に依らしめるものと解するのが相当といえる(『改正法例の解説』139)

法例202項が明文で養子と実方との親族関係の断絶の有無について規定したのは、改正前法例では、この点につき、これは「養子縁組の効力」というより、むしろ養子とその実方との「親族関係」の問題であるとする考えが通説的見解であったことによる。したがって、旧192項で規定していた「養子縁組の効力」の準拠法よりも旧20条又は旧22条で定まる準拠法によるという考え方が通説であった。法例201項は、その「養子縁組の効力」に旧192項で定める「効力」と同じ範囲のものが含まれるとする前提に立つものということになっているが、それではこの断絶効について201項に含まれないことになり、21条又は23条の適用がなされるものと解されることになる。しかし、実質法上、断絶型養子縁組を認めるときには、その成立につき断絶効を考慮した要件が課されているところから、この点についても縁組成立の準拠法と同じ準拠法によらしめるのが相当とされたものである(『改正法例の解説』138頁−140)

ただ、このように養子縁組の形態と断絶効を統一的に取扱った結果、断絶効を認めるか否かの点で、養親と養子の本国法で相違が認められる場合、養父と養母の本国法に相違が認められる場合に問題が生じる。それぞれの問題点については、(c)セーフガード条項について、及び(2)夫婦共同縁組の項参照のこと。

なお、法例201項で決まる準拠法の適用範囲には、方式(形式的成立要件)は入らない。これについては法例22条により定まるが、形式的成立要件が問題となるのは創設的届出の場合である。これについては、4.02.01参照。

 

* 日本法が準拠法となった場合における民法798条にいう未成年養子の場合の家庭裁判所の許可について、養子が未成年か否かについて、どの国の法律に準拠して決定するかが問題となる。これは近年18歳以上を成年と定める国が多いのに対し、わが国においては民法4条において20歳を成年年齢としているために、例えば19歳の中国人あるいはネパール人を日本人が養子にしようとするときに問題となる。

 この点につき法例3条T項は財産的法律関係における行為能力を意味し、不法行為及び身分行為に関する行為能力を含まないので、養親の本国法たる日本法によって成年・未成年の判断をすべきであるという考え方も主張されているが(戸籍69088頁、戸籍73356)、戸籍窓口での実際的取り扱いは、養子本人の本国法によることとし、その本国法が19歳で成年としているのであれば、家庭裁判所の許可は「不要」との取り扱いをしているようである(戸籍73554頁、戸籍624195頁では日本人が18歳以上の中華人民共和国人を養子とする場合、「当然のことながら、養子は成年子であることから家庭裁判所の許可は不要です。」と述べる)

 山田鐐一『国際私法』204頁注[3]においてはこの点について次のように述べる。「民法798条が未成年者について家庭裁判所の許可を要求したのは、養子の身分的行為能力の問題というよりも、一般的に未成年者である養子の保護を図ったものであるから、『未成年』か否かの判断については、法例31項を適用又は類推適用して養子本人の本国法によるべきであろう。」 ただ、 これによれば、例えば21歳からを成年とする法を本国法とする者であって、206箇月のものが養子となる場合には、養親の本国法が日本法であっても、家庭裁判所の許可は必要であるということになることに注意しなければならない。

 これに対し、家庭裁判所の許可を必要とする説は次のようにも必要性を根拠付ける。

「民法第798条は、養子縁組が養親子の縁組後の生活に及ぼす影響を考慮し、養子となる者の福祉に合致するものであるかどうかを公的機関である家庭裁判所に判断させようとするものであるから、この規定による保護の対象となる者の範囲も、養親の本国法によって判断するのが相当という考え方によるものだろう。また、民法第798条の適用は、法例第20条第T項前段に定めた養親の本国法を適用する結果によるものだから、当然に養親の本国法によるという考え方もあり得よう。」(戸籍69088)

 

■ セーフガード条項について

@. セーフガード条項により適用される保護要件に属する事項

 保護要件は、原則として社会経験や判断能力に乏しい未成年者の利益の保護を図ることを目的とするものであるから、養子の本国法上の各成立要件のうちどの要件がこれに該当するかは、この見地から合目的的に判断すべきものである。

 子が日本人である場合には、民法上の@養子となる者が15歳以上の場合における本人の承諾(797条T項・800)、A養子となる者が15歳未満の場合における法定代理人の代諾(797条T項)、B法定代理人のほかに監護者が居る場合のその同意(797条U項)、C未成年養子の場合の家庭裁判所の許可(798)、D特別養子の場合における父母の同意(817条の6)、そして外国法上のE配偶者の同意、F実父母の同意、G親族会の同意、H児童を保護する機関の長の同意などが、セーフガード条項により適用されることになる。

 これに対し、()未成年養子の場合の夫婦共同縁組、()1990年改正前の韓国民法上の戸主の直系長男子の養子の禁止、()中国法上の一人っ子の養子の禁止等は、必ずしも養子の保護を目的とするものではなく、家の存続や父母の扶養等を目的とするものであることから保護要件にはあたらないとされている。

 さらにイスラム諸国のように養子縁組を一般的に禁止する法制も、その社会が他人の子を養子とすることを禁止するものであって、養子を保護する趣旨ではないところから、保護要件には該当しないとされている(『改正法例の解説』148頁、『新版・実務戸籍法』333頁以下、「改正法例下における渉外戸籍の理論と実務」271頁以下)。したがって、この場合は養子の本国法上の保護要件はないということで養親の本国法によって縁組を成立させることができる。(ただし、横山潤「国際家族法の研究」222頁においては、跛行的な養親子関係の回避及び「児童の権利に関する条約」の精神に反するのではないかとして、このような態度に疑問を呈している。)

A. 第三者の範囲

 法例201項にいう「第三者の同意・承諾」で問題となるのが、その「第三者」の範囲である。実務上はこの範囲を広く解する傾向にあり、養子の本国法上、縁組の成立にあたって必要とされる承諾・同意は全て含まれるとしている(道垣内正人・ポイント各論93)

 

* よく問題となるのは、フィリピン家族法1883号の定める養親の10歳以上の嫡出子の書面による同意を要するとする規定についてである。

 戸籍実務は原則としてこれを法例201項後段所定の保護要件として取り扱い、養親の10歳以上の嫡出子の同意書の添付のない縁組届は受理することができないとする(平成777日付け民二第3292号法務省民事局第二課長回答)

 この回答については戸籍637号の回答の解説では次のように述べられている。

 「もっとも、養親の10歳以上の嫡出子が意思表示をすることができない場合、すなわち、心神喪の状態にあるとき又は長期間行方不明であるときは、この場合にまで同意を要求することは不可能を強いることになるので、条理に照らし、フィリピン法の解釈上もその場合にまで同意が要求されているものではないと解することができるし、あるいはその場合にフィリピン家族法1883号を適用することは公序に反すると解することができるから、心神喪失又は長期間行方不明であることが審判書の理由等により確認できれば、同意書がなくても縁組の届出を受理して差し支えないものと考えられる。

 また、養親の10歳以上の嫡出子が同意を拒むことが権利濫用又は信義則違反に当たると認められる場合についても、条理に照らし、フィリピン法の解釈上もその場合めで同意が要求されているものではないと解することができるし、あるいはその場合にフィリピン家族法1883号を適用することは公序に反すると解することができるから、同意の拒否が権利濫用又は信義則違反に当たる旨の認定が審判書の理由中に明確に判示されている場合には、同意書がなくても縁組届を受理して差し支えないものと考えられる。」(戸籍63772頁以下)

 審判例においてもこの要件を保護要件としたものと保護要件ではないとしたものに分かれるが、保護要件とするものが圧倒的に多いとのことである(司法研修所編『渉外養子縁組に関する研究―審判例の分析を中心に―』46)。例えば、水戸家裁土浦支部平成11215日審判家月51793頁は、保護要件であることを前提に、養親の10歳以上の嫡出子の同意がないことの一事を

理由に養子縁組を認めないことは、養子となる者の福祉を著しく害し公序良俗に反するとして、フィリピン法の適用を排除し、日本人夫とフィリピン人妻が共同でする同妻の子の養子縁組を許可した事例がある(戸籍69550頁、同左22頁以下に澤田省三氏による解説あり。さらにこの事件の評釈として斉藤彰・国際私法判例百選64事件、植松真生・平成11年重判308頁、駒田泰士・ジュリスト117997参照)

 なお、このような縁組の時点まで養子との間に身分関係のなかった者についてまで「第三者」の範囲に入れることに反対の立場を表明するものとして、植松真生「法例における”セーフガード条項”について」一橋論叢261195頁以下、道垣内・ポイント各論95頁。その理由は「これらの者は養子の本国法の適用に予見可能性を有していない」とする。

 

B. 公の機関

 1項にいう「公の機関」とは国の機関又は国が養子縁組の許可という公権力の行使を委ねた機関を指す。具体的には、裁判所・法院等であり、ここでは養親子関係の創設・形成の部分にはかかわらず、わが国の民法の定める家庭裁判所の許可とおなじく、縁組をすること自体の事前の後見的作用としての許可その他の処分のみが係わる(『改正法例の解説』149)とされている。

 この点につき、養子の本国法が決定型縁組制度を採用している場合、裁判所の決定や権限を有する当局の命令や宣言等がこの保護要件に該当するか否かが問題となる。養子決定には方式たる形式的成立要件にあたる部分の他に、わが国の家庭裁判所の許可に相当する、養子保護の見地から国家が後見的役割を果たす実質的成立要件にあたる部分を包含する場合があると考えられるとし、未成年養子縁組の場合には常にこの実質的成立要件に相当する部分を含むものとして、裁判所の決定等は保護要件に該当するとするのが、実務及び多数説である(『改正法例の解説』149頁、『新版・実務戸籍法』335頁、山田・510頁注(8))。このような考え方に疑問を呈するものとしては植松真生「法例における゛セーフ・ガード条項″について」一橋論叢1161179、司法研修所編『渉外養子縁組に関する研究―審判例の分析を中心に―』50頁以下。

 なお、成年養子の場合についての決定等の取扱いについては次のCを参照のこと。また、決定型縁組制度を持つ外国準拠法のわが国における適用に関しては、4.02.01a「分解理論」の項、参照のこと。

 

* 裁判所の養子決定を養子の保護要件と解した審判例としてはフィリピン人を養子とするものが多い。代表的なものとして以下のものが挙げられる。

-         盛岡家審平31216家月44989---日本人男とフィリピン人女の夫婦がフィリピン人女の妹を養子にすることを申し立てた事例で審判は以下のように述べる。「−−−法例201項後段によると、養子の本国法が養子縁組の成立につき第三者の承諾・同意又は公の機関の許可処分等を要するときはその要件をも充足することが必要である旨定めているところ」「フィリピン法により裁判所の決定を要するという趣旨は、日本法の家庭裁判所の許可の審判とは性質を異にするものではあるが、当該養子縁組が養子となるべき子の福祉に適うか否かの審査を裁判所に委ねた点では実質的には差異がないというべきであるから、日本の家庭裁判所の許可の審判をもってフィリピン法の裁判所の決定に代わることができるものと解すべきである。」(判例評釈として本浪章市・百選[三版]146頁参照)

-         ・山形家長井出張所審平568家月468124---本審判の問題点につき山田・513頁注(13)参照。

-         ・山形家審平732家月48366---判例評釈として、出口耕自・平8重判278頁、中野俊一郎・民商1161144頁参照。

 

C. 成年養子における保護要件

 成年養子の本国法が未成年養子しか認めない法制の場合でも、養親の本国法上、成年養子が可能であれば縁組は可能である。このとき成年養子についても未成年養子のための保護要件の適用の有無が問題となる。文言上、保護要件の適用について成年養子の場合を排除していないので、適用はあるが、未成年者と同様の適用は必要ではないとされている。したがって、制度趣旨・法文の規定の形式から明らかに未成年者の保護のための制度であれば成年養子には適用されないが、成年養子にも適用するのが適当なもの、例えば本人、法定代理人(後見人等)、保佐人、親族会の同意等は保護要件と解したほうがよいとされる(『新版・実務戸籍法』334)

 

* 水戸家土浦支審平4922家月451075---日本人が中華民国国籍の成人を養子にするにあたって、中華民国法上、「法院の許可」が成年養子にも必要とされていることを理由に養子縁組の許可審判をしたもの。松岡博[渉外親子関係事件における子の利益保護]国私年報142頁は「法院の許可」が保護要件に該当するか否かについては疑問を呈する。

 

 Bでも述べたように、養子の本国が決定型の法制のみ認めている場合に、養親の本国法上は養子が成年であれば法律行為による養子縁組が認められるとき、成年に達している養子についても裁判所等の養子決定が必要か否かが問題となる。しかし、成年養子についての裁判所等の決定の必要性は国家の後見的役割というよりもその成立の公証、すなわち形式的成立要件としての方式の部分についてのみ関係するものであるということができ(4.02.01a 「分解理論」の項参照のこと)、ここでの決定は保護要件にあたらないといえる。従って、養子の保護は、当事者の自由意思及び配偶者等関係者の同意要件による利害調整機能に委ねることで足り、裁判所等の許可等までは必要としないとするのが、実務上一般的である(『改正法例の解説』151頁、司法研修所編『渉外養子縁組に関する研究―審判例の分析を中心に―』23)

 平成元年1027日第166回東京戸籍事務連絡協議会(家裁月報423178)では、「戸籍の窓口では、これ(裁判所の許可又は決定)が欠如しているがために不受理とすることはない。」とする。

D. 断絶型養子縁組の成立

 養子の本国法が普通養子縁組制度のみ有し、断絶型養子縁組制度を認めていない場合に、準拠法たる養親の本国法が断絶型養子制度を有しているときに、断絶型養子縁組を成立させることが可能かが問題となる。

 この点についてはいかなる養子縁組を成立させるかは養親の本国法が準拠法であることから可能であるとされている(南・解説154頁引用の平成元年616日参議院法務委員会における藤井正雄政府委員の答弁で明らかである)

 その場合、セーフガード条項の適用の仕方が問題となる。普通養子縁組を前提としたセーフガード、例えば実親の同意をそのまま適用してよいのかということである。この点につき、本国の普通養子縁組の際の保護要件を類推することを認める見解(あき場・前掲256)、そもそもどのような形態・効果を有する養子縁組が成立するのかという点にまでの同意を要件としているのではないとして、普通養子縁組で認められているセーフガードをそのまま適用すればよいという見解が主張されている(道垣内・前掲90頁以下)

 このようなときに断絶型養子縁組の成立を認めることを前提とする以上、普通養子縁組成立のためのセーフガードを適用あるいは類推適用するほかはないといえるが、養子の実方との親族関係を断絶させないことこそが、養子となる者にとってのセーフガードであると考えるならば、子の本国法が国際養子縁組には普通養子縁組だけを認め、断絶型養子縁組を認めないような場合にまで上述の処理でよいかには疑問が残るとの見解がある(横山・前掲223)

 

* 福島家会津若松支審平4914家月45101071---日本人夫婦が韓国人の子との特別養子縁組を申し立てた事例。特別養子制度のない韓国法につき、普通養子縁組に関する韓国民法の要件を満たしているとして特別養子縁組を認容したもの(判例評釈として長田真理・ジュリ1127141)

 さらに、司法研修所編『渉外養子縁組に関する研究―審判例の分析を中心に―』111頁に日本人夫婦がヴェトナム在住期間中にヴェトナム人孤児をヴェトナムにおいて普通養子縁組を成立させて日本に連れ帰ってきた後、日本において特別養子縁組の申し立てをし、それを認めた事例についての紹介がある。

 

■ 反致について

 法例20条の規定については法例32(反致)の適用がある。

@. 反致と外国法に定める保護要件の充足

 外国人養親の本国法から日本法へ反致した場合に、養子が日本人であれば保護要件も日本法となり、たとえ外国人養親の本国法上裁判所の許可を要するものとしていても、日本民法798条但書によりそれが不要となるかどうか問題となった。この点につき不要とするものとして名古屋家審昭34528家月118133頁、昭4343民甲800号回答・家月235149頁がある。

 これに対し、日本法への反致を認めながら、「我が民法798条但書は、自己又は配偶者の直系卑属を養子する場合、家庭裁判所の職責を軽減するだけであって、その権限をも剥奪したものではない」と考える立場(あき場準一・ジュリ403136)に立ち、許可審判を行ったものとして東京家審昭42822家月20398頁がある。

 

* 名古屋家審昭34528家月118133頁は、アメリカ合衆国インディアナ州に住所を有する米国人が、日本人母の子として生まれ日本に居住する未成年者(申立人の非嫡出子)を養子とする許可の審判を求めた事案である。裁判所は以下の通り判断している。

 「インディアナ州の養子縁組に関する国際私法によれば、養子縁組の管轄権は養子又は養親の住所のいずれにも認められ、その準拠法は当該管轄権が存する国の法、即ち養子又は養親の一方の住所が存する法廷地の法であるとされているところ、事件本人は名古屋市に住所を有することが認められ、且つインディアナ州国際私法上日本法を適用することがなんら公序に反しないから法例29条により、反致が認められ、本件養子縁組の要件に関しては一切日本法によるべきものとなる。しかるに、事件本人は、・・・申立人の直系卑属(非嫡出子)であることが認められるところ、民法798条但書によれば、自己の直系卑属を養子とするには家庭裁判所の許可を得ずして、その縁組が有効に成立するものであることは明白であるので、本件申立人が事件本人を養子とするには当裁判所の許可を要しないものと判断する。」

** 昭和4343・民甲800号回答---「アメリカ合衆国ペンシルバニア州の男が配偶者の子(15歳未満者)を養子とする縁組届出で養子の本籍地市区町村長になされたときは、家庭裁判所の許可の審判を得るまでもなく当該縁組届を受理して差し支えない。」

*** 東京家審昭42822家月20398頁は、日本に在住する米国人(インディアナ州出身)が配偶者の子(日本人)を養子とする許可を申し立てた事案である。裁判所は、反致を認めて準拠法を日本法とすることを認めたうえで、「ところで日本民法第798条但書によれば、本件の如き自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合には家庭裁判所の許可を要しないのであるが、申立人の本国法であるインディアナ州法においては、かかる例外がなく、すべて未成年の養子縁組は裁判所の養子決定を要することになっているので、申立人の勤務するアメリカ合衆国空軍における扶養家族の認定、将来におけるアメリカ合衆国への渡航手続等をも考慮すると、かかる本国法を尊重して、とくに本件においては」家庭裁判所の審判をおこなうべきものとすると判断している。

 

A. セーフガード条項と反致

 セーフガード条項による養子の本国法上の保護要件についての問題がある。この点については反致に関する法例32条の適用はないという考えが有力である。その根拠は条文の規定の仕方、養子のために保護要件を設けた趣旨が没却される場合もあること、政策的にも養子の本国法が特に重要であること(反致して養子の本国以外の国の法律を適用することは適切ではないこと)である(『改正法例の解説』208頁、『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』276頁以下、『新版・実務戸籍法』340頁、但し、山田486頁、櫻田嘉章『国際私法(4)112頁、出口耕自・基本論点国際私法204頁などではこのような考え方につき解釈論としてはむずかしいであろうとする)

 なお、反致一般については1.06.05、法例1812項のセーフガード条項と反致の関係については2.03.01の解説をそれぞれ参照。

B. 隠れた反致

 もう一つの問題は「隠れた反致」の取扱いである。「隠れた反致」とは養子縁組の場合、英米に見られるように、裁判管轄規則のみを有し管轄が認められれば法廷地法を準拠法とする管轄アプローチ型を採用する国が多いが、このような国の法を準拠法として指定したときには、その国の管轄規定の中に抵触規則が隠されているとして反致を認めるものである。このような判断を戸籍窓口でなすべきかが問題となる。審判例では従来この考え方を利用してわが国に反致を認めたものも多いが、近年の審判例では認めないものも多く見られるようになってきている(司法研修所編『渉外養子縁組に関する研究―審判例の分析を中心に―』25頁、132頁、山田・512頁注(12)参照)

C. 夫婦共同養子縁組と反致

 夫婦共同養子縁組に関して個別に準拠法を定めるとすれば、例えばわが国に常居所地を有する甲国人と乙国人夫婦が夫婦共同養子縁組をする場合、一方の本国法である甲国の国際私法が夫婦共同養子縁組の場合には、夫婦の常居所地法を準拠法としているため、反致が成立し、他方の本国法である乙国の国際私法は本国法主義を採用しているため、反致しないときに果たしてどうするのかという問題がある。

 この点、(2)にいうように夫婦共同養子縁組の場合も、養親の本国法はそれぞれについて別個に決まるという原則を貫き、甲国人養親についてのみ反致を認めるとの処理があり得る。しかし、これに対しては、甲国の国際私法は本来夫婦の共通の常居所地法を準拠法とするとの趣旨であり、夫婦について個別に準拠法を定めることは、その国際私法の理念をないがしろにすることになり、反致を認める意義がないとの批判がある(司法研修所編『渉外養子縁組に関する研究―審判例の分析を中心に―』215頁においてはドイツを例に「養親の一方のみの本国法としてドイツ法が適用される場合には、反致を認めないという考え方が可能であろうか。」としている)。なお、甲国の国際私法上、単独養子縁組についての規定と夫婦共同養子縁組についての規定があるとすれば、反致の判断において適用するのは前者の規定であるとの考え方もあろう。いずれにせよ、この問題は、法例上、夫婦共同縁組についての規定が欠けている点に起因するものであり、その点についての立法的対応が期待される(溜池510頁、山田506)

 

■ 公序

 公序一般については1.06.06参照。

 

* 神戸家審平7510家月471258---未成年者の兄弟2名双方の養子縁組を認めず、養子は1名と限定する中国法を公序に反するとした事例(田村精一・リマークス1997()151頁、元永和彦・ジュリ1137148頁、実川和子・国際私法判例百選22頁参照)

 

(2)について 

■ 夫婦共同縁組の要否及び単独縁組の可否

 夫婦共同で縁組をしようとするときには、夫婦の本国法が同一のときは問題はないが、異なるときには、要するにそれぞれの本国法が互いに排斥しない範囲でのみの縁組が可能となるということになる。したがって、一方の本国法が夫婦共同養子縁組を強制し、他方の本国法が養子縁組そのものを認めないときは、夫婦共同養子縁組も単独養子縁組も不可能となる。また、一方が単独養子縁組を認め、他方が養子縁組を認めないときは、一方の単独養子縁組のみ可能となる。また、一方が夫婦共同養子縁組を強制し、他方が単独養子縁組のみ認めるときは、他方の単独養子縁組のみが可能となる(溜池510)

配偶者のある者が単独縁組をすることができるかどうかは、当該者の本国法により、配偶者又は養子の本国法が夫婦共同縁組を強制していても、これを考慮する必要はない(平成元・102民二3900通達第51(3))

 したがって外国人配偶者を有する日本人が未成年者を養子にしようとする場合、民法785条本文が必要的共同縁組を定めているので、単独で縁組をすることはできない。しかし、養子となる未成年者がその外国人配偶者の嫡出子であれば、民法795条但書により日本人とその子の単独養子縁組が可能となる(但し、配偶者の同意を要する)。それに対し、外国人配偶者の子であっても非嫡出子の場合には民法795条但書の適用はないので、本来日本人とその非嫡出子との間の単独養子縁組は不可能となるはずであるが、例外的に以下のような先例が見られる。

-         3218民ニ1244回答---カメルーン共和国人女が日本人夫とともに自己の嫡出でない子を養子とする縁組届はカメルーン民法によれば、自己の子を養子とすることはできないとされているので日本人のみとの単独縁組と訂正させた上で受理して差し支えないとされた事例。

-         3710民二3775号回答---ヴェネズエラ国籍を有する嫡出でない子との養子縁組を認めた事例 

 これに対し、外国人が日本人配偶者の嫡出子あるいは非嫡出子と単独養子縁組が可能か否かは、当該外国人の本国法の規定いかんによることになるので、当該本国法が養子縁組を認めない、あるいは単独養子縁組を認めなければ縁組は不可能となる。

*7330民ニ2639回答  パキスタン人男とその配偶者である日本人女の嫡出子及び嫡出でない子との養子縁組届につき、パキスタン国には養子制度がないものと認められるので、受理すべきではないとした例(戸籍63763)

 なお、夫婦共同養子縁組と反致の関係については、(1)()参照。

■ 特別養子縁組及び断絶型養子縁組の成否

 養子縁組については各国の法制が極めて多様であるが、分類の仕方としては一つに成立方法の点で契約型と決定型、そして効果の点で断絶型と非断絶型に分けることができる。したがって、契約型で非断絶型、契約型で断絶型、決定型で非断絶型、決定型で断絶型の4つに大きく分類できる。夫婦で養子縁組をしようとする場合、一方が契約型で他方が決定型の場合、また、一方が断絶型で他方が非断絶型の場合にどうなるかが問題となる。

前者の問題、すなわち、日本人と外国人夫婦がわが国で養子縁組をしようとするときに当該外国人の本国法が決定型養子縁組を採用しているときの夫婦共同養子縁組については4020201「分解理論」の項参照のこと。

 後者、すなわち、一方が断絶型で他方が非断絶型の場合についてであるが、夫婦の国籍が異なることにより、夫婦の一方についてはその本国法により断絶型の効力を生じ、他の一方についてはその本国法により断絶型の効力を生じない場合が予測されるが、実親との断絶の効果が相対的になるのでは説明のつかない法律関係を発生させることになるとして、そのような場合には、全体として断絶型の効果が生じないとされている(『改正法例の解説』147頁、『新版・実務戸籍法』337)。したがって、日本人と外国人の夫婦が養親となる場合には、外国人養親についてその本国法により断絶効が生じても、日本人養親のほうで日本民法による特別養子縁組が成立しなければ、断絶型養子縁組とはならないことになる。また、この点については、夫婦が共同して養子縁組をした場合のみならず、同一人を別個に養子にした場合でも同様に考えてよいということになる(西田幸示「渉外的な断絶型養子の取扱いについて―平成6428日付け民二第2996号法務省民事局長通達の解説―」戸籍62021)。したがって、養親の一方の本国法が断絶型養子縁組制度のみ有する場合であっても、他方配偶者の本国法が非断絶型養子縁組制度のみ有するときには、夫婦共同で非断絶型の養子縁組が成立することになる。

 もっともこのような考え方については、縁組の形態と断絶効を切り離して考え、いわば効果のほうから成立形態を決定することになり、論理を逆にしているという指摘もされ、今後の検討課題とされている(『改正法例の解説』148)

 

* 東京家審平71120判例集未登載---エジプト人男と日本人女の夫婦が日本人子との養子縁組を申し立てた事例。イスラム教徒に養子縁組をすることを禁じているエジプト法の適用を公序により排斥し、特別養子縁組の成立を認めた事例(大村芳昭・ジュリ1127141頁参照)

 

(3)について

 形式的成立要件(方式)については、平成元年の法例改正に伴い、22条が新設され、養子縁組の方式に関しても、準拠法は行為の成立を認める法律(養親の本国法)又は行為地法のいずれかによることとなっている。

 ただ、縁組がわが国の戸籍役場への届出という方式により成立するのは、創設的届出がなされる場合である。したがって、縁組の準拠法が日本法の場合(但し、特別養子縁組については家庭裁判所の審判によって縁組は成立するので、このときの届出は報告的届出である)と縁組がわが国でなされる場合ということになる。これについては、4.02.01「創設的届出」参照のこと。

 

4.02 養子縁組の創設的届出

4.02.01[創設的縁組届]

現行実務

 (1)養子縁組の準拠法が日本法であるとき、又は養子縁組が日本でなされるときには縁組の届出をすることができる。

 (2)外国に在る日本人同士が養子縁組をするときには、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事に届出をすることができる。

 (1)について、法例22条、

 (2)について、民法801条、戸籍法40条。

 

 創設的届出は方式の準拠法が日本法でなければできないことについては、1.02.01参照。

 

(1)について

平成元年の法例改正により、身分行為の方式(形式的成立要件)については22条が新設され、それによって行為地の方式ばかりでなく、行為の成立の準拠法に依ることも可能となった。養子縁組についても、婚姻の方式について定めた132項・3項のような独立した規定が存在しないので、22条にしたがうことになる。したがって、(1)で述べた場合には日本の戸籍役場に創設的届出をすることにより、縁組が成立することになる(『改正法例の解説」170頁以下、『実務戸籍法』340)。つまり、縁組をしようとする者は、その旨を届け出なければならず(戸籍法66)、届出がなければ縁組は成立しないのである。

 (1)において「養子縁組の準拠法が日本法であるとき」には、養親が日本国籍を有する場合だけではなく(法例28条但書)、養親が無国籍であって日本に常居所を有する場合(法例282)、無国籍者で日本に常居所を有しないが居所を有する者(法例30)が含まれる。また、養親が外国籍を有する場合であっても、その本国国際私法の規定により反致が認められるときも(法例32)該当する。

問題は外国からの郵送による本籍地の市区町村への届出についてであるが、行為地が外国であっても、縁組の準拠法が日本法のとき、つまり養親が日本人のときには法例22条により有効な届出となる。この点、法例改正前の取り扱いが郵便の到達地である日本を「行為地」としていたのとは異なるので、外国に在る外国人養親が日本人を養子とするときに郵送にて届出をしても方式上無効である(平成元・102民二3900通達第112(2)、『改正法例下における渉外戸籍の理論と実務』283頁、1.02.02の解説参照)

 

(2)について

この場合、当事者が外国に在って縁組地が外国であっても、養親の本国法が日本法となるので法例22条により日本法の方式に従うことになるが、民法801条、戸籍法40条の規定により在外公館への届出も可能となる。

 問題は養親となる者と養子となる者が異なる国に在る場合に、民法801条の適用があるのかということであるが、同条は、在外日本人の届出場所について特に設けられた規定であり、日本人同士を当事者とすればよく、当事者の所在国を同じくすることまでは必要ではないと考えられる。したがって、一方当事者が外国に在れば、他方当事者が日本にある場合にも、領事等に届け出ることは可能である(3173・民甲第1466民事局長回答)(『新版・実務戸籍法』341)

-         3173民甲第1466回答 アメリカ在住の日本人養親と日本在住の日本人養子間の縁組届につき、民法801条の規定の適用の有無につき、大正111226日民事甲第4339号回答と同様に、総領事の受理によって縁組は有効に成立したものとして取り扱って差し支えないとした事例。

 

民法801条は日本人間の養子縁組にのみ適用されるものであるから、日本人が外国人を養子とするときには在外公館への届出によって縁組を成立させることはできない(40)。但し、在外公館で誤って届出が受理され、市区町村長が届出の送付を受けたときには縁組は成立する(Q&A渉外戸籍と国際私法』224頁、大野正雄「在外公館から送付された戸籍届書の返戻に関する審査のポイント()」 戸籍7178)

 なお、婚姻の場合と平仄を合わせて、(2)を「養子縁組の行為地が外国である場合において養親が日本人であるときには、子が外国人であるときであっても、当該国に駐在する日本の大使、公使又は領事に対して養子縁組の創設的届出をすることができる。」と改めることも考えられる。しかし、これを実現するには、民法801条を改正することになること(戸籍法40条の改正は必要ない)、また日本に不法入国する手段として婚姻よりも使い易いこと(とりわけ養親の本国法が準拠法とされれば、日本法は成年養子を認めるので、縁組の成立が容易である)から、現行実務で妥当かと思われる。1.02.02参照。

 

 

8条の2,63条T「って日本に常居所を有する場合(法例28条U

4.02.01a[分解理論に基づく創設的届出]

現行実務

 外国法上の養子決定の裁判を、養子縁組の実質的成立要件として公的機関の関与を必要とする部分と養子縁組を創設する方式の部分とに分解し、前者については家庭裁判所の許可審判で代行し、後者については方式の問題であるので、法例22条により行為地であるわが国の方式、すなわち届出をすることによって成立させるとの考え方に基づき、日本人と本国法が決定型である外国人の夫婦が共同で未成年者を普通養子縁組しようとする場合には、日本人養親についても外国人養親についても、家庭裁判所の許可審判と創設的届出をすることにより、その成立を認める。

 加藤令造「渉外調停審判」家事審判法講座490頁。

 

「分解理論」について

 縁組の成立につき裁判所その他の公の機関による裁判又は認可を要するとする決定型の養子制度を持つ国が多いが、ここにいう裁判又は認可は養子縁組の単なる方式の問題ではなく、実質的要件に属するものと解される。昭和62年の民法改正により特別養子制度が新設されるまでは、縁組準拠法が決定型を採用している場合、わが国の家庭裁判所の許可審判で養子決定の代行をして縁組を成立させることができるか否かについて議論があった。その際、養子決定の裁判を養子縁組の実質的成立要件として公的機関の関与を必要とする部分と養子縁組を創設する方式の部分とに分解し(分解理論)、前者については家庭裁判所の許可審判で代行可能とし、後者については方式の問題であるので、法例22条により行為地であるわが国の方式、すなわち届出をすることによって成立させることができるとする考えが採用された。

 しかるに特別養子縁組制度が創設されてからは、特別養子制度は普通養子制度とはまったく別個の制度ではなく、しかも普通養子制度よりも厳格で効果が強い養子を成立させるものであり、家庭裁判所がそのような養子を成立させる権限を有した以上、普通養子を成立させる権限をも有するに至ったと考えられるとして、準拠法が決定型を採る外国法の場合、わが国の家庭裁判所は、管轄権があれば、その決定の代行の審判ができるものとされている(平成元年1027日第166回東京戸籍事務連絡協議会 「第166回戸籍事務連絡協議会協議結果の解説」 家月423175頁、『実務戸籍法』342)

 ただ、日本人と本国法が決定型である外国人の夫婦が共同で未成年者を普通養子縁組しようとする場合には、外国人養親についてだけ成立審判をするというわけにはいかないので、ともに許可審判によることになる。というのは、分解理論により、外国人養親側の養子縁組の成立決定は、上述のとおり、実質的成立要件として公的機関の関与を必要とする部分と養子縁組を創設する方式の部分とに分解し、前者については、日本人養親側とともに許可審判によることになり、後者については、ともに創設的届出をすることにより、その夫婦による普通養子縁組が成立することになるとしているのである(『改正法例の解説」142頁以下)

 なお、ここにいう創設的縁組届出とは戸籍法上の届出によって成立する普通養子縁組のみを対象とするものである。わが国において我が民法上の特別養子縁組をするときには、当該縁組は家庭裁判所の審判により成立するものであり、届出は報告的届出となることに注意しなければならない(民法817条の2、戸籍法68条の2631)

したがって、養子縁組の届出については、実務は、契約型養子縁組及び許可審判による養子縁組については創設的届出を、成立審判による縁組の場合は報告的届出を要求しているということになる(『渉外家事事件整理ノート』215頁参照)

 

改正提案

 日本人と本国法が決定型である外国人の夫婦が共同で未成年者を普通養子縁組しようとする場合には、日本人養親についても外国人養親についても、家庭裁判所の審判により縁組は成立したものとする。

 

 夫婦共同養子縁組については夫婦同時に養子縁組を成立させる必要のあるところから、外国人養親について本来「成立審判」、すなわち家事審判規則64条の4の審判をしなければならないところ、日本人養親に合わせて「許可審判」をするというものである。しかし、分解理論については、従来より、「この理論はあくまでもわが国の実務に適合させるために便宜上考案されたものであって、裁判所の決定により養子縁組自体を成立させる決定の趣旨に合致したものとはいいがたい。」として批判されている(山田・508頁、同じ立場に立つものとして溜池・479頁、櫻田・284)

 このように日本の法制度に合わせて外国法上の養子決定を再構成する分解理論は、日本に養子決定制度がない時代に生まれたものであり、その時代には一定の役割を果たしてきたことを否定するものではないが、もはやその役割を終えているのではないか。いまや日本においても特別養子縁組の導入とともに家庭裁判所による養子決定ができるようになっている以上、より厳格な手続によるべきであり、その外国法が養子決定を必要としているのであれば、これをその通りに行うべきである。すなわち、日本人養親についても外国人養親についても、家庭裁判所の成立審判をすべきである。このようにすると、日本人養親については必要以上の手続をすることになるが、この点は「大は小を兼ねる」と考えればよく、外国人養親について日本的な独自の解釈に基づく処理をすることの問題の方が大きいと考えられる。そして、このような場合に養子決定をすることにすれば、外国において日本での養子縁組が承認されることをより確保できるものと考えられる。もっともこの考え方は戸籍実務の問題以上に家事審判における取扱い方の問題であるので、渉外戸籍法という観点からすると戸籍の取扱いとしては家庭裁判所の審判によって縁組は成立したものとして、創設的届出ではなく、報告的届出をすることを求めるべきであるとするのが、「成立したものとする」という改正提案の文言の意図するところである。

 

4.02.02[実質的成立要件の審査]

現行実務

(1) 創設的養子縁組届は養親の本国法に定める実質的成立要件が具備していることが確認されなければ受理することはできない。但し、養親の本国法上反致が成立するときには日本法に定める成立要件を具備していることを確認しなければならない。

(2) 創設的養子縁組届は前項に定める成立要件を充足している場合でも、養子の本国法上の保護要件をも満たしていることを確認しなければ受理することはできない。

(3) 養子の本国法上の保護要件の審査にあたり、養子の本国の官憲の発行した要件具備証明書の提出があるときは、養子の本国法上の保護要件が備わっているものとする。

 平成元・102民二第3900号通達第51

 島野57(戸籍718)4.01.011.02.01 参照。

 

 創設的養子縁組届についての規定であるから、養親の本国法が決定型の縁組ではなく、契約型の養子縁組法制を有している場合についての規定である(決定型養子縁組について創設的届出をする場合については4.02.01a(分解理論)参照のこと)。決定型の場合には、原則として、報告的届出となる。

 具体的な要件審査については養子縁組については養親と養子の本国法をそれぞれ配分的に適用していないため、要件具備証明書による取扱は一部についてのみ可能である。即ち養親と養子の本国法が異なるときには、養親の本国法上の実質的成立要件を養子のほうが充足しているかどうかは、養親の本国の官憲が発行した証明書からは明らかにならない。また、養子の本国の官憲は自国の要件を養子が充足していることを証明できても、養親の本国法の要件を充足しているかは証明できない。そこで養子縁組の実質的成立要件を充足しているか否かは、要件審査の原則的な取扱、すなわち、準拠法である養親の遠国法の規定内容を明らかにした上で、当事者双方の身分関係事実を証明する資料により各要件を満たしているか否かを判断するということになる(『実務戸籍法』343頁、279頁、『はじめての渉外戸籍』151)

 もっとも、養親側がその本国法に定める一方要件を充足しているかは、養親の本国官憲の要件具備証明書があれば証明可能である。また、平成元・102民二3900通達は養子の本国法上の保護要件については養子の本国の官憲の発行する要件具備証明書は、法律上必要とされる保護要件を超えて本国法上のすべての要件を具備していることを証明するものであるから、これを提出するよう求めることは過大な要求になるのでできないが、これが任意に提出されればこれにより保護要件が備わっているものとすることにしている(『実務戸籍法』345)

また、本国法の規定については、わが国に明らかになっているような場合を除き、本国官憲の証明するもののほか、出典を明示した法文の抜粋の写しが必要となる。さらに法律内容が不明の場合には管轄法務局に受理照会をし、法務省民事局、外務省を通じて調査をすることとなる(『はじめての渉外戸籍』152)4.02.03参照。

 保護要件については40101の「保護要件に属する事項」参照のこと。

 

4.02.03[添付書類]

現行実務

(1) 養子縁組の届出の受理に際しては、養親の本国法に基づく養子縁組の実質的成立要件が具備されているか否か、及び、養子の本国法上の保護要件を満たしているか否かを審査するのに必要な書類の提出を求めることができる。

(2) 当事者が任意に提出する場合を除いて、養子の本国の官憲の発行する要件具備証明書の提出を求めることはできない。

(3) 届書に添付する書類その他市長村長に提出する書類で外国語によって作成されたものについては、翻訳者を明らかにした訳文を添付しなければならない。

 (1)について、戸籍法施行規則63条、

 (3)について、戸籍法施行規則63条の2

 

(1)について

 審査のための書類は以下のものが挙げられる。

 年齢、身分などの身分関係事実の審査書類として、各当事者の身分証明書・出生証明書。親族関係証明書・戸籍謄本等。

 承諾・同意・許可等を必要とする場合の審査書類として、承諾書・同意書・許可書等。このうち、外国の官憲・裁判所等公の機関の許可等については、当事者が本国を離れていて養子縁組成立に必要な本国官憲の許可等を取得することが困難である場合にはわが国の裁判所の許可審判をもってその本国の許可に代えるとすることが可能である(『新版・実務戸籍法』334339)

 また、証明書作成者の権限又は有効性に疑義のある場合には、監督法務局の長に照会することとなる(小原薫「一目でわかる渉外戸籍の実務」98)

 本国法の内容についての証明書の提出を求めることもできるが、この趣旨は、その証明書の添付を義務付けるものではなく、そのような証明書が提出されない場合には、管轄局の長に受理照会をする等の措置をとることになる(1.03.01参照)

 

* 養子縁組を成立させる判決書を養子本国法の保護要件を充足している旨の証明書として認めた事例として、平13518民一326号回答(東京法務局民事行政部長あて民事局民事第一課長回答)がある。これによれば、パラオ共和国最高裁判所判決によりパラオの方式により特別養子縁組が成立したものとも、わが国の方式による普通養子縁組が成立したものとも認められないとした上で、当該判決書を養子の保護要件を満たしている旨の証明書として添付の上、創設的な養子縁組届を新たに提出すれば受理可能とされている(戸籍72191)

 

(2)について

 平成元・102民二第3900号通達第51(1)において「提出のあるときには」ということを明確にしたものである。この点については4.02.02参照。

 

(3)について

 1.03.02参照。

 なお、添付書類については婚姻5.02.02も参照のこと。

 

4.03 養子縁組の報告的届出

4.03.01[報告的届出]

現行実務

(1) わが国における養子縁組の成立

 () 養親の本国法が普通養子縁組について裁判所の決定等により縁組を成立させる法制を採用している場合において、家庭裁判所の養子縁組を成立させる旨の審判書謄本を添付して養子縁組の届出があったときは、その届出は、戸籍法第68条の2により受理する。ただし、この場合においては同法第20条の3の規定を適用しない。

 () 家庭裁判所が渉外的な特別養子縁組を成立させる審判を行った場合において、戸籍法第68条の2による届出があったときは、同法第20条の3の規定を適用する。

(2) 外国における養子縁組の成立

 外国において養子縁組をした旨の報告的届出があった場合は、養子縁組の準拠法上その養子縁組が無効でない限り、これを受理する。外国において日本人を特別養子とする縁組が成立した旨の報告的届出があったときは、その養子について新戸籍を編製する。

 平成元・102民二第3900号通達第52、島野58(戸籍718)

 

(1)()について

 4.02.01a(分解理論)についての項、参照のこと。

 平成元・102民二3900通達第52(1)アは、家庭裁判所が普通養子も成立せしめる管轄権を有することを前提に、養子決定があった場合に於ける報告的届出の手続を定めており、準拠実質法が決定型の場合は家庭裁判所もその国の官憲に代行して養子決定することができることを明らかにしている(『改正法例の解説』142頁、戸籍55636頁参照)

 

(1)()について

 準拠法が外国法の場合、それが断絶型の養子制度を採用している場合、許可審判では代行することには無理があるので、普通養子縁組より要件の厳格な特別養子縁組の成立手続で代行させる必要がある。そのときには成立審判によることになるので報告的届出となり、日本人養子については、特別養子縁組による新戸籍編製の規定も適用されることになる(20条の3)。 また、既に戸籍の記載を終了している養子縁組についても、特別養子縁組制度が創設された昭和6311日以降に成立した断絶型養子縁組であることを明らかにする書面を提出して、実親等との親族関係が終了する旨の追完の届出があるときは、その養子について新戸籍を編製する取扱いとする(6428民二2996通達、西田幸示「渉外的な断絶型養子の取扱いについて--平成6428日付け民二第2996号法務省民事局長通達の解説--」民事月報4967、戸籍6201頁以下、「渉外戸籍の理論と実務」231)。したがって、ここにいう「特別養子」が日本民法によるものだけでなく、外国法に準拠して成立する断絶型養子縁組を含むことになることについては4.03.04の解説参照のこと。

わが国の家庭裁判所において渉外的な特別養子縁組を成立させた事例としては以下のものがある(北野俊光「特別養子縁組の審判例について」戸籍61727頁、家月458 頁)

-         フランス人(養父)と日本人(養母)と日本人(養子)との間の養子縁組についての京都家審昭6369家月401239---フランス民法348条の5が実親による縁組の同意の有効要件とする「少年社会援助機関又は許可を受けた縁組事業」への子の委託は、わが国における「社会福祉法人日本国際社会事業団」への委託をもって代えることができるとする。

-         英国人(養父)と日本人(養母)と日本人(養子)との間の養子縁組についての京都家審昭63628・家月401244---わが国の「社会福祉法人日本国際社会事業団」をもって英国養子法13条の「養子斡旋機関」に準じて考えることができるとする。

-         日本人(養父)と英国人(養母)と日本人(養子)との間の養子縁組についての東京家審平元・1024・家月42747---英国養子法12条が縁組成立の要件とする「裁判所のする養子決定」はわが国の家庭裁判所がする特別養子縁組成立の審判によって代えることができ、同胞13(3)の「地方当局」による申請者の下における児童の視察は、日本民法817条の8の家庭裁判所による試験養育の状況の考慮(ただし、期間は12箇月に修正)をもって代えることができるとする。

-         米国人(イリノイ州出身 養父)と日本人(養母)と日本人(養子)との間の養子縁組についての山口家審平元・1026・家月42752

 

(2)について

 日本人について、外国法により養子縁組をした旨の報告的届出があった場合は、当該縁組が外国裁判所の決定により成立した場合を含めて、法例20条が指定する準拠法に照らして、無効とされる事由がない限り、当該養子縁組は有効なものとして取扱われ、受理されることになる。また、外国裁判所による養子決定を証明する書面は戸籍法第68条の2(特別養子縁組の届出)の書面ではなく、第41(外国の方式による証書の謄本)の書面として取扱われる(『新版・実務戸籍法』347頁注(1)参照)

 外国裁判所で養子決定があった場合、これを民事訴訟法118条の判決の承認の問題として捉えるべきとの考え方もあるが、戸籍実務は一貫して法例を適用して準拠法による審査説の立場に立つ(昭和29115民甲第2347号回答)(民事月報44巻「号外法例改正特集」299頁以下、 『新版・実務戸籍法』348頁、戸籍63779)。その理由は、養子縁組については、国によって社会秩序、歴史的沿革から固有の法制がとられており、各国、様々であり、その要件・効果等は法制により大きく異なっているので、法例が指定する準拠法以外の法律によった場合は、わが国の法秩序に反する養子縁組が成立する恐れがあるからであるとされている。また、養子決定の裁判は、わが国では家事審判法による審判によってなされるが、これは非訟事件として争訟性がなく、裁判所の関与は養子の福祉、保護から後見的なものということができ、離婚・離縁とは異なることも理由として挙げられる(Q & A 渉外戸籍と国際私法』239頁以下)。したがって、養子縁組の裁判を証する書面は戸籍法41条の証書として取扱われることとなる。

 なお、(2)にいう「外国において日本人を特別養子とする縁組」には日本法を準拠法として成立した特別養子縁組ばかりでなく、外国法を準拠法として成立した断絶型養子縁組も含まれる。したがって、養子が日本人であって、養親が外国人の場合に養親の本国法たる外国法によって断絶型養子縁組が成立したときには、戸籍法20条の3が適用され、養子につき新戸籍が編製される(6428民二第2996号通達)(西田・前掲 戸籍62021頁、 戸籍の処理については島野・戸籍71816頁、4.03.04を参照のこと)。この点につき、4.03.04の解説参照のこと。

 先例としては、次のものがある。

-         アメリカ人男と日本人女の夫婦がアメリカ、ワシントン州において、わが国の特別養子縁組が成立した旨の届出をしたが、アメリカ合衆国ワシントン州の方式によって成立した断絶型養子縁組をわが国の特別養子縁組が成立しているものと同視して差し支えないとする先例(4326民二第1504号回答)

-         米国人夫と日本人妻の夫婦が日本人を養子とする特別養子縁組がアメリカ合衆国カリフォルニア州の上級裁判所の養子宣告(アダプション・オーダー)によって成立したとする報告的な特別養子縁組届について、日本民法の要件である実父母の同意がないので、特別養子縁組が成立したものとは認められず、普通養子縁組が成立したものとして処理するのが相当であるとした事例(1029民二255回答)(戸籍673号、80頁以下、島野・戸籍71814)

-         日本人女(単身、45)がケニア人の18歳の男子を養子とする普通養子縁組がケニア共和国の高等裁判所の養子縁組命令(アダプション・オーダー)によって成立したとする報告的養子縁組届について、受理して差し支えないとされた事例(10324民二573回答)(戸籍676号、77頁以下、島野・戸籍71815)

-         タイ人の妻を有する日本人男が単独で妻の嫡出でない子を養子とする養子縁組が行為地であるタイ国の方式にしたがって、タイ国未成年者養子縁組法が定める未成年者養子縁組委員会の許可を得て成立したとする記載のあるタイ国バーンケーン区役所発行の養子縁組登録証を戸籍法第41条に規定する証書の提出があったものとして、受理して差し支えないとされた事例(10813民二1516回答)(島野・戸籍71815)

-         日本人男と、同男と婚姻したパラオ人女の嫡出でない子とのパラオ国の方式による報告的養子縁組届は、夫婦共同で縁組すべきであるため、受理すべきでないとされた事例(13518民一1326回答)(戸籍72186頁以下)

 

4.03.02[届出義務者]

現行実務

(1) 家庭裁判所による養子縁組の審判が確定した場合には、その審判を請求した者は報告的届出をしなければならない。

(2) 外国において外国の方式又は裁判により日本人を当事者とする養子縁組が成立した場合には、その養子縁組の日本人当事者は、その旨の報告的届出をしなければならない。

 (1)について、戸籍法68条の2631項、

 (2)について、戸籍法41条。

 島野58(戸籍718)

 

(1)について

 わが国の家庭裁判所の審判により養子縁組が成立するのは、決定型養子縁組を定める準拠外国法に従い、家庭裁判所が決定の代行の審判をした場合と日本民法の定める特別養子縁組の審判がなされたときである。いずれの場合も戸籍法68条の2による届出として受理されることになるので、戸籍法631項が準用されることになる。特別養子縁組については、昭62101民二5000通達第61(1)において「特別養子縁組の審判が確定した場合は、審判を請求した養父又は養母は、審判が確定した日から10日以内に審判の謄本と確定証明書を添付して届け出なければならない。」とされている。

 なお、4.02.01aに述べた改正提案の場合、この規定に従うことになる。

 

(2)について

 これは契約型の養子縁組の場合に限らず、外国裁判所による養子縁組の成立の場合にも適用される。実務においては、外国裁判所による養子縁組には戸籍法68条の2の適用はなく、戸籍法41条による届出を要し、その際には準拠法上の無効原因があることが明らかであれば、その受理をしないとの扱いをしている(『新版・実務戸籍法』347頁。ただし、戸籍法41条の証書として扱うのではなく、同法68条の2の届出とし受理するとの考え方も示されている)

 なお、外国から本籍市町村長に対して直接郵送した場合も、戸籍法41条の証書の届出があったものとして扱う(『全訂戸籍法』242)

 日本人未成年者が外国人の養子となる場合、当該外国人養親は戸籍法31条により届出義務を負うことになる。

 

4.03.03[添付書類]

現行実務

(1) わが国の家庭裁判所において養子縁組成立の審判がなされた場合には、審判書謄本を添付して縁組の届出をしなければならない。

(2) 外国にある日本人について、その国の方式等に従って、養子縁組が成立した場合には、養子縁組の成立を証する書面(証書若しくはその謄本又は証明書)を提出しなければならない。

(3) 届書に添付する書類その他市長村長に提出する書類で外国語によって作成されたものについては、翻訳者を明らかにした訳文を添付しなければならない。

 (1)について、平成元・102民二3900通達第52(1)ア、

 (2)について、戸籍法41条、

 (3)について、戸籍法施行規則63条の2

 

 わが国において、養子縁組の成立の報告的届出がなされるのは、わが国の家庭裁判所で縁組成立の審判をしたとき、及び外国において養子縁組が成立した場合である。前者の場合には、特別養子縁組の成立と準拠法たる外国法が決定型普通養子縁組制度を有しているために、わが国の家庭裁判所で成立の審判をした場合(このときには、日本人養親との共同縁組の場合には分解理論により現行実務では創設的届出となることに注意しなければならない。4.02.01a参照。但しこれについては改正提案あり。)である。これらの場合には家庭裁判所の養子縁組を成立させる旨の審判書謄本を添付して届出をすればよいことになる(68条の2)

 これに対し、後者、すなわち外国で成立した養子縁組については外国の裁判所で成立したものも含まれるが、外国で縁組が成立したことを証明する書面は裁判所の決定を証明する書面を含めて全て戸籍法41条の証書として取り扱われることについては4.03.01(2)の解説参照のこと(『新版・実務戸籍法』347)

 証明書作成者の権限又は有効性に疑義のある場合については4.02.03参照。

 

4.04 戸籍への記載

4.04.01[戸籍への記載]

現行実務

(1) 日本人と外国人との間で養子縁組が成立した場合、日本人当事者の戸籍には変動は生じない。ただし、次の場合にはこの限りではない。

(a) 日本人と外国人との夫婦が日本人を養子とする場合には、養子は日本人養親の戸籍に入る。

(b) 養子が日本人の場合、断絶型養子縁組(養親が日本人の場合には特別養子縁組。)が成立したときは、その子について新戸籍を編製しなければならない。

(2) 日本人と外国人との間で養子縁組が成立した場合、日本人当事者の身分事項欄に養子縁組成立の旨を戸籍する。

 (1)(a)について、戸籍法183項、

 (2)について、戸籍法施行規則353号。

 島野59(戸籍718)

 

原則

 戸籍は、日本国民の身分関係を登録公証するものゆえに、日本国民についてのみ編製される(「全訂戸籍法」46)。日本の国籍法上、養子縁組によって国籍が変動することはないので、日本人が外国人の養子になった場合、日本国籍を保有する以上、その戸籍は抹消されない。この大原則を(1)の本文で示している。ただ、国内の養子縁組においては養子は養親の戸籍に入ることが定められているので(183)、日本人と外国人夫婦の養子となった日本人は、日本人養親の戸籍に入ることになる。そして、外国人と日本人間の養子縁組については(2)にあるように、日本人養親あるいは養子の戸籍の身分事項欄に縁組成立の旨の記載がなされるだけで、戸籍そのものに変動のないことは原則どおりである。

 

新戸籍の編製

  日本人養子について新戸籍が編製される場合がある。それは、断絶型養子縁組が成立するときである。昭和62年に特別養子縁組制度がわが国でも新設されることとなり、そのために特別養子となった者については、昭和62101日付け民二5000号通達等により新戸籍の編製がなされることになっている。しかし、この通達により新戸籍を編製される者は、飽くまでわが民法により特別養子縁組が成立した者に限られており、戸籍実務ではわが民法により成立した断絶型養子縁組のみを「特別養子縁組」と呼び、外国法により成立した断絶型の養子縁組は「特別養子縁組」とは区別される断絶型養子縁組として取扱いを異にしてきたのである。当然、縁組当事者からは日本民法における特別養子縁組と同様の取扱いを望む声が寄せられ、平成6428日付け民二第2996号通達「渉外的な養子縁組の処理について」が発せられ、その結果、外国法を準拠法とする養子縁組について、その届書に養子とその実方の血族との親族関係が終了する旨及び養子について新戸籍を編製する旨が明記してあり、かつ、当該縁組が断絶型のものであることを明らかにする書面の提出があるときには、戸籍上も断絶型養子であることを明らかにし、特別養子縁組に準じ、養子について新戸籍を編製することとしたものである(西田幸示「渉外的な断絶型養子の取扱いについて―平成6428日付け民二第2996号法務省民事局長通達の解説―」戸籍6203)

 この平成6年の通達から明らかになる取り扱いは以下のとおりである。

-         特別養子は、日本民法による場合のみ成立する。

-         日本の裁判所において成立した外国法による断絶型養子の報告的届出は、戸籍法68条の2により受理し、戸籍法20条の3により日本人養子につき新戸籍を編製する。

-         外国の裁判所において成立した断絶型養子の届出は、戸籍法41条の証書として取扱い、戸籍法20条の3により日本人養子について新戸籍を編製する。

-         外国の裁判所において日本民法による特別養子縁組が成立している場合には特別養子として処理し、戸籍法20条の3により新戸籍を編製する。

-         外国法に従い、裁判所によらずして成立した断絶型養子の届出が在る場合、戸籍法20条の3に従い、日本人養子につき新戸籍を編製する(西田・前掲20)。この点については4.03.01の解説も参照のこと。

 したがって、養親の本国法が普通養子縁組について裁判所の決定等により縁組を成立させる法制を採用している場合において、それが断絶型でないときには当然新戸籍は編製されないことは従前どおりである(平成元・102民二3900通達第52(1))

 さらに、新戸籍の編製される場合としては、養子が日本人の場合、戸籍法1074項の定めに従い外国人養親の氏に変更する旨の届出があったときは、養子について新戸籍を編製する(戸籍法20条の2)ことになる。これについては9.04.01参照のこと。

 

4.05 離縁

4.05.01[離縁の準拠法]

現行実務

(1) 離縁については、養子縁組当時の養親の本国法による。

(2) 夫婦共同養子縁組の場合における離縁については、養親それぞれの本国法に依る。一方の本国法を適用するに当たり、他方の本国法を考慮する必要はない。

(3) 離縁の方式(形式的成立要件)は、養子縁組当時の養親の本国法又は行為地法による。

 (1)について、法例202項、

 (3)について、法例22条。

 

(1)について

■ 法例改正の趣旨

 養子縁組の解消を離縁という。改正前192項は離縁については、「離縁当時の養親の本国法」を準拠法としていたが、縁組についてはその成立から終了まで同一の法律により一貫させることがより適切であると考えることができ、また、離縁は養子縁組の成立を否定するものであると考えると、離縁の準拠法は、養子縁組の要件と整合させる必要のあること等から、法例202項においては「縁組当時」の養親の本国法に依ることとしている(『新しい国際私法』188)

 したがって、平成元・102民二3900通達第61では「離縁については、養子縁組の当時の本国法によることとされたので、渉外的な協議離縁の届出についての取扱いは、養親の本国法が縁組時と離縁時とで異なる場合を除き、従前のとおりである。」とされている。この場合、201項後段(保護要件)の適用の無いことは、法文上明らかである。

 また、養親の縁組当時の本国法が、縁組成立後に改正されている場合に、新法が適用されるのか、旧法が適用されるのかという問題については、その本国法の定める時際法によることになる。ここでいう[縁組当時]という文言は、縁組当時の養親の国籍を連結点として、その本国法によるという趣旨だからである(Q&A渉外戸籍と国際私法』250)

養親の本国法の認定について平成元・102民二3900通達第61は以下のように述べる。

 「縁組事項を記載した戸籍に養親の国籍として単一の国が記載されているときは、その国の法律を養親の縁組当時の本国法として取り扱って差し支えない。」

 したがって、離縁時に新たに国籍証明書等の提出は必要としないことになる。添付書類については4.05.03参照。

■ 準拠法の適用範囲

 離縁が認められるか、あるいは協議による離縁が可能か、それとも裁判離縁によらなければならないか、夫婦については必要的共同離縁が強制されるか否か等の問題についてはすべて養親の縁組当時の本国法によることとなる。但し、離縁の方式については、(3)にあるように、縁組当時の本国法又は行為地法によることになる。

 協議による離縁が可能か否かは、養親の本国法だけで決まるので、養親が日本人の場合には養子が外国人でその本国法が裁判離縁のみ認めているときであっても、協議離縁が民法8111項により可能となる。 

反対に養親がアメリカ人の場合には、養親の本国法たるアメリカの各州の法律いずれも協議離縁制度を有しないので、協議離縁はできないことになる(3097民甲1879回答、昭391111民甲3631回答)

■ 反致

離縁についても反致(法例32)がある(4.01.01の「反致」の解説参照のこと)

問題は、離縁について縁組当時の縁組準拠法と離縁の準拠法の同一性を維持しようとしているにもかかわらず、養親の本国の国際私法が縁組成立後に改正され、縁組当時は反致されなかったものが、反致されるようになったり、その逆の場合が生じることである。この点は理論的には反致と時際法の関係といった大きな問題があるが、202項の制定の趣旨からすると、縁組成立の準拠法と離縁の準拠法の同一性の維持が重要と考えられるので、縁組成立準拠法と異なる法を準拠法とするような反致は認められないと考えるべきであろう。すなわち、法例202項は「前項前段ニ定ムル法律ニ依ル」と規定しているが、これは縁組の成立を認めた法律という趣旨と解するべきである。

 

(2)について

平成元・102民二3900通達の縁組の部分、第5(3)に基づく。離縁について平成元・102民二3900通達は改めて同趣旨のことを繰り返してはいないが、法例202項の趣旨からすると、離縁についても同様のことがいえるので、ここで繰り返した次第である。

■ 夫婦共同離縁の可否

夫婦共同縁組の可否で問題になったのと同様、ここでも養親それぞれの本国法の違いから、夫婦共同離縁の可否が問題となる。とりわけ、我が民法811条の2において養親が夫婦である場合、未成年者養子を離縁するにあたっては必要的夫婦共同離縁が要求されているところから、日本人と外国人夫婦の場合、外国人養親の本国法が離縁を禁止しているときの取扱いが問題となる。これについては、先例は昭和62年法律101号により811条の2が新設され、但書で例外が認められるようになる以前から、日本人養親の単独離縁を認めていた。すなわち、昭26621民甲1290号民事局長回答によれば、養父(アメリカ在住のアメリカ人)の本国法上、離縁の制度がないけれども、日本人養母と日本人養子との間で離縁をしたいという場合、「日本民法の解釈上配偶者を有する養母については、原則としてその配偶者とともにせざれば協議離縁はできないとする取扱であるが、所問のようにその配偶者の本国法に協議離縁の制度がない場合は、各別に離縁するほかはないので、養母との協議離縁届は受理して差しつかえない」とされている。そして、養子は、養母との離縁により実方に復籍するとした。また民事局長回答昭和63127日民二432号も同趣旨のものである。

 811条の2の但書は、「夫婦の一方がその意思を表示することができないときは、この限りではない。」として例外を認めるが、これは、必要的共同縁組の場合と同様、不能事を強制しないとの法思想に基づくものであり、この趣旨からすると、離縁の法制がない場合には、必要的共同離縁をしようにも、一方が不可能であるので、共同離縁は強制されず、単独離縁が可能であるということになる(『新版・実務戸籍法』353)

 以上の先例からいえることは、夫婦の一方の本国法上単独離縁が可能なばあいには、他方が必要的共同離縁あるいは離縁を禁止していたとしても、単独離縁が可能であるということになる。しかし、問題は、夫婦が養親となっている場合において、養親の一方の本国法が離縁を認めず、他方の養親の本国法が絶対的に夫婦共同離縁を要求しているときには、離縁を認めることはできないのかどうかということである。

 法例20条の解釈として、このような場合には離縁は認められないと解される。というのは、養子縁組成立について、夫婦の一方の本国法上、養子制度がないなどの理由で、養子縁組をすることができず、他方の本国法が夫婦は共同でなければ養子をすることができないとするときは、夫婦共同縁組ができないことはもちろん、単独縁組もできないとされているので(溜池『国際私法講義(2)481)、離縁はその裏返しであるから、単独離縁はできないと解されるからである。養子縁組という制度は慎重に運用すべきあり、養親の本国法によるという規定は、本国法を異にする夫婦が養親となる(である)場合には、それぞれの養親と養子との間について適用される養親の本国法がそれぞれの関係について完全に満たされるような扱いをすべきである。

 ただ、民法811条の2但書の趣旨、及び795条についての最判昭和48412日民集273500の趣旨からすると、日本民法上、共同縁組及び共同離縁の要請はそれほど強いものとはいえない。そうであれば、昭和26年の事例において、養母との間でのみ協議離縁届を受理することを認める、という解釈も全く不可能というわけではない。 

 しかし、本研究会では、他方配偶者の法制上、離縁が認められないときが但書にあたるかは疑問であり、上記回答は支持できず、昭和26年の事例においても単独離縁は認められないとするのが多数意見である(ただこれは法例の解釈ではなく、民法の解釈の問題である。したがって、後述の@又はAのいずれに我が民法が含まれるか否かについて、現行実務と研究会の多数意見が異なるということである)

 もっとも、そのような結果をもたらす養父の本国法の適用が公序(法例33)に反するということはあり得よう。しかし、戸籍窓口において公序違反を理由として外国法の適用を排除するという措置をとることは適当ではないので、窓口では離縁を不受理とし、その後、当事者は離縁を求める裁判を提起し、その中で公序違反となるか否かの点を判断すべきである。

 したがって、夫婦共同縁組の場合の離縁については以下のように解すべきであろう。

 @ 夫婦が養親となっている場合において、夫婦の一方の本国法が離縁を認めないときであっても、他方の養親の本国法が単独離縁を認めているときは、後者と養子の離縁は可能である。

 A 夫婦が養親となっている場合において、養親の一方の本国法が離縁を認めず、他方の養親の本国法は必要的共同離縁を要求しているときは、離縁を認めることはできない。

 

(3)について

 4.01.01の解説参照のこと。

 

4.06 離縁の創設的届出

4.06.01[離縁の創設的届出]

現行実務

(1) 離縁の準拠法が日本法であるとき、又は離縁が日本でなされるときには離縁の届出をすることができる。

(2) 外国に在る日本人同士が離縁をするときには、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事に届出をすることができる。

 (1)について、法例22条、

 (2)について、戸籍法40条。

 

 創設的届出は方式の準拠法が日本法でなければできないことは、縁組の場合と同様である(4.02.01及び1.02.01参照)。離縁の実質的成立要件については、4.04.01参照。

 

(1)について

 離縁についても縁組同様、当事者間の合意によって離縁を可能とする制度と裁判等の公の機関の許可・決定があって始めて離縁が成立する制度の2種類がある。各国はいずれか、あるいは双方の制度、さらには離縁を禁止するなど、様々な法制度を有するが、わが国において届出により離縁が成立する創設的離縁届が可能な場合は、縁組成立の準拠法が日本法の場合か、準拠法が外国法であっても合意による離縁を認める法制度を有しており、行為地が二本である場合となる。このとき、離縁の届出によって離縁が成立することになるが、これは反面、離縁をしようとする者は、その旨を届出なければならないということでもある(戸籍法70)

 創設的届出については、身分関係を形成しようとする者は届出をしなければ、身分関係が成立しないので、届出義務という必要は一般的にはないといえよう。しかし、離縁の準拠法が日本法のとき、すなわち養親が日本人のときに、養親夫婦と15歳未満の養子の離縁についての届出は、戸籍法71条、民法8112項により、協議をする者がしなければならない。したがって、外国人養子についてその法定代理人を法例21条あるいは24条によって決めなければならず、そこで法定代理人となった者が外国人であっても、その者に届出義務が課せられることになる。

 さらに、日本法が準拠法となる場合の創設的届出として特殊なものに死後離縁がある。死後離縁は、生存当事者が家庭裁判所の許可を得てする一方的意思表示によるものであり(民法8116項、梶村太市「養子事件の法律実務」130)、協議離縁や裁判離縁とは法的性質が異なる離縁と解されており、戸籍法72条では生存当事者だけでその届出をすることができることになっているが、この届出も創設的届出である。

 

(2)について

 縁組の場合とは異なり、民法801条ではなく、戸籍法40条を根拠とするものである(『全訂戸籍法』239)外国にある日本人と外国人との間の離縁については、戸籍法40条が「文理上外国人に適用はないと解されている」とされ(同頁)、日本の在外公館に届出をすることができないとされている(協議離婚についてであるが、昭和26913民甲1793回答参照)1.02.02参照。

 

4.06.02[実質的成立要件の審査]

現行実務

創設的離縁届は縁組当時の養親の本国法に定める実質的成立要件を具備していなければ受理することはできない。但し、反致が成立するときには日本法に定める成立要件を具備していればよい。

 島野61(戸籍7214頁以下)

 

 創設的届出ができるのは、準拠法上、協議離縁ができること、そして方式としてわが国の戸籍役場に届出することができる場合、すなわち、離縁の準拠法が日本法であるか(つまり養親が日本人の場合)か、離縁の行為地が日本の場合である(法例22)。したがって、審査としては@準拠法上、協議離縁ができること、A当事者がその要件を備えていること、B方式について日本法が適用されること、及びその要件を備えていること(戸籍法7071)に留意する必要がある(『はじめての渉外戸籍』160)

 反致一般については、1.06.05参照。

 

4.06.03[添付書類]

現行実務

(1)離縁の届出の受理に際しては、縁組成立当時の養親の本国法に基づく実質的成立要件が具備されているか否かを審査するのに必要な書類の提出を求めることができる。

(2)届書に添付する書類その他市長村長に提出する書類で外国語によって作成されたものについては、翻訳者を明らかにした訳文を添付しなければならない。 

 (1)について、戸籍法施行規則63条、

 (2)について、戸籍法施行規則63条の2

 4.02.02及び03参照

 

(1)について

 養親が日本人の場合は、通常の日本人同士の協議離縁の届出と同様である、したがって、添付書類としては、離縁時に外国人養子が15歳未満で、その実父母が縁組後離婚しているような場合には、離婚後の法定代理人の資格を証する書面の添付が必要となる(民法81123)。しかし、養子の国籍、氏名、生年月日は、日本人養親の戸籍の身分事項欄の記載から明らかであるため、これに関する証明資料の添付は不要である(『はじめての渉外戸籍』159)

 養親が外国人の場合は、@協議離縁制度のあること及びその要件を証明する文書、A縁組が当事者間に成立し、離縁の当時にも継続していることを証明する書類の提出を求める。外国人養親の国籍証明書は改めて求める必要はない。

@の証明書類は、法制不明のときにのみ要求すればよく、届出当事者から同制度があることの証明書若しくは要件具備証明書(本国官憲の発給したもの)又は出典を明示した法文(の写し)を提出させる(南・はじめての渉外戸籍161)。私人は法文の証明者たりえないので、これについては当事者の申述書ではまかなえない(『新版・実務戸籍法』354)

Aについては、戸籍又はその謄本、その他養子縁組届出の受理証明書(戸籍法48)などの提出を求めることになる(『はじめての渉外戸籍』161)。 

 本国法の内容についての証明書の提出を求めることもできるが、この趣旨は、その証明書の添付を義務付けるものではなく、そのような証明書が提出されない場合には、管轄局の長に受理照会をする等の措置をとることになる(1.03.01参照)

 

(2)について

1.03.02参照。

 

4.07 離縁の報告的届出

4.07.01[報告的届出]

現行実務

(1) わが国の裁判所において離縁の裁判が確定したときには、養親又は養子が外国人であっても、戸籍法73条の規定に基づき、離縁の届出をしなければならない。

(2) 外国の裁判所において日本国民を当事者とする離縁の裁判が確定したときには、戸籍法73条に基づき、離縁の届出をしなければならない。

(3) 外国において日本国民が外国の方式により合意による離縁をしたときには、戸籍法41条に従い離縁の届出をしなければならない。 

平成元・102民二3900通達第62島野62条、63(戸籍7216頁以下)

 

 離縁の裁判(外国における裁判を含む)が確定した場合における報告的届出の取扱いは、従前のとおりであり、外国において協議離縁をした旨の証書の提出があった場合の取扱いは、離縁の準拠法が改正された点を除き、従前のとおりである。

なお、(2)について、1.02.05参照。戸籍法73条により準用される戸籍法63条が定める「裁判が確定した日から10日以内に」の文言を改め、「(外国において離婚の裁判が確定した場合には)裁判が確定した日から3箇月以内に」とする改正提案については、1.02.05の改正提案を参照のこと。

 

4.07.02[届出義務者]

現行実務

(1) 家庭裁判所による養子離縁の審判が確定した場合には、その審判を請求した者は報告的届出をしなければならない。

(2) 外国において外国の方式又は裁判により日本人を当事者とする養子離縁が成立した場合には、その養子縁組の日本人当事者は、その旨の報告的届出をしなければならない。

 (1)について、戸籍法73条、631項、

 (2)について、戸籍法41条。

 

 前項及び4.03.02参照のこと。

 

4.07.03[実質的成立要件の審査]

現行実務

(1) 外国の裁判所において離縁の裁判が確定したとして届出があった場合には、民事訴訟法118条に定める要件を具備していなければ受理することはできない。

(2) 外国において日本国民が外国の方式により合意による離縁をした届出があった場合には、準拠法に定める要件を具備していなければ受理することはできない。

 

(1)について

 報告的届出をしなければならないのは外国の裁判所において離縁の裁判が確定したときばかりでなく、4.06.01で示したようにわが国の裁判所で離縁の裁判が確定したときもしなければならない。しかし、要件の審査が必要となるのは前者のみである。

 外国の裁判所で離縁の裁判が確定したときは、縁組成立のときとは異なり、準拠法要件の吟味は必要ではなく、離婚の場合と同様、外国判決の承認として扱われる。従って、その要件を明らかに欠いていると認められる場合を除いて、その届出を受理することとされている(離婚につき昭和51114280号通達)6.03.02参照

(『新版・実務戸籍法』354頁、389頁参照)

 

(2)について

 外国において外国の方式で協議離婚が成立したときには、実質的要件ばかりでなく、形式的要件についても具備しているかの審査が必要である。したがって、届出の提出があった場合には、提出された証書等が、法例22条で定まる方式準拠法所属国の官公署など権限のあるものにより申請に作成された書面であることを確認の上、その離縁が当該外国の方式によって成立したものかどうかを審査することになる。

 実質的要件の審査も縁組当時の養親の本国法の要件を具備しているかを審査することになり、無効事由があれば受理を拒むことになる(昭和5929890回答)。但し、取消し事由のあることを理由に受理を拒むことはできない。身分行為は成立しているからである(大正1511268355回答、昭和26728民甲1544回答、昭44213民甲208回答等、『新版・実務戸籍法』355頁参照)

 

4.07.04[添付書類]

現行実務

(1)外国の裁判所で離縁の裁判が確定したとして届出がなされた場合には、民事訴訟法118条に定める要件を具備していることを証する書面の提出を求める。

(2)外国で外国の方式に従って当事者の合意による離縁が成立した場合、準拠法の定める要件を具備していることを証する書面の提出を求めることができる。

(3)届書に添付する書類で外国語によって作成されたものについては、翻訳者を明らかにした訳文を添付しなければならない。

 (1)について、昭和51114民二280通達、

 (2)について、戸籍法施行規則63条、

 (3)について、戸籍法施行規則63条の2

 

(1)について

 平成元・102民二3900通達第62において、この場合は従前通りの取扱いをすることになっており、離婚と同様、外国判決の承認として取り扱うことになる。昭和51114民二280通達は、外国裁判所の離婚判決に基づく離婚届の受理に関しての通達であるが、離縁についてもあてはまるものといえる。この通達によると具体的に提出が求められる書面は、「原則として、判決の謄本、判決確定証明書、日本人の被告が呼出しを受け又は応訴したことを証する書面(判決の謄本によって明らかでない場合)並びにそれらの訳文の添付」ということになる。

 

(2)について

 ここでは形式的要件及び実質的要件について準拠法の定める要件を具備していることを証する書面が求められることになるので、実質的成立要件については4.5.03参照のこと。又、形式的成立要件については準拠外国法を証明する書面の提出が要求できる。これについても実質的成立要件において本国法を証する書面の提出を要求するときと同様といえる。

 

4.08 離縁の戸籍への記載

4.08.01[戸籍への記載]

現行実務

(1) 日本人と外国人の間で養子離縁が成立した場合、日本人当事者の戸籍に変動は生じない。ただし、次の場合にはこの限りではない。

 (a) 日本人と外国人夫婦の養子となった日本人は、離縁の成立により日本人養親の戸籍から縁組前の戸籍に入る。その戸籍が既に除かれているとき、又はその者が新戸籍編製の申出をしたときは、新戸籍を編製する。

 (b) 養子が日本人の場合、断絶型養子縁組(養親が日本人のときには特別養子縁組)により、養子につき新戸籍が編製されているときには、実父母の戸籍に戻るか、又は新たに戸籍を編製する。

(2) 日本人と外国人との間で養子離縁が成立した場合には、日本人当事者の戸籍の身分事項欄に離縁成立の旨を記載する。

 (1)(a)について、戸籍法19条、

 (2)について、戸籍法施行規則353号、3号の2

 

原則

 養子縁組が成立した場合と同様、渉外的養子離縁の場合も戸籍の変動は生じないので、日本人当事者の戸籍の身分事項欄に養子離縁届がなされた旨の記載がされることになる。この点につき4.03.04参照のこと。

 

断絶型養子離縁(特別養子離縁を含む)に基づく処理

 断絶型養子縁組(特別養子縁組を含む)が成立した場合には、日本人養子については新戸籍が編製されることになっている。これに合わせて、単に身分事項欄への記載のみではすまない場合が出てくるが、それが(1)(a)及び(b)の場合である。

 断絶型養子縁組成立の場合の戸籍の処理は、場合分けをしてみると以下のようになる(小原薫「新訂 一目でわかる渉外戸籍の実務」154)

 () 日本人が養親で外国人が養子の場合―――養親の身分事項欄に離縁の旨を記載。

 () 外国人夫婦が日本人を養子としている場合―――離縁により養子につき実父母の戸籍にもどるか、又は新戸籍を編製する。新戸籍を編製したときには、養子が特別養子縁組によって除籍された戸籍の養子の身分事項欄にも離縁の旨を記載する(62101民二5000号通達第62(2)のウ)

 () 日本人と外国人の夫婦が外国人を養子としている場合―――日本人養親の身分事項欄に離縁の旨を記載。

 () 日本人と外国人の夫婦が日本人を養子としている場合―――実父母の戸籍にもどるか、新戸籍を編製する。新戸籍を編製した場合は()と同じ。

 

戸籍法1074項の氏の変更のある場合

 養子が戸籍法1074項の規定により、外国人養親の氏を称している場合には養子について新戸籍が編製されているが(戸籍法20条の22)、離縁により再び日本人の実父母の氏に変更しようとするときには、戸籍法1071項の家庭裁判所の許可が必要であり、そのときには既に自己を戸籍筆頭者とする戸籍を編製したものであるので、分籍した者が親の戸籍に入籍しないという原則に従い、実父母の戸籍に入籍することはない。

 

死後離縁 

 死後離縁は生存当事者の一方的意思表示に基づく創設的届出であるが死後離縁の届出があったときには、その死亡当事者の戸籍に離縁事項は記載しないことになっている(昭和24421民甲第925号民事局長回答)。また、昭和62年の民法改正にあたって認められることになった養子死亡後の離縁の場合にも、死亡養子の戸籍には離縁事項は記載しないこととなっている(62101付け民二第5000号民事局長通達22)

 したがって、日本人養親の死亡後、外国人養子から死後離縁届が出されたときには、死亡当事者である日本人の戸籍の身分事項欄に離縁の旨は記載されず、離縁届書及び許可の審判書謄本を戸籍法施行規則50条に基づく戸籍記載不要届書類綴りに編綴する取扱いとなる(戸籍72968)

 


5 婚姻

 

5.01 婚姻成立の準拠法

5.01.01[婚姻の実質的成立要件の準拠法]

現行実務

(1) 婚姻の実質的成立要件は、各当事者の本国法による。

(2) 婚姻意思の有無、婚姻適齢、第三者の同意、肉体的又は精神的障害、は一方的要件とし、重婚の禁止、再婚禁止期間、近親婚の禁止については、双方的要件とする。

(3) 一方的要件を満たさない場合の効果は、当該要件を定める本国法の規定するところによる。双方的要件を満たさない場合の効果は、婚姻の成立をより強く否定する法律によることとなる。

(1)について、法例131項、平成元・102民二3900通達第11(1)ア、

2)について、『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』914頁、

3)について、東京家審昭和43425家月202091頁。『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』9頁。

 

(1)について

婚姻の実質的成立要件については、法例131項は各当事者の本国法によるとして、配分的適用主義をとる。したがって日本人には日本民法の規定が、外国人にはその者の本国法が適用されることとなる。各当事者の本国法の決定については、5.02.03を参照のこと。

 

(2)について

n        一方的要件と双方的要件についての学説

婚姻の実質的成立要件には、一方当事者にのみ関係する一方的(一面的)要件あるいは一方的(一面的)婚姻障害と、双方の当事者に関係する双方的(双面的)要件あるいは双方的(双面的)婚姻障害とがある。双方的要件については、両当事者の本国法上の要件をともに充足する必要があるため、結果的には、両当事者の本国法の累積的適用と同じ結果になる。したがって、婚姻の実質的成立要件に関しては、各要件が一方的要件あるいは双方的要件のいずれにあたるかの区別が重要となる。

この区別については、学説上、(i)国際私法独自に決定すべきであるとする見解(山田408409頁、溜池422頁、櫻田『国際私法(4)236頁、青木『基本法コンメンタール国際私法』88頁、海老沢「渉外婚姻の実質的成立要件−その一方要件双方要件に関する覚書」戸籍時報5337)と、(ii)準拠実質法の解釈・適用問題とみて準拠実質法により決定すべきであるとする見解(澤木敬郎『国際私法入門(3)108頁、木棚=松岡=渡邊『国際私法概論(3)(木棚)173頁、横山『国際家族法の研究』59頁、佐野「渉外婚姻の成立要件の準拠法」判タ747430頁、この見解に好意的なものとして山田=早田編『国際私法演習新版』(早田))とに分れる。さらに、(iii)両要件の区別は国際私法上のものであるとした上で、「婚姻の実質的成立要件」という単位法律関係を、男性に係る要件、女性に係る要件、双方に係る要件、と三つに分けて異なる連結政策をとることは、法例131項の解釈としては無理があり、結局、配分的適用とはいうものの、131項は累積的適用を定めていると解するほかない、とする見解もある(道垣内『ポイント国際私法・各論』6770頁、澤木・道垣内『国際私法入門(5)99)。また、(i)の国際私法独自説をとる立場においては、具体的にどの要件が一方的要件あるいは双方的要件にあたるかについて対立がある。

n        現行実務

現行実務は、これらの要件の区別は国際私法独自に決定すべきであるとの立場をとり(『渉外戸籍実務の処理U婚姻編』9)、具体的には、婚姻意思の有無、婚姻適齢、第三者の同意、肉体的又は精神的障害は一方的要件とし、重婚の禁止、再婚禁止期間、近親婚の禁止については、双方的要件とする(914)

n        各要件について

具体的な各要件に関していえば、まず婚姻適齢については、現行実務は上記のように一方的要件とするが、@の国際私法独自説においても、現行実務と同様に一方的要件とされる(溜池423頁、山田405頁、櫻田236)。本国法上婚姻適齢に関して定めがなく、児童婚、幼児婚を認めている場合については、当事者の本国法上の要件を満たしていたとしても、著しく低年齢の者の婚姻を認めることは、わが国の公序の問題となりうる。許容しうる最低年齢について、国際私法独自説の立場からは、比較法的に見て、今日の文明諸国において認められる最低の婚姻年齢をもってその基準とするとの考えから、男14歳、女12歳を限界とするとの見解が示されている(溜池424)。他方、現行実務においては、男は14歳未満、女は13歳未満の場合、婚姻は許されないと解されている。このうち、女については、刑法177条の強姦罪が13歳未満の女子を相手とする場合には当事者の合意があっても成立することが参考にされているようである(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』10頁、78)

第三者の同意については、上記のように現行実務ではこれを一方的要件と考える(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』11)。国際私法独自説においても同様である(溜池428頁、山田405頁、櫻田236)

肉体的又は精神的障害のうち、夫となるべきものの性的不能については、国際私法独自説においては、これを夫となるべき者についての一方的要件であるとする見解(山田408)、妻となるべき者に重大な利害関係をもつという理由から妻となるべき者についての一方的要件であるとする見解(久保岩太郎「婚姻の成立の準拠法に就いて」商学評論82205)、当事者双方にとって重要な関係を有する問題であるとの理由から双方的要件であるとする見解(溜池431)とに分かれる。現行実務はこれについて、夫となるべきものに関する障害にほかならないとの理由から、上述のように夫についての一方的要件と解している(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』10)。同様に、夫となる者の伝染性性病、精神的疾患についても、現行実務では夫についての一方的要件と解されている(1112)

重婚禁止は、現行実務上、上記のように双方的要件とされており、この点は国際私法独自説においても争いはない(溜池425頁、山田408頁、櫻田236)もっとも、双方の本国法がともに重婚を認めていたとしても、現行実務上、そのような婚姻はわが国の公序に反し、認められないものと解されている(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』12)。国際私法独自説においても、この問題につき、公序に反するとする(溜池426)、あるいは公序違反の可能性を示唆する(山田405頁、櫻田236)見解が示されている。なお重婚と公序の問題に関し、日本人を当事者として外国法上有効に成立した重婚につき報告的届出があった場合の取り扱いについては、5.03.02参照のこと。

再婚禁止期間に関しては、一方的要件と解するか、双方的要件と解するかについて、国際私法独自説において見解は分かれる。すなわち、女性の再婚についての定めであるから女性の本国法によるべきであるとする立場(実方『国際私法概論』272)、出生子の血の混淆による被害は再婚の夫が受けるものであるとの理由で夫の本国法によるべきであるとする立場(久保『国際私法講座U519)、当事者双方にかかわるものであるから双方的要件であるとする立場(溜池426頁、山田408頁、櫻田236頁、青木「基本法コンメンタール」88)である。現行実務は上述のように、これを双方的要件と考える。したがって、各本国法のうちいずれか長い方の再婚禁止期間を経過しなければ婚姻は認められない。本国法上再婚禁止期間に関して規定がない場合については、学説上、これを公序違反とするのは妥当でないとの見解が示されているが(溜池427)、現行実務においても同様の立場がとられ、一方の本国法上再婚禁止期間の規定がなければ、他方の本国法の規定のみを適用し、双方の本国法上規定がなければ、制限がないものとの取り扱いがなされる(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』10)。なお、女性が前婚の解消又は取消の前から懐胎しており再婚禁止期間中に出産した場合や、女性が前婚の夫と再婚する場合などにおける再婚禁止期間の免除については、現行実務はこれも双方的要件と解する(1314)。また、一定の年齢に達した女性に再婚禁止期間を免除する制度については、学説上、女性の本国法によるとする見解がある(溜池402403)

近親婚の禁止の要件については、現行実務は上記のようにこれを双方的要件として扱う。また国際私法独自説においても同様に、これは双方的要件と解されている(溜池427頁、山田405頁、櫻田236)。しかし、現行実務上行われている、婚姻要件具備証明書による審査では、関係資料から両当事者に親族関係があることが伺われる場合や、当事者からその旨の申告がある場合を除き、この要件が具備されているか否かについての審査は困難な状態となっている(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』114)。なお5.02.02参照。

n        婚姻要件と公序

婚姻要件と公序の問題については、上に述べたもののほか、異教徒間の婚姻を禁止するエジプトの法律を適用することが公序に反するとしてその適用を排除した判例がある(東京地判平成3329判時142484)。同様に、異人種間の婚姻を禁止する法律や、いったん離婚すると永遠に再婚できないとする法律、婚姻中不倫をした者同士の再婚を認めないとするいわゆる相姦婚を禁止する法律なども、現行実務では公序に反すると考えられている(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』15頁、49)

 もっとも、形式的審査権しか持たない戸籍窓口において公序違反を判断することは困難であると予想される。平成元・102民二3900通達では、認知の事案における公序則適用の判断については管轄局の長の指示を求めることとなっているが(平成元・102民二3900通達第41(1))、この認知の事案に限らず、外国法適用に疑問がある場合には全て法務局への受理照会が必要であろう、との指摘もなされている(奥田5282526)

なお、報告的届出における公序則の適用については5.03.02参照。

 

(3)について

一方的要件を欠いた婚姻の効力については、その欠いた本国法の定めるところによる(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』9)。双方的要件については、双方の本国法が重畳的に適用されるため、その要件を満たさないときの効果は、婚姻の成立をより強く否定する方の法律によることとなる。例えば、重婚禁止の要件に反してなされた婚姻について、当事者の一方の本国法では取消とし、他方の本国法では無効とする場合、当該婚姻は無効となる(東京家審昭和43425家月201091)

 

5.01.02[婚姻の形式的成立要件(方式)の準拠法]

現行実務

(1) 婚姻の方式は、婚姻挙行地法、あるいは当事者の一方の本国法による。

(2) 日本人が日本で婚姻を挙行する場合は、婚姻の方式は日本法によらねばならず、婚姻の創設的届出のみをなすことができる。

(3) 法例に規定される婚姻の方式によらない婚姻は、わが国では無効となる。

法例132項、3項。

 

(1)について

婚姻の方式については、法例132項及び3項により、婚姻挙行地法及び各当事者の本国法のいずれかが準拠法となる。この婚姻の方式の準拠法が日本法となる場合に、婚姻の創設的届出ができることとなる。すなわち、婚姻挙行地が日本であるか、当事者の一方が日本人である場合に、婚姻の創設的届出をすることができる。婚姻の創設的届出については5.02参照。また、日本人が外国法の方式により婚姻した場合には、婚姻の報告的届出をしなければならない。婚姻の報告的届出については、5.03参照。

婚姻挙行地については、学説上、当事者の双方が所在する場所のみを挙行地とする見解(澤木敬郎『国際私法入門(3)111)と、当事者の一方の所在でたりるとする見解(久保岩太郎『国際私法講座第2巻』531頁、折茂豊『国際私法(各論)新版』248)とに分れ、後者が通説とされる。現行実務においても後者がとられており、外国にいる外国人当時者と日本にいる外国人当事者につき、日本を婚姻挙行地として外国人当事者より提出された婚姻の創設的届出は受理される(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』195)

 

(2)について

法例133項但書により、一方当事者が日本人で、日本で婚姻をする場合は、当該婚姻の方式については、常に婚姻挙行地法たる日本法が準拠法となる。したがって、婚姻の創設的届出のみが認められる。日本人と外国人が日本において外国法の方式により婚姻をした旨の届出、例えば日本における当該外国人の本国の大使館等において婚姻をした旨の報告的届出が提出されたとしても受理されない(平成元・102民二3900通達第12(3))

 

(3)について

上記(2)のような場合において報告的届出が出されたとしても、当該婚姻はわが国では無効となる(『新版・実務戸籍法』364頁、『Q&A渉外戸籍と国際私法』147)。しかし、そのような婚姻について、外国人の本国法上婚姻が成立した旨の証明書を添付して、わが国の方式により改めて婚姻の届出がなされた場合には、その婚姻証明書を外国人当事者の婚姻要件具備証明書とみなして審査のうえ、当該届出を創設的婚姻届出として受理して差し支えないとされる(昭和401220民甲3474回答、昭和421222・民甲3695回答)。なお5.02.03(2)参照。

 

5.01.03[当事者の本国法の決定]

現行実務

(1) 日本国籍を有している者については、その者が重国籍であると否とを問わず、その本国法は日本法とされる

(2) 外国人である婚姻当事者が届書の本籍欄に1箇国の国籍のみを記載した場合は、その国の法が当該外国人の本国法として取り扱われる。ただし、当該記載された国の権限ある者が発行した国籍を証する書面(国籍証明書)等の添付書類から単一国籍であることについて疑義が生じる場合はこの限りではない。

(3)() 重国籍である外国人については、その国籍を有する国のうち、当事者が提出した居住証明書を発行した国に常居所を有するものと認定され、当該国の法が本国法とされる。

(ii) いずれの国籍国からも居住証明書の発行が得られない場合は、当該外国人当事者がその旨の申述書を提出したうえで、婚姻要件具備証明書発行国が当該外国人に最も密接な関連を有する国と認定され、その国の法が本国法とされる。

(iii) ()(ii)のいずれによっても本国法が決定されない場合は、婚姻届の処理につき管轄局の長の指示による。

(4) 無国籍者については、常居所地法をもって本国法とされる。

(5) 不統一法国に国籍を有する外国人については、当該国の規則に従い指定される法律をもって、本国法とされる。もしその規則がない場合には、当該外国人に最も密接なる関連を有する法律が本国法とされる。

 (1)について、法例281項但書、平成元・102民二3900通達第11.(1)ア、

 (2)について、平成元・102民二3900通達第11.(1)イ@、

 (3)(i)について、法例281項、平成元・102民二3900通達第11.(1)イAi、

 (3)(ii)について、法例281項、平成元・102民二3900通達第11.(1)イAii

 (3)(iii)について、平成元・102民二3900通達第11.(1)イAiii

 (4)について、法例282項、

 (5)について、法例283項、31条。

 本国法の決定について一般的には1.06.01参照。

 

(1)について

法例281項但書が、重国籍者である日本人についてはその本国法を日本法とする旨を規定していることから、実務では、当事者が日本国籍を有していれば、その者が他に国籍を有しているか否かを問うまでもなく、常に日本法を当該当事者の本国法として適用する(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』256頁、『新版・実務戸籍法』281)

 

(2)について

戸籍窓口では形式的審査を前提として処理するため、外国人当事者が重国籍であるか否かは、当該当事者が積極的に届書に明示したり、その旨を証する書類を提出したりしない限り、窓口ではそれを知り得ないことから、実務では上記の扱いをする。当該外国人が実は重国籍者であってその本国法が届書に記載された国以外の法である場合の責は、虚偽の事実を記載した届出人が負うべきであるとされる(『新しい国際私法』47)。単一国籍について疑義が生じる場合とは、2以上の異なる国の国籍証明書が提出された場合、届書等提出書類の中で国籍について矛盾がある場合、届書に重国籍である旨の記載がある場合等とされる(『新しい国際私法』47頁、『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』55)。国籍証明書等の添付書類とは、本国の官憲が発行した国籍証明書のほか、国籍国からしか発給されない証明書、すなわち旅券(平成元・102民二3900通達第11(1)()@)や、出生証明書、要件具備証明書等をいう(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』209頁、222頁、『新版・実務戸籍法』281頁、『新しい国際私法』4041頁、戸籍実務研究会編『渉外戸籍実務の手引き』6)。なお、外国国籍の証明書については1.06.01.02及び5.02.03も参照のこと。

 

(3)()について

重国籍である外国人とは、2以上の異なる国の国籍証明書が提出された場合又は届書その他の書類等から重国籍であることが明らかな場合をいう(平成元・102民二3900通達第11(1)()A)。法例281項本文は、重国籍である外国人については、当事者が常居所を有する国の法律を、その国がないときは当事者に最も密接な関係がある国の法律を当事者の本国法とすると定める。現行実務は、外国人の国籍国における常居所の認定については、日本人のわが国における常居所の認定(平成元・102民二3900通達第81(1)によれば、事件本人の、発行後1年以内の住民票の写しの提出があれば、わが国に常居所があるものとして取り扱うとされている)に準じて取り扱うとしていることから(平成元・102民二3900通達第82(2))、重国籍である外国人の本国法決定においても、上記(3)(i)のように、国籍国のうち、居住証明書を発行した国に常居所があるものと認定され、当該外国人の本国法が決定される(平成元・102民二3900通達第11(1)()Ai)。居住証明書は、本国官憲の発行する居住事実・住所の存在に関するもので、その趣旨・内容は日本における「住民票」と同様のものであればよく、名称が多少異なっていても良い。居住期間は問題とされないので(平成元・102民二3900通達第82.(2))、その記載がなくてもよい(『新しい国際私法』50)

 

(3)(ii)について

()により本国法が決定されない場合においては、(ii)により、最密接関係国が決定され、その国の法が本国法とされる。婚姻要件具備証明書を発行した国を当該外国人に最も密接な関連ある国と認定する理由としては、当事者はその者にとって最も密接な関係がある国に要件具備証明書の発行を求めるのが通常であること、また本人側の意思とそれに対応する国家の行為という要素があることから、類型的にそのような証明書を発行した国に密接関連があると判断すると説明される(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』56頁、この考え方に賛成する見解として奥田52328)。しかし、このような扱いをすることには問題があるように思われる(下記の改正提案参照)

 

(3)(iii)について

(ii)により本国法が決定されない場合とは、婚姻要件具備証明書が国籍国のいずれの国からも発行されない場合や、逆に複数の国籍国から発行された場合をいう(奥田52329)。このような場合には最密接関係国に関し受理伺いがなされる。そのような受理伺いに際しては、@国籍取得の経緯、A国籍国での居住状況、B国籍国での親族居住の有無、C国籍国への往来の状況、D現在における国籍国とのかかわり合いの程度、以上について調査の上本省に照会すべきこととされている(平成元・1214民二5476通知、『新しい国際私法』52頁、『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』55)。先例としては、カンボディアと中華民国の国籍を有している男と、連合王国人女との婚姻につき、同男がカンボディア、中華民国いずれにも常居所を有していなかったケースにおいて、上記の諸事情を考慮のうえ、同男の本国法を中華民国法とする回答が示されている(平成324民二914回答)。なお、1.06.046.02.016.02.02参照。

 

(4)について 

無国籍者については、常居所地法が適用される。常居所地が不明の場合は、その者の居所地法による(法例30)。先例としては、パレスチナ発給の旅券を所持し、在ジョルダン日本国大使館発給の渡航証明書により入国(来日)している男と日本人女から創設的婚姻届が提出された事案において、同男につき国籍については無国籍、準拠法については居所地法たる日本法によるとされた事例がある(平成13129民一221回答)。その理由として、パレスチナ地域はジョルダン川西岸地区に自治区として分断されている状況にあり、帰属すべき国家主体が確定しているとは言えず、国家としてのパレスチナは存在しないと解され、日本においても、また国際的にも国家として承認されていないから、と説明される(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』231)

このように未だ国家として成立していない地域に属する者が無国籍者とされる場合以外にも、国籍を認定するための資料がまったくない場合にも、その者を無国籍者と認定することになる。しかし、形式審査のみをなす戸籍窓口ではその判断が困難であるため、たとえ当事者から無国籍であるとの申出があった場合においても、当該当事者を無国籍者とすべきかどうかについては、本省に受理照会を行い、法務局等が実質調査を行うのが相当であるとされる(昭和5776民二4265通達、『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』57頁、この見解に賛成するものとして奥田508952430)

 

改正提案

(1)(2)(3)()(iii)(4)(5)については現行実務通り。

(3)(ii) いずれの国籍国からも居住証明書の発行が得られない場合は、当該外国人当事者がその旨、及び何れの国が最密接関係国であるかを述べた申述書を提出する。

 

 (3)(ii)についての現行実務の扱いは、最密接関係国の決定を当事者に委ねている点で法例の趣旨に反する。また、何れの国からも婚姻要件具備証明書が発行される可能性もあるため、本人からの申述書によって最密接関係国が何れの国であるかを自己申告させる方法を取らせるのがよいと思われる。

 

5.01.04[反致]

現行実務

外国人当事者の本国法からの反致が成立する場合、当該外国人当事者についての婚姻の実質的成立要件は、日本法により判断する。

 法例32条、昭和30415民甲700回答、昭和62102民二4974回答。

 

婚姻の実質的成立要件及び方式(形式的成立要件)において、外国人当事者の本国法が準拠法となる場合には、法例32条に規定される反致の成立が問題となる。婚姻の実質的成立要件(法例131)に反致を認めることについては、学説上争いはなく、現行実務も反致を適用する。アメリカ合衆国、カナダ、中華人民共和国、中南米諸国等の国際私法規定では、婚姻の実質的成立要件については原則として婚姻挙行地法を準拠法としているため、これらの国の法を本国法とする外国人当事者がわが国に婚姻の創設的届出をしてきた場合、当該外国人についての実質的成立要件の準拠法は日本法となる。

婚姻の形式的成立要件については、132項及び同3項本文において、婚姻挙行地法と当事者の一方の本国法との選択的連結となっているため、反致の適用につき学説上の対立がある(反対:あき場「法例改正をめぐる諸問題と今後の課題」ジュリスト94336頁、賛成:山田74頁、櫻田112)。この点につき現行実務は、形式的成立要件についても反致を認める立場をとる(渉外戸籍実務の処理U婚姻編4446)

もっとも、現行実務上このような立場がとられてはいるものの、実際上、婚姻の形式的成立要件については、戸籍の窓口において反致の問題を考慮する必要はないとされる(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』46)。すなわち、創設的届出の場合は、婚姻挙行地は日本であり、婚姻挙行地法たる日本法を適用すればよいため、外国人当事者の本国法による方式を考慮する必要はなく、反致の問題は考えなくてもよいこととなる(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』46)。また、報告的届出についても、日本人が外国の婚姻挙行地の方式により婚姻した場合には、反致の問題は生じない。

ただし、日本人当事者が相手方である外国人の本国法の方式で婚姻したとの報告的届出をしてきた場合に、当該外国人の本国の国際私法が、自国法の方式と日本人当事者の本国法の方式との選択的連結を採用していたときは、反致が認められるかどうかが問題とはなる。このように、当事者の本国の国際私法が選択的連結を認めており、そのうちの1つによれば反致するが他の法によれば反致しないという場合に反致を認めるかどうかという問題は、形式的成立要件のみならず、実質的成立要件に関しても生じうる問題である。この点について、学説上見解は分かれる。反致を認めることにより婚姻の成立が認められるのであれば反致を認めてよいとする見解として山田407頁がある。これに対して、法例32条にいう「其国ノ法律ニ従ヒ日本ノ法律ニ依ルヘキトキ」とは日本の法律のみによる場合に限るとの解釈に基づき、反致の成立を否定する見解として溜池166頁、『新しい国際私法』58頁がある。

現行実務は後者の見解に従い、反致を認めない立場をとっている(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』46頁、戸籍実務研究会編『初任者のための渉外戸籍実務の手引き』137)。したがって、上記のように、日本人当事者が相手方である外国人の本国法の方式で婚姻したとの報告的届出をしてきた場合に、その相手方外国人の本国の国際私法が日本人当事者の本国法の方式との選択的連結を採用していたときも、現行実務によれば、反致を否定し、当該婚姻は当該外国法上の方式を満たしていればよいことになる(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』46)。かくして、婚姻の形式的成立要件に関しては、実際上、創設的届出についても、報告的届出についても、戸籍窓口においては反致の問題を考える必要がないとされることとなる(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』46)

なお、現行実務上、反致が認められるのは、問題となる法律関係について、当事者の本国の国際私法が日本法を指定していることが明白でなければならないとされる(昭和541212民二6121回答、昭和591130民二6159通達)

反致が認められた事例としては以下のようなケースがある。

-         カナダのケース:日本に住所を有するカナダ(ブリティッシュ・コロンビア)人男と日本人女の婚姻の要件につき、カナダ人の婚姻、離婚については本人の住所地法によると説明したカナダ領事の申述書、及び同人が日本法上婚姻要件を具備していることを証する書類の提出によって婚姻届を受理して良いとした事例(昭和30415・民甲700回答)。なお、カナダ人男性と日本人女性との婚姻につき、カナダのブリティッシュコロンビア地区の公証人の面前でなされた宣誓書、及び証明書を得られない旨の申述書でよいとした昭和29616民甲1217回答は、本回答により変更されたと見てよいであろうとされる(奥田53350)

-         アメリカのケース:日本人男がアメリカ人女(メリーランド州)と婚姻する場合、アメリカ人女についての実質的成立要件は、(改正前)法例29条によりわが国の民法が準拠法となるものと考えられるところ、同女には、民法第733条に定める婚姻障害(待婚期間)があるとされた事例(昭和62102民二4974回答)

-         中華人民共和国のケース:中華人民共和国民法通則第147条が「中華人民共和国公民と外国人の婚姻には婚姻締結地の法律を適用」すると定めていることから、いわゆる本土系中国人と日本人とが日本を婚姻挙行地として婚姻する場合、当該中国人の実質的成立要件の準拠法は反致により日本法となる。なお、日本に在る日本人と中華人民共和国に在る中国人とが、日本の戸籍窓口に婚姻届を提出するという日本法の方式により婚姻する場合については、同147条は適用されないとするのがかつての中国の考え方であった。したがって、当時の実務においては、日本法上婚姻届を受理したとしても、中国政府は当該婚姻につき同国婚姻法に規定する実質的成立要件及び形式的成立要件を具備しているとは判断できないのでこれを有効な婚姻とは認めない、ということを当事者に説明した上で、当事者がそれでも受理を希望する場合には当該婚姻届を受理しても良いとする扱いをしていた(平成388民二4392通知)。しかし、その後中国における取り扱いが変わり、上記のような場合においても同147条が適用されることとなったため、当該婚姻は中国でも有効な婚姻とされ、当事者は同国国内で改めて婚姻登記又は承認手続きを行う必要はなくなった。これに伴い上記平成388民二4392通知は廃止されている(平成1488・民一1885通知、戸籍73575)

-         トンガ王国のケース:トンガ王国人女と日本人男との婚姻につき、トンガ王国の国際私法が住所地法主義をとっており、同女が日本に住所を有していることから、住所地法である日本法により婚姻要件の審査がなされ、婚姻要件を具備しているとされた事例(昭和53120民二407回答)

 

5.02 婚姻の創設的届出

5.02.01[婚姻の創設的届出]

現行実務

(1) 婚姻挙行地が日本である場合、又は婚姻挙行地が外国である場合において当事者の一方が日本人であるときには、日本法の方式による婚姻、すなわち婚姻の創設的届出をすることができる。

(2) 婚姻挙行地が日本である場合において当事者の一方が日本人であるときは、婚姻の方式は日本法によらねばならず、婚姻の創設的届出のみをなすことができる。

(3) 婚姻挙行地が外国である場合において当事者双方が日本人であるときは、当該国に駐在する日本の大使、公使又は領事に対して婚姻の創設的届出をすることができる。

法例132項、3項、民法741条。

 

(1)について

婚姻の創設的届出、つまり日本法の方式による婚姻とは、戸籍法に基づく市区町村長に対する届出をいい(民法739)、婚姻届書に所要の事項が記載され、当事者及び承認の署名、押印等がなされていることが審査される(戸籍法74条、戸籍法施行規則56)

婚姻の創設的届出は、婚姻の方式について規定する法例132項及び3項により、準拠法が日本法となる場合、すなわち、婚姻挙行地が日本であるか、当事者の一方が日本人である場合にすることができる。

  外国にいる日本人同士あるいは日本人と外国人が、婚姻の創設的届出を日本人当事者の本籍地の市区町村長宛てに直接郵送してきた場合の扱いについては、改正前法例では婚姻挙行地法のみが婚姻の方式の準拠法とされていたため、法例改正前の実務は、このような届出につき婚姻挙行地を日本であると解して、これを有効として受理していた(昭和2636民甲412回答)。現行法の下では、このような届出は、法例133項本文に定める当事者の一方の本国法すなわち日本法による方式として認められる(平成元・102民二3900通達第11.(2))1.02.02参照。しかし、外国にいる外国人同士が、郵送により婚姻の創設的届出を送付してきても、戸籍法の適用範囲に入らない上(1.01.01及び1.01.02参照)、方式の準拠法が日本法とならないため、受理されない(『新しい国際私法』69頁、『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』195)

 

(2)について

5.01.02(2)参照のこと。

 

(3)について

外国にいる日本人同士が、当該国に駐在する日本の大使、公使又は領事に対して婚姻の創設的届出をすることは、 当事者の一方の本国法すなわち日本法による方式(民法741条、戸籍法40)として認められる(平成元・102民二3900通達第11.(2))。これは、主として外国に在住する日本人の便益の保護のため(『渉外戸籍の理論と実務』183)と説明される。

これに対し、外国にいる日本人と外国人が、当該在外公館に対して婚姻の創設的届出をすることは、当事者の一方の本国法すなわち日本法による方式としての上記民法741条が「外国に在る日本人間で婚姻をしようとするとき」と規定しているため、認められない(『新しい国際私法』68)。この点につき、日本人の便益の保護を理由とするのであれば、外国にいる日本人と外国人との間の婚姻に関しても、当該在外公館に対して創設的届出をすることを認めるべきであるとの見解も主張される(山田413)。しかし、現在、日本の在外公館では実質的成立要件について特に審査がなされておらず(『渉外戸籍の理論と実務』184)、そのような状況において、日本人と外国人との間の婚姻の創設的届出を認めれば、偽装婚姻により日本への入国の資格が不正に取得される事態を招くおそれもある。他方で、在外公館に実質的成立要件の審査を課せば過重な負担となり、現実的ではない。したがって、現行実務の維持にはそれなりの合理性がみとめられる。なお、1.02.02参照。

  上記届出が在外公館によって誤って受理された場合、法例改正前においては、当該届出が日本人当事者の本籍地市区町村長に送付されれば、郵便による届出に準じて、日本を婚姻挙行地と解して、当該市区町村長が届出を受理した時点において有効な届出がなされたものとされていた(昭和1123民甲40回答、大正1523281回答、昭和3583民甲2011回答)。現行法の下では、法例133項本文に該当し、当事者の一方の本国法(日本法上は戸籍法27条、47)による方式として、同様に当該市区町村長が届出を受理した時点において有効な届出がなされたものと取り扱われる(『新しい国際私法』70頁、『Q&A渉外戸籍と国際私法』140頁、島野・戸籍72111頁、出口『基本論点国際私法』110)

 

5.02.02[要件の審査]

現行実務

 婚姻の創設的届出がなされた場合、以下の点につき審査される(法例13条、民法740)

 (i) 方式の準拠法が日本法であること

 (ii) 日本法の方式を満たしていること

 (iii) 婚姻の実質的成立要件を満たしていること

 

わが国の方式に従って婚姻の届出がされたときは、市町村長は、これを受理するにあたり、婚姻の方式及び婚姻の実質的成立要件を具備しているか否かについて審査をしなければならない(民法740条、法例13条、『新版・実務戸籍法』365頁、『新しい国際私法』62)

なお、外国人当事者が日本に不法入国したことのみでは、婚姻届不受理とはされない(昭和39212民甲306通達)。戦後の一時期、実務上、不法入国者の婚姻届を受理しない取り扱いがなされていた(昭和23129民甲136通達第8)。しかし、その後この取り扱いは変更され、不法入国者からの婚姻届を受理して差し支えないとの通達が出されるとともに(昭和39129民甲136号通達第8)、昭和23年通達を変更する旨の通達が出されている(昭和39212民甲306通達、奥田52946)

 

(i)について

 方式の準拠法については、5.01.02及び5.02.01参照のこと。

 

(ii)について

市町村長は、方式については、民法739条、戸籍法74条、戸籍規則56条、59条に定める所により、婚姻届書に所定の事項が記載され、当事者及び証人の署名・押印等がされているか否かを審査する(『新版・実務戸籍法』365)

 

(iii)について

実質的成立要件の審査は、5.1.015.01.035.01.04で定まる準拠法によりなされる。そこでも述べたとおり、婚姻の実質的成立要件は、反致が成立する場合を除き、各当事者の本国法によるため(法例131)、この審査にあたっては、@当事者の本国法を決定し、A当事者の本国法の内容を調べ、B当事者が本国法上の要件を具備しているかどうかを見ることになる。

日本人については、これらの点に関し、@提出された戸籍謄本により日本国籍を取得していることがまず確認され、A日本民法を準拠法として、B同じく戸籍謄本により要件具備がチェックされる、という手順で審査がなされる。

これに対し、外国人については、原則として、当該外国人当事者の本国の権限を有する官憲が発行した「婚姻要件具備証明書」の提出によって、実質的要件が審査される(戸籍法施行規63条、大正8626・民841回答、昭和22625民甲595回答、昭和24530民甲1264回答、『渉外戸籍実務の処理I総論・通則編』186187)。要件具備証明書とは、当該当事者につき「本国の法律において身分行為の成立に必要な要件を具備している」旨を、当事者本国の権限ある官憲が証明した書面であり、この証明書により、外国人当事者の本国法の内容、及び同法に規定される当該身分行為に必要な要件を当事者が具備している旨が、包括的に証明されるものである(渉外戸籍実務の処理U婚姻編203)。この取り扱いは、外国人当事者のかかわる創設的届出に際して、戸籍窓口において外国人当事者の本国法の規定内容を逐一確認し、当事者本人の身分関係事実を調査して、要件具備如何を審査することは事実上困難であり、円滑な事務処理が期待できなくなることが懸念されたためである(『渉外戸籍実務の処理I総論・通則編』186187)。もっとも、外国人当事者が婚姻要件具備証明書を提出できない場合には、本来の原則に立ち戻り、戸籍窓口において当事者の本国法の内容を調べた上で、当事者本人がその要件を具備しているかどうかを具体的に審査していくこととなる。

なお、この要件審査において、双方的要件とされるものについては、当事者双方の本国法の要件が満たされることが必要となる。したがって双方的要件については、外国人当事者から婚姻要件具備証明書が提出されていても、当該外国人当事者が日本法上その要件を満たしているかどうかを個別にチェックする必要が出てくる。例えば、現行実務上双方的要件とされる重婚禁止の要件については、すでに配偶者のある外国人男性と独身の日本人女性との創設的婚姻の届出がなされた場合、当該外国人の本国法上一夫多妻制が認められており外国人当事者について実質的要件がみたされるとしても、日本人当事者の本国法である日本上重婚は認められないことから(民法732)、その婚姻は重婚の禁止にふれることになり、当該届出は受理されないという扱いになる(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』281)。さらに、双方的要件とされるもののうち、近親婚禁止の要件については、このような個別のチェックによってもなお、審査の限界があることについては5.01.01で述べたとおりである。

また、反致が成立する場合には、日本法上の実質的成立要件を当該外国人当事者が充たす必要があるため、婚姻要件具備証明書によるのではなく、やはり個別にチェックする必要が出てくる。

 これらの審査のために提出すべき書類の詳細については、5.02.03を参照のこと。

 

5.02.03[添付書類]

現行実務

(1) 婚姻届には、次のものを添付する。

 (a) 日本人の場合には、戸籍謄本、

 (b) 外国人の場合には、本国の権限ある官憲が発行した国籍を証する書面、本国の権限ある官憲が発行した婚姻能力を証する書面、及びそれらの訳文。

(2) 外国人当事者について、本国の権限ある官憲が発行した婚姻能力を証する書面を得られない場合には、「宣誓書」や「婚姻証明書」などそれに代わる証明書類として認められるものを添付する。

(3) 外国人当事者について、婚姻要件具備証明書及びこれに代わる「宣誓書」「婚姻証明書」等が得られない場合には、要件審査の原則に戻り、当事者の本国法の内容、及びその法律上の要件を当事者が満たしているかどうかを判断する。

 (1)について、戸籍法施行規則63条、同63条の2、昭和24530民甲1264回答、渉外戸籍実務の処理I総論・通則編184187頁、『渉外戸籍実務の処理II婚姻編208頁』、

 (2)について昭和29616民甲1217回答、

 (3)について『新版・実務戸籍法』368頁を参照。

 

(1)について

婚姻の実質的成立要件は、各当事者の本国法によるため(法例131)、この審査にあたっては、5.02.02(3)で述べたように、@当事者の本国法を決定し、A当事者の本国法の内容、及びB当事者が本国法上の要件を具備しているかどうかを見ることになる。これらの審査のために必要とされる添付書類は以下の通りである。

(1)(a)---日本人当事者の場合

(i) 戸籍謄本

  日本人当事者の国籍の認定は、添付された戸籍謄本により、戸籍上の記載によってなされる(1.06.01.02(1)参照)。当事者が日本国籍を有していることが確認されれば、その当事者の本国法は日本法とされ(法例281項但書、平成元・102民二3900通達第11.(1)ア、なお5.01.03(1)参照)、その実質的成立要件については、民法を準拠法として戸籍謄本により審査される。そのため、通常、創設的届出に際しては、日本人当事者については外国人当事者のように婚姻要件具備証明書を添付する必要はない。

(i’) 婚姻要件具備証明書

日本人当事者につき婚姻要件具備証明書が交付されるのは、基本的には、外国の方式により日本人当事者が婚姻する場合において、外国官憲から当該日本人に対して日本法上の婚姻要件を満たしていることを証する婚姻要件具備証明書の提出が要求されるときである。戸籍法上、日本人が外国の方式により身分行為を行う上で必要とされる証明書等の作成交付等に関して、特別な規定は設けられていないが、このような証明書の交付を当該日本人が請求してきた場合には、これを交付することが在外日本人の援護の観点からも望ましい。そこで戸籍に関する証明としてではないが、一般の行政証明書としてこれを交付することとされてきた(昭和311120民甲2659回答、昭和359.26民二392回答、『渉外戸籍実務の処理I総論・通則編』204頁、『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』21)

もっとも、日本人が日本で婚姻の創設的届出をする場合においても、その届出のために相手方外国人当事者の婚姻要件具備証明書の発給を受けるにあたって、当該外国の官憲から、日本人当事者の婚姻要件具備証明書を求められるときがある。そのような場合には、創設的届出に先立つ形で、日本人当事者についての婚姻要件具備証明書が交付される(戸籍72059)

なお、このような日本人当事者についての婚姻要件証明書は、従来、昭和30926民二392回答により示された様式を参考にして交付されてきたが、この様式には、相手方の性別が記載されていなかった。そのため、外国法において認められている同性の相手方との婚姻について日本法上は法的障害がないとの誤解を生じるおそれがあり、また外国法による同性婚に使用するために同証明書が使用された事例もあった。そこで、平成14524民一1274通知により、相手方の性別を記載する形に改められている(『渉外戸籍実務の処理I総論・通則編204頁』、『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』22)。また、同通知によれば、婚姻の相手方が日本人当事者と同性であるときは、日本法上、婚姻は成立しないことから、同証明書を交付するのは相当でないとされている。

 

(1)(b)---外国人当事者の場合

(i) 国籍を証する書面

-         国籍証明書等

  外国人当事者については、その本国法を決定する必要があるため、その際の媒介とすべき「国籍を証する書面」の添付が要求される。これは通常、本国の権限ある官憲による当事者が自国籍を有することを直接証明した「国籍証明書」であるが、それ以外にも、国籍国からのみ発行される「旅券」「出生証明書」「身分登録簿の写し」等がある(平成元・102民二3900通達第11(1)()@、『新しい国際私法』40頁、渉外戸籍実務の処理I総論・通則編186187)。また、次に述べる「婚姻要件具備証明書」に当事者の国籍についての証明がなされていれば、これを国籍を証する書面として取り扱って差し支えないとされ(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』209頁、222頁、『新版・実務戸籍法』281頁、『新しい国際私法』47)、実際のところは、これによる場合が多くを占めると予想されている(『新しい国際私法』47)。したがって、提出された書面を国籍を証する書面と認めてよいかどうかが実際に問題となるのは、婚姻要件具備証明書が提出されないケースにおいてである。

-         外国人登録証明書

外国人登録証明書又は外国人登録原票記載事項証明書は、本国官憲が直接証明したものではなく、わが国の政府が証明するものなので「国籍を証する書面」には該当しない。しかし、他に証明書がなければ、これを本国法決定のための資料とすることもやむを得ないとされる(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』209頁、『新版・実務戸籍法』281頁、昭和3029民甲245通達)

-         朝鮮人及び中国人の場合

朝鮮人及び中国人の本国法の決定については、現在では、未承認国家についても、その国の法律を本国法として適用される扱いとなっている事から(『新版・実務戸籍法』283頁、1.06.01.01(1)参照)、その者がいわゆる分裂国家のいずれに属する者であるか、すなわち韓国法と北朝鮮法、中華人民共和国法と台湾法のいずれを本国法として適用するかがまず問題となる。さらに、戦前から日本に居住している朝鮮人及び台湾系中国人の場合は、本国の権限のある官憲が発給した旅券を所持していないため、その本国法をいかなる書面により決定するかという問題もあわせて考慮せねばならない。

現行実務では、中国人に関しては、人民法院(公証員)、公証処公証員、人民公社、人民委員会等、中国の官憲の発給した証明書を提出した中国人については、本土系中国人と認定して中華人民共和国の法律を本国法とする(『新版・実務戸籍法』283284頁、『渉外戸籍実務の処理I総論・通則編』94)。また、台湾の戸籍謄本を提出した者は、台湾系中国人と認定して、台湾法を本国法として取り扱う(『渉外戸籍実務の処理I総論・通則編』94頁、『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』254頁、『新版・実務戸籍法』283284)

朝鮮人に関しては、韓国官憲発給の旅券及び国籍証明書、韓国の戸籍謄本、韓国大使館等の発給した婚姻等証明書を提出したものは、韓国法を本国法として取り扱われる。また、国籍を「韓国」と記載した外国人登録証明書(上記参照のこと)が提出された場合も同様に韓国法を本国法とされる。さらには、本人が特に韓国人でないことを主張しない限り、原則として韓国法によるものと考えて処理して差し支えないとされる(『新版・実務戸籍法』284頁、『渉外戸籍実務の処理I総論・通則編』9495)。他方で、最近北朝鮮から来日したことが明らかである等、当事者が明らかにその地域に属するものであるならば、北朝鮮法を適用するとされる(『新版・実務戸籍法』284)

もっとも、このように中国人の場合には未承認国家であると否とを区別せず、中華人民共和国法と台湾法を適用する取扱いであるにもかかわらず、朝鮮人の場合には原則的に韓国法を本国法とする取扱いをすることについては、批判的見解も示されている(奥田5261819)

次に、戦前から日本に居住している朝鮮人及び台湾系中国人については、本国官憲の発給した旅券を所持していないことから、上記の外国人登録書、あるいは外国人登録原票記載事項証明書によることもやむを得ないとされている(昭和3029民甲245通達)。もっとも上述したように、朝鮮人又は台湾系中国人が本国官憲発給の戸籍謄本を添付することが出来るときは、それにより国籍を認定し、国籍証明書の添付は要しないとの取り扱いとなっており(『渉外戸籍実務の処理I総論・通則編』186頁、『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』254頁、『Q&A渉外戸籍と国際私法』98)、外国人登録書あるいは外国人登録原票記載事項証明書により国籍を認定するのは、あくまでも例外的な取り扱いとされる(『Q&A渉外戸籍と国際私法』97)

以上の書類により、外国人当事者の本国法が決定される。なお、国籍認定のためのいかなる書面も提出されない場合においては、本国法の決定を本人の申述書によらしめるのは適切ではなく、受理伺いをするべきであろうとの見解が示されている(奥田0000)

なお本国法決定の具体的な方法は、5.01.03を参照のこと。

(ii) 婚姻要件具備証明書

外国人当事者が婚姻要件を具備していることを審査するために、「婚姻要件具備証明書」すなわち、本国の権限ある官憲が、当事者の身分関係事実と、当事者がその本国法上必要とされる婚姻要件を具備している旨を証明した書面の添付が必要とされる。婚姻要件具備証明書の内容は、個々の要件をあげ、それぞれを充足している旨の証明である必要はなく、現に成立させようとしている婚姻について本国法上何ら障害がないという包括的なもので差しつかえないとされる(『新版・実務戸籍法』366)

  「権限ある官憲」とは、各国の身分関係の登録公証制度により、必ずしも一様のものではないが、官公庁又はこれに準ずる職にある者が発給する公文書又は証明書等、できるだけ客観的な信頼のおける証明資料であることが要求される(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』204)。事例として多いのは、日本に駐在する本国の大使、公使、領事が発行するケースであろうが、それ以外にも本国の警察署長(デンマーク:昭和441125民甲2606回答)や、牧師(スウェーデン:昭和43815民甲2730回答)、公証人(ミャンマー:平成7914民二3747回答、米国ペンシルベニア州:昭和29925民甲1986回答)、法務省市民登録課(リトアニア:平成71023民二4085回答、トリニダッド・トバゴ:平成1247民二936回答)、市役所戸籍・登録担当官(トーゴー:平成131016民一2692回答、ラトヴィア:平成15324民一837回答)などが発行した事例も認められている。

  他方、中国人の婚姻について中華民国の華僑総会の発行した結婚能力証明書は、婚姻要件具備証明書とは認められないとされる(昭和26728民甲1568回答、『新版・実務戸籍法』366)。これは、華僑総会が民間団体であり、中華民国法上も婚姻要件具備証明書を発給する権限が華僑総会には与えられていないことによるからであろうと説明される(奥田53154)。また、出生登録証及び役場の担当官の署名のある父母の婚姻同意書が提出されたケースや、出生証明書及び父母の結婚証明書が提出されたケースについては、そのいずれの書面も、当該婚姻について本国法上何ら障害のない旨が証明されているわけではないとの理由で婚姻要件具備証明書として不十分であるとされている(昭和43930民甲3096回答、昭和30224民甲394回答、『新版・実務戸籍法』366)

なお、反致が成立する場合、外国人当事者については、日本民法による婚姻要件を審査するために必要な書類(独身証明書、出生証明書、家族関係証明書等)の提出を求めることになる(戸籍72162)

(iii) 訳文

  上記の書類が外国語で作成されている場合には、翻訳者を明らかにした訳文を添付する(戸籍法施行規則63条の2、昭和59111民二5500通達第46)。もっとも、戸籍法施行規則63条の2の趣旨は、添付書類の訳文がなくともその内容が明らかとなるものについては受理してよいということであるから(加藤令造=岡垣学『全訂戸籍法逐条解説』287)、訳文がなくとも添付書類の内容を理解できるのであれば、あえて訳文を要求する必要はないとされる(奥田5176061)

 

(2)について

外国人当事者につき、婚姻要件具備証明書が容易に得られない場合においては、それに代わる証明書類により要件が審査される。現行実務上、それに代わる証明書類とされているものには、いくつかの類型がある。

(i) 「宣誓書」

 () アメリカ人の場合

まず第一に「宣誓書」がある。これはアメリカ人の婚姻について、駐日アメリカ大使館領事部との協議に基づく取り扱いによるものである。これにより、日本にいるアメリカ人が駐日の領事の面前で、本国法すなわち当事者の所属する州の法に定める婚姻年齢に達していること、重婚とならないこと等の要件を備え、法律上の婚姻障害がないことを宣誓した旨の、領事の署名のある宣誓書は、婚姻要件具備証明書と見て差し支えないとされる(昭和291025民甲2226回答:下記(i)A)。さらに、アメリカ人の在日アメリカ軍関係者については、上記の領事の証明した宣誓書に代えて、アメリカ軍法務部長が所定の様式により証明する宣誓書でもよいとされている(平成4928民二5674回答:下記(i)A)

本来、婚姻要件具備証明書が添付されない場合は、上記リステイトメント5.02.03(3)に記したように、実質的成立要件審査の原則に戻り、外国人当事者の本国法の内容を調査して、当事者から提出された身分関係等に関する書面によって当事者が要件を具備しているかどうかを審査することになる。当事者から身分関係を証明する書面が提出されないときは、本国上の婚姻要件を充たしている旨の宣誓書あるいは申述書の提出を求めることもあるが、その場合も、当事者の本国法の内容は、戸籍窓口において調査する必要がある。これに対し、アメリカ人についての上記の取り扱いは、アメリカ人当事者が自己の属する州法上婚姻要件を充たしていることを、当事者の属する州の法律の内容を調べることなく、当事者の宣誓によって証明されたと取り扱うものである(奥田50856)

 ()アメリカ人以外の外国人の場合

アメリカ人以外の外国人についても、宣誓書を婚姻要件具備証明書に代わる証明書類として扱われたものとしていくつか例があげられている。『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』254頁で挙げられている例として、スリランカ人の場合:昭和34130民甲168回答:下記()B、イラン人の場合:昭和59210民二720回答:下記()C、モロッコ人の場合:昭和6272民二3458回答:下記()D、パキスタン人の場合:平成6105民二6426回答:下記()Eがある。しかし、上にも述べたように、アメリカ人についての上記の扱いは、アメリカ人当事者の属する州の法律の内容をも当事者の宣誓書で済ませることがポイントとなっており、それは、アメリカとの特別の協議により認められているものである。したがって、そのような協議がなされていない他の外国人についても、同様に当事者の本国法の内容及び当事者がその要件を具備している旨を当事者の宣誓書で差し支えないとの取扱いをすることに対しては批判的な見解もあり(奥田5086)、現行実務の場においてもこの取扱いを疑問視する声がある(『新版・実務戸籍法』367)

もっとも、例として挙げられている上記先例での「宣誓書」がはたしてアメリカ人当事者と同様の意味における「宣誓書」であるかどうかは、定かではなく、当事者の本国法の内容は本省において調査されているのではないかとも思われる。そうだとすれば、これらの例はリステイトメント5.02.03(3)のケース、つまり、婚姻要件具備証明書も、それに代わる書面も提出されなかった場合に当たる取り扱いであったことになる(奥田50967頁及び53226頁では、これらの下記()CDEの事例は、本リステイトメントでの(3)のケースとして説明されている)。そうであれば、5.02.03(3)のケースにおいては、婚姻要件を具備している旨の当事者本人からの宣誓書を徴する場合もあるため、これらの先例における取り扱いは妥当なものといえる。もっとも、その場合であっても、平成6105民二6426回答におけるパキスタン人のケース(下記()Eの事例)は、本人が婚姻要件を具備している旨を、本人ではなく父親が宣誓した書面が提出されたケースであることから、若干問題とされないでもない事例ではある。

 ()アメリカ人当事者のケースにおける反致との関係

また、アメリカ人当事者の宣誓書の取り扱いについても、問題点を指摘しうる。すなわち、宣誓書はあくまでもアメリカ人当事者の本国法上の婚姻要件を具備した旨の宣誓書であるのに対し、アメリカの各州においては上述5.01.04のように原則として婚姻挙行地法が準拠法とされることから反致が成立すると理解されており、そうすると、日本にいて創設的届出をするアメリカ人当事者の実質的成立要件については、本国法上の要件ではなく、日本法上の要件を充たしているか否かで審査されねばならないからである(この点につき奥田5302930頁参照)。先例としても、5.01.04であげたように、アメリカのメリーランド州女と日本人との婚姻につき、反致の成立を認め、アメリカ人女については日本の民法により実質的成立要件の審査をした事例がある(昭和62102民二4974回答)。反致が成立するのであれば、アメリカ人当事者については、婚姻要件具備証明書あるいはそれに代わる宣誓書ではなく、身分関係を証明する書類の提出により、当該当事者が日本民法上の実質的要件を具備しているか否かの審査が必要となる。

しかし現行実務においても、アメリカ人当事者の日本での創設的届出の事案において、反致に触れることなく、アメリカ人当事者の実質的成立要件については当該当事者の所属する州の法律を準拠法として審査している先例がいくつか見られる。先にあげた昭和291025民甲2226回答(下記(i)@)、及び平成4928民二5674回答(下記(iA)以外にも、アメリカペンシルベニア州人男と日本人女性との婚姻につき、アメリカ人男が重婚であったことから、後婚に当たる日本人女性との婚姻の有効性が問題になった事案において、婚姻挙行地法である日本法ではなく、アメリカ人男の本国法でペンシルベニア州法を適用して、後婚を無効とした先例がある(昭和3466民甲1192回答)。このように、現行実務において、アメリカ人を当事者として日本を婚姻挙行地とする創設的届出については、その実質的成立要件の審査において相異なった取り扱いがなされている。この点につき、日本の戸籍の形式的審査を前提とするのであれば、むしろアメリカ人の日本における婚姻については、一律に反致の成立を認め、その実質的成立要件の審査は、日本法により行うべきであるようにも思われるとして、現行実務の取り扱いに対する批判的見解もある(奥田53030)

(ii)「婚姻証明書」

次に「婚姻証明書」がある。これは、5.01.02(2)で述べたように、法例133項但し書きにより、日本人と外国人が日本で婚姻する場合は、その方式は日本法によらなければならないにもかかわらず、外国人当事者の本国法の方式により婚姻がなされたときの取り扱いである。そのような婚姻は日本において無効となるが(5.0202(3)参照)、そのようなケースにおいて、当該婚姻がなされた旨の婚姻証明書を添付して、日本の方式により改めて創設的婚姻の届出があった場合には、当該婚姻証明書を婚姻要件具備証明書とみなして受理するとの扱いがなされる(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』206頁、『新版・実務戸籍法』367)。平成元年の法例改正以前において、方式の準拠法が婚姻挙行地法のみとされていたことから、日本において日本法以外の方式によりなされた婚姻についてはこのような扱いがなされていたが、法例改正後においても法例133項但し書きの場合についてこれが先例となっている(下記(ii)@ABCDE参照)

婚姻証明書が婚姻要件具備証明書に代わるものとして取り扱われる理由としては、このような婚姻証明書は、外国人当事者が本国法の要件を充たしたからこそ発行されたはずであるから、この婚姻証明書を当該外国人当事者の要件具備を包括的に証明したものとして取り扱うものであると説明される(奥田5086)。もっとも、イスラム教国人については、本国法上一夫多妻制が認められていることから、婚姻証明書だけではなく、外国人男からの独身である旨の申述書ないし宣誓書が必要であろうとの見解もある(奥田5087頁、5096)。先例では、昭和2558民甲1194回答(下記(ii)@)、昭和421222民甲3696回答(下記(ii)C)、昭和59122民二499回答(下記(ii)E)においては、当事者である外国人男からの独身である旨の申述書あるいは宣誓書が提出されているが、昭和58225民二1285回答(下記(ii)D)では、そのような申述書等は提出されていないようである。

 

宣誓書及び婚姻証明書の具体例

以上5.02.03(2)につき、具体的な例としては次のようなものがある。

(i)宣誓書

@        アメリカ人の場合:当事者が婚姻障害のない事を駐日領事の面前で宣誓した旨の領事の署名ある宣誓書でよい(昭和291025民甲2226回答)

A        アメリカ人の場合(その2):米軍関係者については、駐日アメリカ領事の署名ある宣誓書に代わって、所定の様式により米軍法務部長が証明する宣誓書を婚姻要件具備証明書として取扱うことで差し支えない(平成4928民二5674回答、渉外戸籍実務の処理U婚姻編214215)

B        スリランカ人の場合:日本在住のスリランカ(当時のセイロン)人男と日本人女間の婚姻につき夫の婚姻要件具備に関する本国の証明書の入手困難のため、これに代えて、在日イギリス総領事官のもとでなされた宣誓書及び外国人登録証明書でよいとされた事例(昭和34130民事甲168回答)

C        イラン人の場合:イラン人男と日本人女の婚姻届について、イラン人男の婚姻用件具備証明書の発給を本国官憲より拒否されたために同証明書を提出できないとの理由で国籍証明書のみが提出された事案において、イラン人男から重婚でないこと及び本国法によって婚姻の実質的要件を具備している旨の宣誓書を徴した上で、婚姻届を受理して差し支えないとされた事例(昭和59.2.10民二720号回答)

D        モロッコ人の場合:モロッコ人男と日本人女の婚姻届について、モロッコ人男の婚姻要件具備証明書につき、本国官憲からそのような証明書発行は行わないとの理由で拒否されたため提出できないとの申述書が当事者から出された事案において、同男からすでに提出されている独身証明書に加えて、重婚でない旨の宣誓書を徴した上で、婚姻届を受理して差し支えないとされた事例(昭和62.7.2.民二3458号回答)

E        パキスタン人の場合:パキスタン人男と日本人女の婚姻届について、同男の旅券の写しと、同男の父と称する者が本国の地方裁判所最高判事の面前でなした、息子が独身であり婚姻障害がない旨の宣誓供述書が提出されていた事案において、同男からの要件具備証明書を提出できない旨の申述書及び重婚でない旨の宣誓書を徴したうえで受理してよいとした事例(平成6.10.5民二6426号回答)

(ii)婚姻証明書

@        インドネシア人の場合:日本在住のインドネシア国人男と日本人女が結婚し、日本インドネシア協会の同男の身分証明書、自国慣習法により婚姻に支障がなくかつ独身である旨の同男の宣誓書、東京回教寺院の結婚証明書(これには夫の両親の名、年齢、国籍、夫の家の姓の記述あり)の書類を添えて、婚姻届を提出した場合はこれを受理して差し支えない(昭和2558民甲1194号回答)

A        ポルトガル人の場合:在日ポルトガル人男と日本人女とが日本でポルトガル国の方式によって婚姻し、同国領事の婚姻証明書を添付して婚姻の届出があった場合は、そのまま受理して差し支えない(昭和28815・民甲1458回答)

B        ギリシア人の場合:ギリシア人男と日本人女との婚姻届につき、日本の教会において法的に婚姻したものである旨のギリシア総領事発行の婚姻証明書を添付して婚姻届があったときは、右証明書を要件具備証明書とみなして受理して差し支えないとされた事例(昭和401220民甲3474回答)

C        パキスタン人の場合:パキスタン人男と日本人女との婚姻につき、パキスタンの官憲発給の婚姻要件具備の証明書がなくても、東京回教寺院において婚姻がなされた旨の、同回教寺院長による婚姻証明書、及び同男からの独身である旨の申述書が添付されていることにより、創設的婚姻届を受理して差し支えないとされた事例(昭和421222民甲3695回答)

D        シンガポール人の場合:シンガポール人男性と日本人女性の婚姻につき、東京回教寺院が発行した同寺院における婚姻成立の証明書とシンガポール国の婚姻登録所が発行した右婚姻は有効である旨の証明書を添付して、婚姻届書が提出された場合に、当該証明書類を婚姻要件具備証明書として取り扱って、婚姻届を受理してよいとされた事例(昭和58225民二1285回答)

E        エジプト人の場合:エジプト人男と日本人女の婚姻届につき、夫についての本国における前婚の離婚の証書と、二人の神戸回教教会における婚姻証明書、エジプト人男が留学生であるため婚姻関係具備証明書の発行を本国官憲により拒否された旨及び他に婚姻関係はない旨の同男からの申述書を添付してなされた場合に、当該婚姻届けを受理して差し支えないとされた事例(昭和59122民二499回答)

 

(3)について

婚姻要件具備証明書や、これに代わる宣誓書、婚姻証明書等が得られない場合とは、例えば、当事者の本国が制度として婚姻要件具備証明書を発行しない国の場合や、本国官憲が当事者の身分関係を把握していないため、同証明書を発行することができない場合などをいう。そのような場合には、実質的成立要件の審査は原則に戻り、当事者の本国法における婚姻の要件の内容を明らかにした上で、当事者の身分関係の事実を証明する書類により、各要件を満たしているかどうかが個別に判断される。そこで現行実務では、婚姻要件具備証明書を提出できない旨の当事者の申述書を出させた上で(奥田5093)、前者については出典を明示した法文、後者については本国官憲が発行した身分証明書・出生証明書・身分登録簿の写し等の提出を求めている(渉外戸籍実務の処理I総論・通則編196頁、戸籍72159)

しかし、この前者すなわち本国法の内容については職権探知事項であることから、届出人に対し本国法の法文の提出等、協力を依頼することはできるが、これを義務とすることは出来ない。戸籍窓口において準拠法の内容がわからない場合は、法務局や法務省へ照会をするしかなく、本国法の内容の不明を理由として届出不受理の取り扱いをすることは出来ない(奥田5068頁、5093)

後者について、要件を具備している旨の証明書類がまったく提出できない場合には、本人が要件を具備している旨の申述書によらざるをえないこととなる(奥田5094)

(i)「朝鮮人及び中国人についての取り扱い」

これにつき、朝鮮人及び中国人についての取り扱いがまずあげられる。在日朝鮮人及び台湾系中国人等については、その歴史的経緯から本国官憲がその身分関係事実を把握していないことが多い。特に、その親が来日後わが国で出生した子については、その出生が本国に届けられない例が少なくない。そのためこれらの者については、本国において婚姻要件具備証明書を発行する制度があっても、同証明書が発行されないことが多い。そこで、このような証明書を提出し得ない当事者については、同証明書を提出することができない旨の当事者の申述書、及びその身分関係を証する戸籍謄抄本又は本人の外国人登録済証明書に基づき、本国法と照らし合わせて当事者の要件の有無を審査して届出を受理して差しつかえないこととされている(昭和3029民甲245通達、下記(iii)@参照)。この扱いは、在日中国人にも適用されている(昭和31425民甲839通達、下記(iii)A参照)

しかし、本国官憲により身分関係事実が把握されている近時渡来者については、このような例外的な取り扱いは認められない(平成元・1227民二5541通達、下記(iii)B参照)。もっとも韓国及び台湾系中国人の本国法である韓国法及び中華民国法の内容は戸籍窓口で把握しており、さらに韓国及び台湾では、わが国の戸籍のように、ひとつの身分登録簿によって全ての身分関係事実を明らかにできる制度を有していることから、韓国及び台湾系中国人については、その戸籍謄本はその者の国籍及び身分関係事実等につき、婚姻要件具備証明書と同一の証明力と信用性があるとされる。したがって戸籍謄本とその訳文(戸籍法施行規則63条の2)が添付されていれば、本国法上の要件具備如何の審査が可能であることから、婚姻要件具備証明書の提出は不要とされ(渉外戸籍実務の処理I総論・通則編192頁、『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』218)、さらには上記民甲245通達で要求されている婚姻要件具備証明書を提出できない旨の当事者の申述書も必要ではないとされる(戸籍547121頁、下記(iii)C参照)

(ii)「申述書」

それ以外の外国人当事者については、要件具備証明書を得られない旨の当事者の申述書及び関係する証明書の提出を求める取り扱いがなされている。すなわち、本国が婚姻要件具備証明書を発行しない場合((iv)@ABの事例)、本国が外国人当事者の身分関係を把握していない事例((iv)C)など場合においてこのような取扱いをした例がある。それ以外にも、理由は明示されないものの、外国人当事者が本国官憲より婚姻要件具備証明書を得ることが難しいとされる場合において、その旨の申述書及び身分関係についての証明書を本人に提出させることにより、婚姻届受理の扱いがなされる事例もある((iv)DEF)

また、5.02.03.(2)(i)「宣誓書」のところでも触れたように、「婚姻要件具備証明書に代わる宣誓書」であると取り扱われるのは、協定が交わされているアメリカ人の場合に限るのが妥当であり、それ以外の外国人については、ここでいう婚姻要件を具備している旨の本人の申述書ないし宣誓書に該当するものであると解して取り扱うのが相当であると思われる。

 

(3)に該当するものの例

(i)朝鮮人及び中国人についての取り扱い

@        在日朝鮮人、台湾人の場合:要件具備証明書を提出することが出来ない旨の当事者の申述書及び身分関係を証する戸籍謄抄本(本国当該官憲発給の身分関係の証明書を含む)又は本人の外国人登録原票記載事項証明書(発行の日から1箇月以内のもの)でよい(昭和3029民甲245通達)

A        在日中国人の場合:在日中国人(平和条約の発効前から中国の国籍を有する者)を当事者とする場合についても、昭3029民甲245通達の取扱いに準ずる(平成13615民一1544号通達により「中華民国」又は「中華民国人」は「中国」又は「中国人」と変更されている)(昭和31425民甲839通達)

B        近時渡来者の場合:本国官憲により身分関係事実が把握され、婚姻要件具備証明書の発行の可能な中国や韓国からの近時渡来者については、申述書及び外国人登録済証明書で足りるとの昭和3029民甲245通達による例外的な取扱いは認めるべきでなく、あくまで、本国官憲発行の証明書の提出を求め、これを審査した上、受理すべきものとされ、@Aについては、近時渡来者には関係しないとされた事例(平成元・1227民二5541通達)

C        韓国人及び台湾系中国人の場合:韓国人及び台湾系中国人については、戸籍謄本とその日本語訳の添付(戸籍法施行規則63条の2)があれば十分に要件審査が可能であると考えられるため、重ねて要件具備証明書の提出を求める必要はない(渉外戸籍実務の処理I総論・通則編192頁、『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』218頁、戸籍547121)

(ii)申述書

@        イスラエル人の場合:イスラエル人男と日本人女との婚姻届につき、本国官憲より婚姻要件具備証明書が得られないため、同男からその旨の申述書及び出生証明書を送付してその届出があった場合、これを受理して差し支えないとされた事例(昭和401125民甲3313号回答)

A        ジョルダン人の場合:ジョルダン人男と日本人女の婚姻につき、ジョルダン国官憲から婚姻要件具備証明書の発給を得られなかった旨の同男の申述書、及び出生証明書、独身証明書、外国人登録済証明書により、届書を受理して差し支えないとされた事例(昭和601018民二6511回答)

B        ルーマニア人の場合:ルーマニアにおいては官憲による婚姻要件具備証明の発給制度はなく、身分事項を証明する書類としては身分証明書があるのみであることから、日本人男とルーマニア人女との婚姻届につき、ルーマニア人女から、独身証明書のほか、本国法上の婚姻要件を具備している旨の申述書を徴した上、婚姻届を受理して差し支えないとされた事例(平成4.6.30民二3763号回答)

C        バルバドス人の場合:バルバドス人女と日本人男との婚姻につき、同女の出生報告がバルバドス国に対してなされていないためにバルバドス本国官憲がその身分関係を把握していないことから、同女より婚姻要件具備証明書が提出できない旨及び現在独身であって法律上の婚姻障害がない旨の申述書が提出されていることにより婚姻届を受理して差し支えないとされた事例(平成7330民二2644回答)

D        ウクライナ人の場合(その1):ウクライナ人男と日本人女との婚姻につき、ウクライナ人男の婚姻要件具備の証明書を徴することが困難であれば、その旨及び婚姻の要件が具備している旨の同男の申述書を添付させて届書を受理するのが相当であるとされた事例(昭和32122民甲100回答)

E        ウクライナ人の場合(その2):日本人男とウクライナ人女の婚姻届について、ウクライナ人女につき旅券の写し、出生証明書、独身証明書、ウクライナ婚姻法原文写し及び訳文が提出されている事案において、同女から本国法上の婚姻の実質的成立要件を具備している旨の申述書を徴した上、これを受理して差し支えないとされた事例(平成7224民二1973回答)

F        タイ人の場合:タイ国は婚姻要件具備証明書を発行する国ではあるが、当事者がこれを得られない場合には、()本国で発行された独身証明書、()居住証明書、()婚姻要件具備証明書をえられない旨の当事者の申述書が提出されればよいとする(戸籍628142頁、同69554頁、同73558)

 

改正提案

(1)(3)についてはなし。

(2)外国人当事者について本国の権限ある官憲が発行した婚姻能力を証する書面を得られない場合には、「宣誓書」や「婚姻証明書」などそれに代わる証明書類として認められるものを添付する。ただし「宣誓書」については、アメリカ人を当事者とする場合に限る。

 

婚姻能力を証する書面を得られない場合において、これに代わる証明書類として宣誓書があげられているが、宣誓書を婚姻要件具備証明書に代える取扱いは、駐日アメリカ大使館領事部との協議に基づくものであるため、アメリカ人以外の外国人についても同様の取扱いをすることは妥当ではない。アメリカ人以外の外国人については、婚姻証明書の提出による場合を除き、(3)の取り扱いとし、そのような証明書を得られない旨の「申述書」及び「その他の資料」を添付する事とし、そのような資料が存在しない場合には婚姻要件を具備している旨の本人の申述書によるとする、昭和401125民甲3313号回答他(上記(iv)@〜Fの事例)の扱いにするべきである。また、アメリカ人についても、実際は反致が成立するため、「宣誓書」が提出されたとしても、さらに個別の書面により、アメリカ人当事者が日本法上の要件を具備しているかどうかの審査が必要となる。

 

5.03 婚姻の報告的届出

5.03.01[婚姻の報告的届出]

現行実務

(1) 外国に在る日本人が、その外国の方式により婚姻した場合、当該日本人当事者はその旨の届出をしなければならない。

(2) 外国に在る日本人が、外国人配偶者の本国法による方式により婚姻した場合、その本国が婚姻挙行地国以外の国であっても、当該日本人当事者は、その旨の届出をしなければならない。

(3) 日本において日本人と外国人が当該外国人の本国法の方式による婚姻はできないため、この婚姻についての報告的届出はできない。

(4) 外国人同士が日本において外国の方式による婚姻をした旨の報告的届出はできない。

 (1)について戸籍法41条、

 (2)について、戸籍法4142条の類推適用、平成元・102民二3900通達第12(2)

 (3)について、法例133項但書、平成元・102民二3900通達第12(3)

 (4)について『新版・実務戸籍法』362頁。

 

(1)について

 外国に在る日本人が、法例132項により、その外国の方式により婚姻した場合、当該日本人当事者は、その国の方式に従って作成された婚姻に関する証書の謄本、又は婚姻証書を作成しない場合には婚姻の成立を証する書面を、婚姻成立の日から3箇月以内に、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事等に提出しなければならない(戸籍法411)。領事等は、これを遅滞なく外務大臣を経由して当該日本人本人の本籍地の市区町村長に送付する(戸籍法42)。大使、公使又は領事がその国に駐在しないときは、当事者は3箇月以内に本籍地の市町村長に婚姻に関する証書の謄本、又は婚姻の成立を証する書面を発送しなければならない(戸籍法412)。大使等は、これを遅滞なく外務大臣を経由して本人の本籍地の市区町村長に送付することが義務付けられる(戸籍法42)。当該国に日本の大使等が駐在している場合であっても、当事者は報告的婚姻届出を 本籍地に郵送あるいは帰国後に提出することができる(大正31228893回答、昭和26725民甲1542回答)。ただし、当事者は在日の当該国の領事等に書類を提示し、当事者の本国の方式によったことの書面による確認を受け、当該書面を提出しなければならない。(昭和331029民甲2076回答)

 

(2)について

 外国に在る日本人が、法例133項本文により、外国人配偶者の本国の方式により婚姻した場合、その本国が婚姻挙行地以外の国であっても、婚姻挙行地の方式により婚姻した場合と同様に、婚姻証書の謄本等を婚姻成立の日から3箇月以内に、その国に駐在する日本の領事等に提出しなければならない(平成元・102民二3900通達第12(2))。その後の取り扱いは(1)に同じ。なお、この取り扱いに関しては、5.03.01(1)の場合とは異なり、戸籍法41条の類推適用であるため、その提出期間を経過しても、過料の制裁を前提とした戸籍法施行規則65条による管轄簡易裁判所への失期通知はなされないと説明されている(『新版・実務戸籍法』370頁、渉外戸籍実務の処理U婚姻編200)。しかし、その前提となる戸籍法41条に基づく証書の謄本の提出についても平成10724民二1374通知により、法定の期間内に提出又は発送がなされなかった場合に失期通知を要しないとされたことから、5.03.01(1)及び(2)のいずれの場合においても、過料の制裁はなされないこととなる(奥田51763)

 

(3)について

日本において婚姻を挙行した場合において、当事者の一方が日本人であるときは他の一方の当事者の本国法による方式によることはできないとされたため(法例133項但書)、日本人と外国人が日本において婚姻をした旨の報告的届出は受理することが出来ない(平成元・102民二3900通達第12(3))。なお、5.01.02(3)参照のこと。

 

(4)について

例えば()わが国にある外国の外交官又は領事が受理する当該外国の国籍を有する者と日本人でない者との婚姻(外交婚、領事婚)(ii)台湾系中国人同士又は台湾系中国人と外国人とのわが国における儀式婚、(iii)わが国にある外国の教会が外国人同士について行なう宗教婚は、当事者の一方の本国法の方式による婚姻としてわが国で有効に成立したと認められる。しかし、これらの婚姻についての報告的届出は、戸籍法の関知するところではないので、受理されないとされる(『新版・実務戸籍法』361-362)。戸籍法41条は、日本人の身分関係を戸籍に反映させるための規定であって外国人同士に関するものについては類推適用の余地はないし、また同法74条は創設的届出のみについて適用があるものと解され、報告的届出をするための実定法上の根拠がないからである(『新しい国際私法』6667頁、奥田5185556頁、51941頁も同旨)。もっともこれについては、現行実務の側においても、届出義務はないものの受理はできるとの見解もあり(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』89)、現行実務上も立場は分れるようである。

 

5.03.02[要件の審査]

現行実務

婚姻の報告的届出がなされた場合、以下の点につき審査される。

 (i) 方式の準拠法が外国法であること

 (ii) 当該外国法の方式を満たしていること

 (iii) 婚姻の実質的成立要件を満たしていること

 戸籍法41条 法例13条、昭和44517民甲1091回答。

 

(ii)について

市町村長、及び届出の受理について市町村長と同一の権限を有する外国駐在のわが国の領事等は、報告的婚姻届として提出された婚姻証書等が真正に作成されたものであるか否かについて審査する。真正に作成されたものであることが確認されれば、当該国の方式によって婚姻が成立した事が確認された事になる。当該国の法律が明らかでない場合や、証書作成名義者の有する権限について疑問がある場合には、管轄法務局、法務省、外務省、在外公館へと照会を重ね、明確にした上で処理される(『新版・実務戸籍法』370-371)。婚姻証書として認められた事例については、5.03.04を参照のこと。

 

(iii)について

実質的成立要件の審査は、5.01.015.01.035.01.04で定まる準拠法によりなされる。外国の方式に従って婚姻が適法になされ、その旨の報告的届出がなされた場合においても、実質的要件の欠缺が当然無効をきたすときには、当該届出は受理されない。しかし、実質的要件の欠缺が単に婚姻取消の原因に過ぎないときには、その報告的届出の受理を拒むことは出来ないとされる(大正1511268355回答144213民甲208回答、昭和44517民甲1091回答)。これは、外国の方式によって一応婚姻が成立しているのであるから、その婚姻について取消の事由があっても、その事を理由に報告的届出を受理しないことは許されないから、とされる(『新版・実務戸籍法』372)。したがって、そのような婚姻は実質的要件を定める準拠法に基づき取り消しがなされるまでは有効なものとして取り扱われる(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』33)

例えば、重婚についていえば、重婚禁止の要件は現行実務上双方的要件とされていることから、外国人当事者の本国法のみならず、日本人当事者の本国法たる日本法の要件も満たさねばならない。しかし日本法上重婚は取消原因とされるにすぎない。そのため、外国法の方式により婚姻したとの報告的届出が提出された場合、外国人の本国法上、重婚が有効又は取り消しうるものとされている場合には、当該報告的届出は受理されることとなる(大正1126・民8355回答、昭和44517民甲1091回答、『渉外戸籍実務の処理II 婚姻編』281頁、291頁、『Q&A渉外戸籍と国際私法』152153頁、)。これは外国人当事者が重婚になる場合であっても、日本人当事者が重婚になる場合であっても同様である(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』153156頁、日本人が重婚となる場合について報告的届出を認めた例として大正1126・民8355回答)

この扱いにつき、重婚と公序との関係について、現行実務においては以下のような説明がなされる。すなわち、重婚そのものについては、わが国において重婚が禁止され(民法732)、刑法上も重婚罪として処罰の対象ともなることから、重婚は公序良俗に反するものといえる。しかし、外国法の方式によりいったん成立した重婚については、第三者の保護や後婚当事者との間に出生した子の福祉等、別途の考慮が必要である。また、わが国の民法上も、重婚は取消しの対象とはなるものの、後婚は当然に公序違反として無効とはならない。このようにわが国の国内法の解釈上、いったんなされてしまった重婚は公序に反しないとされているので、外国の方式で成立した婚姻により重婚が生じた場合は、法例33条適用の余地はない、との説明である(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』156頁、292)

ところで、実質的要件において無効事由がある場合、届出の受理を拒否しなければならないのは上述の通りであるが、実際のところ、窓口でこれを審査することはかなり困難であることから、現行実務においては、無効事由のあることが明らかな場合を除き届出を受理してさしつかえないこととされており、その後事情が判明した時点で、戸籍訂正の手続きによって消除することとなるのが通例のようである(『新しい国際私法』44頁、『新版・実務戸籍法』373頁、『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』303頁、)

 

5.03.03[届出義務者]

現行実務

(1) 外国にいる日本人が外国の方式により婚姻をした場合、日本人当事者はその旨の届出義務を負う。

(2) 日本人当事者が婚姻の報告的届出をすることができない特段の事情があるときは、外国人配偶者に届出資格が認められる。

 戸籍法411項。『渉外戸籍実務の処理U婚姻編』187頁。

 

(1)について

 戸籍法411項に定められる報告的届出義務は、戸籍法の属人的効力から日本人当事者について適用され、婚姻の相手方である外国人当事者には適用されない(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』187)

 

(2)について

 日本人当事者が報告的届出を提出しないうちに死亡するとか、行方不明であるなどの特段の事情により、日本人当事者からの報告的届出が出来ない場合は、婚姻の事実が戸籍に反映されなかったり、出生した子が日本国籍を取得できないなどの不都合が生じるのを防ぐため、現行実務上、外国人配偶者に届出資格が認められている(渉外戸籍実務の処理U婚姻編187)。また、外国にいる外国人配偶者から郵送により報告的届出がなされた場合においても、外国の方式で成立した日本人の身分行為を迅速かつ正確に戸籍に反映させ公示するという戸籍法41条の趣旨及び目的に鑑み、当該外国人生存配偶者に提出資格を認め、管轄法務局の長の許可に基づく職権記載によらず、提出された婚姻証書等によって直ちに戸籍の記載をして差し支えないとされる(『渉外戸籍実務の処理II婚姻編』287288)

 

5.03.04[添付書類]

現行実務

(1) 外国にいる日本人が当該外国の方式により婚姻をした場合、その国の方式によって婚姻に関する証書を作らせたときはその証書の謄本を、もしその証書を作成しない場合には婚姻の成立を証する書面を、婚姻成立の日から3箇月以内にその国に駐在する大使、公使又は領事に提出しなければならない。

(2) 外国にいる日本人が外国人配偶者の本国法の方式により婚姻をした場合、外国人配偶者の本国からの婚姻証書又は婚姻の成立を証する書面を婚姻成立の日から3箇月以内にその国に駐在する大使、公使又は領事に提出しなければならない。

(3) 大使、公使又は領事がその国に駐在しないときは、当事者は3箇月以内に本籍地の市町村長に婚姻に関する証書の謄本、又は婚姻の成立を証する書面を発送しなければならない。

(4) 当該国に日本の大使等が駐在している場合であっても、当事者は報告的婚姻届出を 本籍地に郵送あるいは帰国後に提出することができる。ただし、当事者は在日の当該国の領事等に書類を提示し、当事者の本国の方式によったことの書面による確認を受け、当該書面を提出しなければならない。

 (1)について戸籍法411項、

 (2)について、戸籍法41条の類推適用、平成元・102民二3900通達第12(2)

 (3)について戸籍法412項、

 (4) の本文について、大正31228893回答12、昭和26725民甲1542回答、

 (4)の但書について昭和33.10.29民甲2076回答。

 

(1)について

戸籍法第41条に規定される婚姻証書として認められるかどうかについては以下のような先例がある:

-         日本人男とポーランド人女のポ−ランド国の方式による簡略婚姻証明書を、戸籍法第41条に規定する婚姻証明書として取り扱って差し支えないとされた事例(昭和49.11.20民二6039号回答)

-         日本人男とマレイシア人女の婚姻につき、マレイシア・サバ州イスラム評議会発給にかかる婚姻証明書を添付してなされた報告的婚姻届を受理して差し支えないとされた事例(昭和56.5.18民二3160号回答)

-         日本人男とメキシコ人女がメキシコ国で婚姻した旨の教会発行の婚姻証明書について、戸籍法第41条の婚姻証明書に該当しないとされた事例(昭和59.12.18民二6668号回答)

-         日本人男とエル・サルヴァドル人女とのグァテマラ共和国における婚姻について同国の弁護士が発給した婚姻証明書は戸籍法第41条の婚姻証明書として取り扱ってよいとした事例(平成2.8.24民二3740号回答)

-         イスラエル人男と日本人女のサイプラス共和国における婚姻について同国ラルナカ市発行の婚姻証明書を戸籍法第41条の婚姻証明書として取り扱ってよいとした事例(平成71211民二4369回答)

-         台湾にある日本人男が同地の方式に従って中国人女と婚姻した旨を証する台湾地方法院公証人作成の証書が提出された場合は、戸籍法第41条の規定に基づく婚姻届の提出があったものとして処理して差し支えないとされた事例(昭和47.12.6民甲5035回答)

 なお、5.03.01(1)参照。

 

(2)について

 5.03.01.(2)参照。

 

5.04 戸籍への記載

5.04.01[戸籍への記載]

現行実務

(1) 日本人と外国人との婚姻の届出があった時は、その日本人について新戸籍を編製する。ただし、その者が戸籍の筆頭に記載した者であるときは、この限りでない。

(2) 戸籍の筆頭者でない者が外国人との婚姻を届け出た場合、日本人配偶者につき従来の氏により新戸籍を編製し、配偶者欄を設ける。

(3) 日本人配偶者を筆頭者とする戸籍で従前の取り扱いによって配偶欄が設けられていないものについては、日本人配偶者から申し出があったときは、その者につき配偶欄を設ける。

(4) 外国人同士が日本で日本の方式により婚姻する場合は、当事者の所在地の市町村長に婚姻届を提出しなければならない。市町村長は、婚姻届を受理した場合、受附帳に記載するが、外国人につき戸籍がないため、戸籍への記載はなされない。

 (1)について、戸籍法163項、改正法付則7条、昭和59111民二5500通達第21(1)、、9.02.05

 (2)について、昭和59111民二5500通達第21(1)2(1)

 (3)について、昭和59111民二5500通達第22(31)

 (4)について、戸籍法252項、『新版・実務戸籍法』378頁。

 

 


6.離婚

 

6.01 離婚の準拠法

6.01.01[離婚の準拠法]

現行実務

(1) 離婚は、夫婦の本国法が同一であるときはその法律により、その法律がない場合において夫婦の常所地法が同一であるときはその法律による。そのいずれの法律もないときは、夫婦に最も密接な関係がある地の法律による。ただし、夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは、日本の法律による。

(2) 離婚の方式は、離婚の成立に関する準拠法又は行為地法による。

 法例16条、22条。

 

 離婚の準拠法のうち、その実質的成立要件及び効力(例えば、離婚の許容性、離婚の方法及び機関、離婚原因、離婚給付など)に関する準拠法は法例16条により、方式(形式的成立要件)に関する準拠法は同法22条により、それぞれ決定される。離婚について反致は認められない(法例32条但書)

 したがって、離婚の方式は、夫婦の同一本国法、同一常居所地法、最密接関係地法、もしくは行為地法のいずれかに従った場合に限り有効となる。

 なお、当事者の本国法の決定については1.06.01を、離婚の際の子の親権者指定については7.01.01を、離婚と氏の関係については9.03を、それぞれ参照のこと。

 

6.02 離婚の創設的届出

6.02.01[創設的届出]

現行実務

以下の場合には、協議離婚の届出を受理することができる。

(1) 離婚当事者が日本人夫婦である場合

(2) 夫婦の一方が日本人であり、かつ

 () 日本人配偶者が日本に常居所を有するものと認められる場合、又はこれには該当しないが外国人配偶者が日本に常居所を有するものと認められる場合、又は

 () ()のいずれにも該当しないが、当事者の提出した資料等から夫婦が外国に共通常居所を有しておらず、かつ、その夫婦に最も密接な関係がある地が日本であることが認められる場合。

(3)夫婦の双方が外国人でその本国法が同一である場合。ただし、その本国法により協議離婚を日本の方式に従ってすることができる旨の証明書の提出がある場合に限る。

(4)夫婦の双方が外国人でその本国法が同一ではなく、かつ

 () 夫婦の双方が日本に常居所を有するものと認められる場合、又は

 () 夫婦の一方が日本に常居所を有し、かつ、他方が日本との往来があるものと認められる場合その他当事者の提出した資料等から夫婦が外国に共通常居所を有しておらず、かつその夫婦に最も密接な関係がある地が日本であることが認められる場合。                                            

 平成元・102民二3900通達第21参照。

 

(1)について

■ 外国駐在の日本の大使等への届出

 外国に所在する日本人夫婦が本国法(日本法)に基づき協議離婚をする場合には、戸籍法40条に従い、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事に届出をすることができる。離婚については、婚姻に関する日本民法741条のような明文規定(5.01.02参照)はないが、同法764条、739条及び戸籍法40条、76条により可能と解されている(『新版・実務戸籍法』382頁、改正法例の解説98頁、『新しい国際私法』83頁。なお、1.02.02参照)

 先例としては、以下のものがある。

-         米国に在る日本人間の協議離婚届は、領事において受理することができるとされた事例(大正12164887回答)

-         外国に居住する日本人夫婦は、居住地の法律が協議離婚を認めていない場合でも、日本の法律の規定によってその国に設置された在外公館に協議離婚の届出をすることができるが、夫婦が国籍を異にしているときは、協議離婚届をすることはできないとされた事例(昭和26913民甲1793回答)

-         ハワイ県第一巡回裁判所の離婚判決は、日本法上離婚の効果を生ずるものではないが、本件(在外邦人間)の離婚届書は、当事者双方から届け出たものであって、証人の連署を欠く外は協議離婚届の要件を具備しているものと認められるので、ホノルル在外事務所長の受理の日に協議離婚が成立したものとして処理するのが相当であるとされた事例(昭和2735民甲293回答)[なお、外国離婚判決の承認についての解釈は、その後変更された。]

■ 郵送による届出

 戸籍法は、一般に、郵送による届出行為を認めており(同法27条及び47条参照)、かつ、戸籍法の適用は、外国において生じた日本人の家族関係に関する事項にも及ぶから(1.01.02参照)、海外にある日本人も、届出行為を郵送によって行うことができるものと解される。

  ただし、外国からの郵送による協議離婚の届出は、離婚の実質的成立要件及び効力に関する準拠法が日本法である場合(法例22条本文)にのみ認められる。なぜなら、郵送に付した地(外国)が行為地(同条但書)であると解されるため(『新版・実務戸籍法』380頁、『新しい国際私法』82頁参照)、離婚の実質的成立要件及び効力に関する準拠法が日本法でない限り、日本法は離婚の方式準拠法となり得ないからである(なお、1.02.02参照)

■ 戸籍に記載されていない婚姻についての離婚届

 婚姻が外国において挙行されたため、日本の戸籍に婚姻についての記載がなされていない場合には、まず婚姻の報告的届出をさせた上で、離婚届を受理すべきである(奥田53832)

 

(2)()について

■ 日本人条項

 同一本国法及び同一常居所地法を持たない夫婦から協議離婚の届出がなされた場合、常に最密接関係地法を適用しなければならないとすると、形式的審査権しか有しない戸籍窓口に、その都度、準拠法についての極めて困難な判断を強いることとなり、戸籍実務上著しい支障を生ずる虞がある。このような実務処理上の便宜を考慮して、法例16条但書のいわゆる日本人条項が置かれている(溜池461頁、山田444頁参照)

■ 日本人が日本に常居所を有することの確認

 日本人配偶者が日本に常居所を有するか否かは、平成元・102民二3900通達第81(1)による。常居所地法の決定一般については、1.06.02を参照。具体的には、住民票の写しにより常居所が日本にあることを確認すれば足りるが、本人確認の必要上、「運転免許証、旅券等官公署の発行に係る顔写真が貼付された証明書」の提示も求めることになる(平成15318民一748通達、奥田53833頁以下参照)

■ 外国からの郵送による届出

 日本に常居所を有する日本人配偶者が外国にいる場合には、外国から直接郵送により協議離婚の届出をすることができる(『新しい国際私法』82)。 

■ 戸籍に記載されていない婚姻についての離婚届

 婚姻が外国において挙行されたため、日本人配偶者の婚姻について日本の戸籍に記載がなされていない場合は、婚姻の報告的届出をさせた上で、離婚届を受理すべきであろう。

■ 日本人の配偶者である外国人のみが日本に常居所を有する場合

 現行実務は、外国人配偶者のみが日本に常居所を有する場合にも、一律に協議離婚届を受理できるとする。そして、本項の場合、日本人配偶者が常居所を有しないことを積極的に認定する必要はなく、外国人配偶者の常居所のみを認定すれば足りるものと解されている(『新しい国際私法』86頁、体系戸籍用語事典454)。また、外国人配偶者の日本における常居所については、平元・102民二3900通達第81(2)に基づき、原則として外国人登録証明書及び旅券により認定される(1.06.02参照)

実務がこのように解する理由は、外国人配偶者のみが日本に常居所を有する場合は、類型的に日本法を最密接関係地法と認定し得るからである(『新版・実務戸籍法』383)。すなわち、夫婦の最密接関係地法は事案ごと個別的に認定するのが原則であるが、この場合は、配偶者の一方が日本人であり、外国人配偶者の常居所が日本にあり、当事者双方が離婚当事者の一方の本国法である日本法による協議離婚に合意していることなどの事情があるので、当該夫婦に最も密接な関係のある地は日本であると認めることができるというのである(『新しい国際私法』85頁参照)

 確かに、外国人配偶者のみが日本に常居所を有する事案の大部分について、日本法が最密接関係地法となり得ることは十分予想されることであるが、しかし、すべての事案がそうであるとは必ずしも言い切れないであろう(例えば、日本人配偶者が海外に永住の意思を持って居住している場合など)。また、夫婦の一方が日本人である場合に、そのいずれか一方の常居所が日本に存在すれば日本法により離婚できるとする現行実務は、日本人条項の適用を広げるものとなりかねない点も懸念される。したがって、外国人配偶者のみが日本常居所を有する場合には、本則通りに、個別に最密接関係地の認定(6.02.02)を行った上で、離婚準拠法が最密接関係地法たる日本法であることを確認すべきではなかろうか。このように要求しても、該当する事案が多数にのぼり戸籍実務に過剰な負担が生じる虞は少ないものと思われる。 改正提案(1)参照。

 

(2)()について

■ 同一常居所地

 現行実務(平成元・102民二3900通達)においては「共通」常居所の語が用いられているが、法例16条が準用する法例14条においては「同一」常居所の語が用いられている。常居所は複数成立する余地のない事実的概念であるから(溜池122頁以下、山田116頁以下参照)、共通常居所も同一常居所も実質的な違いは生じないと思われるが、混乱を防ぐためにも、法例において用いられている「同一」常居所の語に統一することが望ましいと考えられる。改正提案(2)参照。

■ 最密接関係地の認定

 離婚届の受理に際しての最密接関係地の認定につき、平成元・102民二3900通達においては、管轄局の長の指示を求めるよう規定されていたが、その後、平成545民二2986通知(後述6.02.02)により、特に疑義がある場合を除き、管轄局の長への照会は不要とされた。なお、最密接関係地法の決定一般については、1.06.04を参照。

■ 外国からの郵送による届出

 日本人配偶者は、日本に常居所を有しない場合でも、日本法が夫婦の最密接関係地法として認定される場合には、外国から直接郵送により協議離婚の届出をすることができる(『新しい国際私法』82)

■ 準拠外国法が協議離婚を認めている場合(当事者の一方は日本人)

 夫婦の一方が日本人で、離婚準拠法が(同一常居所地法又は最密接関係地法により)外国法となり、かつ当該離婚準拠法が当事者の合意に基づく離婚(協議離婚)を認めている場合、すなわち、外国人と婚姻している日本人が日本法以外の法に基づき協議離婚を行う場合の創設的届出については、現在のところ規定がない。なぜなら、これらの場合に日本で協議離婚の届出がなされることは極めて稀であると考えられているためである(『新しい国際私法』87頁参照)。しかし、この場合に協議離婚の届出を受理できることはもちろんであり、戸籍制度の趣旨に鑑みれば、日本人配偶者については戸籍への記載が強く望まれるのであるから、これらの事案をカバーする規定を整備すべきではなかろうか。                                    

 その場合には、そもそも当該離婚準拠法が当事者の合意に基づく離婚を認めているか否かについて確認する必要が生じる。そこで、当該外国法が合意に基づく離婚を認めていることの証明書の提出を当事者に求め、それが難しい場合には受理照会をすべきであろう(下記(3)についての解説参照。なお、奥田53932頁注(23)は、「最密接関係地が外国であると回答される場合は、当該外国法により協議離婚が認められているか否かについても、併せて回答がなされるはずである。」と述べる)。また、当事者が同一常居所地法の適用を主張している場合には、同一常居所を有していることの証明も必要となろう。改正提案(3)参照。        

 この点についての先例としては、下記のものがある。

-         夫婦の一方が日本人であり、かつ離婚準拠法たる外国法が協議離婚を認めている場合には、協議離婚届に、当該外国の権限ある官憲の発給した「日本において協議離婚をすることができる旨」の証明書を添付させる。同証明書の添付がない場合、市町村長は協議離婚届を受理することができないとされた事例(昭和4163民甲1214回答)

 ただし、離婚準拠法が韓国法、中華人民共和国法、中華民国法のいずれかである場合は、これらの法が協議離婚を認めていることは明らかであると解されているので、受理照会は不要とされる(下記(3)についての解説参照)。その先例としては下記のものがある。

-         韓国民法8361項の規定によれば、協議上の離婚をするには、あらかじめ家庭法院の確認を要するが、右の確認は、法例上、協議離婚の方式に属するものと解されるので、夫が韓国人である夫婦につき、右の確認を得ることなく協議離婚の届出がなされた場合、従来通りこれを受理して差し支えないとされた事例(昭和531215民二6678通知)[韓国大法院戸籍例規668号により韓国実務に変更が生じたことについて、奥田54622頁以下参照。]

-         日本人夫と韓国人妻の離婚の際に最も密接な関係がある地が韓国であると認定され、協議離婚届を受理して差し支えないとされた事例(平成31213民二6123回答)

 

(3)について

 外国人夫婦に関する本項の場合、戸籍への記載は不要である(6.04.01参照)。本国法の決定については、1.06.01.01及び1.06.01.02参照。

■ 「日本の方式に従ってすることができる」

 「日本の方式に従ってすることができる」とは、行為地法(法例22条但書)である民法及び戸籍法の規定に従い、外国人の(日本国内の)所在地の市区町村長に協議離婚の届出をすることができる、ということである(『新版・実務戸籍法』384頁参照)。この表現からは、「(夫婦)の本国法により協議離婚ができること」及び「日本の方式に従うことができること」の両者についての証明が必要であるように読めるが、後者については積極的な証明を要しないとされている。なぜなら、法例22条により、行為地法たる日本法による方式によってすることができることは明らかだからである(『新しい国際私法』89)。この「日本の方式に従ってすることができる」という文言は、「戸籍関係の通達では、伝統的に右の文言が加えられているので、それに従っただけである」(同上)という。そうであるならば、上述のような誤解を生ぜしめる虞を有するこの文言は削除されるべきであろう。改正提案(4)参照。

 この点についての先例としては下記のものがある。

-         ブラジル人同士の協議離婚届は、ブラジル法に協議離婚に関する規定がないので受理できないとされた事例(平成6225民二1289回答)

■ 証明書

 日本の方式に従ってすることができる旨の「証明書」とは、本国官憲発行のものに限らず、出典を明らかにした法文の写しなどもこれに該当する。当該国の弁護士の証明書でも差し支えないが、事件本人の証明書では、ここにいう証明書になり得ない(『新しい国際私法』89)

 この点についての先例としては下記のものがある。

-         外国人男と日本人女間の離婚については、[平成元年改正前]法例第16条により離婚の原因たる事実の発生した時における夫の本国法によるべきものであるから、右夫たる外国人男の本国法により協議離婚を日本の法律によってできる旨の証明書(かかる証明書を発行する権限ある者の署名あるもの)を提出させた上、これを受理すべきものであるが、目下のところ、米国においては協議離婚の制度はないものと考えられるので、米国人男との協議離婚の届出は受理しないのが相当であるとされた事例( 昭和26614民甲1230通達)[平成元・102民二3900通達第21()で引用されているが、外国人夫婦の事案ではない点に注意。]

■ 本国法が韓国法、中華人民共和国法、中華民国法のいずれかである場合

 離婚準拠法たる夫婦の同一本国法が韓国法、中華人民共和国法、中華民国法のいずれかである場合は、これらの法が協議離婚を認めていることは明らかであるから、要件具備証明書の提出がなくても、協議離婚届を受理して差し支えない(奥田54344頁、大韓民国民法834条、中華人民共和国法(2001)34条、中華民国法1049)

 この点に関する先例としては下記のものがある(平成元年法例改正前のものは、夫の本国法が協議離婚を認めている事案である)

-         台湾人男と婚姻してその戸籍に入籍している元日本人女が平和条約発効後に日本で協議離婚の届出をするときに離婚の要件具備に関する本国官憲の証明書が得られない場合、便宜台湾人男と婚姻した旨の記載がされている同女の戸籍謄本を添付させその届出をさせることができるとされた事例(昭和2877民甲1152回答)

-         婚姻した朝鮮人が離婚届書に相互なつ印した上、その届書に外国人登録済証明書を添え届出をしたものの、離婚の相手方である男が爾後朝鮮に帰国したまま所在不明となり連絡がとれないため戸籍謄本又は要件具備の証明書及び申述書の提出をすることが困難である場合には、その届書を受理して差し支えないとされた事例(昭和35926民甲2403回答)

-         中華人民共和国国籍を有する夫婦間の離婚につき、同国婚姻法24条のいう「婚姻登記機関に出頭して離婚を申請する」は法律行為の方式にすぎず、法例82項により、日本法の定める方式による離婚の届出により協議離婚が有効に成立したものとされた事例(高松高裁平成51018判決(判タ834215))

■ 外国人夫婦による外国法に基づく協議離婚届の外国からの郵送による届出

 協議離婚を認める外国を同一本国とする夫婦の離婚届が、当該外国から日本に郵送されてきた場合、「郵送による届出がなされる場合の身分行為の行為地は、当該届書を郵送に付した地である」(『新版・実務戸籍法』381)から、外国における外国人に関する事項ということができ、戸籍法の適用範囲には入らない(1.01.01、及び1.01.02参照)。したがって、外国に在る外国人は、戸籍法による届出によって身分上の行為をすることはできず、外国に在る外国人からの郵送による離婚届は受理できないこととなる(『新しい国際私法』82)

 なお、この不受理処分をした場合は、その届書類を届出人等に返戻し、不受理処分整理簿に処分及び返戻の年月日、事件の内容並びに不受理の理由を記載しなければならない(戸籍事務取扱準則制定標準31)

 

(4)()について

 本項も外国人夫婦の場合に関するものであり、戸籍への記載は不要である(6.04.01参照)

 外国人夫婦の日本における常居所については、平成元・102民二3900通達第81(2)に基づき、原則として外国人登録証明書及び旅券により、それぞれ認定される(1.06.02参照)

 外国人夫婦は、その所在地の市区町村長に協議離婚の届出をすることにより(戸籍法252項参照)、日本法上有効に協議離婚をすることができる。この場合、外国からの郵送による協議離婚の届出は、戸籍法の適用範囲(1.01.01、及び1.01.02参照)に含まれないので認められないと解される(本条(3)についての解説参照)

 

     (4)()について:

 本項も外国人夫婦の場合に関するものであり、戸籍への記載は不要である(6.04.01参照)

 「共通」常居所の語は、「同一」常居所に改める(本条(2)()についての解説参照)。改正提案(5)参照。

 最密接関係地の認定については、平成545民二2986通知(後述6.02.02)により、特に疑義がある場合を除き、管轄局の長への照会は不要とされている(2()についての解説参照)。なお、最密接関係地法一般については、1.06.04参照。

 外国にいる外国人が、直接郵送による協議離婚の届出を行うことができないことについては、本条(3)についての解説参照。

 夫婦の双方が外国人で、離婚準拠法が(同一本国法ではなく、同一常居所地法又は最密接関係地法により)外国法となり、かつ当該離婚準拠法が当事者の合意に基づく離婚を認めている場合の創設的届出については、現在のところ規定がない。それは、このような場合に日本で協議離婚をすることは「まず考えられないため」(『新しい国際私法』93)であるという。また、戸籍法の効力の及ぶ範囲などの観点から、このような場合については受理照会をするのが適当であるとの見解もある(同上)

 しかし、国際私法上はこのような離婚も日本において認められるべきであり、また、戸籍法は日本の領域内で生じた家族関係に関する事項に適用されるのであるから(1.01.01)、届出行為が日本で行われているこのような協議離婚届は、原則として受理されるべきである。もっとも、離婚準拠法が韓国法、中華人民共和国法、中華民国法である場合を除き、当該外国法により協議離婚をすることのできる旨の証明書類の提出は必要であろう(2()についての解説参照)。 改正提案(6)参照。

 先例としては次のものがある。

-         本土系中国人夫と台湾系中国人妻の離婚の際に最も密接な関係がある地が中国であると認定され、協議離婚届を受理して差し支えないとされた事例(平成3125民二6048回答)

 

 以上のことから、以下の通り改正提案をする。

 

改正提案(下線部が改正箇所)

 以下の場合には、協議離婚の届出を受理することができる。

(1) 離婚当事者が日本人夫婦である場合

(2) 夫婦の一方が日本人であり、かつ

 () 日本人配偶者が日本に常居所を有するものと認められる場合、又はこれには該当しないが外国人配偶者が日本に常居所を有し、かつその夫婦に最も密接な関係がある地が日本であることが認められる場合(改正提案(1))

 () ()のいずれにも該当しないが、当事者の提出した資料等から夫婦が外国に同一(改正提案(2))常居所を有しておらず、かつその夫婦に最も密接な関係がある地が日本であることが認められる場合、又は

 () 準拠法が外国法となる場合で、その外国法が協議離婚を認めている場合。ただし、その外国法により協議離婚をすることができる旨の証明書の提出がある場合に限る。(改正提案(3))

(3) 夫婦の双方が外国人でその本国法が同一である場合。ただし、その本国法により協議離婚をすること(改正提案(4))ができる旨の証明書の提出がある場合に限る。

(4) 双方が外国人でその本国法が同一ではなく、かつ

 () 夫婦の双方が日本に常居所を有するものと認められる場合、

 () 夫婦の一方が日本に常居所を有し、かつ他方が日本との往来があるものと認められる場合、その他当事者の提出した資料等から夫婦が外国に同一(改正提案(5))常居所を有しておらず、かつその夫婦に最も密接な関係がある地が日本であることが認められる場合、又は

 () 準拠法が外国法となる場合で、その外国法が協議離婚を認めている場合。ただし、その外国法により協議離婚をすることができる旨の証明書の提出がある場合に限る。(改正提案(6))

 

6.02.02[離婚の届出の受理に際しての最密接関係地の認定について]

現行実務

(1) 婚姻が日本での届出により成立し、夫婦が日本において同居し、婚姻の成立から協議離婚の届出に至るまでの間、夫婦の双方が日本に居住していた場合は、夫婦に最も密接な関係がある地は日本であると認めることができる。

(2) 婚姻が外国で成立した場合であっても、夫婦が日本において同居し、以後協議離婚の届出に至るまでの間、夫婦の双方が日本に居住して婚姻生活の大部分を日本で送ったと認められるときは、夫婦に最も密接な関係がある地は日本であると認めることができる。

(3) 夫婦の一方又は双方が、協議離婚の届出の際に日本に居住していない場合、又は協議離婚の届出のために日本に入国したに過ぎない場合は、夫婦に密接な関係がある地を日本とは認めない。ただし、これらの場合であっても、婚姻が日本での届出により成立しており、夫婦に最も密接な関係がある地が外国であると認められる事情(夫婦が外国で同居していたこと等)が全くないときは、夫婦に最も密接な関係がある地は日本であると認めて差し支えない。                                                                                                         

 

平成545民二2986通知

かつては、夫婦の最密接関係地法について、管轄法務局に市町村長から受理照会がされたときは、法務省民事局長あて照会をする取扱いであった(平成元・1214民二5476通知記2)。しかし、最密接関係地法認定の際の留意事項を示す上記平成5年通知はこれを変更し、疑義がある場合を除き、受理照会を要しないとしている。

 先例としては次のものがある。

-         平成元年1214日付け法務省民二第5476号通知記2により、当職[法務省民事局第2課長]あて照会を求めていたが、今後は、疑義がある場合を除き、照会を要しないこととする(平成545民二2986通知([離婚の届出の受理に際して夫婦に最も密接な関係がある地の認定を要する事件について])

 

(1)及び(2)について

これらは、同一本国法及び同一常居所地法を有しない外国人夫婦に関するものである。夫婦の一方が日本人であるならば、これらのような場合には、その日本人につき日本に常居所が認められ、最密接関係地法の認定が不要になると考えられるからである。

 外国人夫婦による婚姻の創設的届出書類は、戸籍法施行規則50条により各(届出地の)市区町村において保管されているので、(1)における「婚姻が日本での届出により成立し」たことの証明に必要な書類は、当該婚姻届出地において請求できるものと考えられる。                                                 

 

(3)について

 夫婦の一方が日本人である場合も想定される。その場合、「婚姻が日本の届出により成立し」たことは戸籍の記載又は戸籍謄本により確認し得るが、「夫婦に最も密接な関係がある地が外国にあると認められる事情」が全くないことについては、「夫婦が外国で同居していた」事実がないことなどを含め、あらゆる事情を考慮しなければならず、結局、最密接関係地が日本に存するか否かについての受理照会が必要となろう(奥田53930頁参照)

 

6.02.03[協議離婚の方式]

現行実務

(1) 日本において協議離婚をするためには、民法及び戸籍法の規定に従って離婚の届出をしなければならない。

(2) 外国における日本人間の協議離婚は、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事に届出をすることができる。                                          

 (1)について、民法763条、同764条、同765条、戸籍法76条参照、

 (2)について、戸籍法40条。

 

(1)について

 戸籍法76条は、必要的記載事項として、親権者と定められる当事者の氏名及びその親権に服する子の氏名(1)、及びその他法務省令で定める事項(2)を掲げる。

 「法務省令で定める事項」は次の通りである(戸籍法施行規則571)(i)協議上の離婚である旨、(ii)当事者が外国人であるときは、その国籍、(iii)当事者の父母の氏名及び父母との続柄並びに当事者が特別養子以外の養子であるときは、養親の氏名、(iv)同居を始めた年月、(v)別居した年月、(vi)別居する前の住所、(vii)別居する前の世帯の主な仕事及び国勢調査実施年の41日から翌年331日までの届出については、当事者の職業、(viii)当事者の世帯主の氏名。

 戸籍及び住民基本台帳事務処理の便宜のための(iii)や、人口動態調査のための(iv)(vii)など(『全訂戸籍法』347頁、268頁〜269頁、加藤令造=岡垣学「全訂戸籍法逐条解説」(1985、日本加除出版)486頁以下参照)については、当事者が外国人である場合、そもそも記載させる必要があるか否か、ないしどこまで記載させるか、さらに検討の必要があるように思われる。

 

(2)について

 外国にある日本人間の婚姻及び養子縁組についての民法741条及び801条のような明文の規定はないが、日本人間の認知及び離縁と同様に、協議離婚についても、戸籍法40条を根拠に、日本人間であれば、外国に駐在する日本の大使、公使又は領事にその届出をすることができるとされている(12164887回答、昭2735民甲239回答)。外国にある日本人と外国人との間の協議離婚については、戸籍法40条が「文理上外国人に適用はないと解されている」ことから(『全訂戸籍法』239)、日本の在外公館に届出をすることができないとされている(昭和26913民甲1793回答参照)1.02.02参照。

 

6.02.04[創設的届出における添付書類]

現行実務

(1) 日本人当事者につき、日本に常居所を有するか否かを認定する必要がある場合には、住民票の写し。

(2) 外国人当事者につき、日本に常居所を有するか否かを認定する必要がある場合には、外国人登録証明書及び旅券。

(3) 離婚準拠法が外国法である場合、当該外国法が当事者の合意に基づく離婚を認めていることの証明書。

(4) 最密接関係地の認定において、婚姻が日本での届出により成立したことを証明する必要がある場合にはその証明書。

 (1)について、平成元・102民二3900通達第81(1)

 (2)について、平成元・102民二3900通達第81(2)

 (3)について、平成元・102民二3900通達第21(1)ウ、

 (4)について、平成545民二2986通知記3

 

(3)について

 この証明書については、6.02.01(2)()(3)(4)()についての解説など参照。

 

(4)について

 この証明書について、外国人夫婦に関しては、当該婚姻届出地の市町村において婚姻届出書類の謄本を請求できるものと考えられる。日本人については、戸籍の記載、又は戸籍謄本により確認できる(6.02.02の解説参照)。なお、添付書類一般については、1.03.01も参照のこと。

 

6.02.05[離婚届不受理申出]

現行実務

 夫婦の一方又は双方が日本人である場合には、申出人又は日本人配偶者の本籍地において離婚届の不受理申出を行うことができる。 

 昭和51123民二900通達、昭和51611民二3328通知。

 

離婚届不受理申出

 離婚届不受理申出とは、協議離婚届を相手方又は第三者に委託した後に離婚を翻意した場合、又は自分の知らない間に協議離婚届が提出される虞がある場合に、協議離婚届を受理しないで欲しい旨の書面を予め市区町村長に申し出ておくことによって、協議離婚届が受理されないようにする仕組みである。協議離婚における当事者の自由な意思を確保するために、戸籍に関する行政先例として成立したものであるとされる(例えば、中川淳「離婚届不受理制度について」民事研修17429頁参照)

 従来、離婚届不受理の申出は、外国人のみを当事者とする届出事件についても適用される取扱いであった。しかし、昭和51年通達(後掲)が「不受理申出は、申出人の本籍地市区町村長に対してすべきものとする。」としたため、そもそも本籍を有しない外国人には、一切、この申出を認めない扱いであると解される余地が生じた。しかし、同年3328号通知(後掲)は、日本人を配偶者とする外国人は、従来通り、その日本人配偶者の本籍地においてこの申出を行うことができる旨を明らかにしている。

 

先例

 先例としては次のものがある。

-         昭和51123民二900通達---離婚の意思がない者又はいったん離婚の意思をもって協議離婚届に署名したがその後離婚意思を翻した者が、協議離婚の届出がされるおそれがあるとして、右届出があってもこれを受理しないよう申し出たときは(以下この申出を「不受理申出」という。)、右申出を受け付けた後に提出された離婚届はこれを受理しないものとする。不受理申出は、申出人の本籍地市区長村長に対してすべきものとする。

-         昭和51611民二3328通知---従来離婚届等不受理の申出は、外国人のみを当事者とする届出事件についても適用される取扱いであったが(昭和431127日京都府戸籍住民登録外国人登録事務協議会決議)、昭和51123日民事局長通達後は、外国人のみを当事者とする届出事件については適用しないことに変更されたものと解して差し支えない。日本人と外国人を当事者とする届出事件については、従来どおり適用があると解して差し支えない。外国人から不受理申出をする場合、その相手方の本籍地市区町村長にすればよい。

 この不受理申出制度を、(再び)外国人夫婦にまで広げる必要性は高くないと考えられる。なぜなら、外国人夫婦の離婚については、離婚準拠法決定のため、旅券などで国籍を確認し、外国人登録済証明書などで常居所を確認する必要があるので、戸籍窓口では、外国人双方の旅券や外国人登録証明書がなければ協議離婚届を受理しないからである(奥田安弘『市民のための国籍法・戸籍法入門』179頁参照)。また、外国人に関する届出は、届出人の所在地で行わなければならない(戸籍法252)ので、不受理申出人とは別の地に所在する他方配偶者がその所在地で離婚届を提出したならば、不受理申出の効果はほとんど期待できないこと、さらに、仮に外国人夫婦につき不受理申出制度を整備したとしても、それが戸籍に反映されることはないなどの理由による。

 なお、昭和51123民二900通達によれば、他の創設的届出について不受理申出があった場合も、[離婚届と]同様に取り扱って差し支えないとされている。

 

離婚届等不受理申出の取下げ

 離婚届等不受理申出の取下げ一般については、次のような先例がある。

-         平成15318民一750通達---離婚届等の不受理申出の取下書の提出があった場合には、市区町村長は、当該取下書及びこれに対応する不受理申出書の各記載内容、筆跡及び印影を対比照合し、当該取下書が当該不受理申出をした者により作成されたものと認められるときは、不受理申出の取扱いを終了するものとする。なお、両者の筆跡及び印影の同一性を十分確認することができない場合には、取下人に対し、任意に身分証明書等の提示を求め、取下書の記載内容につき確認するなどの措置を講じ、その結果、当該取下書が当該不受理申出をした者により作成されたものと認められるときに限り、不受理申出の取扱いを終了するものとする。この場合、身分証明書等の写しを取下書に添付するなどの方法により、上記確認を行ったことを明らかにするものとする。

 

6.03 離婚の報告的届出

6.03.01[報告的届出(日本において離婚の裁判が行われた場合)]

現行実務

 一方又は双方が日本人である夫婦につき、日本の裁判所において離婚の裁判が確定した場合、戸籍法77条の規定に従ってなされた報告的離婚届は、これを受理することができる。

 

平成元・102民二3900通達第22前段

 平成元・102民二3900通達第22前段は、裁判離婚の報告的届出につき「離婚の裁判(外国における裁判を含む。)が確定した場合における報告的届出の取扱いは、従来のとおり」とするのみであるが、その意味するところは、次の通りである。すなわち、戸籍法は、離婚又は離婚取消の裁判が確定した場合は、同77条及び同条が準用する同63条の規定に従い、その報告的届出がなされなければならないとする。そして、同63条は、訴え提起者は裁判確定日から10日以内に、裁判の謄本を添付してその旨を届け出なければならない(1)とし、もし訴え提起者が届出を行わない場合には、訴えの相手方が届出を行うことができる旨(2)を定める。

 

日本の裁判所において行われる「離婚の裁判」

 日本の裁判所において行われる「離婚の裁判」には、調停離婚、審判離婚、判決離婚の他、和解離婚又は認諾離婚も含まれる(人事訴訟法37条、平成1641民一769通達第2(後掲)参照)。なお、平成1641日より、離婚訴訟の管轄は地方裁判所から家庭裁判所に移っている(人事訴訟法41)

 先例としては次のものがある。

-         平成1641民一269通達---離婚又は離縁については、訴訟における和解又は請求の放棄若しくは認諾を調書に記載することにより、確定判決と同一の効力が認められることとなった(人事訴訟法27条、44)ため、訴訟上の和解又は請求の認諾によって直ちに離婚又は離縁が成立することとなる(ただし、請求の認諾による離婚については、親権者の指定が不要で、かつ、財産分与、養育費等の附帯処分の申立てがない場合に限る(人事訴訟法371項ただし書)。したがって、裁判上の離婚(離縁)については、調停離婚(離縁)、審判離婚(離縁)、判決離婚(離縁)によるほか、和解離婚(離縁)又は認諾離婚(離縁)に基づく報告的届出によって、戸籍に離婚(離縁)事項の記載がされることとなる。

 

調停離婚等

 我が国では調停前置主義がとられている(家事審判法18)が、調停離婚及び審判離婚を判決離婚と同視することはできないとするのが、戸籍実務の多数説である。なぜなら、調停及び審判による離婚は、裁判所が関与するものの、当事者の意思によって成立ないし効力が左右される、一種の合意離婚と見られるからである(溜池463頁、山田449頁、『新版・実務戸籍法』387)。したがって、離婚準拠法が判決離婚のみを認める場合には、調停離婚による報告的届出を受理できないこととなる。またその場合には、そもそも調停の申立をする必要はなく、直接、離婚の訴えを提起すべきことになろう(山田455頁注(7)参照)

 先例としては次のものがある。

-         昭和2683民甲1596回答---[離婚準拠法所属である]アメリカには、調停離婚の制度がないものと考えられるので、調停証書に基づく離婚届は受理しない。

-         昭和28418民甲577通達[前段部分]---夫が米国その他調停による離婚の制度のない国の国民である夫婦につき日本の裁判所において離婚の調停が成立しても、この調停は一般には[平成元年改正前]法例第16条の規定に反するものと考えられるので、右調停に基づく離婚の届出は受理しない取扱である。

 他方、家庭裁判所実務は、調停(及び審判)離婚も家庭裁判所の判断が加わっているのであるから、広義の裁判と見て差し支えないと捉えており(溜池463)、家裁実務と戸籍実務とは対立している(『改正法例の解説』100)。また、昭和28年通達[後段部分]につき、「調停離婚を協議離婚に近いものと解しながらも、報告的届出の特性に考慮して、明らかな無効原因がない限り(離婚届の)受理をする趣旨である」との解釈もある(奥田54617頁以下)。 

 先例としては次のものがある。

-         昭和28418民甲577通達[後段部分]---裁判所は、離婚の調停を成立させるについては、[平成元年法例改正前]法例第29条に該当する場合であるかどうか、夫の本国の法律をも調査する職責を有するのであるから、今後は、特に法例第29条に該当しないことが明白である場合を除く外、同条により離婚の調停が可能な事案であると認め、調停に基づく離婚届を受理して差しつかえない取扱とする。

-         昭和561113民二6603回答---韓国人未成年者に対する親権者を母とする、韓国人夫と日本人妻との離婚の調停が成立し、これに基づく届出があった場合は、これを受理して差し支えない。

 さらに、準拠法たる外国法が裁判離婚主義を採用する場合に、我が国において離婚の審判をなし得るかという問題について、家事審判法24(調停に代わる審判)による審判離婚と同23(合意に相当する審判)による審判とを分けて考え、離婚につき当事者の任意処分を許さない外国法が離婚準拠法となる場合には、当事者の任意処分を許さない事件について認められる家事審判法23条の審判によるべきであるとする見解も存する。ただし、戸籍実務はこの見解については消極的である(島野・戸籍法2794(701))

 

離婚訴訟の国際裁判管轄

 この点に関しては、次のような先例が存在する。

-         最判昭和39325民集183486---[韓国人夫と元日本人妻の離婚につき]離婚の国際的裁判管轄権についても被告住所地主義を原則とすべきであるが、原告が遺棄された場合、被告が行方不明である場合、その他これに準ずる場合には、被告が我が国に住所を有しない場合であっても、原告が我が国に住所を有する限り、我が国に裁判管轄が存する。

-         昭和471128民甲4946回答---渉外的離婚訴訟事件の裁判管轄権について定めた国際的な法原則は存在せず、また、わが国においても制定法上の根拠もなくまた確立したルールと称すべきものもないので、現在のところ個々の具体的事案に関する裁判所の判断による以外は、わが国の公式的見解を表明することは困難と考えられる。

-         最判平成8624判決民集5071451---離婚請求訴訟においても、被告の住所は国際裁判管轄の有無を決定するに当たって考慮すべき重要な要素であり、被告が我が国に住所を有する場合に我が国の管轄が認められることは、当然というべきである。しかし、被告が我が国に住所を有しない場合であっても、原告の住所その他の要素から離婚請求と我が国との関連性が認められ、我が国の管轄を肯定すべき場合のあることは、否定し得ないところであり、どのような場合に我が国の管轄を肯定すべきかについては、国際裁判管轄に関する法律の定めがなく、国際的慣習法の成熟も十分とは言い難いため、当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って決定するのが相当である。そして、管轄の有無の判断に当たっては、応訴を余儀なくされることによる被告の不利益に配慮すべきことはもちろんであるが、他方、原告が被告の住所地国に離婚請求訴訟を提起することにつき法律上又は事実上の障害があるかどうか及びその程度をも考慮し、離婚を求める原告の権利の保護に欠けることのないよう留意しなければならない。

 また、「人事に関する訴えは、当該訴えに係る身分関係の当事者が普通裁判籍を有する地又はその死亡の時にこれを有した地を管轄する家庭裁判所の管轄に専属する。」と定める人事訴訟法(平成15)41項は、「両当事者の住所地における競合的管轄を認めたため、渉外人事訴訟の管轄決定の基準としては適さないものとなった。・・・国際管轄については、人事訴訟法の新管轄規定が使えない関係から、上記判例ルール[前掲最高裁昭和39年判決、最高裁平成8年判決]で対処することになる。」との見解がある(梶村太市、徳田和幸編『家事事件手続法』141[本間靖規執筆])

 なお、離婚訴訟における国際裁判管轄の原則は、調停離婚、審判離婚(山田464)の他、和解離婚、認諾離婚についても妥当するものと解される。

 

日本の離婚判決による離婚の報告的届出

 日本において離婚の裁判が行われた場合の報告的離婚届の受理にあたり、離婚準拠法上の離婚原因が存することは要求されるか。これを肯定する見解もある(島野・戸籍法7293(701))が、外国判決による場合との均衡、及び戸籍窓口の負担などを考慮すると、準拠法要件を課すことは妥当でないように思われる(『新しい国際私法』41頁、96頁参照)

 戸籍法772項は、離婚の届書の必要的記載事項として、親権者と定められた当事者の氏名及び親権に服する子の氏名(1)の他、法務省令で定める事項(2)を規定する。

 「法務省令で定める事項」は次の通りである(戸籍法施行規則572)(1)調停による離婚、審判による離婚、和解による離婚、請求の認諾による離婚又は判決による離婚の別、(2)当事者が外国人であるときは、その国籍、(3)当事者の父母の氏名及び父母との続柄並びに当事者が特別養子以外の養子であるときは、養親の氏名、(4)同居を始めた年月、(5)別居した年月、(6)別居する前の住所、(7)別居する前の世帯の主な仕事及び国勢調査実施年の41日から翌年331日までの届出については、当事者の職業、(8)当事者の世帯主の氏名。なお、6.02.03を参照。

 平成16年の人事訴訟法の施行に伴い、以下に述べる戸籍通知制度が行われている。

-         平成1641民一769通達---人事訴訟法の施行に伴い、人事訴訟事件についても、家事事件と同様に、戸籍の届出又は訂正を必要とする事項について判決が確定したときなどの場合には、裁判所書記官は、遅滞なく、事件本人の本籍地の戸籍事務管掌者に対し、その旨の通知(以下「戸籍通知」という。)をしなければならないとされた(人事訴訟規則17条、31条、35)。すなわち、戸籍の届出又は訂正を必要とする事項について人事訴訟の判決が確定した場合、離婚又は離縁の訴えに係る訴訟における和解(これにより離婚又は離縁がされるものに限る。)又は請求の認諾が調書に記載された場合には、戸籍通知がされることになったため、市区町村長は、戸籍の届出又は訂正申請を懈怠している届出義務者等に対して届出等の催告をし、催告をしても届出等がないときは、管轄法務局又は地方法務局の長の許可を得た上で、職権で戸籍の記載をすることとなる(戸籍法44条、242項、117)

 届出の際の添付書類については、6.03.05を参照。

 離婚当事者双方が外国人である場合には戸籍法77条は適用されないとするのが現行実務の立場である。確かに、外国人夫婦の離婚の場合、その届出は戸籍に反映されるわけではなく、かつ77条が準用する63条に違反すれば罰則が科せられる(戸籍法120条、3万円以下の過料)から、77条を適用することは外国人にとって負担が過重となるようにも思われる。しかし、外国人夫婦が自ら進んで離婚届を提出してきた場合には、これを排除すべき理由はなく、また離婚の裁判が日本で行われているのであるから(1.01.01参照)、これを受理しても差し支えないものと考えられる(なお、島野7292頁以下(701)参照)。 

 

6.03.02[報告的届出(外国において離婚の裁判が行われた場合)]

現行実務

一方又は双方が日本人である夫婦につき、外国の裁判所において離婚の裁判が確定した場合、戸籍法77条の規定に従ってなされた報告的届出はこれを受理することができる。ただし、外国の裁判所における離婚の裁判が民事訴訟法118条に定める要件を満たしていないことが明らかなときは、その裁判に基づく報告的離婚届を受理することはできない。   

 届出の際の添付書類については、6.03.05参照。

 

判決の確定性

 平成元・102民二3900通達第22前段により報告的届出が認められる場合には、外国における裁判も含まれている。しがたって、外国の裁判所において、少なくとも一方が日本人である夫婦の離婚の裁判が確定した場合は、戸籍法77条及び同条が準用する63条の規定に従い、その報告的届出が要求される(6.03.01参照)。したがって、原告が日本人である場合には届出義務を有し、被告であれば届出資格を有する。原告が外国人である場合、その外国人に届出義務はない(1.01.01、及び1.01.02参照)

なお、戸籍法77条により準用される戸籍法63条が定める「裁判が確定した日から10日以内に」の文言を改め、「(外国において離婚の裁判が確定した場合には)裁判が確定した日から3箇月以内に」とする改正提案については、1.02.05の改正提案を参照のこと。

 戸籍法77条により準用される同6311文における裁判の「確定の有無」に関しては、次のような先例が存在する。

-         昭和3568民甲1400回答---米国在住の米国人夫からユタ州の裁判所において離婚訴訟を提起された日本在住の日本人妻が、3箇月以内に異議申立がなければ終局判決として確定する旨の記載のある中間判決の謄本、その訳文、及び中間判決後3箇月以内に異議申立をしなかった旨の申述書を添付の上、本籍地の市長に戸籍記載を求めた場合、これを許可して差し支えない。

-         昭和59830民二4661回答---中国中級法院で中国人夫と日本人妻の離婚判決がなされ、原告である日本人妻からの離婚届に確定証明書が添付されていない場合につき、中国においても判決の確定証明は行われているから、同証明書の添付されていない当該離婚届は受理しないのが相当である。[なお、6.03.05(2)についての解説参照。]

 

裁判確定日

 戸籍法77条により準用される同6312文は、「その届書には、裁判が確定した日を記載しなければならない。」と規定する。この「裁判確定日」に関しては、次のような先例が存在する。

-         昭和31112民甲2557回答(アメリカ・アリゾナ州裁判所/当該判決が記録簿に登載されたと考えられる日)

-         昭和3256民甲835回答(ドイツ裁判所/判決宣告日)

-         昭和34430民甲867回答(アメリカ・メリーランド州裁判所/判決言渡日)

-         昭和34811民甲1755回答(クウェート宗教裁判所/書面記載日(離婚成立日))

-         昭和3568民甲1400回答[前掲](アメリカ・ユタ州裁判所/中間判決があった日から3箇月経過した日)

-         昭和3767民甲1501回答(アメリカ・カリフォルニア州裁判所/当該判決が記録簿に登載されたと考えられる日(判決言渡日を否定))

-         昭和38125民甲180回答(アメリカ・ネヴァダ州裁判所/当該判決原本の綴込がなされた日)

-         昭和391121民甲3762回答(アメリカ・ハワイ州裁判所/離婚判決書に裁判官が署名し、同判決書が書記官によってファイルされた日)

-         昭和40611民甲1165回答(アメリカ/記帳の日)

-         昭和44421民甲876回答(アメリカ/判決言渡日)

-         昭和511228民二6544回答(アメリカ・ウィスコンシン州ミルウォーキー郡巡回裁判所/当該離婚判決がなされた1年後(ウィスコンシン州離婚法247条の37(1)及び(4)を根拠とする。)

-         昭和53718民二4096回答(オランダ/裁判確定の届出を登録官に対して行った日)

-         平成11423民二872回答(アメリカ・ミズーリ州クレイ郡巡回裁判所/判決登録(=言渡))

 

民事訴訟法118条の適用

 外国離婚裁判の承認については、民事訴訟法118条が全面的に適用される。離婚準拠法上の諸要件が備わっているかどうかを審査する必要はない(『新版・実務戸籍法』389)。なお、外国裁判の効力一般については、1.07.01を参照のこと。

-         昭和461213東京家審[前段](外国裁判所の確定判決は民事訴訟法200[118]によりわが国においても効力を有するのであるから、もし外国の離婚判決が形式的に同条に該当する場合にはこれを受理しないわけにはいかず、それに基づいて戸籍の記載がなされた場合には、一応有効なものとして取り扱うべきものであり、従って、その記載が、戸籍法113条にいう「法律上許されないもの」ということはできない。)

-         昭和51114民二280通達(外国裁判所でなされた離婚判決は民事訴訟法200[118]の条件を具備する場合に限り、我が国においてもその効力を有するものと解すべきであり、離婚届の受理に際しては、離婚届に添付された判決の謄本などによって審査し、当該判決が民事訴訟法200[118]に定める条件を欠いていると明らかに認められる場合を除き、届出を受理して差し支えない。)

-         昭和601030民二6876回答(連合王国人妻とフランスで裁判離婚したアイルランド人(離婚禁止国人)男が、カナダ・アルバータ州において日本人女と婚姻した事案において、フランスにおける離婚判決は我が国において効力を有し、カナダの方式による婚姻は有効に成立していると解される[ので、提出のあった婚姻証明書を戸籍法41条に規定する証書の謄本として取り扱って差し支えない])

-         平成515民二1回答(日本人夫婦(夫・在米、妻・在日)の米国グアム上級裁判所における離婚判決(欠席判決)に基づく離婚届について、民事訴訟法200[118]2号の要件を欠くと明らかに認められる場合には該当しないから、受理して差し支えないとされた事例。)

 

戸籍法116条による訂正

 民事訴訟法118条の要件を具備しない外国離婚判決に基づきなされた戸籍の記載の訂正は、戸籍法116条の確定判決による戸籍の訂正をすべきである。先例として、次のものがある。

-         昭和461213東京家審[後段](外国の離婚判決が無効であると主張する場合は、戸籍法116条の確定判決による戸籍の訂正をすべきである。戸籍法113条に基づく戸籍訂正は、その訂正すべき事項が戸籍面から明らかであるか、その事項が軽微で、訂正の結果身分法上重大な影響を生ずることのない場合に限って許されるものと解すべきであって、管轄を持たない外国裁判所が行った離婚判決に基づく戸籍上の離婚に関する事項の訂正については、戸籍法113条による戸籍訂正は許されない。)

 

外国立法機関による離婚

 外国の立法機関によって離婚が成立した場合に、この立法措置を裁判と同様に解した次のような先例が存する。

-         昭和3077民甲1349回答([カナダ・ケベック州国会の助言と同意によって制定された婚姻を解消する旨の法律によって成立した日本人夫婦の離婚について]当該外国の法制上、離婚に関する裁判管轄権が裁判所によって行使されず、これに代わるものとして立法機関が権限を行使する場合には、かかる機関が右日本人夫婦についてなした離婚の決定(立法措置)もまた、夫の本国法上の離婚原因(妻の姦通)に該当する事由に基づいてなされたものである限り、その効力は、外国裁判所の判決と同様に解すべきである。)[準拠法要件を考慮した部分については、昭和51114民二280通達により変更された。]

 

6.03.03[報告的届出(外国において外国法に従い当事者の合意に基づく離婚が行われた場合)]

現行実務

 外国において、外国法である離婚準拠法に従って当事者の合意に基づく離婚を行い、方式準拠法が認める方式により証書を作らせた日本人配偶者が、戸籍法41条の規定に従い提出した当該証書の謄本は、これを受理することができる。

              

外国での協議離婚の報告的届出

 平成元・102民二3900通達第22後段は、協議離婚の報告的届出について、「外国において協議離婚をした旨の証書の提出があった場合の取扱いは、離婚の準拠法が改正された点を除き、従前のとおりである。」とするのみである。

 外国に所在する日本人が当事者の合意に基づく離婚(協議離婚)を行う場合は、外国裁判所の裁判による離婚とは異なり、日本の法例が定める準拠法に従って当該離婚を行わない限り有効なものとはならないので、まずその準拠法を明確にする必要があり、当該離婚がその準拠法によった有効なものであることが確認されて初めて受理されることとなる。外国において協議離婚をした旨の証書を報告的離婚届として受理できる場合とは、すなわち、()夫婦が日本人同士である場合、()夫婦の一方が日本人であり、かつ(1)日本人配偶者が日本に常居所を有する場合、(2)夫婦の常居所地法が同一で、その地の法律が協議離婚制度を設けている場合、又は(3)夫婦の同一常居所がない場合において、その夫婦に最も密接な関係がある地が日本であるか、最密接関係地が日本以外の場合には当該最密接関係地の法律が協議離婚制度を設けている場合、である(『新版・実務戸籍法』390頁参照)。外国人夫婦が外国で協議離婚をした旨の報告的届出については、戸籍法の適用がなく、受理できない(同上。なお、1.01.01、及び1.01.02も参照)

 

証書

 「証書」とは、その国の法律によって合意に基づく離婚を成立させる権限を有する者(例えば、当該国の市区町村長その他の権限ある機関など)が、離婚を成立させるために作成した証書のことであり、「証書の謄本」とは、そのようにして作成された証書の認証ある謄本を意味する。その他、合意離婚の成立を証明する離婚証明書なども、証書の謄本に準じて受理される(島野・戸籍法72911(71))

 

届出期間

 当事者が外国に在る日本人である場合は、戸籍法41条の規定に従い、3箇月以内にその国に駐在する日本の大使、公使又は領事に離婚の証書の謄本を提出しなければならず、もし、大使、公使又は領事がその国に駐在しないときは、3箇月以内に本籍地の市区町村長にその証書の謄本を発送しなければならない。この場合、本人の本籍地の市区町村長に直接郵送することもできる。なお、夫婦の一方が外国に在る外国人である場合、外国人配偶者は日本人配偶者の本籍地の市区町村長宛に離婚の証書の謄本を郵送できるものと解される。1.01.02、及び1.02.04も参照のこと。

 

方式要件具備の確認

 当事者の合意に基づく離婚は、実質的成立要件及び効力に関する準拠法又は行為地法のいずれかが定める方式によって有効に成立するので(法例22)、合意に基づく離婚に関する報告的届出がなされた場合は、その証書が、方式準拠法の定める要件に従って作成されたものであることを確認した上で受理しなければならない(島野・戸籍法72912(71))

 先例として次のものがある。

-         昭和34114民甲2441回答(デンマーク在住の日本人夫婦から同国裁判所の離婚判決を得たとして出された離婚届につき、デンマーク王国の方式により[協議]離婚が有効に成立したものとして取り扱うのが相当であるとした事例。)

-         昭和421025民甲2927回答(デンマークでスウェーデン人夫と離婚した日本人女性から出された離婚届につき、デンマーク王国の方式により[協議]離婚が成立したものとして取り扱うのが相当であるとした事例。)

-         昭和45817民甲3669回答(夫ノルウェー人、妻日本人間の離婚について、ノルウェーの県知事の離婚証明書を添付して日本人妻から離婚届がなされた事案につきノルウェー国の方式によって離婚が成立したものとして処理して差し支えない。)

-         昭和511119民二5985回答(日本人男と中国人女が台湾において協議離婚した旨の、台湾台北地方院公証処公証人作成の公証書を添付して離婚届があった場合は、その証書を戸籍法41条の規定による離婚証書として取り扱って差し支えない。

-         昭和531121民二6237回答(アメリカ人夫と日本人妻が、台湾における地方法院公証処で離婚の公証書を作成し、これを添付して妻から離婚の報告的届出があっても、夫が所属すると見られるアメリカ合衆国カンサス州においては協議離婚の制度がないものと考えられ、また、反致によって我が国の法律が適用されると解することもできないので、当該離婚は我が国法上有効に成立していないものと解するのが相当であり、公証書を添付してなされた当該報告的離婚届出は受理しないのが相当である。)

-         平成16426民一1320回答(イタリア人夫と日本人妻とのオランダ国法上の登録パートナーシップ制度に基づく同居契約解消登録に関する抄本を添付した報告的離婚届出について、同居契約解消登録日にオランダの方式により離婚が成立したものと認め、戸籍法41条の証書の謄本提出による報告的届出として処理して差し支えない。)

 

夫の一方的意思表示による離婚の報告的届出

 夫の一方的意思表示による離婚を認める外国法に従い離婚が成立したとして報告的届出がなされた場合に、これを受理した例がある。このような事案については、市区町村長は、当該届出について受理照会を行い、管轄法務局の長の回答を得た上で受理すべきであるとの見解がある(『新版・実務戸籍法』392)。確かに、夫の一方的意思表示による離婚は、一般には公序良俗に反し無効と解される(公序一般については、1.06.06を参照のこと)。しかし、渉外婚姻関係にある妻から離婚届が出され離婚に異議のない場合に、これを無効とし跛行婚を生じさせることは適当ではない。もし離婚を認めないならば、「日本人たる妻のみが日本法上婚姻の拘束を受け、一方外国人たる夫の本国法上は離婚が成立しているため、妻は夫の財産についての相続権を主張することができないなど不都合な結果となる」(鈴木健一「渉外戸籍」民事研修163104)との虞も考えられるからである。そのような場合には妻が離婚を承認したものと解して、当該届出を受理すべきであろう(加藤令造=岡垣学『全訂戸籍法逐条解説』492頁参照)

 先例としては次のものがある。

-         昭和34811民甲1755回答(英領クウェート国人と婚姻した日本人女が、離婚地たるクウェート法に従い、夫の一方的な意思表示により離婚した旨のクウェート宗教裁判所の証明書を添付して提出した離婚届は受理して差し支えない。)

-         昭和58510民二2990回答(エジプト人夫と日本人妻との離婚届に、エジプト官憲発行の離婚証明書があるときは(同国の離婚の方式は男性の一方的なサイン)、これを戸籍法411項に規定する証書として取扱い、その届出は受理するのが相当である。)

 

6.03.04[届出人]

現行実務

(1) 離婚の裁判が確定したときは、訴えを提起した者は、裁判が確定した日から10日以内に、その旨を届け出なければならない。

(2) 訴えを提起した者が前項の規定による届出をしないときは、その相手方は、離婚の裁判が確定した旨を届け出ることができる。

(3) 外国に在る日本人が、その国の方式に従って、離婚の証書を作らせたときは、3箇月以内にその国に駐在する日本の大使、公使又は領事にその証書の謄本を提出しなければならない。

 (1)について、戸籍法771項、同 631項、

 (2)について、戸籍法771項、同632項、

 (3)について、戸籍法411項。

 

1)及び(2)について

 戸籍法771項が準用する同法631項は、日本で裁判が確定した場合と外国で裁判が確定した場合とを区別せず、一律に、「裁判が確定した日から10日以内に」と定めている。しかし、これは、外国に在る日本人がその国の方式に従って身分的法律行為をした場合、「3箇月以内に」その国に駐在する大使などに証書の謄本を提出しなければならないとする戸籍法411項との対比において、10日以内に届け出を求めることは均衡を失していると考えられる。また、実際上も、外国で裁判が確定した場合には、日本で裁判が確定した場合に比べ、その届出により多くの時間を要する場合が生ずることも予想される。そこで現行実務(1)を改め、日本において裁判が確定した場合と外国において裁判が確定した場合との2つに分けて、「外国において裁判が確定したとき」は、裁判が確定した日から「3箇月以内に」とすべきである。この改正提案については、1.02.05も参照のこと。 下記の改正提案(7)参照。

 

戸籍法の地域的・人的適用範囲との関係

 日本の領域において生じた家族関係については、当事者である外国人にも戸籍法が適用されるから(1.01.01参照)、日本で裁判が確定した場合において、訴え提起者が外国人であるときは、当該外国人は届出義務者とされる。外国人であっても、届出義務を負う場合には、届出を懈怠すると過料に処せられる(戸籍法120条。1.01.01参照) 。

 外国において外国法に従い当事者の合意に基づく離婚が行われた場合において、外国人当事者が当該離婚の証書の謄本を提出してきたときは、これは日本人の家族関係に関するものであるから、受理して差し支えないものと解する(1.01.02参照)

 

改正提案(下線部が改正箇所) 

(1) 日本において離婚の裁判が確定したときは、訴えを提起した者は、裁判が確定した日から10日以内に、その旨を届け出なければならない。(改正提案(7))

(2) 外国において離婚の裁判が確定したときは、訴えを提起した者は、裁判が確定した日から3箇月以内に、その旨を届け出なければならない。(改正提案(7))

(3) 訴えを提起した者が前項の規定による届出をしないときは、その相手方は、離婚の裁判が確定した旨を届け出ることができる。

(4) 外国に在る日本人が、その国の方式に従って、離婚の証書を作らせたときは、3箇月以内にその国に駐在する日本の大使、公使又は領事にその証書の謄本を提出しなければならない。

 

6.03.05[報告的届出における添付書類]

現行実務

(1) 日本において離婚の裁判が行われた場合の届出の添付書類は以下の通りである。

  () 判決離婚については判決の謄本と確定証明書

  () 審判離婚については審判書の謄本と確定証明書

  () 調停離婚については調停証書の謄本

  () 和解離婚については和解調書の謄本

  () 認諾離婚については認諾調書の謄本

(2) 外国において離婚の裁判が行われた場合には、原則として、裁判の謄本、裁判確定証明書、日本人の被告が呼出しを受け又は応訴したことを証する書面(裁判の謄本において明らかでない場合)及びその訳文を添付しなければならない。

(3) 外国において外国法に従い当事者の合意に基づく離婚が行われた場合には、外国の方式に従って離婚した旨を証する証書の謄本及びその訳文を添付しなければならない

 (1)(a)から(c)及び(e)について、戸籍法77条、同631項、

 (1()について、平成1641民一769通達記2(2)参照)

 (2)について、昭和51114民二280通達、

 (3)について、戸籍法41条、戸籍法施行規則63条の2

 添付書類一般については、1.03.01及び1.03.02参照。

 

(1)について

 裁判上の離婚一般につき、その謄本は、省略謄本の添付で差し支えないとされている。

 先例として次のものがある。

-         平成1641民一769通達(裁判上の離婚の届出には裁判の謄本を添付しなければならないとされている(戸籍法771項、73条、631)が、添付すべき裁判の謄本は、戸籍の記載に関係のない事項を省略した、いわゆる省略謄本(調停調書、審判書、和解調書、認諾調書、判決書の省略謄本)で差し支えない。したがって、裁判上の離婚に係る戸籍通知についても、省略謄本を添付することで差し支えない。)

 

(2)について

 前述(6.03.02の解説(民事訴訟法118条の適用))のように、外国離婚裁判の承認については、民事訴訟法118条が全面的に適用されるものと解されているが、昭和51114民二280通達のうち、「日本人の被告が呼出を受け又は応訴したことを証する書面」の部分は、現行民事訴訟法1182号の文言(「敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達・・・を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと」)に適応していない。後者の趣旨は、被告の防御権がきちんと保障されたこと、ひいては当該訴訟が公平かつ適正な手続のもとで行われたことを明らかにすることにあり、このことは、離婚訴訟を含む離婚裁判一般においても、被告が日本人であるか否かに関わらずあてはまるものと考えられる。したがって、ここで要求される書面は、「敗訴の被告が呼出を受け又は応訴したことを要する書面」とすべきであると思われる。下記の改正提案(8)参照。

 その他、添付書類についての先例には次のようなものがある。

-         昭和52119民二543回答(米国在住の米国人男と日本在住の日本人女の離婚について、米国裁判所において離婚判決がなされ、日本人女から裁判の謄本を添付せず、当該判決が判決簿に記載された旨の記載のある判決通告書を添付して離婚届が提出された事案について、同判決通告書には主文・理由及び裁判官の氏名などは記載されていないが、原告・被告の住所氏名、判決の内容、離婚年月日などが明記されており、かつ通告書の作成者及び通告者は婚姻解消の最終判決を判決簿に記載した者と同一人であり、また通告書は州司法委員会規則所定の様式により作成された公文書であるから、戸籍法771項で準用する63条に規定する裁判の謄本が添付されているものと同一に解して受理して差し支えない。) 

-         昭和57510民二3302回答(日本人男とアルゼンチン女がアルゼンチンの方式によって婚姻した旨の結婚証明書の提出、及び同国の裁判所において得た別居の判決書謄本を添付してなされた離婚の届出について、婚姻届は受理して差し支えないが、アルゼンチンには離婚の制度はなく、離婚届書に添付された判決書の謄本は別居の裁判に関するものと思料されるので受理しないのが相当である。)

-         昭和5798民二5623通達(ブラジル国の裁判所のした離婚判決に基づいて離婚の届出があった場合に、その届書に同国の身分登録官が発給した、離婚判決の登録をした旨の記載のある婚姻証明書が添付されているときは、便宜、判決書の謄本を添付させることなく受理する。)

-         昭和59830民二4661回答(中国中級法院で中国人夫と日本人妻の離婚判決がなされ、原告である日本人妻からの離婚届に確定証明書が添付されていない場合につき、中国においても判決の確定証明は行われているから、同証明書の添付されていない当該離婚届は受理しないのが相当である。)[6.03.02の解説(判決の確定性)を参照]

 

(3)について

 次の先例は、戸籍法41条の証書の謄本に訳文を添付すべきであるとする(1.03.02参照)

-         昭和59111民二5500通達第46(届書に添付する書類その他市区町村長に提出する書類で外国によって作成されたものについては、翻訳者を明らかにした訳文を添付しなければならないこととされたが([戸籍法施行]規則63条の2)、その訳文を添付すべき書類には、[戸籍]41条の証書の謄本及び規則63条によって提出を求められた書類も含まれる。)

 

改正提案(下線部が改正箇所)

(2) 外国において離婚の裁判が行われた場合には、原則として、裁判の謄本、裁判確定証明書、敗訴の被告が呼出しを受け又は応訴したことを証する書面(裁判の謄本において明らかでない場合)及びその訳文を添付しなければならない。(改正提案(8))     

 

6.04 戸籍への記載

6.04.01[戸籍への記載]

現行実務

(1) 日本人夫婦が離婚した場合、婚姻の際に氏を改めた者が婚姻前の氏に復するときは、婚姻前の戸籍に入る。ただし、その戸籍が既に除かれているとき、又はその者が新戸籍編製の申出をしたときは、新戸籍を編製する。

(2) 外国人と婚姻した日本人が離婚した場合、戸籍の変動はなく、身分事項欄にその旨を記載し、配偶欄を抹消する。

 (1)について、戸籍法191項、

 (2)について、島野・戸籍法72912(721)参照。

 配偶欄については、1.05.01参照。

 

 外国人夫婦の離婚の届出が市区町村長に対してなされた場合は、届出を受理後、戸籍受附帳に記載し(戸籍法施行規則21)、戸籍への記載は要しないが、その届書を受理市町村長が保存し(50)、利害関係人の閲覧又は受理証明などによって公証に役立てられる(戸籍法48)。戸籍の記載不要届書類の保存方法については、戸籍事務取扱準則制定標準371項を参照。

 外国離婚判決において親権者についての定めがなされていない場合、親権に関する戸籍の記載は留保される。先例として次のものがある。

-         昭和4031民甲480回答(米国在住の日本人夫婦につき米国裁判所で離婚の判決がなされた場合、当該離婚判決証明書を添付した届出は受理して差し支えないが、未成年の子の親権者は不明であるので、それを明らかにする裁判の謄本を添えて親権者に関する事項の追完があるまで、親権に関する戸籍の記載は留保するほかない。)


7.親権・後見

 

7.01 親権

7.01.01[親権の準拠法]

現行実務

 親権については、離婚の際の親権者指定の場合を含めて、原則として子の本国法による。但し、子の本国法が父の本国法及び母の本国法のいずれとも異なる場合、又は父母の一方が知れない場合において、他方の親の本国法と子の本国法が異なるときは子の常居所地法による。

 法例21条、平成元・102民ニ3900通達第7及び第21(2)

 

法例の趣旨

 法例17条ないし20条によって親子関係の成立が認められた場合、その親子の間に発生する権利・義務関係について法例21条は定める。改正前法例20条は、親子間の法律関係について、まず父の本国法により、父が死亡又は父の知れないときには二次的に母の本国法によることにしていた。21条は両性平等の見地から旧20条を改正したものであるが、改正に際しては子の福祉の見地から子の属人法によることにしたものである(『改正法例の解説』156)

 したがって、離婚の際の親権者の指定についても、法例改正以前は、離婚の効力と捉えるべきか、それとも親子関係の問題と捉えるべきか、学説・判例とも分かれていたが、現在ではこの場合も含めて21条によることで一致しているといってよい。平成元・102民二3900通達第21(2)においても、離婚の際における親権者指定について法例21条によることを明らかにしている(『新版・実務戸籍法』398)

 本国法の決定及び認定については1.06.01.01及び02参照のこと。常居所地法の決定については1.06.02参照のこと。

 また、段階的連結を採用しているため、反致の適用はない(法例32)

 

準拠法決定の時期―変更主義

 親権は継続的法律関係であるところから、婚姻や養子縁組とは異なり、具体的に親権行使が問題となる当時の関係者の本国法あるいは常居所地法により準拠法が決定されることになる。したがって、原則として子の本国法によるとしていても、子の出生後、父又は母についてその国籍に変動があれば、準拠法が変わる可能性もあり、その結果親権者に変動が生じることもある(『新版・実務戸籍法』398)

 例えば、子の出生後、父又は母など関係者が外国へ帰化したり、重国籍の場合において常居所を変更したこと等により、従前の本国法が変更された場合は変更後の関係者の本国法により、子の親権の準拠法が決定されることになる(南、改正法例167)

 また、父又は母の死亡により、準拠法に変動が生じることもある。例えば、日本人と外国人の間の日本人嫡出子につき、父母婚姻中に日本人親が死亡すれば、準拠法は子の本国法たる日本法から、但書にいう子の常居所地法によることになる。そしてその場合、その子が日本に常居所地を有していれば、親権の準拠法は従前どおり日本法になり、父母の共同親権から一方死亡による単独親権になるだけであり、届出の必要な変動はないことになる。しかし、子の常居所地が外国であれば当該外国の法が準拠法になり、親権者に変動が生じる場合がある。

 さらに、例外的に子の常居所地法による場合には、その常居所地が変更することによって、親権者及び親権自体に変動(例、後見開始)が生じることもある。

 気をつけなければならないのは、次のような事例である。日本人と外国人夫婦の間の日本人嫡出子につき、夫婦が離婚し、その際親権者を日本人親にしたが、その後その日本人親が死亡し、子の常居所地が日本であるために日本法が準拠法となる場合である。その際には日本人未成年嫡出子の後見が開始するのであり、もう一方の外国人親が親権者になるのではない。しかし、この後見開始後、子が常居所地を外国に移したため、準拠法が変わり、その外国の法が準拠法となって外国人親の親権が回復するときである(『新版・実務戸籍法』402頁、戸籍法84)

 

準拠法の適用範囲

準拠法の適用範囲は主として親権に関する事項である。つまり、親権の帰属、内容、消滅等がそれに該当する。なお、親子間の扶養義務は扶養義務の準拠法に関する法律による(『改正法例の解説』164頁、溜池・515頁、山田・522)

 ただ、子の氏に関しては、子の人格権の問題としてその子の本国法によるとする見解が有力であるが(溜池・516)、子が出生により親の氏を称するか否か、あるいは認知、養子縁組など身分関係の変動に伴う子の氏の変更の問題は法例21条により、子がその父又は母と氏を異にする場合に、その氏を父又は母の氏に変更するのは、子の意思にもとづく氏の変更の問題として子自身の本国法によるべきであるとする有力説がある(山田・524)。子の氏については9.04参照のこと。

 

先決問題

 親権者の指定や変更に際して、親権者となり得るとされている者と事件本人との法律関係、すなわち親子関係の成否等が問題となることがある。すなわち「先決問題」とである。

 この点につき、平成3年まで韓国で認められていた継母子関係に基づいて親権者となりうるかということが問題となったことがある。

 先決問題については、学説は(1)法廷地の国際私法によるべきであるとする説、(2)本問題の準拠法所属国の国際私法によるべきであるとする説、(3)本問題準拠実質法によるべきであるとする説、(4)場合によって解決は異なるとする折衷説に分かれている。

 しかし、最高裁は平成12127日判決により、先決問題を本問題とは別の独立の単位法律関係として取扱う法廷地国際私法によるとする(1)の立場によることを明示した。

 

* 最判平成12127日民集5411

 事案は極めて複雑であるが、韓国人女性の遺した財産の相続が本問題となり、そこでその女性とその夫の非嫡出子との間の親子関係の存否が問題となったものである。韓国旧民法774条によると、このような事例では「嫡母庶子関係」の成立が認められるので、先決問題の準拠法の決定が争点となったのである。判旨は以下のように述べて、法廷地法たる法例に従い、旧17条、18条で親子関係の存否を認定している。

 「渉外的な法律関係において、ある法律問題(本問題)を解決するために不可欠の前提問題が国際私法上本問題とは別個の法律関係を構成している場合、その前提問題の準拠法は、法廷地であるわが国の国際私法により定めるべきである。」(松岡博・リマークス2001()138頁、大村芳昭・平成11年度重判297頁、道垣内正人・国際私法判例百選6頁参照)

 

 平成3年の改正前韓国民法に定める嫡母子関係の成立が問題となった先例として、昭和56116日付け法務省民二第6422号民事局長回答(昭和55416日付け戸第382)によると、「韓国人男に認知された日本人女の15歳未満の非嫡出子(日本国籍)が日本人男と養子縁組をする場合の縁組代諾権者は、父と嫡母であり、父が代諾権を行使できないときは嫡母である。なお、父及び嫡母がなく又は代諾権を行使できないときは生母である。」となっている。この回答からはどのように法例を適用したのかは明らかではないが、もし親権の帰属の先決問題としての親子関係の成立を、改正前法例20条により親権準拠法によったのであれば、最高裁判決とは異なる立場に立つことになり、認められないものとなろう(『戸籍小箱II181)

 

適応問題---親権準拠法と後見準拠法の調整

 親権の準拠法が子の常居所地法となり、未成年後見の準拠法が法例24条により子の本国法となる場合、両者が同一国法とならず抵触を生ずることがある。これについては7.0201参照。

 

公序

 最判昭52331民集312365頁は、親権者の指定に関し、父のみが親権者となるとしている韓国民法旧909条を、これによると扶養能力の欠如した父が親権者となることから、公序に反するとして排斥し、母を親権者としたものである。

 なお、公序一般については1.06.06参照のこと。 

 

7.02 親権の創設的届出

7.02.01[創設的届出]

現行実務

(1) 事件本人たる未成年者が日本人であって、親権準拠法が日本法の場合に、協議により親権者の指定等をしようとする者は、戸籍法78条又は80条にしたがってその旨の届出をしなければならない。

(2) 事件本人たる未成年者が日本人であって、親権準拠法が外国法の場合に、当該準拠外国法が協議による親権者の指定等を認める場合には、わが国においては戸籍法78条又は80条に準じて親権者指定等の届出をすることができる。

(3) 事件本人たる未成年者が外国人であって、親権準拠法が日本法の場合、又は外国法であっても協議により親権者の指定等ができる場合に行為地が日本のときは、戸籍法78条又は80条に準じて、親権者指定等の届出をすることができる。

(4) 離婚に際して、協議により親権者の指定をする場合には、親権準拠法がいずれの国の法であるかにかかわらず、戸籍法76条に従い、離婚届書にその旨を記載しなければならない。

 法例22条。島野73(戸籍72915)

 

親権に関して届出の必要な場合

 一般的に親権については、当事者たる未成年者本人の保護のためばかりでなく、当該未成年者を当事者として法律行為をしようとする第三者にとっても誰が法定代理人であるかは極めて重要である。したがって、親権事項は戸籍に記載すべきものとされている(13条、戸規355)

  しかし、全ての未成年者について親権につき記載をする煩雑さを避けるために、記載の要否は全ての未成年者について記載をするのは煩に絶えずとして例外的な場合、すなわち変動の生じた場合にのみ届出を要求し、記載することになっている。

 ただ、そのような変動を生ずる場合すべてにつき、親権者についての届出を要するものとはされていない。また、離婚については離婚の届出に親権者の記載がなされることになっている(76)。さらに準拠法が親の帰化や死亡、常居所の変更によって親権者の変動が生じる場合もあり得るが、問題となる場合は稀と考えられる(『改正法例の解説』163)

 

* 『戸籍小箱II162頁以下には次のような記載がある。

「三 戸籍記載の方法と分類」という見出しのもとに以下のような記述がある。

 「・・・すべての未成年者について親権者を戸籍に記載しておくこととした場合、ある面では明瞭となるとする考え方もありますが、反面では煩さとなり、まして、当該本人が成年に達したなどの理由から親権に服さなくなった際にもその旨を再び記載しなくてはならないことになります。そのような意味から、実際には次のような方法が考慮されています。

 @ 法律上、当然に一定の身分関係にある者が親権者となる場合には、格別の届出を要せず、戸籍にも記載しない(例えば嫡出子、準正子、嫡出でない子などの親権者)

 A 父母の協議又は裁判によって父母の一方が親権者となったような場合、その旨の届出については他の届出(例えば、協議離婚の届出)中に含まれるため、特に必要としないが、戸籍には記載する(例えば嫡出子、準正子の父母が離婚した場合など)

 B 戸籍届出を要し、戸籍に記載する(例えば認知した父が親権者となる場合など)

 以上の分類によってお分かりのように、戸籍の記載については簡明化、簡略化の趣旨から、民法上の一般原則規定あるいは解釈により明白である@のような場合の親権者については、その記載をしないこととして省略し、父母間において協議を要するなど民法の規定からは直接定まらないABのような場合の親権者については戸籍に記載して、親権関係を明らかにする方法が講じられています。」

 なお、鈴木健一「講座戸籍法各論(11)」戸籍35748頁で同趣旨のことを述べている。

 

創設的届出

 創設的届出は法例22条により親権準拠法が日本法又は行為地が日本の場合にのみ認められる。(1)及び(2)は未成年子が日本人の場合についてのものであり、(1)は親権準拠法が日本法の場合、(2)は親権準拠法が外国法の場合で行為地が日本の場合についての規定である。(1)の場合、外国にある日本人は戸籍法40条に定める在外公館への届出をすることもできる。

 (3)は外国人未成年子について、(1)(2)に相当する場合をまとめている。このとき、創設的届出は可能であるが、外国人子については、戸籍はないので戸籍への記載はない。

 

離婚の際の親権者指定

 (4)は離婚の際の親権者指定についての規定である。協議離婚に際しての親権者の指定は実質的には創設的親権届出であるので、離婚の準拠法ではなく、親権についての準拠法及びその方式の準拠法に定める要件を充足していなければならない(島野・戸籍72916)

 また、離婚に際して子の本国法又は常居所地法に基づき一定の身分関係にある者が当然親権者になるときは除かれるのが現行実務である(『新版・実務戸籍法』403頁、戸籍小箱293-294)

 この点につき大韓民国人夫婦の離婚に伴う未成年の子の親権者を自動的に父とする旧大韓民国民法9091項の適用を公序に反するとして排斥し、日本民法8192項を適用して母を親権者とした最判昭和52331(民集312365)が問題となる。しかし、この判決においては規定そのものが公序に反するとするのではなく、旧韓国民法9091項を適用した結果、扶養能力のない父が親権者となることが公序に反するとされたものであるので、現行実務の立場は維持しうると考えられる(Q&A渉外戸籍と国際私法』264頁、島野・戸籍71121)

 また、離婚に際しての親権者指定については親権者の「届出」をするのではなく、離婚の届出に際して、その届書に親権者及びその親権に服する子の氏名を記載するものである。

 

外国離婚判決に伴う親権者の指定

 外国においてその国の方式に従い離婚し又は外国の離婚判決等で既に離婚が成立している場合で、未成年者について親権者の定めをしなければならない場合において、その定めがないときは、親権に関する事項を届出することができないので、これらの報告的離婚届出は、親権事項について記載のないまま受理されることになるが、その際の親権者は夫婦が協議で親権者を定めるまでは、共同親権のままであるとされている(『新版・実務戸籍法』403頁、『Q&A渉外戸籍と国際私法』268)

 

* 昭和52106回答5114

 「中華人民共和国婚姻法には離婚の際に父母の協議で親権者を定めることができる旨の規定がないので、当該離婚届書中(5)9「妻が親権を行う子」欄に子の氏名を記載した離婚届は受理することができないものと考える。もっとも同法によれば、離婚の際に子を扶養する者を定めるべきものとしているので、もし右の記載が、子を扶養する者として母を指定した趣旨のものであるとすれば、その旨を離婚届書の「その他」欄に記載させた上、これを受理して差し支えない。」

** 昭和591130・回答6158号−197612月現在のフランス民法を根拠に協議離婚届がなされた事例

 「フランス人夫と日本人妻間の協議離婚届が受理され戸籍の記載がなされている場合離婚は有効に成立しているものと認められる。

なお、当該協議離婚届に親権に服する子の記載を遺漏している場合において、親権者を母と定める旨の追完届があったときは受理してさしつかえない。」

 

7.02.02[届出義務者]

現行実務

(1)協議により親権者を定めようとする者はその旨を届け出なければならない。

(2)親権若しくは管理権を辞し、又はこれを回復しようとする者は、その旨を届け出なければならない・

 (1)について戸籍法78条、

 (2)について戸籍法80条。

 

(1)について 

 届出人は、協議者、すなわち父及び母である(『改正国籍法・戸籍法の解説』362)

 

(2)について

 届出人は、辞任又は回復しようとする当該父又は母である(同上368)

 

7.02.03[添付書類]

現行実務

(1)親権の届出の受理に際しては、当事者については準拠法を決定するために、その国籍又は常居所及び身分関係等を証するのに必要とされる書面を添付しなければならない。

(2)裁判又は官庁の許可を必要とするときは、届書に裁判又は許可書の謄本を添付しなければならない。

(3)届書に添付する書類その他市町村長に提出する書類で外国語によって作成されたものについては、翻訳者を明らかにした訳文を添付しなければならない。

 (1)について、戸籍法施行規則63条、

 (2)について、戸籍法382項、

 (3)について、戸籍法施行規則63条の2

 添付書類一般について1.03参照

 

7.03 親権の報告的届出

7.03.01[報告的届出]

 現行実務

(1) 事件本人たる未成年者が日本人である場合、外国において外国の方式にしたがって親権者の指定又は変更等がなされたときには、その旨を届出なければならない。

(2) 事件本人たる未成年者が日本人である場合、日本又は外国の裁判所において、親権者を指定又は変更する裁判が確定したときには、その旨の届出をしなければならない。

(3) 事件本人たる未成年者が日本人である場合、日本又は外国の裁判所において離婚の裁判が確定し、その裁判の中で未成年者の親権者が指定されたときには、離婚の届書にその旨の記載をしなければならない。

法例22条、戸籍法77条・79条。島野74条・75(戸籍733)

 

(2)について

 非訟事件の承認についても民訴118条の規定が類推適用されるものと考えられる。外国判決の承認に関しては1.02.054.03.016.03.02参照のこと。

 

(3)について

 外国の裁判所で離婚の裁判が確定し、その判決の中で日本国民である未成年者について離婚後の親権者を指定している場合は、外国離婚判決の承認の中で親権者指定の部分も承認することになる(島野・戸籍7333)

なお、戸籍法79条により準用される戸籍法63条が定める「裁判が確定した日から10日以内に」の文言を改め、「(外国において離婚の裁判が確定した場合には)裁判が確定した日から3箇月以内に」とする改正提案については、1.02.05の改正提案を参照のこと。

 

7.03.02[届出義務者]

現行実務

(1) 協議により親権者を定めようとする者はその旨を届け出なければならない。

(2) 親権若しくは管理権を辞し、又はこれを回復しようとする者は、その旨を届け出なければならない。

(3) 裁判により、親権者の指定又は変更等がなされた場合、その裁判により親権者となった者は、その旨を届け出なければならない。親権又は管理権の喪失の宣告の取り消しの裁判が確定した場合においてはその裁判を請求した者が届け出なければならない。

 (1)について、戸籍法78条、

 (2)について、戸籍法80条、

 (3)について、戸籍法79条、63条。

 

(1)(2)は外国でその国の方式にしたがって協議による親権者の指定がなされた場合の義務者であり、(3)は裁判(離婚の裁判の中で親権者指定がされた場合も含む)の義務者である。審判の申立人が親権者となった者以外でも変わりはない(『全訂戸籍法』364)

 

7.03.03[添付書類]

現行実務

(1) 親権の届出の受理に際しては、当事者については準拠法を決定するために、その国籍又は常居所及び身分関係等を証するのに必要とされる書面を添付しなければならない。

(2) 裁判又は官庁の許可を必要とするときは、届書に裁判又は許可書の謄本を添付しなければならない。

(3) 届書に添付する書類その他市町村長に提出する書類で外国語によって作成されたものについては、翻訳者を明らかにした訳文を添付しなければならない。

 (1)について、戸籍法施行規則63条、

 (2)について、戸籍法382項、

 (3)について、戸籍法施行規則63条の2

 

審判の謄本には、確定証明書の添付も必要とされる(『改正国籍法・戸籍法の解説』364)

 

7.04 戸籍への記載

7.04.01[戸籍への記載]

現行実務

親権に関する事項については未成年者の身分事項欄にこれを記載しなければならない。

 戸籍法355号。

 

父母の双方を共同親権とすることが明記されている場合は、その旨を記載することが望ましい(5837民二1797回答)

 

7.05 後見

7.05.01[後見の準拠法]

現行実務

(1) 後見は被後見人の本国法による。

(2) 日本に住所又は居所を有する外国人の後見はその本国法によれば後見開始の原因があるにもかかわらず、後見の事務を行う者がいないとき及び日本において後見開始の審判があったときに限り日本の法律による。

法例24条。

 

(1)について

後見には、親権者のない未成年者のための親権の延長としての性質及び成年被後見人の保護手段としての性質を有する二種類の法律制度が含まれているといえる。しかるに後者の成年後見制度については、平成11年の民法改正に伴い、戸籍への記載がなされなくなったので、ここでは未成年後見についてのみ取り扱う。

後見については本国法によることから反致(法例32)があることに注意しなければならない。1.06.05参照。

 

(2)について

ここにいう本国法とは現在の本国法をいうので国籍の変更に伴う準拠法の変更の可能性は存在する。また、未成年者であるか否かは法例3条によって決定される準拠法、すなわち当事者の本国法によって定まることになる。この点、後見の準拠法との齟齬は生じないことになるが、この段階で反致の可能性のあることに注意しなければならない。

ところで、外国人未成年についてわが国で後見が問題となる場合、国際裁判管轄の有無が問題となるが、外国人の後見についてはわが国の戸籍には記載されることは無く、又、原則として戸籍事務管掌者への通知、届出の必要はなく、審判がなされても戸籍通知は要しない(62122最高家一第397号家庭局長回答、家月402316)

したがって、戸籍実務でこの規定が問題となることはおよそ考えられないものと思われる。また、そうすると戸籍実務で、後見が問題となるのは日本人未成年者についてである。するとこれはわが国では常に日本法が適用され、これについての戸籍の処理は国内事件と変わらないのでここでは準拠法で問題となる点についてのみ以下では述べるにとどめる。

ただ、渉外後見では、日本人未成年につき外国で後見人選任の裁判がなされた場合について問題となる。この点については外国判決の承認を定める民訴118条が非訟事件についても準用され、この場合には準拠法要件は求められない(山田552頁では「被後見人の常居所地国または本国の裁判所その他の国家機関のなした後見に関する裁判はわが国で承認されるべきである。民訴118条の適用されないこと、および準拠法の要件を必要としないことは、外国の失踪宣告や後見開始の審判の承認の場合におけると同様である。」と述べる。外国の裁判所で選任された監護権者がわが国で外国人未成年の引渡しを求めた訴訟で、わが国におけるその監護権の行使を認めた事例として東京高判昭3379家月10.7.29参照)。この点については、1.02.054.03.01603.02参照のこと。

 

適応問題

未成年後見でもっとも問題となるのは、親権の準拠法(21)と後見の準拠法(24)の抵触の問題である。一種の適応問題と称される問題である。

 これについては、親権の準拠法によれば、親権者が存在するのに、後見の準拠法によれば後見が開始する場合(積極的抵触)と親権の準拠法によれば親権が消滅しているのに、後見の準拠法によれば後見が開始しない場合(消極的抵触)の二つの場合が考えられる。

 積極的抵触の場合については後見は親権の延長ないし補充の問題として捉えられるので、親権の準拠法を優先させるべきであり、後者については親権者がないにもかかわらず後見が開始しないという不当な結果を避けるため、後見の開始を認めるべきであるとする考えが有力である(山田・前掲書165頁、『Q&A渉外戸籍と国際私法』272)。このとき、親権の準拠法により後見の開始を認める説と後見の準拠法により後見の開始を認める二説が存在する(加藤文雄著「渉外家事事件整理ノート」260)

以上からすると、まず親権者の有無を法例21条によって確認をしてから、親権者が存在しないときに後見の準拠法によって後見を開始すべきか否かを判断することになる*。

 

* 平成元年の法例改正により、親権の準拠法が、親の本国法によるのではなく、原則として子の本国法によることになったため、抵触の生じる機会はきわめて少なくなったといえる。しかし、戸籍72280頁以下の「落葉」において取り上げられている「嫡出でない子を認知した外国人が法定代理人として出生届とともにする国籍留保届出について」のようにまったく問題が生じないわけではない。

 扱われている事案は、日本人女A女と婚姻関係にない甲国籍を有するB男との間に、第三国である生地主義国乙国で出生した子Cについて、B男が乙国で出生登録をしているが、A女が子の出生後間もなく死亡したため、B男から出生届とともに国籍留保届が市役所に郵送されてきたものを受理しうるかというものである。

 出生登録をした乙国法によると子の出生登録の届出の際に認知することができるとされていて行為地法たる乙国の方式に従い認知は有効に成立。また国籍留保届は戸籍法522項により母が届出義務者であるが、母死亡のため4項によることになり、父又は母以外の法定代理人が国籍留保の届出をすることになる。そこでB男の法定代理人たる資格が問題となるが、ここで親権の準拠法によるべきか、後見の準拠法によるべきかが問題となったのである。21条によると子Cの常居所地国たる乙国法に準拠することになり、乙国で認知した父が親権者となるならば、法定代理人たる資格があることになる。他方24条によると子Cの本国法たる日本法が準拠法となり、母A死亡により後見が開始することになるが、B男は後見人に選任されなければ法定代理人たる資格はないということになる。このような場合、21条をまず適用してB男に親権者としての資格が認められれば、法定代理人として国籍留保届出をすることができるとみるべきであろう。

 

外国において選任された後見人についての報告的届出

 後見についての届出は裁判所で後見人が選任された場合に限らず、親権の終了により当然後見が開始する場合も全て届出は報告的届出となる。

 問題は外国の裁判所等において日本人につき後見人が選任されたときの届出につき、戸籍への記載を認めるのかということである。わが国に居住する外国人について、本国たる外国の裁判所が監護権者を選任した事例で、その監護権の行使を承認した判例は存在するが(前掲・東京高判昭33・7・9家月10巻7号29頁)、その権限の行使を判決の承認に準じて認めるのと、その後見人としての地位を認めて戸籍への記載を認めるのとでは、取扱いに相当次元の相違があるものと考えられる。外国で選任された後見人を日本人被後見人の戸籍に記載しているかどうか、この点について実務に言及した資料が見当たらないので、実務としてどのような取り扱いをしているかは不明である。

 


8.死亡・失踪

 

8.01 死亡

8.01.01[日本で死亡した外国人の死亡届]

現行実務

外国人が日本で死亡した場合、戸籍法所定の届出義務者は、死亡の事実を知った日から7日以内にその届出をしなければならない。

戸籍法861項。

 

戸籍法の地域的適用範囲

日本に住む外国人の死亡については、出生の場合と同様、届出をする必要がある(これらの届出義務に関する法的根拠については、1.01.01[人的適用範囲]及び2.01.01[出生の届出義務]参照)

 

外国人の死亡届を受理した場合の処理

在留外国人の死亡届を受理した市区町村長は、毎月一日から末日までの間に受理した届書の写しを、その翌月、監督局の長に送付し、監督局の長は、これをとりまとめて、外務大臣官房領事移住部長宛に送付する。そして、外務省から、当該国の領事機関へその旨が通報されることになっている(581024民二6115通達)。かつては、2国間の個別取り決めに基づき、米国、ソ連(当時)、西ドイツ(当時)及びインドの4ヵ国については相互に死亡通知を出していた。これら4ヵ国のうち、米国国民の場合は、市区町村長が直接、在日米国領事館に死亡の通知を行い、他の3ヵ国の国民の場合は、市区町村長が外務大臣宛に通知を行い、その後外務省から各国領事機関に通報がなされていた(当時の国内手続がこのように2種類に分かれていた理由は、必ずしも明らかではない。三浦正晴「在留外国人の死亡通知について」民事月報381113(1983)参照)1983年、わが国は「領事関係に関するウィーン条約」に加入し、同条約がわが国において効力を生ずることに伴い、上記昭和58年通達が出された。そこでは、この条約の締約国国民であるか否かに関わらず、米国人とソ連人並びに無国籍者を除くすべての外国人を対象に、外国人が死亡した場合は上記のように取り扱うこととされた。

 

無国籍者・ソ連人・米国人の場合の扱い

無国籍者が上記の通達の対象外とされたのは、通報すべき本国政府が存在しないからである。

米国人とソ連人も、同様に対象外とされ、従来からの処理がそのまま維持された(米国国民の死亡通知につき昭39727民甲2683通達、ソ連国民の死亡通知につき昭42821民甲2414通達参照)。すなわち、米国人の場合は死亡者の住所地を管轄する在日の領事に、ソ連人の場合は外務大臣に、市区町村長がそれぞれ通報する。これは、上記通達が発せられるきっかけとなった外務省領事移住部長からの申入書の中に、そもそも、米、ソに対しては従来の取扱いによる死亡通知を継続されたい旨の依頼があり、通達はその申入れに応えた形となっている。申入書は、その理由として、「ソ連邦が本件条約の締約国ではないこと」(当時)、また米国については、上記「条約は締約国間で現に効力を有する国際取極の効力に影響を及ぼすものではないと解される」ことをあげていた(昭和581012日付外務大臣官房領事移住部長から法務省民事局長宛申入れ)

死亡通報に関しては、国内の事務処理上、上記通達に一本化すれば、市区町村長にとってはより便利なものとなり、当該国にとっても領事機関への通報は確保されているので、通達への一本化は、格別、米・ソ両国にとっても問題がないように思われる。しかし、米国サイドからすると、このような形で一本化されると、従来、市区町村長から直接通知を受けていたものが、法務局さらには外務省を通じて通報されることになり、従来に比べ多少時間がかかることが予想される。また、ソ連サイドにとっても、通達の定める方法によれば新たに法務局が介在することになり、米国の場合ほどではないにしろ、これまでの処理に比べれば多少時間を要することになろう。このように「我が国の国内的事情によつて外国への通報時期を従来より遅らせるということは、相手国の了解がない以上外交交渉上からも問題が存する」(三浦・前掲論文20)ということから、これら「両国」に関しては、従来からの取扱いがそのまま維持されたようである(なお、日本が上記条約に加入した当時既に締約国であった西ドイツ(当時)とインドもソ連(当時)と同様の状況にあったはずであるが、前記三浦論文は、これら両国については、「そのような問題点が解消されたものと考えられる」(民事月報381120)としている)

ソ連はその後崩壊し、旧ソ連の条約上あるいは国際協定上の義務は、一般的には独立国家共同体に引き継がれたが(独立国家共同体(CIS)創設協定12)、日ソ間の条約等の国際約束は、199310月、当時のエリツィン大統領と細川首相の間で合意された「日露関係に関する東京宣言」により日本とロシアの間で引き続き適用されることが確認された。その結果、日ソ間の領事条約は日ロ間に引き継がれ、前述の処理も日ロ間に引き継がれることとなった。

 

関係国法に基づく死亡登録との関係

外国人の死亡届出は本国への通報、通知につながるものであるが、その届出義務は、あくまで日本が日本に住むすべての人の生死を把握する必要性に基づくものである。従って、仮にその死亡につき当該外国人の所属する駐日公館に本国の法令に基づく登録がなされたとしても、わが国戸籍法上の届出義務はこれにより消滅するものではない(27918民甲274回答)

 

届出義務者

死亡届の届出義務は、法律上、同居の親族、その他の同居者、家主、地主、さらには家屋ないし土地の管理人(戸籍法871)らが負うことになっている。出生届の場合は、同居者の次順位には、「出産に立ち会つた医師、助産婦又はその他の者」(戸籍法523)が位置づけられている。届出の確保を図るという目的からすれば、死亡についても、死亡に立ち会った又は事後的に死亡の確認をした医師に後順位の届出義務を認めた方が現実的であろう。

 

8.01.02[在外日本人の死亡届]

現行実務

外国にある日本人が死亡した場合、戸籍法所定の届出義務者は、死亡の事実を知った日から3箇月以内にその死亡の届出をしなければならない。

戸籍法861項。

 

戸籍法は、日本人の生死及び家族関係に関する事項については、それが日本の領域外において生じた場合にも適用される(1.01.02[人的適用範囲])とされているので、日本国民が外国で死亡した場合も、その死亡については戸籍法上の届出義務が発生する。そして、その場合、戸籍法871項の定める死亡届出義務者が外国にいる外国人であっても届出義務が消滅することはない(『新版・実務戸籍法』271頁も同旨か。なお、2.02.02[届出義務者]参照)。しかし、「外国に在る日本国民の身分に関する事項にも戸籍法は適用される」(島野穹子「渉外戸籍法(5)」戸籍7048)という立場に立ちつつも、「戸籍法第87条に規定する届出義務者が外国人であるときは、届出義務はないと考えられる」(島野・前掲73313)とする見解が一方で存在する。こうした取扱いを正当化する法的根拠は必ずしも明らかではない(なお、島野・前掲7047-8頁は、戸籍法の定める届出義務者が日本国内に在る外国人の場合には、届出義務があるとする)

海外にいる日本人が現地で死亡した場合、その国が「領事関係に関するウィーン条約」の当事国であれば、当然、その死亡は条約上の死亡通報の対象となる。前記昭和58年通達の逆のパターンである。条約の内容からすれば、日本の在外領事機関が当該国の権限ある当局からその旨の通報を受けることになる。しかし、こうした形で受けた通報を、その後、わが国の戸籍実務の中でどのように利用するかを定めた手続規定は、戸籍法や戸籍法施行規則の中には見あたらない。在外公館からの死亡通知書に関しては、わが国がこの条約に加入する以前の先例であるが、海外で事故死したと認定された日本人につき、在外日本国総領事が戸籍法443項で準用する243項に基づき本人の本籍地の市町村長に死亡通知書を送付したところ、「当該死亡通知をもつて戸籍法第89条による死亡報告として受理するのは相当でなく、死亡届出義務者からの届出によつて処理するのが相当」であるとしたものがある(50820民二4565回答)。また、条約加入後のものであるが、一般に届出人になることのできない者から届出がなされた場合、市区町村長は監督法務局の許可を得て職権記載をしなければならず、本籍地市区町村における事務が煩雑となることから、「在外公館では届出人となれない者から届出があったときは、届出人となれる者から届出をするよう指導している。また、届出人となれる者がないときは、戸籍法443項で準用する同法243項の規定に基づき在外公館長が別紙様式による死亡通知書を作成するとともに、会社の上司等から提出のあった死亡証明書等を添付して本籍地の市区町村長に通知をしている」(樋口忠美「在外公館における戸籍事務の処理()」戸籍54132(1988))とされている。これらのことから、条約加入以前から、在外公館が日本人の死亡の事実を把握すると当該人の本籍地へ死亡通知を送付していたことが確認できるが、その一方で、戸籍事務としては、この死亡通知による職権訂正よりも届出による処理をあくまで優先させていたことが理解できる。

現状においても、こうした考え方が維持されているものと思われる。

 

8.01.03[外国で死亡した外国人配偶者の死亡]

現行実務

日本人の配偶者たる外国人が外国で死亡した場合、死亡を証する書面を添付した申出書の提出により、生存日本人配偶者の戸籍に所定の記載ないし消除を行う。

29311民甲541回答。

 

わが国の戸籍制度では、配偶者の一方が死亡した場合、生存配偶者の身分事項欄に相手方配偶者の死亡により婚姻が解消された旨を記載し(戸籍法施行規則361)、さらに、その際、「配偶欄の記載を朱で消除しなければならない」(23113民甲17)ことになっている。日本に住む外国人と日本人の夫婦についても、外国人配偶者が死亡すれば、前述の8.01.01により、その死亡の届出がなされるので、それに基づき生存日本人配偶者の戸籍の身分事項欄に、その死亡により婚姻が解消された旨が記され、その配偶欄が消除される(島野・前掲70418頁及び73314)。しかし、外国人配偶者が外国で死亡した場合にはその死亡につき届出義務が生じないため、現行の実務では、「日本国民である配偶者から、死亡を証する書面を添付した婚姻解消事由記載のための申出書を提出させて、これに基づいて市町村長限りの職権で、生存配偶者の身分事項欄にその旨を記載する」(29311民甲541回答)という処理を行っている。

 

改正提案

日本人の配偶者たる外国人が外国で死亡した場合、生存日本人配偶者は、死亡の事実を知った日から3箇月以内にその届出をしなければならない。

1.01.03の改正提案(2)参照。

 

相手方配偶者の死亡により婚姻が解消され配偶欄が消除されたことは、相手方配偶者の国籍がどこであろうと、日本人配偶者の戸籍において常に明らかにしておく必要のある事実である。そして、それは外国人配偶者が日本国内で死亡した場合でも外国で死亡した場合でも何ら異なるところはない。そこで、こうした場合には、広く生存配偶者たる日本人に届出義務を課し、外国人配偶者の死亡につき届出をさせようとするのが、本提案の趣旨である。死亡届あるいは出生届といった戸籍法上の届出に習熟している生存日本人配偶者にこうした届出を要求することは、当事者にとってもそれほど負担感のあることでもなかろう。

死亡届の届出期間は、国内での死亡については死亡の事実を知った日から7日以内、国外での死亡については死亡の事実を知った日から3箇月以内となっているので(戸籍法86)、ここでは3箇月以内という形での提案とした。

 

8.01.04[外国で死亡した、日本人の子たる外国人の死亡]

現行実務

日本人の子たる外国人が外国において死亡した場合、その事実が、日本人親の戸籍に記載されない。

 

1.01.01及び1.01.02から、外国人が外国において死亡した場合には戸籍法は適用されず、また、死亡の事実は死亡者本人の戸籍にしか記載されないため(戸籍法施行規則356)、現行実務では、日本人の子たる外国人が外国において死亡した場合、その事実が、日本人親の戸籍に記載されることはない。

 

改正提案

日本人の子たる外国人が外国において死亡した場合、その日本人親が生存しているときは、その日本人親は、死亡の事実を知った日から3箇月以内にその届出をしなければならない。

1.01.03の改正提案(2) 2.02.04の改正提案参照。

 

本リステイトメントは、1.01.03[例外]及び2.02.04[嫡出子としての戸籍への記載]において、日本人を親として外国において出生した子が、出生と同時に外国国籍を取得する一方、日本国籍の留保を行わなかったため日本国籍を喪失している場合、戸籍法の適用はないとする現行実務に対して、戸籍法を適用して届出義務を認めるべきであるという改正提案を行っている。これは、現行実務では、このような場合、子の出生の事実は日本人親の戸籍にまったく記載されないにもかかわらず、日本人親が外国人非嫡出子を認知した場合には、その事実が日本人親の戸籍の身分事項欄に記載されることになっており(戸籍法施行規則352)、その間で均衡を失していること、また、日本人親に外国人子が存するか否かを戸籍上明らかにしておくことは、婚姻障碍・扶養・相続等の関係において、当事者のみならず日本の国及び社会にとっても重大な関心事であることを理由とする。

このうち、後者の理由は、出生の場合のみならず死亡の場合にも当てはまる。そこで、外国人たる子の死亡の事実を日本人親の戸籍に反映させるべく、生存する日本人親に対して、出生届の場合にならい死亡届についても届出義務を課す旨の改正を提案する。

届出期間を3箇月としたのは、8.01.03における改正提案に平仄を合わせたものである。

 

8.01.05[死亡の届出地]

現行実務

(1) 日本国内で死亡した外国人の死亡の届出は、届出人の所在地又は死亡地で行う。

(2) 外国で死亡した日本国民の死亡の届出は、死亡者の本籍地又は届出人の所在地で行う。この場合において、届出人たる日本人がその国にあるときは、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事に対して行うことができる。

(1)について、戸籍法252項、881項、

(2)について、戸籍法251項、40条。

 

戸籍法は、一般に、外国人に関する届出は届出人の所在地で行うこととしており(戸籍法252)、さらに、死亡の届出に関しては死亡地で行うこともできるものとしている(戸籍法881)

他方、国外にいる日本人が死亡した場合の届出について、戸籍法は、3つの方法を定めている。まず、事件本人が世界のどこにいようとも、事件本人の本籍地での届出は常に認められることから(戸籍法251)、死亡した日本国民の本籍地での届出が認められる。この場合は、郵送によることが多いと思われるが、他人に託して提出することもできる(『全訂戸籍法』209)。また、届出人の所在地での届出も認められるので(戸籍法251)、届出人が日本国内にいるときはその所在地で死亡の届出を行うこともできる。さらには、外国にいる日本人はその国に駐在する大使、公使又は領事に届出をすることができるので(戸籍法40)、外国で日本人が死亡した場合にも、届出人がその国にいればこの手続により死亡の届出をすることが可能である。

 

改正提案

(1)及び(2)は現行実務通りとし、(3)を加える。

(3) 日本人の子又は配偶者である外国人が外国で死亡した場合、その死亡の届出は、その日本人親若しくは日本人配偶者の本籍地又は所在地で行う。この場合において、届出人たる日本人がその国にあるときは、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事に対して行うことができる。

 

8.01.03及び8.01.04で提案した内容を実現するには、この場合の届出地を定める必要がある。現行実務では、上記2つの改正提案の事例に対処できないからである。これらの改正提案は、日本人親ないし配偶者の身分事項欄に、外国人であるその子又はその配偶者の死亡の事実を、記載することを狙ったものである。従って、これら日本人親又は日本人配偶者の本籍地、さらには彼らが日本にいる場合には彼らの所在地での死亡の届出を認めるべきであろう。

 

8.01.06[死亡届の添付書類]

現行実務

死亡届には死亡診断書又は死体検案書を添付しなければならない。それらの書類が外国語によって作成されている場合は、翻訳者を明らかにした訳文を添付しなければならない。

戸籍法8623項、戸籍法施行規則63条の2参照。

 

一般に、死亡届書には、届出事項の真実性を担保する目的から、原則として死亡診断書又は死体検案書を添付しなければならない。やむを得ない事由によってそれらを得ることのできないときは、死亡の事実を証すべき書面をもってこれに代えることができるが、その場合にはその事由を記載しなければならない(戸籍法8623)。海外での死亡の場合は、これらの書類が外国語で作成されることが珍しくない。そうした際には、翻訳者を明らかにした上で、その訳文を付さなければならない(戸籍法施行規則63条の2)

なお、戸籍法862項は、届書に死亡の年月日時分を記載するよう定めている。海外で死亡した場合、この日時が問題となるが、現在は、死亡地の標準時によって記載することになっている(61116民二7005通達。それ以前は、届出人が日本標準時による記載を希望するときは日本標準時も併記していた)

 

8.01.07[外国で事変に遭遇し死亡した者の死亡報告]

現行実務

外国において水難、火災その他の事変によって死亡した者がある場合は、その取調べをした領事又は外務大臣から、本籍地の市町村長に死亡報告をする。

戸籍法89条但書、大4219224回答、大82566回答。

 

水難、火災その他の事変によって死亡した者については、届出義務者からの届出よりもその取り調べを行った官公署の直接の資料に基づいて処理する方がより正確で、かつ、迅速に処理されるものと考えられるところから(「戸籍小箱No.254」戸籍72554)、戸籍法89条は、直接その取調べを行った官公署から、死亡地の市町村長に死亡の報告をしなければならないと定めている。認定死亡といわれるものである。これにより戸籍に死亡の旨が記載され、反証のない限り、事件本人が戸籍に記載の死亡の日に死亡したものと推定される。なお、認定死亡では反証が許されており、この点で、死亡が擬制される失踪宣告と異なる。 

ところで、外国で死亡した場合には、ここにいう「死亡地の市町村長」は存在しないためこのシステムは機能しない。従って、同条但書は、死亡者の本籍地の市町村長に、直接、報告することを求めている。ただ、その際の通報者については条文上定めがなく、「その取調べをした領事又は外務大臣」と説明されている(前掲「戸籍小箱No.254」、『新版・実務戸籍法』219)。とはいえ、外国において取調べを行うことは容易ではなく、この点は弾力的に考えざるを得ないであろう。2001911日の米国での同時多発テロ事件の犠牲者については、「取り調べは行われなかったものと思われます。」と説明されている(『戸籍小箱』No.254)

 

8.02 失踪

8.02.01[失踪宣告の管轄と準拠法]

現行実務

(1) 財産が日本にある又は日本法によるべき法律関係のある外国人について、その生死がわからない場合、日本の裁判所は、日本法にもとづき失踪の宣告をすることができる。

(2) 前項による失踪宣告の効力は、日本にある財産及び日本法によるべき法律関係についてのみ生ずる。

法例6条。

 

法例6

失踪宣告は、裁判所その他の国家機関の宣告によって効果が生じるため、渉外的な失踪宣告では、準拠法の問題に加えて、どこの国の裁判所が管轄権を持つかが問題となる。法例6条は、これらの点について、外国人の失踪宣告につき、日本の管轄が認められかつ日本法が準拠法となる場合のみを規定している。双方的抵触規定の多い法例にあっては、例外的な形式となっている。

 

管轄をめぐる議論

例外的な形式であるがため、この規定をどのように理解するかについて見解の対立が生じている(詳しくは、争点(青木)92頁参照)。通説は、失踪宣告が人格の存否に関わる制度であることから、失踪宣告の管轄権は原則として不在者の本国にあるとする。これに対して、失踪宣告を、不在者をめぐる不安定な身分上及び財産上の法律関係をその利害関係人のために確定させる制度であると考えることから、不在者の最後の常居所地国に失踪宣告の原則管轄を認める有力説がある(山田193)。そして、これらの見解は、そうした原則管轄に対する例外管轄を法例6条は定めていると理解する。これに対して、条文に定められていない管轄を原則とすることに疑問を示し、内容からしても法例6条の定める管轄こそが本則であると解する立場もある(折茂豊『国際私法(各論)〔新版〕』12)

 

準拠法をめぐる議論

上記のような管轄権に対する見解の対立は、失踪宣告の準拠法の理解にも影響を与えている。すなわち、通説が原則として不在者の本国法とよるとするのに対し、常居所地管轄を原則とする有力説は原則として不在者の最後の常居所地国法によるとする。これら両見解は、法例6条の定める例外管轄の場合には内国法が例外的に準拠法になると解している。これに対して、法例6条を本則とする見解は、準拠法に関しても同様に考え、財産については所在地法、法律関係についてはそれ自体の準拠法によるとする。

 上記の現行実務は、いずれの見解においても認められている法例6条が定める内容をリステイトしたものとなっている。

 

法例改正

ところで、現在、財産法の分野を中心とした法例改正作業が進められている。法例6条もその対象とされている。平成18214日に国会に提出された、その改正案たる「法の適用に関する通則法案」61項は、「不在者が生存していたと認められる最後の時点において、不在者が日本に住所を有していたとき又は日本の国籍を有していたときは、日本法により、失踪の宣告をすることができる」と定めている。不在者の最後の住所地管轄と不在者の本国管轄のいずれをも原則管轄とするものといえよう。その理由として、不在者が最後の住所を日本に持っていたあるいは日本国籍を持っていた場合、いずれの場合もその利害関係人の多くが日本に所在すると思われること、また、比較法的にもこれら双方を管轄原因として認める国が多いこと等があげられている(法務省民事局参事官室「国際私法の現代化に関する要綱中間試案補足説明」(20053月、法務省ホームページより)19頁以下参照)

現行法例6条の定める例外管轄のうち、不在者の財産が日本にある場合の管轄は上記法案においてもそのまま維持され、その財産についてのみ「日本法により、失踪の宣告をすることができる」とされている。他方、日本法によるべき法律関係がある場合の管轄については、これに加えて、不在者に関する法律関係が「法律関係の性質、当事者の住所又は国籍その他の事情に照らして」日本に関係がある場合にも、例外管轄を認め、その法律関係についてのみ「日本法により、失踪の宣告をすることができる」(いずれも上記法案6条2項)としている。

改正案は、原則管轄と例外管轄を問わず、日本法により失踪宣告を行うとする。日本の裁判所が失踪宣告をする場合における失踪宣告の要件及び効力の準拠法は、非訟事件における準拠法と手続との密接関連性等から、法廷地法である日本法が適当であると考えているようである (上記「補足説明」21頁参照)

 

8.02.02[外国人の失踪宣告]

現行実務

日本において外国人に対して失踪宣告がなされた場合、それを請求した者は、裁判確定の日から10日以内に、その謄本を添付して、その旨を届け出なければならない。

戸籍法94条、63条。

 

戸籍実務においては、外国人に関する事項であっても、当該事実が本法の施行区域内で発生したときは、戸籍法によって届出をすべき義務があるとされており、出生や死亡の届出以外の報告的届出についても、その性質に反しない限り、その適用があると解されている(『全訂戸籍法』196)。従って、日本において外国人に対してなされた失踪宣告についても、その申立人はその旨を届出なければならない(『Q&A渉外戸籍と国際私法』283頁以下)。しかし、その一方で、「戸籍の実務では、外国人について日本の裁判所が失踪宣告をした場合に、戸籍法第94条の定める届出義務はないと解されている。」という指摘がある(島野・戸籍7352)。この場合の届出をなぜ94条の対象から外すのかについては、必ずしもその根拠は明らかではない。

通説によれば、日本での外国人に対する失踪宣告の効果に関しては、死亡の推定又は擬制といった直接的効果にとどまらず、相続の開始や婚姻の解消といった間接的な効果も、法例6条に基づき日本法により判断されることになる(なお、神前禎「失踪宣告の国際的効力」学習院33291頁及び道垣内正人「ポイント国際私法各論」165頁は反対)。従って、その外国人に日本人配偶者がいる場合は、日本人配偶者の身分事項欄に婚姻解消に関する事実を記載する必要がある。さらには、日本国内で外国人が死亡した場合、一般に届出義務が認められることからすれば(8.01.02参照)、この場合も、届出義務を認めるのが相当であろう。上記現行実務は、この立場を前提としている。

 

8.02.03[外国でなされた日本人の失踪宣告]

現行実務

外国裁判所でなされた日本人に対する失踪宣告の届出は、受理しない。

31921民甲2203回答。

 

外国裁判所でなされた失踪宣告がわが国においてもその効力が認められるかどうかは、外国非訟裁判の承認の問題である。不在者が、日本人たると外国人たるとを問わない。外国非訟裁判の承認に関して、わが国には何らの成文規定もない。一般に、外国非訟裁判を承認するには、外国判決承認ルールを定める民事訴訟法118条を類推適用して、同条の定める要件のうち1号と3号の要件が必要であるといわれている(山田・200)。すなわち、当該外国失踪宣告が、わが国際手続法の観点から管轄権のある国でなされたこと及び公の秩序又は善良の風俗に反しないことを要する。

これを前提に、日本人に対してなされた外国裁判所の失踪宣告について考える。法例6条が失踪宣告の例外管轄を定めているとする立場に立ち、かつ同条を双方的に解釈すれば、当該外国に財産がある、又は当該外国の法律によるべき法律関係のある日本人については、その外国裁判所はその外国法に基づき失踪宣告をすることができることになる。しかし、これは例外管轄に基づく失踪宣告であることから、その効力は、あくまで当該外国に所在する財産及び当該外国法によるべき法律関係に限定されることになる(山田・201頁、溜池・270)。換言すれば、これ以外の法律関係については死亡が擬制されない。従って、日本にある財産等に関して同じ処理をしようとすれば、あらためて日本の裁判所で失踪宣告の裁判を行わなければならない。こうした状況の中で、仮に当該日本人の戸籍に外国での失踪宣告の記載がなされると、それが日本でも効力を持つかのような誤解を関係者に与えることになる。以上の点から、外国でなされた日本人に対する失踪宣告の届出は、実務上、受理していないようである(土手敏行「〔落葉〕外国失踪宣告に基づく失踪届の受否について」戸籍60960頁、伊東「〔落葉〕外国裁判所で成立した失踪宣告の効力について」戸籍72383頁及び島野・戸籍7353)。上記現行実務は、こうした立場からまとめてあるが、そこで典拠として示した回答は、本土復帰前の沖縄の巡回裁判所が内地在籍者に対して行った失踪宣告について、外国裁判所のなした失踪宣告と同様のものと解されることから、それに基づく失踪届は受理しない、としたものである。

もっとも、不在者の最後の常居所地国に原則管轄を認める有力説にもとづくと、日本人が最後の常居所地たる外国で失踪宣告を受ければ、その承認の前提となる管轄要件が原則管轄を根拠に満たされることになり、その結果、わが国においてもその失踪宣告の効力が一般的に承認されることになる。この場合は、その届出を受理する必要性が出てくるが、このような有力説を前提とした取扱いは、戸籍実務上まだ見あたらない(前掲・戸籍60984頁参照)

不在者が外国人である場合も、管轄要件と公序要件を満たせば、外国裁判所が外国人に対して行った失踪宣告といえども、わが国内でその効力が認められることになる。このうち、わが国で問題となるのは、外国裁判所が日本人の配偶者たる外国人又は日本人の親ないし子たる外国人に対して行った失踪宣告であろう。日本人との婚姻関係や相続問題に影響を及ぼすからである。とりわけ、戸籍との関係でいえば、日本人配偶者との婚姻関係の存否を明らかにする必要がある。本国管轄による、すなわち不在者たる外国人の本国の裁判所による失踪宣告は、わが国で承認されても、この場合の効果は直接的な効果に限定される。間接的な効果である、失踪宣告が婚姻解消の原因たりうるか否かは、法例が別途定める準拠法によって判断されることになる。この点については、わが国際私法上、法例14条の定める婚姻の効力の準拠法によるとする見解(江川英文『国際私法(改訂版)143頁、山田・198)と法例16条の定める離婚の準拠法によるとする見解(溜池・267)とが対立している(この対立については、出口耕自『基本論点国際私法〔第二版〕』43頁以下参照)。いずれにせよ、外国でなされた失踪宣告がわが国の承認ルールにより承認され、婚姻の効力あるいは離婚の準拠法上、失踪宣告により当該婚姻が解消される効果が発生する場合には、日本においてもその効果が認められることになる。こうした場合を想定した規定や先例は特にないものの、日本人配偶者たる外国人が死亡した場合に準じて、申出により、日本人配偶者の身分事項欄にその旨を記載し、その配偶欄を消除する処理をすべきであろう(前掲・戸籍60959頁、なお、8.01.03参照)

他方、法例6条にあるような例外管轄を根拠に下された外国裁判所の失踪宣告は、宣告地法によるべき法律関係についてのみ、直接的効果のみならず間接的効果にも及ぶことになろう。そうであれば、婚姻の効力あるいは離婚の準拠法が宣告地法となり、同法において失踪宣告により婚姻が解消される場合には、日本においても婚姻解消の効果が認められよう。この場合も原則管轄に基づくケースと同様に、やはり日本人配偶者の身分事項欄にその旨を記載し、その配偶欄を消除するのが適切であろう(前掲・戸籍60959)

 


9.

 

9.01 氏名の変更及び記載

9.01.01[氏名の変更の届出]

現行実務

(1) やむを得ない事由があるときは、戸籍筆頭者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、氏を変更の届出をすることができる。 

(2) 正当な事由があって名を変更しようとする者は、家庭裁判所の許可を得て、名の変更届をしなければならない。

 (1)について、戸籍法1071項、

 (2)について、戸籍法107条の2

 

(1)について

外国人との婚姻、離婚、養子縁組等を行った日本人は、やむを得ない事情がある場合は、戸籍法1071項により、家庭裁判所の許可を得て、氏を変更することができる。

わが国の戸籍実務は、外国人と婚姻した日本人については民法750条の適用はなく、婚姻という身分変動の効果としての氏の変動はないとしている。しかし、日本人配偶者は、外国人配偶者と夫婦としての社会生活を営む上でその氏を同一にする必要性があることは認めざるをえない。そこで、戸籍法1071項は、やむを得ない事由がある場合には、家庭裁判所の許可を得て氏を変更することができる旨を定めている。この場合、届出事件本人は氏を変更する者であり、届出期間の制限はなく、届出地は氏を変更する者の本籍地又は届出人の所在地である。

外国人と婚姻した日本人がその氏を外国人配偶者の称している氏に変更したいと欲するときは、一般的に、やむを得ない事由があるものと認められ、戸籍法1072項により、日本人配偶者は婚姻成立後6箇月以内に限り、家庭裁判所の許可を得ることなく、その氏を外国人配偶者の称している氏に変更する旨の届出をすることにより、その氏を称することができる。しかし、6箇月を経過した場合には、戸籍法1071項により、家庭裁判所の許可を得なければならない。また、日本人配偶者が名乗ることのできるのは、日本人の戸籍に身分事項欄に記載された外国人配偶者の氏のみであり、それ以外の氏を名乗りたい場合(例えば、在日朝鮮人が通氏として名乗っている名称(金田)と日本人配偶者の戸籍の身分事項欄に記載されている朝鮮人配偶者の氏名()とが異なっているような場合)には、戸籍法1071項の家庭裁判所の許可が必要となる。さらに、いわゆる「結合氏(ダブルネーム)」への変更の場合にも、1071項の家庭裁判所の許可を得なければならない。

なお、戸籍法1071項の「やむを得ない事由」にあたるか否かが問題となった場合として、@夫婦の氏を結合させた氏(ダブルネーム)への変更の場合、A外国人配偶者の通氏への変更の場合等がある。

@の場合に、戸籍法1071項の「やむを得ない事由」にあたるとしたものとして、東京家審平成2620家月421256頁、神戸家明石支審平成6126家月47678頁、東京家審平成61025家月471075頁等がある。他方で、@の場合について申立却下例は見当たらない。

これに対して、Aの場合に、これにあたるしたものとして、札幌家審昭和60511家月371246頁、広島家三次支審平成2524家月421158頁、大阪高決平成382家月44533頁等がある他、申立を却下した家裁の審判を取り消す例が多数存在する。他方で、否定例として、大阪高決昭和601016家月382134頁、大阪高決平成11013家月421070頁等もある。

また、日本人に対する氏名の変更許可は、わが国の裁判所の専属的管轄に属するから、外国の裁判所が行った氏名変更の裁判に基づく届出は受理できないとされている(昭和471115民事甲4679号回答)9.02.029.03.01参照。

 

(2)について

正当な事由があって名を変更しようとする者は、家庭裁判所の許可を得て、名の変更届をしなければならない(戸籍法107条の2)。例えば、外国人の養子となった日本人は、その名を変更することができる。すなわち、日本人が外国人の養子となった場合、氏のみならずその名をも日本的なものではなく、養親の実子らしい名に変更することを希望する場合がある。 その場合には、養子に正当な事由があると認められる場合にかぎり、家庭裁判所の許可を得ることができ、しかる後にその旨の変更届をしなければならない。この場合、届出事件本人は名を変更する者であり、届出期間の制限はなく、届出地は名を変更する者の本籍地又は届出人の所在地である。名を変更しようとする者が15歳未満のときは、法定代理人がこの届出を行う。

 

9.01.02[添付書類]

現行実務

戸籍法1071項の氏の変更届をする場合については、審判の謄本及び確定証明書の添付が、名の変更届をする場合については、名の変更の許可の審判の謄本の添付が必要である。

戸籍法382項。

 

戸籍法1071項の規定による氏変更の届出をする場合の添付書類は、氏変更の許可の審判書の謄本及び確定証明書であり、名の変更届をする場合の添付書類は、その変更の許可の審判書謄本である(『新版・実務戸籍法』254頁、260)

なお、名の変更を許可する審判に対して確定証明書の添付の必要がないのは、氏の変更を許可する審判の場合と異なり、即時抗告を許していないからである(『体系戸籍用語事典』589)

 

9.01.03[外国人の氏名の記載]

現行実務

戸籍の身分事項欄及び父母欄に外国人の氏名を記載するには、氏、名の順序により片仮名で記載するものとするが、その外国人が本国において氏名を漢字で表記するものである場合には、正しい日本文字としての漢字を用いるときに限り、氏、名の順序により漢字で記載して差し支えない。片仮名で記載する場合には、氏と名とはその間に読点を付して区別するものとする。 

昭和59111民二5500通達第43(1)

 

 外国人配偶者の氏名は、日本人配偶者の戸籍の身分事項欄に記載される。また、子供が生まれた場合には、その父母欄に記載される。外国人の氏名の表記については、原則として、カタカナで書き、本国で漢字を使用している場合には、日本の漢字を用いて表記できる。記載は、氏・名の順序であり、カタカナの場合は、氏と名の間に読点を付す(昭和59111民二5500通達第43(1))。ただし、氏自体は区切らないとされている。

外国人配偶者の氏が本国でダブルネームに変更された場合には、戸籍に申述書を出せば、身分事項欄の氏を変更してもらうことができる。その場合、本国で氏が変更された旨を証明する書類が必要となる。

なお、外国人配偶者の氏のうち日本人配偶者の氏を取り入れた部分については、漢字で表記できるとされている(昭和55827民二5217回答)。すなわち、この昭和55年回答は、「日本人男とドイツ連邦共和国人女との間に出生した嫡出子の父母欄の戸籍記載の取り扱いについて」、外国人たる妻の本国法であるドイツ法に基づき、夫婦の合意により「婚姻姓」として定めた夫の出生上の姓である「○田」のドイツにおける表記方法である「○a○○ta」を日本の戸籍に記載するに当り、「○a○○ta」と定めたのは、夫の出生上の姓(○田)を選択したものに他ならないため、日本人たる夫の戸籍の身分事項欄に妻の変更後の氏名として「○田・ザ○―ネ・マ○ア」という記載をするとともに、同夫婦間の嫡出子の母欄に変更後の氏名である「○田・ザ○―ネ・マ○ア」と記載して差し支えないとしている。

この他、外国人のミドル・ネームを氏とするのか、それとも名とするのかという点や外国人の本国の氏名制度上、氏と名の区別が分からない場合の処理については、戸籍窓口には、氏と名を区別する権限はないため、どこで仕切るかは届出人の判断に任せるほかはないとされている(「こせき相談室」戸籍52343頁、『外国人の法律相談チェックマニュアル』94頁参照)

 

9.02 外国人との婚姻による氏の変更

9.02.01[外国人との婚姻による日本人の氏の変更]

現行実務

外国人と婚姻した日本人には民法750条の適用はない。ただし、戸籍法1071項又は2項に定める届出をすることにより日本人はその氏を外国人配偶者の称している氏に変更することができる。                                

 本文について、昭和26430民事甲899回答、昭和261228民事甲2424回答等、

 但書について、戸籍法1071項・2項。

 

外国人と婚姻した日本人についての新戸籍編製

 わが国の戸籍実務は、外国人と婚姻した日本人については民法750条の適用はなく、婚姻という身分変動の効果としての氏の変動はないとしている。すなわち、日本民法で規定されている氏の変更はわが国の戸籍編製の単位を定める基準となるもので、戸籍法上の制度としてわが国独特のものであり、戸籍法の属人的効力の及ばない外国人には適用がないから、民法750条の規定は当事者双方が日本人である場合にのみ適用され、日本人と外国人との婚姻には適用されず、戸籍法においてもかかる夫婦の称すべき氏については規定されていないので、婚姻により夫婦の称すべき氏の選択の余地はなく、夫婦は格別に婚姻前の氏を称すると解されている(昭和26430民事甲899号回答)。戸籍法1071項・2項の定める氏の変更の届出の制度もこの考え方を前提としており、そこで変更されるのは日本人の単なる呼称上の氏にすぎない。

昭和59年の改正以前の戸籍法は、@わが国の戸籍簿が日本国民の身分関係と国籍の公証を目的とする国民台帳であること、そして、A外国人には戸籍への記載を前提とする民法・戸籍法の規定は適用されず、外国人と婚姻した日本人の氏は変動しないことから、当該日本人を従前の戸籍から除籍し、新戸籍を編製する事由はないとしていた。しかし、昭和59年の戸籍法改正によって、外国人と婚姻した日本人についても当然に新戸籍が編製されることとなり(戸籍法163)、その限りでは、日本人が外国人と婚姻した場合にも、日本人夫婦の場合と同様の扱いがなされるようになっている。

 

戸籍法1072

同じく昭和59年の戸籍法改正によって、新たに1072項の規定が設けられ、外国人と婚姻した日本人がその氏を外国人配偶者の称している氏に変更することを欲するときは、婚姻成立後6か月以内に限り、家庭裁判所の許可を得ることなく、届出だけでその氏を外国人配偶者の称している氏に変更することができることとなった。これは、従前は、外国人と婚姻した日本人配偶者が、その外国人配偶者の氏を称するためには、氏を同一にすべき「やむを得ない事由」(現行戸籍法1071項を参照)があることを証明し、家庭裁判所の許可を得る必要があったのに対し、外国人と婚姻した日本人配偶者には、一般に「やむを得ない事由」があるという考え方から、要件を緩和したものである。しかし、いずれにしても変更されるのは日本人の単なる呼称上の氏に過ぎず、外国人配偶者の本国における氏を当然に日本人の戸籍に反映させているわけではない。

 

氏についての考え方

このように、戸籍実務上は、いずれの場合にも申立てに基づいて氏の変更を認めるだけであり、準拠法上の氏の変動を当然に戸籍に反映させているわけではない。

戸籍実務が氏とは日本人に固有のものであって外国人には存在せず、日本人と外国人との婚姻等の身分行為によって当然には日本人の氏が変動しないという取扱いをする実質的な理由は、@個人の呼称に関する制度は各国様々であり、外国法におけるその変動の事由はわが国と同一でないばかりでなく、国によっては法律によらず、これを慣習又は習俗にゆだねている例が少なくないこと(『新版・渉外戸籍の理論と実務』73)、A戸籍法は、民法の規定する氏に従って戸籍の取扱いをすることとしているため、民法の規定する氏と変更事由等の異なる外国法又は外国の慣習等による個人の呼称に従って戸籍の取扱いをするときは、外国法が必ずしも十分に分かっていないなど種々の困難が伴い、取扱いが不可能な場合が少なくないこと(昭和261228民事甲2424回答、『新版・渉外戸籍の理論と実務』7374頁等)にある。

なお、日本人と婚姻した外国人配偶者の氏の変更については、9.02.06を参照。

 

* このリステイトメントは、外国人には戸籍編製の基準となる氏はないとの前提に立つが、国際私法学における学説上、以下のような議論が存在することに注意が必要である。 

渉外的な婚姻による夫婦の氏の変動については、氏の問題が人の独立の人格権たる氏名権の問題として本人の属人法によるとしつつも、氏の変更が本人の意思によらない場合、すなわち、婚姻・養子縁組等の身分関係の変動に伴って生じる場合には、その変動の原因となった身分関係の効力の準拠法によらしめるのが適当であるとし、婚姻に伴う夫婦の氏の変動の問題は、婚姻の身分的効力の問題であるとして法例14条によらせるのが従来の多数説及び裁判例であった(江川英文「外国人と婚姻した日本人の戸籍」曹時769頁、折茂豊『国際私法各論(新版)(有斐閣・1972)265頁、山田428頁等、裁判例として、京都地判昭和311228下民集7123911頁、大阪地判昭和3567判時24136頁、東京家審昭和4325家月209116頁、東京家審昭和47821家月25562頁等)。この説に対しては、現行法例14条は両性平等の要請にかなう形に平成元年に改正されたのであるから、婚姻による氏の変動の問題を婚姻の身分的効力の問題と解することもあながち不当ではないとの指摘もある一方で、法例14条の段階的連結のもたらす準拠法の不明確さに対する懸念も示されている(櫻田嘉章『国際私法〔第4版〕』(有斐閣・2005)244頁を参照)

しかし、氏の問題は個人の呼称としての一種の人格権である氏名権の問題であり、また平成元年改正前法例14条の規定は両性平等の要請に反するとして、むしろ当事者の属人法たる本国法によらせるべきであるとする説である属人法説(人格権説)も有力に主張されており(久保岩太郎「国際私法における婚姻の身分的効力」法学新報57256頁、青木清「夫婦の氏の準拠法について」南山法学17320(1994)、溜池444頁等。)、近年ではこの学説に追随する裁判例も見られる(静岡家熱海支審昭和49529家月275155頁、京都家審昭和55228家月33590頁等。)。この立場によれば、姓は当事者の本国法によるということになり、外国人と婚姻した日本人の姓()の変動に民法750条は適用されることになる。

他方で、氏名の問題は公法上の問題であり、日本人の戸籍上の氏名は、日本国民としての公法上の地位に基づく規制を受けており、国際私法の領域の埒外にあるとしたうえで、民法750条にいう夫又は妻の称する氏は戸籍に記載された氏そのものを指し、戸籍に記載されていない外国人と日本人との婚姻には民法750条は適用されないとする氏名公法説も有力に主張されている(島野「国際婚姻に基づく氏の変動について」民事研修25925頁以下、澤木敬郎「人の氏名に関する国際私法上の若干の問題」家月3251頁以下、澤木敬郎=道垣内正人『国際私法入門〔第4版再訂版〕』138(有斐閣・2000)、佐藤やよひ「渉外婚姻と夫婦の氏」『民法学の形成と課題()(星野英一先生古稀祝賀)(有斐閣・1996)1083頁以下等)。この立場によれば、現行実務は維持され、外国人と婚姻した日本人の氏の変動に民法750条の適用はないことになる。

 

9.02.02[外国人との婚姻による日本人の氏変更の届出]

現行実務

外国人と婚姻をした日本人は、その婚姻の日から6箇月以内に限り、家庭裁判所の許可を得ないで、その旨を届け出ることによって、その氏を外国人配偶者の称している氏に変更することができる。ただし、外国人配偶者が死亡した後は、届出をすることができない。 

戸籍法1072項、昭和59111民二5500通達第24(1)エ。

 

戸籍法1072項に基づく氏変更の届出は、外国人との婚姻後6箇月以内であれば、いつでもすることができる。この場合、届出事件本人は氏を変更する者であり、届出地は氏を変更する者の本籍地又は届出人の所在地である。また、この届出は婚姻の届出と同時にすることもできる(『新版・実務戸籍法』255頁参照)。届出期間の計算においては、戸籍法431項により、婚姻成立の日を初日として算入することになる。外国の方式で婚姻した者については、その方式によって婚姻が成立した日が初日であり、婚姻証書の謄本が提出された日を基準に計算すべきではない(『新版・実務戸籍法』256頁参照)。また、外国人配偶者が死亡した後は、法の趣旨から、この届出をすることができないものとされている(昭和59111民二5500通達第24(1))。さらに、6箇月経過後に氏の変更の必要がある者は、原則に戻り、戸籍法1071項の手続によらなければならない(『新版・実務戸籍法』256)。戸籍法1072項の届出による氏の変更の性質は、戸籍法1071項の規定にもとづく氏の変更の場合と同様に呼称上の氏の変更であるが、氏を変更することについて家庭裁判所の許可を必要としない点で、1072項は1071項の特則となっている。

届出人は、外国人と婚姻した日本人配偶者であり、届出地は、届出人の本籍地又は所在地である(戸籍法25条、同40)

 

9.02.03[添付書類]

現行実務

戸籍法1072項の届出をする場合には、添付書類は特に要求されない。

 

外国人の称する氏が当該外国において公に認められていることは、婚姻届の際の添付書類により確認されているはずであり、戸籍法1072項の届出においては特に添付書類は必要とされない。

 

9.02.04[届出の受理]

現行実務

戸籍法1072項の届出は、届出人の身分事項欄に記載されている外国人配偶者の氏と異なる氏を変更後の氏とする場合には、受理することができない。ただし、外国人配偶者の氏のうち、その本国法によって子に承継される可能性のない部分は、前項に規定する外国人配偶者の称している氏には含まれないので、その部分を除いたものを変更後の氏とする届出は受理することができる。                                                  

 昭和59111民二5500通達第24(1)イ。

 

 戸籍法1072項の氏の変更の届出は、届出人の身分事項欄に記載されている外国人配偶者の氏と異なる氏を変更後の氏とする場合には、受理することができない。ただし、外国人配偶者の氏のうち、その本国法によって子に承継される可能性のない部分がある場合(例えば、複合氏の一部だけを継承する場合等)には、その部分は戸籍法1072項に規定する外国人配偶者の称している氏には含まれないものとされており、その部分を除いたものを変更後の氏とする届出のみが認められることとされている。

 

9.02.05[戸籍の編製及び記載]

現行実務

(1) 戸籍の筆頭者でない日本人と外国人との婚姻の届出があったときは、その日本人について従来の氏により新戸籍を編製する。ただし、その者が戸籍の筆頭に記載した者であるときは、この限りでない。 

(2) 戸籍の筆頭者でない者から外国人との婚姻の届出及び戸籍法1072項の届出が同時にあったときは、婚姻の届出による新戸籍を編製した後、その戸籍に氏の変更事項を記載し、筆頭者氏名欄の氏の記載を更正する

(3) 戸籍法1072項の届出があった場合において、その届出人の戸籍に同籍者があるときは、届出人につき新戸籍を編製し、氏変更の効果は同籍者には及ばない。この場合において、氏変更前の戸籍に在籍している子は、同籍する旨の入籍届により、氏を変更した父又は母の新戸籍に入籍することができる。戸籍法1072項の変更届と同時に同籍する子全員から入籍届があった場合においても、氏を変更した者につき新戸籍を編製する。         

(4) 戸籍法1072項により氏を変更した者と外国人配偶者を父母とする嫡出子を戸籍に記載する場合には、その父母が離婚し、又はその婚姻が取り消されているときを除き、母欄の氏の記載を省略して差し支えない。           

 (1)について、戸籍法163項、同6条、改正法附則7条、昭和59111民二5500通達第21(1)

 (2)について、戸籍法163昭和59111民二5500通達第24(1)オ、

 (3)について、戸籍法20条の21項、昭和59111民二5500通達第24(1)

 (4)について、昭和59111民二5500通達第24(1)キ。

 

(1)について

戸籍の筆頭者でない日本人から外国人との婚姻の届出があったときは、外国人と婚姻した者について、従来の氏によって新戸籍を編製する。この場合の戸籍の記載は、規則附録第7号戸籍記載例73から75までの例による。1.04.015.04.01を参照。

 

(2)について

戸籍の筆頭者でない日本人から外国人との婚姻の届出及び戸籍法1072項の届出が同時にあったときは、まず(1)に従い、日本人について従来の氏により新戸籍を編製した後、外国人配偶者の氏への変更を記載する。

なお、戸籍法1072項の届出があった場合の戸籍の記載は、戸籍事項欄及び身分事項欄の記載例176から180までの例により、これをする(昭和59111民二5500通達第24(1)ア、規則342号、3513)。 

 

(3)について

戸籍法1072項の届出をした者の戸籍に同籍者があるときは、届出人につき新戸籍を編製し、氏変更の効果は同籍者には及ばない(戸籍法20条の21項、昭和59111民二5500通達第24(1))。この場合に、氏変更前の戸籍に在籍している子は、同籍する旨の入籍届により、氏を変更した父又は母の新戸籍に入籍することができる(民法7912項、戸籍法981)。戸籍法1072項の変更届と同時に同籍する子全員から入籍届があった場合においても、氏を変更した者につき新戸籍を編製する(昭和59111民二5500通達第24(1))

一方、戸籍法1072項の届出をした者の戸籍に同籍者がいないときは、戸籍の変動はなく、単にその戸籍に氏の変更事項を記載し、筆頭者氏名欄の氏の記載を更正すればよいとされている(『新版・実務戸籍法』257)

 

9.02.06[外国人と婚姻した日本人配偶者の氏名の記載]

現行実務

戸籍法1072項による変更後の日本人配偶者の氏は、片仮名によって記載するのが原則であるが、配偶者が本国において氏を漢字で表記する外国人である場合において、正しい日本文字としての漢字により日本人配偶者の身分事項欄にその氏が記載されているときは、その漢字で記載して差し支えない。      

昭和59111民二5500通達第24(1)ウ。

 

 戸籍法1072項による変更後の氏は、戸籍という日本の公簿に記載されるものであるから日本の文字によって表記すべきものであり、それは片仮名によって記載するのが原則であるが、日本人の配偶者が本国において氏を漢字で表記する外国人である場合には、日本人配偶者の身分事項欄の婚姻事項中に記載された外国人配偶者の氏に用いられた漢字が正しい日本文字であるときは、その漢字を日本人配偶者の氏とすることができる(『体系・戸籍用語辞典』585頁。)

 

9.02.07[日本人と婚姻した外国人配偶者の氏名の記載]

現行実務

(1) 日本人と婚姻した外国人の氏については民法750条の適用はないが、その外国人の本国法上氏が変動している場合には、日本人配偶者から、その証明書を添付して、戸籍の身分事項欄にその旨を記載する申出をしたときは、身分事項欄にその変更後の氏名を記載することができる。

(2) 日本人と外国人配偶者との間の日本人嫡出子の父母欄には、その外国人配偶者の氏名を記載する。

(3) 子の父母欄に記載されている外国人の氏名を日本人配偶者の氏(漢字)に更正する申出があったときは、当該外国人がその本国法に基づく効果として日本人たる配偶者の氏をその姓として称していることを認めるに足りる権限ある本国官憲の作成した証明書等が提出された場合に限り、その記載を更正することができる。

 (1)及び(3)について、昭和55827民二5218通達。

 

(1)について

日本人と婚姻した外国人の氏については、外国人には日本法上の氏は存在せず、民法750条の適用はないので、日本法上は婚姻前の氏のままであるというのが戸籍実務の取扱いである。ただし、日本人と婚姻した外国人の氏については、その外国人がその本国法に基づく効果として日本人たる配偶者の氏をその姓として称していることを認めるに足りる証明書等が提出されれば、日本人配偶者の戸籍の身分事項欄又は子の父母欄に記載されている外国人の氏名の記載を日本人配偶者の氏(漢字)に更正して差し支えないと解されている(昭和55827民二5218通達)(9.01.02参照)。しかし、これは、外国人配偶者の本国における氏を当然に日本人の戸籍に反映させているわけではなく、申出により外国人配偶者の氏を日本人配偶者の呼称上の氏に変更することを単に認めているにすぎない。このように、戸籍実務上は、本国における氏の変動を当然に戸籍に反映させるとの立場はとられていない。

ただし、日本で婚姻したブラジル人女性については例外がある(平成81226民二2254号民事局第二課長通知)。すなわち、ブラジル法では、婚姻により、妻の氏は夫の氏又はダブルネームに変更することになっているが、日本で婚姻したブラジル人女性の場合は、まず日本で氏を変更しなければブラジルでの氏の変更ができない。そこで、婚姻届の「その他」の欄に、妻の氏をどのように変更するかを記載したり、又は婚姻後にその旨の申述書を提出すれば、妻の氏の変更が認められるとされている。

日本人と婚姻した外国人配偶者の氏名の記載については、その文字は片仮名で表記するのが原則である。ただし、申出があれば漢字表記にすることもできる。すなわち、その外国人の氏名がその本国において漢字で表記されているときは、その漢字が正しい日本文字であることを条件に、その漢字表記とすることができる。その理由として、外国人は、本国法上の効果としてであれ、日本人配偶者の氏を称していることに違いはないのであるから、申出があれば、日本文字で表記しても差し支えないからであるとされている(島野・戸籍7238頁。)

 

(2)について

外国人配偶者がその本国法により日本人配偶者の氏を取得したものとされていても、日本法上は、日本人の氏を外国人が取得することはあり得ないので、日本人嫡出子の父母欄にはその外国人の氏名を記載することになる。

なお、婚姻した日本人父とスイス人母との間の日本人嫡出子の母欄の記載について、スイス人配偶者はその本国法上日本人配偶者の氏を取得したものとされているとして、外国人母の氏を子の父母欄に記載しないとの取扱いを認めた事例として、京都家審昭和55228(家月33590)がある。本審判は、日本人村松某と婚姻したスイス人妻コーネリア・サリー・マリアが、スイスの家族簿には夫婦の称する氏Muramatuとして登録されているところ、日本の村松某を筆頭者とする戸籍の子の母欄に記載されている「ムラマツ」を削除することを求めた事案である。京都家裁は、氏は本人の属人法によるとし、スイス法上漢字を使用できないためにMuramatuと登録されているだけで同国法上「村松」の氏を取得していると解されるとし、申立を認容したものである。もっとも、本審判は、母欄への氏の記載は、子が非嫡出子か父母離婚の場合と同じ扱いであって、婚姻した日本人父母の子の場合の記載と異なるという点については触れていない。

本審判後に、昭和55827民二5218通達が出され、日本人と婚姻した外国人の氏については、その外国人がその本国法に基づく効果として日本人たる配偶者の氏をその姓として称していることを認めるに足りる証明書等が提出されれば、日本人配偶者の戸籍の身分事項欄又は子の父母欄に記載されている外国人の氏名の記載を日本人配偶者の氏(漢字)に更正して差し支えないという取り扱いがなされることとなった。この昭和55年通達によれば、「外国人配偶者の本国法上の氏を当然に日本人の戸籍に反映させているわけではなく、申出により外国人配偶者の氏を日本人配偶者の呼称上の氏に変更することを単に認めているにすぎない」のであって、前述の京都家審のケースでいえば、(審判が母欄の氏の削除を命じたのと異なり)母欄には「村松」と書くべきことになる。

そして、その後、さらに昭和59111民ニ5500通達が出され、戸籍法1072項によって日本人配偶者がその氏を外国人配偶者の称している氏へと変更した場合には、子の母欄の氏の記載を省略できるという扱いがなされることとなった(昭和59111民二5500通達第24(1))

そこで、この趣旨を敷衍して、外国人配偶者がその氏を日本人配偶者の氏に変更している場合にも、同様に母欄の氏の記載を省略できると実務上は変更されているようである(『改正国籍法・戸籍法の解説』149頁以下)

 

(3)について

(1)の場合において、日本人配偶者の戸籍にその夫婦の嫡出子が在籍しているときは、子の父母欄に記載されている外国人父又は母の氏名の記載を日本人配偶者の氏(漢字)に更正する申出によって、その記載を更正して差し支えないと解されている(昭和55827民二5218号民事局長通達)(9.01.02参照)

 

9.03 外国人との離婚又は婚姻の取消しによる氏の変更

9.03.01[外国人との離婚又は婚姻の取消しによる日本人の氏の変更の届出]

現行実務

(1) 外国人との婚姻によって新戸籍を編製された日本人については、離婚又は婚姻の取消しがあった場合においても、戸籍の変動は生じず、身分事項欄にその旨を記載し、配偶欄の記載を抹消する。ただし、9.03.02(1)の場合(戸籍法20条の2)はこの限りではない。

(2) 戸籍法1072項の規定によって外国人配偶者の称している氏に変更した日本人は、離婚、婚姻の取消し又は配偶者の死亡の日から3箇月以内に限り、家庭裁判所の許可を得ないで、その氏を変更の際に称していた氏に変更する旨の届出をすることができる。

 (1)について、昭和59111民二5500通達第23

 (2)について、戸籍法1073項、昭和59111民二5500通達第24(2)ア。

 

(1)について

外国人と婚姻した日本人については、外国人との婚姻により新戸籍が編製され、配偶欄の記載がされるが(戸籍法163)、日本人当事者には婚姻による氏の変更はなく(昭和26430民事甲899号回答、昭和261228民事甲2424号回答等)、したがって、離婚による氏の変更もないので、離婚届によって日本人当事者の戸籍の身分事項欄に離婚が成立した旨を記載し、配偶関係が終了したので配偶欄の記載を抹消するだけで足り、戸籍の変動は生じないとするのが戸籍実務の取扱いである。6.04.01を参照。

戸籍法20条の2については、9.03.02参照。

 

(2)について

戸籍法1072項の届出により外国人配偶者の氏を称している者は、その外国人配偶者との離婚の日から3箇月以内に限り、家庭裁判所の許可を得ることなく、届出によって変更前の氏を称することができる(戸籍法1073)。ただし、戸籍法1071項の規定により氏を外国人配偶者と同一の氏に変更した者は、婚姻が解消した後3箇月以内であっても、この届出をすることはできないと解されている(『新版・実務戸籍法』257)

この届出は、外国人配偶者との婚姻が解消した後3箇月以内であれば、いつでもすることができるほか、離婚の届出と同時にすることもできる(『新版・実務戸籍法』257)3箇月経過後は、原則に戻って、1071項の手続によらなければならない。また、戸籍法1071項の規定によって氏を外国人配偶者と同一に変更した者は、婚姻が解消した後3箇月以内であっても、この届出をすることはできない。

この届出の届出期間の計算においては、戸籍法431項により、婚姻解消の日を初日として算入する。協議離婚の場合にはその届出の日、裁判離婚の場合には判決(審判)確定又は調停成立の日、外国の方式による離婚の場合にはその方式により離婚が成立した日がそれぞれ起算日となる。また、外国人配偶者の死亡による婚姻解消の場合には、その死亡の日が起算日となる(『新版・実務戸籍法』257)

届出事件本人は、戸籍法1072項の氏変更の届出により氏を変更した者であり、届出地は、届出人の本籍地又は所在地である(戸籍法25条、同40)

変更後の氏は、戸籍法1072項の届出をする際に称していた氏に限定され、他の呼称に変更することはできない。

戸籍法1071項による氏の変更については、9.01.01参照。

 

9.03.02[添付書類]

現行実務

 戸籍法1073項の届出をする場合には、添付書類は特に要求されない。

 

 戸籍法1073項で氏変更ができるのは、戸籍法1072項の届出によって氏を変更した者に限られるため、外国人の称する氏が当該外国において公に認められていることは、すでに婚姻届の際の添付書類により確認されているはずであり、戸籍法1073項の届出においては特に添付書類は必要とされない。

 

9.03.03[戸籍の処理]

現行実務

戸籍法1073項の届出があった場合の戸籍の処理及び届出人の戸籍に在籍する子の入籍については、戸籍法1072項の届出の場合に準じて行う。

昭和59111民二5500通達第24(2)イ。

 

 届出人の戸籍に同籍者がいないときは、その戸籍の筆頭者氏名欄の氏の記載を更正するだけである。

戸籍法1073項の届出による氏の再変更の効果は同籍者には及ばないので、届出人の戸籍に同籍者があるときは、届出人について新戸籍を編製し、その同籍者は従前の戸籍(外国人との婚姻によって届出人につき当初編製された戸籍や、戸籍法1072項の届出後の戸籍)に残る(戸籍法20条の21)。その同籍者が希望すれば、入籍届により、氏を再変更した父又は母の新戸籍に入籍することができる(昭和59111民二5500通達第24(2))。離婚後3箇月を経過した後に、同籍者がこのような氏の変更をする場合には、氏変更の一般原則に従い、戸籍法1071項の「やむを得ない事由」による家庭裁判所の許可が必要となる。

戸籍法1073項の届出の場合の戸籍の記載は、記載例181から183までの例による。

記載すべき欄及び移記については、外国人と婚姻した者の氏の変更と同様である(9.02.04参照)

 

9.04 子の氏の変更

9.04.01[外国人父母の氏への変更届]

現行実務

(1) 父又は母が外国人である日本人(戸籍の筆頭に記載した者又はその配偶者を除く。)がその氏をその父又は母の称している氏に変更しようとするときは、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。

(2) 日本人が外国人の養子となった場合、日本人たる当事者の氏は戸籍上変わらない。父又は母が外国人である養子が、その氏を養父母の称している氏に変更しようとするときは、家庭裁判所の許可を得た上で、氏の変更の届出をすることができる(戸籍法1074)。養子が転縁組をしているときは、直近の縁組による養父母の称している氏にのみ変更することができる。

(3) 氏を変更しようとする者が15歳未満であるときは、戸籍法1074項において準用する同条第1項の規定の届出は、法定代理人がしなければならない。

 (1)について、戸籍法1074項、昭和59111民二5500通達第24(3)ア、

 (2)について、昭和231214民事甲2086号回答、昭和59111民二5500通達第24(3)イ、

 (3)について、昭和59111民二5500通達第24(3)ウ。

 

(1)について

 嫡出子の場合については、日本人と外国人の婚姻後、両者間に嫡出子が出生すると、その子は日本の国籍を取得するので、出生届によって戸籍に登載しなければならない。その子は、日本人の氏を称してその戸籍に入籍すべきことになる(民法7901項、戸籍法182)。すなわち、外国人と婚姻した日本人については、その者が戸籍の筆頭者になっていない場合であっても、婚姻の届出によりその日本人を筆頭者とする新戸籍が編製されるため(戸籍法163)、その嫡出子は日本人の当該戸籍に入籍することになる。2.02.04を参照。

このように出生により日本国籍を取得した子は、日本人父又は母の氏を称することになるが(民法790)、戸籍の筆頭者及び配偶者以外の者で父又は母が外国人である者が、その氏を外国人父又は母の称している氏に変更するときは、家庭裁判所の許可を得て、氏の変更の届出をすることにより、その氏を変更することができる(戸籍法1074項、1)。この場合、届出事件本人は氏を変更する者であり、届出期間の制限はなく、届出地は氏を変更する者の本籍地又は届出人の所在地である。もっとも、戸籍の筆頭者及び配偶者である者が、その氏を外国人父又は母の称している氏に変更するときは、戸籍法1071項の手続による。

非嫡出子の場合については、日本人母の非嫡出子及び日本人父が胎児認知をした外国人母との間の非嫡出子は、出生と同時に日本国籍を取得するので、出生届によって戸籍に登載しなければならない。日本人母の非嫡出子は、日本人母の氏を称し、その戸籍に入籍するが(民法7902項、戸籍法182)、日本人父が胎児認知した外国人母との間の非嫡出子は、当然には父の氏を称して父の戸籍に入籍できないため、子について氏と本籍を設定して新戸籍を編製する(戸籍法22条、昭和29318民甲611回答)2.03.05を参照。

戸籍法1074項の届出は、実質的には、戸籍法1071項の氏の変更と異なるところはないが、戸籍の筆頭者及びその配偶者でもない者にも氏の変更の方法を認めた点で、同項の特則となっている。この手続は、戸籍の筆頭者及び配偶者以外の者であれば、年齢を問わずにすることができる。

戸籍法1074項の届出による氏変更の効果は、家庭裁判所の審判が確定したときに生じるものではなく、市町村長に届出をすることによって生じるため、創設的届出である。

届出地は、届出人の本籍地又は所在地である(戸籍法25)。添付書類は、氏の変更の許可の審判書の謄本及び確定証明書である(戸籍法382)

変更後の氏は、外国人である父又は母の氏に限定される。外国人である父又は母の氏として戸籍に記載されているものと同一でなければ、この氏の変更の届出を受理することはできない。ただし、外国人である父又は母の氏のうち、その本国法によって子に承継されない部分を除いたものを変更後の氏とする届出は受理することができる。

届出期間について、定めはない。

届出人については、(3)を参照。

 

(2)について

養子の場合については、戸籍実務は、日本人が外国人の養子となった場合、日本人たる当事者の氏は戸籍上変動しないとの態度をとっている。すなわち、日本人である当事者の戸籍の身分事項欄に外国人との養子縁組の縁組事項が記載されるにとどまる(昭和231214民事甲2086号回答)。ただし、日本人が外国人父又は母の養子となった場合には、日本人である養子は家庭裁判所の許可を得た上で氏の変更の届出をすれば、外国人である養親の称している氏に変更することができる(戸籍法1074)(実父母の称している氏に変更することはできない)。養子が戸籍の筆頭者でない場合には、この届出により新戸籍が編製される(戸籍法20条の22)。なお、この変更の性質は、婚姻や離婚による氏変更の場合と同様であり、戸籍法独自の規定による呼称の変更にすぎず、民法791条の変更とは性質を異にすると解されている。

実父母の一方が外国人である者が、他の外国人の養子となっているときは、変更可能な氏は養父母の氏だけであり、実父母の氏に変更することは認められない。外国人養親のもとから、さらに他の外国人のところへ養子にいった場合は、最後の縁組による養親の氏にのみ変更ができる(昭和59111民二5500通達第24(3)イ、エ)

 

(3)について

戸籍法1074項に基づく氏変更の届出人は、氏を変更する者であり、その者が家庭裁判所の許可を得て届出をする。なお、氏を変更する者が15歳未満であるときは、その法定代理人が届出人となる(民法7913項、昭和59111民二5500通達第24(3))

 

9.04.02[添付書類]

現行実務

戸籍法1074項の届出をする場合には、審判の謄本及び確定証明書を添付する必要がある。

戸籍法382項。

 

戸籍法1074項の届出は家庭裁判所の許可を必要とするため、届出書に審判の謄本及び確定証明書を添付しなければならない(『新版・実務戸籍法』259)

 

9.04.03[戸籍の処理]

現行実務

戸籍法1074項において準用する同条第1項の規定によって氏を変更する旨の届出があったときは、届出事件本人について新戸籍を編製する。

戸籍法20条の2、第2項、昭和59111民二5500通達第24(3)オ。

 

この届出による氏変更の効果は、届出事件本人についてのみ生じ、同籍者には及ばないので、届出事件本人について新戸籍を編製することとされている。したがって、筆頭者でない兄弟が、それぞれ家庭裁判所の許可を得て氏変更の届出をした場合には、それぞれについて新戸籍がつくられる(『体系・戸籍用語辞典』588)。新戸籍を編製された子は、自己の意思に基づいて戸籍の筆頭者となったものであり、以後は入籍届によって、民法上同氏の日本人父又は母の戸籍に入籍することはないとされている(『新版・実務戸籍法』259頁では、その根拠として、昭和26125民甲1673回答二(524)が引用されているが、適切な引用か否か疑問がある)

なお、戸籍法1074項の届出の場合の戸籍の記載は、記載例184から186までの例による。


10 国籍の得喪

 

10.01 国籍取得したことの届出

10.01.01[届出義務者]

現行実務

(1) 次の者は、国籍取得の届出をしなければならない。

 () 準正により日本人の嫡出子となり、法務大臣に届け出ることによって日本国籍を取得した者

 () 国籍留保の届出をしなかったことにより日本国籍を喪失した者であって、法務大臣に届け出ることによって再度日本国籍を取得したもの

 () 国籍選択の届出をしなかったことにより日本国籍を喪失した者であって、法務大臣に届け出ることによって再度日本国籍を取得したもの

(2) (1)により届出義務を負う者が未成年者又は成年被後見人であるときは、親権者又は後見人が届出をしなければならない。ただし、未成年者又は成年被後見人自身も届け出ることができる。

 (1)について、戸籍法1021項、国籍法31項、国籍法171項・2項、

 (2)について、戸籍法311項。

 

 ここでいう「国籍取得の届出」とは、国籍法に従い法務大臣に対して届出をすることによって日本国籍を取得した場合に、そのことを戸籍に登載するため、市町村長に対してする報告的届出である。国籍法上の法務大臣への届出と区別する趣旨で、表題は「国籍取得したことの届出」としている。以下、届出により国籍を取得した者を「国籍取得者」という。なお、出生による国籍取得の場合には、出生の届出によって戸籍に記載される。この点については、2.出生を参照。

 

(1)について

 届出義務者は、国籍取得者本人である。国籍取得したことの届出が必要となるのは、次のいずれかの条件を満たしている者が法務大臣に対し国籍取得の届出をしたことにより、日本国籍を取得した場合である(『新版・実務戸籍法』238頁参照)

(a)について 

 準正により嫡出したる身分を取得した20歳未満の子で、父また母が、子の出生の時に日本人であり、かつ届出の時に現に日本人であるか又はその死亡の時に日本人であった場合(国籍法3)

()について

 国籍留保の届出(国籍法12)をしなかったことにより日本国籍を喪失した20歳未満の者で、日本に住所を有する場合(国籍法171)

()について 

 国籍法に従い官報公告により国籍選択の催告を受けたが、国籍選択の届出をしなかったため日本国籍を喪失した者(国籍法153)で、その喪失の事実を知ってから1年以内である場合(国籍法172)。ただし、この場合には、国籍法515号の重国籍防止条件も備えることが必要である。

 

(2)について

 国籍法上の「国籍取得の届出」は、本人が15歳以上の場合には、未成年者であっても本人がしなければならないが(国籍法18)、戸籍法上の届出については、法定代理人が届出義務者となる。ただし、本人も届出をすることができる(戸籍法311項但書)。 

 

10.01.02[届出期間]

現行実務

 国籍取得の届出は、国籍取得の日から1箇月以内にしなければならない。ただし、国籍を取得した者が、その取得の日に日本国外にいるときは、3箇月以内にしなければならない。

 戸籍法1021項。

 

 戸籍法上、届出期間の起算点は「国籍取得の日」(法務大臣への国籍取得の届出の時:国籍法32)とされている。しかし、実務上は、届出が適法な手続によってなされているか否かを点検した上で受付し、受付後も事実関係の調査を行うことがあるため、法務局又は地方法務局の長が発行する国籍取得証明書の「交付の日」から届出期間を起算しても差し支えないとされている(『改正国籍法・戸籍法の解説』179頁、『新版・実務戸籍法』241)

 

10.01.03[届出事項]

現行実務

 届書には、戸籍法29条に定める事項のほか、次の事項を記載しなければならない。

 () 国籍取得の年月日

 () 国籍取得の際に有していた外国の国籍

 () 父母の氏名及び本籍、父又は母が外国人のときは、その氏名及び国籍

 () 配偶者の氏名及び本籍、配偶者が外国人のときは、その氏名及び国籍

 () 国籍取得前の身分事項

 戸籍法1022項、戸籍法施行規則58条の21項。

 

 戸籍法施行規則で定められている「国籍取得前の身分事項」は、次の事項である(58条の21)

 @出生に関する事項

 A認知に関する事項

 B現に養親子関係の継続する養子縁組に関する事項

 C現に婚姻関係の継続する婚姻に関する事項

 D現に未成年である者についての親権又は未成年者の後見に関する事項

 E推定相続人の廃除に関する事項でその取消のないもの

 これらの事項は、届書の「その他」欄に記載するが、添付する国籍取得証明書にそれらの事項の記載があるときは(10.01.04)、「別添の『国籍取得証明書』のとおり」と記載して差し支えない(『新版・実務戸籍法』242)

 

10.01.04[添付書類]

現行実務

 国籍取得者は、国籍取得の届書に、法務局若しくは地方法務局の長又は法務省民事局長が発行する国籍取得証明書を添付しなければならない。国籍取得証明書に国籍取得前の身分事項に関する記載がないときは、身分事項を証明する書面も添付しなければならない。

 戸籍法1022項、戸籍法施行規則58条の22項。

 

 国籍取得の届書には「国籍取得を証すべき書面」を添付しなければならないとされているが(戸籍法1022)、法務局又は地方法務局の長は、国籍法上の国籍取得の届出が適法な手続によってなされ、かつ国籍の取得をする者が国籍取得の条件を備えているときは、届出人に「国籍取得証明書」を交付するものとされており(昭和59111民五5506通達第14)、この証明書を上記の「国籍取得を証すべき書面」として扱うことにしている。また、戸籍法施行規則58条の2によれば、国籍取得の届書には国籍取得前の身分事項を記載し、その身分事項を証明する書面を添付しなければならないとされているが、国籍取得証明書に身分事項に関する記載があるときは、その点についてさらに資料の添付は不要である(昭和59111民二5500通達第31(4))

 なお、国籍取得の届出を在外公館に届け出た者については、法務省民事局長が国籍取得証明書を交付することとなっている(『改正国籍法・戸籍法の解説』88)

 

10.01.05[入籍する戸籍]

現行実務

(1) 国籍取得者((3)に該当する者を除く)は、国籍取得時において氏を同じくする父又は母の戸籍があるときは、その戸籍に入る。

(2) (1)により入るべき戸籍がないときは、国籍取得者につき新戸籍を編製する。

(3) 国籍選択をしなかったために日本国籍を喪失し、日本国籍を再取得した者は、国籍喪失時に在籍していた戸籍に入る。ただし、その戸籍が除かれているとき、又は日本国籍を保持していたとすればその戸籍から除籍する理由があるときは、新戸籍を編製する。

(4) 国籍取得者が国籍取得時に日本人の養子であるときは、実父又は実母の戸籍に入籍させた上で、養親の戸籍に入籍させる。国籍取得者が国籍取得時に日本人の配偶者であるときも、同様とする。

 (1)について、戸籍法18条、

 (2)について、戸籍法22条、

 (3)について、昭和59111日民二第5500号通達第31(2)ウ。

 

 国籍取得者が入籍する戸籍の取扱については、その者が称すべき氏(10.01.06参照)を基準として、その原則が定められている。入籍すべき戸籍については、国籍取得時が基準となるのが原則であるが、国籍選択をしなかったことにより国籍を喪失した者に関しては、その者が引き続き日本国籍を保有していた状態に復させるという趣旨から、国籍喪失時が基準とされている(『改正国籍法・戸籍法の解説』183)

 

(1)について

 準正された子が届出によって日本国籍を取得する場合(国籍法3)及び国籍留保の届出をしなかったために日本国籍を喪失した者が国籍を再取得する場合(国籍法171)には、10.01.06に従って決まる氏により、国籍取得時において自己と氏を同じくする父また母の戸籍があるときは、その戸籍に入る(戸籍法181項、2項参照、昭和59111民二5500通達第31(2)イ前段)。なお、国籍取得者をその父又は母の戸籍に入籍させることにより3代戸籍が生じるときは(例えば、外国で出生した日本人母の非嫡出子で国籍留保届をしなかった者が日本国籍を再取得した場合)、国籍取得者の父又は母について新戸籍を編製し、国籍取得者はその戸籍に入籍することになる(戸籍法17)

 

(2)について

 父又は母がすでに死亡している場合、あるいは外国に帰化している場合など、(1)により入るべき戸籍がないときは、国籍取得者につき新戸籍を編製する。この場合、親子関係を戸籍上明らかにするため、いったん、父母が国籍取得者と同一の氏を称して最後に在籍していた戸()籍に国籍取得者を入籍させた上、直ちに除籍して新戸籍を編製する(昭和59111民二5500通達第31(2)イ後段)

 

(3)について

 国籍選択をしなかったことにより日本国籍を喪失した者が国籍を再取得した場合(国籍法172)には、国籍喪失時に在籍していた戸籍があるときは、その戸籍に入る。すでにその戸籍が除かれているとき、又は国籍喪失後に、離婚や離縁などをしたため、その者が日本国籍を引き続き保持していれば当該戸籍から除籍する理由があるときは(戸籍法19条、23条参照)、新戸籍を編製する(昭和59111民二5500通達第31(2))

 

(4)について

 国籍取得者が国籍取得前に、日本人と婚姻している場合及び日本人の養子となっている場合には、日本人の実父又は実母との親子関係を戸籍上明らかにするために、直接配偶者の戸籍及び養親の戸籍に入籍させるのではなく、いったん実父又は実母の戸籍に入籍させた上で、身分行為の順序に従った戸籍の処理をすることとされている(『新版・実務戸籍法』240頁。なお、氏との関係については、10.01.06(2)及び(3)参照)。この場合、すでに実父又は実母の戸籍が除籍されているときは、新戸籍を編製することなく、除籍の末尾に入籍させる扱いである。

 

10.01.06[戸籍への記載]

現行実務

 国籍取得事項は、国籍取得者の身分事項欄に記載する。

 戸籍法施行規則35条。

 

 国籍の取得に関する事項は国籍取得者の身分事項欄に記載する(戸籍法施行規則35)。なお、戸籍法施行規則39条によれば、国籍取得事項は、婚姻、養子縁組等により新戸籍を編製し、又は他の戸籍に入る場合に移記が必要な身分事項とされていないので、新戸籍又は他の戸籍に移記されない(『新版・実務戸籍法』242)

 なお、国籍取得事項の記載については、国籍取得事項の記載例165(国籍取得年月日、届出人、取得前の国籍、取得前の氏名)を参照。

 

10.01.07[国籍取得者の氏]

現行実務

(1) 国籍取得者の氏は、次の通りとする。

(a) 準正により日本人の嫡出子となり、法務大臣に届け出ることによって日本国籍を取得した者(国籍法31)は、準正時(準正前に父母が離婚しているときは離婚時)の父の氏

() 国籍留保の届出をしなかったことにより日本国籍を喪失した者であって、法務大臣に届け出ることによって日本国籍を再取得したもの(国籍法171)は、出生時の日本人父又は母の氏

() 国籍選択の届出をしなかったことにより日本国籍を喪失した者であって、法務大臣に届け出ることによって日本国籍を再取得したもの(国籍法172)は、国籍喪失時の氏

(2) 国籍取得者が国籍取得時に日本人の養子であるときは、(1)による氏から直ちに養子縁組当時の養親の氏に変更したものとして取り扱う。

(3) 国籍取得者が国籍取得時に日本人と婚姻していたときは、(1)による氏を称した上で、国籍取得届において日本人配偶者とともに届け出ることにより、夫婦のいずれか一方の氏を称するものとして取り扱う。

 (1)について、昭和59111民二5500通達第31(2)

 

(1)について

 国籍取得者がいかなる氏を称すべきかについては、民法、戸籍法にも明文の規定がないため、解釈によらざるを得ない。届出による国籍取得の制度は、帰化とは異なり、血統主義を基礎とし、これを補完するものであるから、氏についても血統上の父又は母からそれを承継するものと解するのが実務の立場である(『改正国籍法・戸籍法の解説』181)。また、届出により日本国籍を取得した者も、日本人父また母の氏を称し、その父又は母の戸籍に入ることとするのが、出生による場合とも整合的であり、親子関係を明確化できるという利点もあるとされている。たしかに、このような実務の解釈自体には合理性があるが、氏は戸籍編製の基礎ともなり、また本人の人格権の一部とされることを考えると、単に行政解釈として通達で処理するのではなく、出生後に日本国籍を取得した者の氏に関する規定を民法又は戸籍法に置くことが望ましいと思われる。

 なお、日本人父又は母の氏を承継するとした場合、いつの時点を基準とすべきかが問題となる。現行実務では、上述のように血統による氏の承継の趣旨から、国籍取得時ではなく、民法に定める氏の決定時点(出生時、準正時など)が基準とされている。

■ (a)について

 母が日本人である場合には、原則として分娩・出産の事実に基づいて親子関係が成立し、子は日本国籍を取得するので、国籍法3条が適用されるのは、実際上、出生時に父が日本人であった非嫡出子に限られる(江川=早田=山田『国籍法』89)。したがって、同条により国籍を取得した者は日本人父の氏を称する。なお、前述のように、この場合の氏は血統による氏の承継を前提としているから、国籍取得時の父の氏ではなく、民法の定める氏の決定時点である準正時(準正前に父母が離婚しているときは離婚時)の氏によるものとされている(『改正国籍法・戸籍法の解説』181)

■ ()について

 国籍留保の届出をしなかったことにより、出生時にさかのぼって日本国籍を喪失した者は、いったん出生により日本国籍を取得しており、その時点で称すべき氏及び入籍する戸籍は潜在的に決定していると考えられるから、出生時の日本人父又は母の氏を称する(『改正国籍法・戸籍法の解説』182)

■ ()について

 国籍法172項による国籍の再取得の制度は、官報公告の手続きによる催告によって国籍を喪失させた場合には、本人が知らない間に国籍を失うおそれがあるので、届出という簡便な方法で国籍の再取得の機会を保障したものである。したがって、国籍の再取得者の称すべき氏は、その者が引き続き日本国籍を保有していた場合を前提として考え、国籍喪失時の氏を称することとされている(『改正国籍法・戸籍法の解説』183)

 

(2)について

国籍取得者が国籍取得前に日本人の養子となっている場合、国籍取得によって直接日本人養親の氏を称し(民法810)、その戸籍に入籍させると、日本人の実父又は実母との親子関係が戸籍上反映されないことになる。そこで、このような場合には、氏の変動を戸籍に反映させるため、直接養親の氏を称するのではなく、いったん実父又は実母の氏を取得した上で、直ちに縁組当時の養親の氏に変更したものとして取り扱うこととされている(『改正国籍法・戸籍法の解説』188)

 

(3)について

 (2)と同様の趣旨から、国籍取得者が国籍取得前に日本人と婚姻している場合についても、いったん実父又は実母の氏を取得し、その上で、国籍取得届において日本人配偶者とともに届け出た氏を夫婦の称する氏として取り扱うことにしている。そのため、国籍取得の届書には、届出人ではない日本人配偶者も署名が必要とされている(戸籍関係届書類標準様式・国籍取得届)

 

10.01.08[国籍取得者の名]

現行実務

(1) 国籍取得者の名に使用する文字は、常用平易な文字でなければならない。

(2) 国籍取得者が国籍取得前に本国においてその氏名を漢字で表記する者であった場合で、相当の年齢に達しており、卒業証書、免許証、保険証書等により日本の社会に広く通用していることを証明することができる名を用いるときは、正しい日本文字としての漢字を用いるときに限り、制限外の文字を用いることができる。

 (1)について、戸籍法50条、戸籍法施行規則60条、

 (2)について、昭和59111日民二第5500号通達第31(3)イ。

  

 国籍取得者も、生来の日本人と同様、その名に使用する文字に関しては、戸籍法50条、戸籍法施行規則60条の原則に従う必要がある。しかし、国籍取得者が、国籍取得前に氏名を漢字で表記する国の国民であり、出生後相当期間、その名で社会生活を過ごしている場合には、その名の使用から生じる本人の利益を無視することはできない。そこで、本人が国籍取得後もその文字の使用を希望するときは、正しい日本文字としての漢字を用いるときに限り、本人の年齢及びその文字の常用性を勘案して、制限外の文字であっても、その利用が認められている。

 

10.02 帰化の届出

10.02.01[届出義務者]

現行実務

(1) 帰化者は、法務大臣が官報に帰化許可の告示をした日から1箇月以内に帰化の届出をしなければならない。

(2) 帰化者が未成年者又は成年被後見人であるときは、親権者又は後見人が届出をしなければならない。ただし、未成年者又は成年被後見人自身も届け出ることができる。

 (1)について、戸籍法102条の2

 (2)について、戸籍法311項。

 

 帰化の届出は、法務大臣の帰化の許可によって日本国籍を取得したこと(国籍法4)を報告する届出である。また、他方で、帰化者は、原則として、この届出により本籍及び氏名を新たに設定することになる。

 

(1)について

 届出義務者は、帰化者本人である。戸籍法上は、届出期間の起算点は、官報告示の日とされている。しかし、戸籍実務では、帰化が許可された場合には、法務局又は地方法務局の長が帰化者に対して「帰化者の身分証明書」を交付する扱いのため、この身分証明書の交付の日から届出期間を起算しても差し支えないとされている(改正国籍法・戸籍法の解説212頁、『新版・実務戸籍法』243)

 届出地は、帰化者の所在地である(戸籍法25)が、就籍の届出に準じて、新本籍地で届け出ることもできる(昭和30125民二発596号回答。戸籍法112条参照)

 

(2)について

 国籍法上の「帰化許可の申請」は、本人が15歳以上の場合には、未成年者であっても本人がしなければならないが(国籍法18)、戸籍法上の届出については、法定代理人が届出義務者となる。ただし、本人も届出をすることができる(戸籍法311項但書)。本人以外が届出をする場合には、届出人の所在地でもすることができる。

 

10.02.02[届出事項]

現行実務

届書には、戸籍法29条に定める事項のほか、次の事項を記載しなければならない。

 () 国籍取得の年月日

 () 国籍取得の際に有していた外国の国籍

 () 父母の氏名及び本籍、父又は母が外国人のときは、その氏名及び国籍

 () 配偶者の氏名及び本籍、配偶者が外国人のときは、その氏名及び国籍

 () 国籍取得前の身分事項

 戸籍法1022項、戸籍法施行規則58条の21項。

 

 戸籍法施行規則で定められている「国籍取得前の身分事項」は、次の事項である(58条の21)

 @出生に関する事項

 A認知に関する事項

 B現に養親子関係の継続する養子縁組に関する事項

 C現に婚姻関係の継続する婚姻に関する事項

 D現に未成年である者についての親権又は未成年者の後見に関する事項

 E推定相続人の廃除に関する事項でその取消のないもの

 これらの事項は、添付する「帰化者の身分証明書」に記載されているので(10.02.03)、届書の「その他」欄には「別添の『帰化者の身分証明書』のとおり」と記載されている(戸籍関係届書類標準様式参照。『新版・実務戸籍法』244)

 

10.02.03[添付書類]

現行実務

 帰化者は、帰化の届書に、法務局又は地方法務局の長が発行する帰化者の身分証明書を添付しなければならない。身分証明書に帰化前の身分事項に関する記載がないときは、身分事項を証明する書面も添付しなければならない。

 戸籍法施行規則58条の22項。

 

 帰化の届書には、帰化前の身分事項を記載し、その身分事項を証すべき書面を添付しなければならない(戸籍法102条の21022)。実務では、法務局又は地方法務局の長が発行する「帰化者の身分証明書」に、帰化許可申請事件処理に際して把握された身分事項を記載することとされ、戸籍の記載も身分証明書に記載された身分事項に基づき記載することで足りるとされているので(昭和30118民甲76号通達)、帰化者の身分証明書を上記の「身分事項を証すべき書面」として扱うことにしている(昭和59111日民二第5500号通達第32(1))

 

10.02.04[入籍する戸籍]

現行実務

(1) 帰化者については、既存の戸籍に入る場合を除き、新戸籍を編製する。

(2) 夫婦がともに帰化したときは、夫婦について新戸籍を編製する。この場合、いずれを戸籍筆頭者とするかは、帰化届書に記載されたところによる。

(3) 夫婦の一方が日本人で他方が帰化しときは、夫婦の協議によって帰化届書に記載されたところに従い、すでにある一方の戸籍に帰化した配偶者を入籍させるか、又は帰化した配偶者を筆頭者とする新戸籍を編製し、これに元来の日本人である配偶者を入籍させる。

(4) 親子がともに帰化したとき、又は帰化者の親が日本人のときは、帰化の届出の際に、子が親と異なる氏又は本籍を定めた場合を除き、子は親の戸籍に入る。ただし、子に配偶者又は子がある場合には、その者について新戸籍を編製する。

 (1)について、戸籍法22条、

 (2)及び(3)について、昭和2561民甲1566号通達第22

 (4)について、昭和2561民甲1566号通達第23

 

(1)について

 帰化者については、日本人と婚姻や親子関係がある場合を除いて、入るべき戸籍がないので、帰化の届出に基づき、新戸籍を編製することになる(戸籍法22)

 

(2)及び(3)について

 夫婦がともに帰化した場合、又は夫婦の一方が日本人で他方が帰化した場合には、夫婦の氏及び戸籍は同一であるという原則から、帰化の届書にいずれを戸籍の筆頭者にするかを記載させ、戸籍法16条に準じて処理される(昭和2561民甲1566号通達第22)。なお、当事者の協議によって氏を定めるという趣旨から、夫婦の一方が日本人の場合には、帰化の届書にその者も連署することとされている。

 

(4)について

 帰化した子は、帰化の届出において、親と異なる氏又は本籍を定めた場合を除き、親の戸籍に入ることになる。ただし、その子に配偶者又は子がある場合には、その者について新戸籍を編製することとされている(昭和2561民甲1566号通達第23)

 子が先に帰化した後に父・母が帰化して、それぞれにつき新戸籍が編製された場合には、子は、入籍の届出により父母の戸籍に入籍することができる(『全訂戸籍法』427)

 

10.02.05[戸籍への記載]

現行実務

帰化者の戸籍の身分事項欄には、帰化年月日、帰化の際の国籍、従前の氏名のほか、帰化者の身分証明書に記載された帰化前の身分事項を記載する。

 

 帰化者の身分事項欄には、帰化年月日、帰化の際の国籍、従前の氏名などの、いわゆる帰化事項のほか、帰化前の身分事項を記載する。

なお、戸籍法施行規則39条によれば、帰化事項は、婚姻、養子縁組等により新戸籍を編製し、又は他の戸籍に入る場合に移記が必要な身分事項とされていないので、新戸籍又は他の戸籍に移記されない(『新版・実務戸籍法』245)

 

10.02.06[帰化者の氏]

現行実務

(1) 帰化者は、自由に氏を定めることができる。

(2) 夫婦がともに帰化した場合、又は夫婦の一方が日本人で他の一方が帰化した場合、夫婦の氏は同一でなければならない。

(3) 親子がともに帰化した場合、又は帰化者の親が日本人の場合であっても、子は親と異なる氏を定めることができる。

 (1)について、大正1412834号回答、

 (2)について、昭和2561民甲1566号通達第22

 

(1)について

帰化者の氏については、民法、戸籍法に規定がないため、氏の選定は当事者の自由に委ねられていると解されている(『全訂戸籍法』53頁、『新版・実務戸籍法』243)戸籍先例も、大正1412834号回答が「随意ニ其氏ヲ設定シ届出ルコトヲ得ル」として以来、建前の上では、この立場に立ってきた。しかし、実際には、帰化手続の運用上,帰化者に対して「日本的な氏名」を用いることを求めてきた歴史がある。

 

従来の運用

帰化者の氏名は、本来は、帰化が許可された後、帰化の届出をする際に、本籍とともにその設定を行うべきものである。しかし、現実には、帰化許可申請書の中に「帰化後の氏名」欄があり、かつ、その申請書の「作成上の注意」欄に「帰化後の氏名は、自由に定めることはできますが、氏名は日本人としてふさわしいものにしてください」と記されていた(この間の経緯および実態については、金英達『在日朝鮮人の帰化」(明石書店、1990年)46頁以下および187頁以下に詳しい)。帰化が法務大臣の自由裁量行為であることを考えれば、許可申請に際して「帰化後の氏名」を記述させ、しかも「日本人としてふさわしいもの」を要請するのは、日本的な氏名を用いることを強要されているに等しいことになり、この点について強く批判もされてきた(金英達・前掲書48頁、田中宏「帰化と戸籍をめぐって−問われる内なる国際化−」自由と正義37553頁(1986年)、林瑞枝「氏名の『自由と尊厳』」時の法令135563頁(1989年)ほか)。

 

現在の状況

 昭和59年の国籍法・戸籍法改正により、日本人が外国人配偶者の氏を称することができるようになり、日本的でない氏を持つ日本人が現れることとなった。これにより、上記「作成上の注意」欄にあった記載は削除されることとなった。しかしながら、帰化許可申請書には現在でも「帰化後の氏名」欄は残っている(法務局のホームページから入手できる申請書には、同欄が存在している)。したがって、帰化の許可を決定する際に、これを考慮に入れることが事実上可能となっている。

 

このように現在の戸籍実務では、帰化者の氏については,もっぱら通達や回答によって処理されているが、氏は戸籍編製の基礎であり、また本人の人格権の一部をなすものともいわれていること、さらに、帰化者についてはとくに上記のような経緯が存在していることを考えると、届出による国籍取得の場合(10.01.07)を含め、自由裁量的な運用の範囲を狭める上でも,現行実務が基礎にしている原則を法律上明文化することが望ましいように思われる。

 

(2)について

 夫婦がともに帰化した場合、又は夫婦の一方が日本人で他方が帰化した場合には、夫婦同氏の原則が適用され、夫婦は、帰化届の際に、共通の氏を定める必要がある(昭和2561民甲1566号通達第22)

 

(3)について

 子については、帰化の届出の際に、親と異なる氏を定めることができる。しかし、親と異なる氏を定めなかったときは、親と同一の氏を称するものとして扱われる。

 

 

10.03 国籍喪失の届出

10.03.01[届出義務者]

現行実務

 国籍法の定めるところにより日本国籍を喪失したときは、本人、配偶者又は四親等内の親族は、国籍喪失の事実を知った日から1箇月以内に、国籍喪失の届出をしなければならない。ただし、届出義務者がその事実を知った日に国外にいるときは、その日から3箇月以内に届出をしなければならない。 

 戸籍法103条。

 

 国籍喪失の届出は、日本人が国籍法に定めるところによって日本国籍を喪失した場合に、そのことを報告する届出である。

 

国籍喪失の届出が必要な場合

 国籍法によれば、日本国籍を喪失する事由としては次のものがある。

 @外国に帰化するなど、自己の志望によって外国の国籍を取得したとき(国籍法111)

 A重国籍の日本人が、外国の国籍を選択したとき(112)

 B重国籍の日本人が、日本国籍を離脱したとき(131)

 C重国籍の日本人が、国籍選択の催告を受けた場合に、所定の期間内に国籍の選択をしなかったとき(153)

 D法務大臣から日本国籍の喪失宣告を受けたとき(162項、5)

 E外国で出生した重国籍の日本人が、所定の期間内に国籍留保の意思表示をしなかったとき(12)

 これらのうち、BないしDの事由による国籍の喪失については、法務省民事局長又は法務局もしくは地方法務局の長から国籍喪失報告がされるので、国籍喪失の届出は不要である(戸籍法105条。10.03.05参照)。また、Eの場合は、出生の時にさかのぼって日本国籍を喪失するから、国籍の喪失を届け出る必要はない。したがって、国籍喪失の届出が必要なのは、@とAの場合である(『新版・実務戸籍法』246)

 

届出義務者

 届出義務者は、本人、配偶者又は四親等内の親族である。国籍を喪失した本人自身は、すでに外国人となっているが、最近は国籍喪失者が日本国内にそのまま在住することが少なくないことから、国籍喪失者本人にも届出義務が認められている(戸籍法の地域的適用範囲との関係について、1.01.01参照)。戸籍法1031項によれば、国籍喪失者が国外にいる場合にも届出義務があるように読めるが、本人はすでに外国人であるから、届出義務までは負わないものと解される(『新版・実務戸籍法』246頁。戸籍法の人的適用範囲との関係について、1.01.02参照)。もっとも、同条同項により、届出資格はあると解されるので、国外にある本人が届出をすることは妨げられない(改正国籍法・戸籍法の解説213)

 届出地は、本人の本籍地又は届出人の所在地である(戸籍法25条、40)

 

届出期間

 届出期間は、届出義務者が国籍喪失の事実を知った日から1箇月以内である。ただし、届出義務者がその事実を知った日に国外にいるときは、その日から3箇月以内に期間が延長されている。外国にいる者にとっては、届出に必要な書類の入手に時間がかかること、在外公館が居住地から遠隔の地にある場合が少なくないことを考慮したものである(改正国籍法・戸籍法の解説214)

 

10.03.02[届出事項]

現行実務

 届書には、戸籍法29条に定める事項のほか、次の事項を記載しなければならない。

 () 国籍喪失の原因及び年月日

 () 新たに取得した外国の国籍

 戸籍法1032項。

 

()について

 国籍喪失の日は、国籍喪失の原因によって異なる。自己の志望による外国国籍の取得の場合は、外国国籍の取得の日であり(国籍法111)、外国国籍の選択の場合は、その外国の法令に従って国籍選択をした日である(同条2)。いつ外国の国籍を取得するかは、その外国の法律による。しかし、外国の国籍法が、現実に本人が意思を表明した時期よりも以前に効力を遡及させて国籍の取得を認める場合には、本人が現実に外国国籍取得の意思を表示していない時点まで遡及して日本国籍を喪失させるのは妥当でないとの理由から、本人が実際に意思表示をした時に日本国籍を喪失すると解する見解もある(江川=早田=山田『国籍法』134頁、木棚『逐条註解国籍法』359)

 

()について

 自己の志望により外国国籍を取得した場合には、どの国の国籍を取得したかを戸籍上明らかにするために、新たに取得した外国の国籍を記載させることにしている。また、届書の標準様式では、すでに外国国籍を有する者が、その国籍を選択したことにより日本国籍を喪失した場合についても、どの外国国籍を選択したかを記載するようになっている(戸籍関係届書類標準様式・国籍喪失届)

 

10.03.03[添付書類]

現行実務

 国籍喪失の届書には、外国への帰化証(又はその写し)、在外公館の長が発給する帰化事実証明書等の国籍喪失を証明する書面を添付しなければならない。

 戸籍法1032項。

 

 戸籍法1032項によれば、国籍喪失の届書には、国籍喪失を証明する書面を添付する必要があるが、通常、そのような書面としては、外国への帰化証(又はその写し)、在外公館の長が発給する帰化事実証明書等がある(昭和10218民甲118号回答)

 なお、これらの書面が外国語によって作成されている場合には、翻訳者を明らかにした訳文を添付する必要がある(戸籍法施行規則63条の2)。 

 

10.03.04[国籍喪失報告]

現行実務

 官庁又は公署がその職務上国籍を喪失した者があることを知ったときは、遅滞なく本籍地の市町村長に、国籍喪失を証すべき書面を添付して、国籍喪失の報告をしなければならない。

 戸籍法1051項。

 

 国籍の喪失については、戸籍法103条による届出があるが、従来から、この届出は怠られる場合が少なくなかったため、届出とは別に、官公署が職務上国籍を喪失した者があることを知ったときは、市区町村長に報告し、戸籍に記載できるようにしている(戸籍法1051項、15)。市区町村長は、届出又は報告のうち、先に受理したものにより記載することとされている(『全訂戸籍法』437)

 日本国籍の離脱(国籍法13)、国籍選択の催告を受けたにもかかわらず所定の期間内に国籍の選択をしなかった場合(153)及び法務大臣から日本国籍の喪失宣告を受けた場合(162項、5)の日本国籍の喪失については、それらの事務を所管する法務省民事局長又は法務局もしくは地方法務局の長が国籍喪失の報告をすることになっている(昭和59111日民二第5500号通達第33(2))

 

10.03.05[戸籍の処理]

現行実務

(1) 国籍喪失者は、本人の身分事項欄に国籍喪失の事由を記載した上、除籍される。

(2) 夫婦の一方が国籍を喪失したときは、日本人である配偶者の身分事項欄に国籍喪失者が取得した外国国籍を記載する。

 (1)について、戸籍法23条、

 (2)について、戸籍法施行規則362項。

 

(1)について

 国籍喪失者については、本人の身分事項欄に国籍喪失の事由を記載し(戸籍法施行規則3511)、従来戸籍から除籍される(戸籍法23)

 

(2)について

 夫婦の一方が国籍を喪失したときは、外国人を夫又は妻とする場合と同様に(戸籍法施行規則362)、日本人である配偶者の身分事項欄に相手方の国籍を記載する(昭和26327民甲613号回答)

 

10.04 国籍留保の届出

10.04.01[届出人]

現行実務

(1) 国外で出生し、かつ出生により日本国籍とともに外国国籍を取得した子の日本国籍を留保する意思表示(国籍法12)は、国籍留保の届出によってしなければならない

(2) 次の者は、国籍留保の届出をすることができる。

 () 子が嫡出子のときは、父又は母

 () 子の出生前に父母が離婚しているときは、母

 () 子が非嫡出子のときは、母

 () 父及び母が届出をすることができないときは、父母以外の法定代理人

(3) 国籍留保の届出は、出生届とともにしなければならない。

(4) (2)に定める者が外国に在る外国人のときは、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事に国籍留保の届出をすることができる。

 (1)及び(2)について、戸籍法1041項、

 (3)について、戸籍法1042項、

 (4)について、昭和59111民二5500通達第34(2)

 

  国籍留保の届出は、外国で出生した日本人の子が、出生によって外国の国籍を取得した場合に、日本国籍を留保する意思を表示する届出である。この届出を法定の期間内にしないときは、その子は出生時に遡って日本国籍を失うことになる(国籍法12)

 

(1)について

 国籍留保の意思表示は、戸籍法上の国籍留保の届出によることとされている。これによって、国籍留保の意思表示をした者は戸籍に登載され、意思表示をしない者は日本国籍を遡及的に喪失して戸籍に登載されないことになる。このことから、国籍留保制度は、戸籍に登載されない日本国民の発生を防止し、日本国民の範囲を公簿上明らかにする機能を持つとされている(黒木忠正=細川清『外事法・国籍法』(ぎょうせい、1988)378頁、江川=山田=早田『国籍法』146)

 国籍留保の届出の対象となる子は、生地主義国で出生した子に限らず、血統によって外国国籍を取得した者も含まれる。

 生地主義国に駐在する日本の大使、公使及びその職員(参事官、書記官など)の外交特権が認められている職員の子については、駐在国の国籍法の適用を受けないのが通例であるから、国籍留保の届出をするまでもなく、引き続き日本国籍を保有する。したがって、そのような子の戸籍の記載には、在外公館の職員の子であることを明らかにすることとされている(昭和32921民甲1833通達)

 

(2)について

 国籍留保の届出は、出生届とともにすることが必要とされることから、届出ができる者は、出生届の届出義務者とされている(戸籍法1041)。したがって、嫡出子については父又は母、子の出生前に父母が離婚しているときは母、非嫡出子については母が、国籍留保の届出をすることができる(戸籍法521項、2)。また、父母が届出をせずに死亡した場合のように、父母がともに届出をすることができないときは、父母以外の法定代理人も届出をすることができる(戸籍法524)。なお、出生届については、父母がともに届出をすることができない場合、同居者、出産に立ち会った医師、助産婦なども届出義務者とされているが(戸籍法523)、それらの者が国籍留保の意思表示をすることは適切でないから、国籍留保の届出をすることはできない(戸籍法1041項で、これらの者は届出ができる者から除外されている)

 

(3)について

 国籍留保の届出は出生届とともにしなければならないが、戸籍法は、戸籍留保の届書について特別な定めを置いていない。したがって、その届出は書面又は口頭によってすることもできると解されるが、実務上は、出生届の「その他」欄に「日本国籍を留保する」旨記載して届け出ることになっている(『新版・実務戸籍法』248)。在外公館で使用する出生届の様式には、あらかじめ「その他」欄に「日本国籍を留保する」旨が印刷されている(昭和591115民二5815通達)。 

 現行実務では、国籍留保の届出をしなければ日本国籍を喪失することとなる子の出生届は、国籍留保とともにしなければ受理されない(昭和23624民甲1989通達)。これは、国籍留保届とともにしない出生届は、事件本人が国籍留保の届出期間の経過により出生時にさかのぼって日本国籍を喪失することになるため、外国における外国人の出生届と同視され不要となるためである(『新版・実務戸籍法』302頁、改正国籍法・戸籍法の解説218)。また、誤って留保届のない出生届が受理された場合には、届出人に国籍留保の旨の追完をさせる扱いであるが(昭和35620民甲1495回答)、届出人の住所不明、死亡など追完させることができないときは、所定期間内に届出がなされている限り、出生の届出自体をもって国籍留保の意思表示と解して差し支えないとされている(昭和3263民甲1052回答)。わが国の在外公館等に出生届をすることは、通常、日本国籍を留保する意思があるものと考えられるからである。

 しかし、以上の取扱いは、国籍留保届とともにしない出生届は受理しないことを前提としているが、出生届に関して述べたように(2.01.01参照)、日本国籍を留保しなかったことにより日本国籍を喪失した子についても、出生届を義務づけるべきであるから、国籍を留保する旨の記載がない出生届も受理する扱いに改めるべきである。その上で、日本人親の戸籍の身分事項欄に外国人子の出生の事実を記載できるように法改正する必要がある(2.02.04参照)

 

(4)について

 国籍留保の届出は、父母の一方が外国人であったり、父母が届出をすることができない場合に、法定代理人が外国人であるというように、外国にある外国人もすることができる。その場合には、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事に届出をすることができる(昭和59111民二5500通達第34(2))

 

10.04.02[届出期間]

現行実務

(1) 国籍留保の届出は、出生の日から3箇月以内にしなければならない(戸籍法1041)

(2) 天災その他届出人の責めに帰することができない事由によって届出ができないときは、届出をすることができるに至った時から14日以内にしなければならない(同条3)

 

(1)について

 国籍留保の届出期間は、原則として、出生の日から3箇月以内である。この届出は出生届とともにしなければならないため、外国で出生した子については、出生届の届出期間も3箇月とされている(2.01.03参照)。また、期間内に届書を発送しただけでは十分でなく、期間内に在外公館等に到達することが必要である(大正13111411606回答)

 なお、外国(例えば、フィリピン)で、日本人父と外国人母との間に生まれた子について、日本人父が母子を残したまま、日本に帰国してしまったために、外国人母からの国籍留保届がなされず、日本国籍を喪失する場合が少なくないことから、立法論として、国籍留保届の届出期間を延長し、子自身に判断能力が備わった後、一定期間まで国籍留保の届出ができるようにすべきであるとの見解もある(奥田安弘「人権としての国籍」自由と正義47195(1996)、国友明彦「家族と国籍」国際法学会編『日本と国際法の100年第5巻個人と家族』(三省堂、2001)122)

 

(2)について

 天災その他届出人の責めに帰することができない事由によって届出ができないときは、届出期間は届出をすることができるに至った時から14日である。(戸籍法1043)。届出人の責めに帰することができない事由に該当する場合としては、届出人が交通不便な遠隔地に居住している場合(昭和40730民甲1928回答など)、届出人の居住地が、治安状態、交通、郵便等の便がきわめて悪い場合(昭和56223民二1255回答など)、出生証明書の発給が期間内になされなかった場合(昭和55623民二3889回答など)、子の出生当時、父が国外へ出張中であり、母が病気のため届出ができなかった場合(昭和54814民二4313回答)などの先例がある。他方、法の不知や事情不案内のため届出を行わなかった場合は、「責めに帰することができない事由」には該当しないとされている(昭和47127民甲560回答など)。しかし、これに対しては、日本人父が子の出生当時死亡したか、行方不明になっており、外国人母が国籍留保制度を知らず、所定期間内に国籍留保の意思を表示しなかったのもやむを得ない事情が存在する場合などにも、上記の事由を認めてよいとする見解もある(木棚『逐条註解国籍法』376)

 

10.04.03[戸籍への記載]

現行実務

国籍留保の届出があったことは、出生事項の一部として、戸籍に記載する(戸籍法施行規則法定記載例3)。 

 

 国籍留保の届出があったことは、出生届に基づいて記載する本人の戸籍に、出生事項の一部として記載される。また、届出人がその責めに帰することのできない事由によって届出期間を経過した場合にも、その旨が記載される(戸籍法施行規則法定記載例4)

 

10.05 国籍選択の届出

10.05.01[届出人]

現行実務

(1) 外国国籍を有する日本人が日本国籍の選択宣言をするには、本人がその旨を届け出なければならない。

(2) 日本国籍の選択宣言をしようとする者が15歳未満であるときは、法定代理人が代わって届出をしなければならない。この場合、法定代理人が外国に在る外国人であっても、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事に届出をすることができる。

 (1)について、国籍法142項、戸籍法104条の2

 (2)について、国籍法18条、昭和59111民二5500通達第35(2)

 

国籍選択制度

 外国国籍を有する日本人は、重国籍を解消するため、所定の期限までに国籍の選択をしなければならない(国籍法141)。選択の方法としては、次の4つのものがある。

 @ 外国国籍の選択(112)

 A 日本国籍の離脱(131)

 B 日本国籍の選択(142)

 C 外国国籍の離脱(142)

 このうち、@とAは、外国国籍を選択し、日本国籍を放棄するものであり、BとCは日本国籍を選択し、外国国籍を放棄する場合である。戸籍法では、@については国籍喪失届(10.03.01参照)、Aについては国籍喪失報告(10.03.03参照)、Cについては外国国籍喪失届(10.06.01)により、Bについては、国籍選択の届出によって戸籍の処理をすることにしている。

 国籍選択の届出は、外国国籍を有する日本人が、日本国籍を選択し、かつ外国国籍を放棄することを宣言する旨の届出である。選択宣言が戸籍法上の届出によることにされたのは、()届出に基づく戸籍の記載により、日本国籍が確定したことが公証されるとともに、選択宣言をしない者については日本国籍喪失の可能性があるものとして戸籍上に把握する必要があること、()国籍選択の催告(国籍法151)の対象を把握しやすくすること、()国籍留保制度も戸籍法上の届出によっていること等の理由による(黒木=細川・前掲『外事法・国籍法』406)

 なお、国籍選択宣言によって外国国籍を喪失するか否かは当該外国の国籍法に従うので、国籍選択宣言をしたからといって当然に外国国籍を喪失するわけではない。

 

(1)について

 国籍選択の届出は、日本国籍の維持・確定という効果を生じる創設的届出であるから、原則として、本人が届け出なければならない。届出地は、本人の本籍地又は届出人の所在地である(戸籍法25条、40)

 

(2)について

 国籍法によれば、本人が15歳未満であるときは、法定代理人が本人に代わって選択宣言をするものとされているので(18)15歳未満の者の届出については法定代理人がしなければならない。この場合には、国籍留保届の場合と同様に、法定代理人が外国に在る外国人であっても、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事に届出をすることができる(昭和59111民二5500通達第35(2))

 

10.05.02[国籍選択の期限]

現行実務

(1) 国籍選択の宣言は、重国籍となった時が20歳未満であるときは22歳までに、20歳に達した後に重国籍となったときは、その時から2年以内にしなければならない。

(2) (1)の期限を経過した後であっても、国籍の選択をすべき者が日本又は外国の国籍を喪失するまでは、国籍選択の届出をすることができる。

 (1)について、国籍法141項、

 (2)について、昭和59111民二5500通達第35(3)

 

(1)について

 国籍選択の宣言は、国籍法上、重国籍となった時が20歳未満であるときは22歳までに、20歳に達した後に重国籍となったときは、その時から2年以内にしなければならないとされているので(141)、その期限内であれば、いつでも国籍選択の届出をすることができる。

 

(2)について

 国籍選択の届出は日本国籍の維持・確定という効果を生じる創設的届出であることから、それ自体の届出期間は定められていない。したがって、(1)の期限までに国籍選択をしなかった場合であっても、当然に日本の国籍を喪失するわけではないので(法務大臣による国籍選択の催告、さらに催告の日から1箇月以内に日本国籍を選択しない場合に日本国籍を喪失する。国籍法151項、3)、本人が重国籍である限り、国籍選択の届出をすることができる(昭和59111民二5500通達第35(3))。法務大臣からの催告の書面が到達した日(官報に掲載してする催告にあっては到達したものとみなされた日)から1月を経過すると日本国籍を喪失するので、その後は国籍選択の届出は受理されない。ただし、天災その他本人の責めに帰することができない事由があるものとして届出があった場合は、その処理につき管轄法務局若しくは地方法務局又はその支局の張の指示を求めるものとされている(昭和59111民二5500通達第38(2))

 

10.05.03[届出事項]

現行実務

届書には、戸籍法29条に定める事項のほか、次の事項を記載しなければならない。

 () 国籍選択宣言する旨

 () 現に有する外国の国籍

 戸籍法104条の22項。

 

 国籍選択の届出は、日本の国籍を選択し、かつ外国の国籍を放棄する旨の宣言を内容としており、届書の標準様式にはその旨がすでに明記されている(戸籍関係届書類標準様式・国籍選択届)

 届書には、本人が有する外国国籍を記載しなければならない(戸籍法104条の22)。重国籍の解消の趣旨からは、本人が有するすべての外国国籍を記載すべきであるが、複数の外国国籍を持つ者が1カ国の国籍のみを記載して届け出た場合でも、それが受理されたときは(外国国籍を有する事実は市区町村長では分からないため、そのような届出も受理される場合が多いと考えられる)、本人が重国籍である以上、その届出は有効であり、戸籍記載の訂正等の問題は生じないと解されている(改正国籍法・戸籍法の解説223)

 国籍選択の届出は、本人が重国籍であることが前提となるが、重国籍であることを証する書面、すなわち外国国籍を証明する書面の添付は要求されていないので、この点の審査に困難が生じることが考えられる。もっとも、重国籍者以外がこの届出をすることは通常考えられないため、例えば本人の戸籍にすでに外国国籍を喪失した旨の記載がある場合など、明らかに外国国籍を有していないと認められる場合を除き、届出を受理しても差し支えないとされている(昭和59111民二5500通達第35(1))

 

10.05.04[戸籍への記載]

現行実務

(1) 国籍選択の届出があったときは、本人の身分事項欄に、国籍選択宣言の旨を記載する。 

(2) 国籍選択事項は、他の市町村への転籍の場合又は新戸籍を編製され、もしくは他の戸籍に入る場合には、移記を必要とする。

 戸籍法施行規則3512号、戸籍法施行規則37条、3917号。

 

(1)について

 国籍選択の届出があったときは、国籍選択宣言により日本国籍の保持が確定することから、そのことを登録公証するために、本人の身分事項欄に国籍選択宣言の届出があったことが記載される(戸籍法施行規則3512)

 

(2)について

 国籍選択事項は、日本国籍の保持が確定したことを証明する事項であるから、転籍、新戸籍の編製、他の戸籍への入籍に当たって、これを移記することは本人の利益にもなり、また移記しないと戸籍上本人が国籍選択義務を怠っていると扱われるおそれがあるので、移記を要する事項とされている(昭和59111民二5500通達第35(1))

 

10.06 外国国籍喪失の届出

10.06.01[届出義務者]

現行実務

外国国籍を有する日本人がその外国国籍を喪失したときは、その喪失の事実を知った日から1箇月以内に、本人がその旨を届け出なければならない。ただし、その事実を知った日に本人が国外にいるときは、その日から3箇月以内に届出をしなければならない。

 戸籍法106条。

 

 外国国籍喪失届は、外国の国籍を有していた日本人が、外国国籍を喪失したことを報告する届出である。

 外国国籍を有する日本人が、外国国籍を離脱した場合(国籍法142)、その他、当該外国で国籍を剥奪された場合、日本国籍の選択宣言をしたことによって当該外国国籍を喪失した場合などにおいては、重国籍が解消され、国籍選択の催告を受けることがなくなるから、この点を戸籍に表示することにしたものである(『改正国籍法・戸籍法の解説』227)。もっとも、複数の外国国籍を有する日本人については、1つの外国国籍を喪失しても重国籍状態は変わらないため、外国国籍喪失届を重ねて届け出ることもあり得る(『新版・実務戸籍法』251)

 届出義務者は、外国国籍を喪失した本人である。その者が未成年者のときは、その法定代理人が届出義務者となるが、本人も届け出ることができる(戸籍法31)

 届出期間は、外国国籍喪失の事実を知った日から1箇月以内である。ただし、届出人がその事実を知った日に国外に在るときは、その日から3箇月以内に届け出なければならない(戸籍法1061)。 

 

10.06.02[届出事項]

現行実務

届書には、戸籍法29条に定める事項のほか、次の事項を記載しなければならない。

 () 外国の国籍喪失の原因

 () 喪失の年月日

 戸籍法1062項。

 

 外国国籍喪失の届書には、国籍喪失の原因と喪失の年月日を記載する必要がある(戸籍法1062)

 

10.06.03[添付書類]

現行実務

外国国籍喪失の届書には、外国官公署が発行する国籍離脱証明書、国籍を喪失した旨の記載のある外国の戸籍謄本その他外国の国籍を喪失したことを証明する書面を添付しなければならない。

 戸籍法1062項。

 

 外国国籍喪失届には、外国国籍を喪失したことを証明する書面の添付が必要である(戸籍法1062)。具体的には、外国官公署が発行する国籍離脱証明書、国籍を喪失した旨の記載のある外国の戸籍謄本などがそれに該当する(昭和59111民二5500通達第36(1))

 これらの書面で外国語によって作成されているものについては、翻訳者を明らかにした訳文を添付しなければならない(戸籍法施行規則63条の2)

 

10.06.04[戸籍への記載]

現行実務

(1) 外国国籍喪失の届出があったときは、外国国籍喪失者の身分事項欄に、外国国籍喪失の旨を記載する。

(2) 外国国籍喪失事項は、他の市町村への転籍の場合又は新戸籍を編製され、もしくは他の戸籍に入る場合には、移記を必要とする。 

 (1)について、戸籍法施行規則3512号、

 (2)について、戸籍法施行規則37条、3917号。

 

(1)について

 外国国籍喪失の届出は、国籍法14条の国籍選択義務を履行し、重国籍でないことを明らかにする意味を持つことから、そのことを登録公証するために、国籍選択の届出の場合と同様に(10.05.04)、本人の身分事項欄に外国国籍を喪失したことが記載される(戸籍法施行規則3512)

 

(2)について

 外国国籍喪失の事項は、上記のように重国籍でないことを明らかにする意味を持つことから、転籍、新戸籍の編製、他の戸籍への入籍に当たって、これを移記することは本人の利益にもなり、また移記しないと戸籍上本人が国籍選択義務を怠っていると扱われるおそれがあるので、国籍選択事項と同様に、移記を要する事項とされている(昭和59111民二5500通達第36(1))